KNOCK OUT興行開催! ついにこの日がやってきた!

飛び蹴り、後ろ蹴り、躊躇うことなく繰り出す那須川天心の天才的な技

テレビ解説の元ムエタイチャンピオン.石井宏樹の言葉だったかと思いますが、「ついにこの日がやってきた」とは、正にそんな日でした。こんなキャッチフレーズは過去に何度も使われましたが、日本で大手企業がバックアップし、やがて地上波で放送予定にあるイベントとしてはキックボクシング満50周年に新たな歴史の一歩を踏み出したと言える日かもしれません。

6試合中、メインイベント以外はすべてKO、大月晴明(43歳)と那須川天心(18歳)は常識を超えた天才か。それぞれの歳でこんな難敵を豪快に倒すとは驚きの現実を見せ付けてくれました。

見事、顎に命中、どこまで突き進むか那須川の偉業
立てないワンチャローン、悶絶KO

大月は開始早々からボディブローを引き金に顔面への爆腕パンチラッシュで一気に倒し、那須川天心は初のヒジ打ち有効ルールも恐れず攻め、ムエタイ現役チャンピオンに左後ろ蹴りを顎に炸裂させて悶絶KOする動体視力と当て勘の良さ。
T-98は長島のヒジ打ち貰って顔面切られる不覚も、10月のラジャダムナンスタジアムでの初防衛戦で見せた打ち負けない圧力で重いローキックと右ストレートで倒す貫禄。

森井洋介はヒジで切られつつ、右縦ヒジカウンターで打ち倒し、9月のKNOCK OUT発表会見試合で高橋一眞を1R・KOした試合を含め2連勝。勝ち数では一歩先行く立場。
小笠原瑛作は以前より勢い増したしなやかさとスピードで宮元から一歩も引かない攻撃力でバックヒジ打ち、左ヒジカウンター、左ハイキックで3度ダウン奪って快勝。

梅野源治は本来の技術で優る展開を見せ、元ラジャダムナン・フェザー級、スーパーフェザー級2階級制覇チャンピオンに大差に近い判定勝利。終盤、シリモンコンが諦めの表情を見せるような梅野の実力が光りました。今年の梅野は激闘で怪我が多かった中でも、ラジャダムナン・ライト級王座を奪取しこの日を迎え、体調万全ではないことも試合に表さない強さを見せました。

◎KNOCK OUT Vol.0 / 12月5日(月) TDCホール19:00~21:25
主催:(株)キックスロード / 放送:FIGHTING TVサムライ、スポナビライブ

◆メインイベント 第6試合 61.5kg 5回戦

ラジャダムナン系ライト級チャンピオン.梅野源治(PHOENIX/61.3kg)
         VS
シリモンコン・PKセンチャイジム(元・ラジャダムナン・SB級、Fe級C/タイ/61.1kg)
勝者:梅野源治 / 判定3-0
主審 大成敦 / 副審 大村50-46. 北尻49-46. 小川49-47

しなりある梅野のハイキックに近い右ミドルキック、徐々に梅野ペースへ引き込まれる
左ミドルキックで攻める梅野。シリモンコンに活路は無かった
ムエタイチャンピオンの貫禄が増したT-98は長島を圧倒するも、ヒジ打ちで右頬を切られる不覚
森井もパンチから最後はヒジで決める難度の技でKO

◆第5試合 55.0kg契約 5回戦

那須川天心(TARGET/55.0kg)
         VS
ルンピニー系スーパーフライ級チャンピオン
ワンチャローン・PKセンチャイジム(タイ/54.9kg)
勝者:那須川天心 / TKO 1R 2:23
カウント中のレフェリーストップ / 主審 岡林章

◆第4試合 70.0kg契約 5回戦

ラジャダムナン系Sウェルター級チャンピオン.T-98(=タクヤ/クロスポイント吉祥寺/69.95kg)
        VS
長島自演乙雄一郎(魁塾/70.0kg)
勝者:T-98
TKO 2R 2:50 / カウント中のレフェリーストップ゚ / 主審 大村勝巳

◆第3試合 60.5kg契約 5回戦

森井洋介(GOLDEN GLOBE/60.5kg)
VS
ヨードワンディー・ソー・チャナティップ(BBTVライト級10位/タイ/60.5kg)
勝者:森井洋介
TKO 3R 1:56 / カウント中のレフェリーストップ゚ / 主審 北尻俊介

最後は相打ちカウンターの右縦ヒジで顎を打ち抜き、ヨードワンディーは起きれず
小笠原の先手打つ攻めは宮元のスピードを上回った

◆第2試合 55.4kg契約 5回戦

WPMF世界スーパーバンタム級チャンピオン.宮元啓介(橋本/55.3kg)
          VS
小笠原瑛作(クロスポイント吉祥寺/55.4kg)
勝者:小笠原瑛作
KO 3R 2:53 / 3ノックダウン / 主審 小川実

◆第1試合 61.5kg契約3回戦

大月晴明(元・全日本ライト級C/マスクマンズ/61.5kg)
VS
スターボーイ・クワイトーンジム(元・WPMF世界Fe級、SFe級C/タイ/60.8kg)
勝者:大月晴明
KO 1R 0:45 / テンカウント / 主審 北尻俊介

大月晴明(右)の爆腕ラッシュはいつも以上に威力があった

◆取材戦記

日本人全選手、興行名に恥じない展開を目指した、そんな勢いを感じました。KNOCK OUT初回本興行としては大成功と言える内容でしょう。しかし「ノックアウトに重点を置く興行」とタイ選手に伝えても、そう簡単にムエタイリズムを変えられるものではなかったかもしれません。そういう意味では今後のタイ側の名誉挽回に本気モードがやってくるでしょう。それは次なる展開に繋がり、より話題が盛り上がります。

今回の出場チャンピオンたちの契約ウェイトの幅の狭さにちょっと驚きました。梅野の場合、ゆとりを持って62.0kg契約でもよかったのではと思います。「ラジャダムナンスタジアムは寛大な対応をしつつ、突然厳格なことを言ってくる場合もあるので気をつけた方がいい」とは現地マスコミの意見。両者ライト級61.23kgを超えていないとチャンピオンの“負ければ剥奪”の義務が生じるということです。

東京ドームシティーホールは2008年春に開業しました。私個人としてはこれまで縁無く、初めて入場しましたが、どの階からも近く見易い印象がありました。コンサート・ライブに向いた会場と思いますが、リングを使う格闘技興行としては以前と変わらず、使用設備の問題で後楽園ホールが主流なのも分かります。いずれにしても格闘技興行は見易さ重視で、広くても大田区総合体育館まででいいという一般的意見でもあります。

来年のスケジュールは2月12日から4回の予定が決定しています。それ以降は調整中。出場を予定される選手、希望する選手、ファンが望むカードなどありますが、どこまで実現出来るかが今後への期待となるでしょう。他団体でも「KNOCK OUT」を意識した発言が聞かれます。

KNOCK OUT の第2回興行となる「KNOCK OUT vol.1」は、2月12日、梅野源治、那須川天心の連続出場の他、個性豊かなチャンピオンたち、町田光、前口太尊、引藤伸哉が初出場します。

2月12日(日) 大田区総合体育館
4月 1日 (土) 大田区総合体育館
6月17日(土) TOKYO DOME CITY
8月20日(日) 大田区総合体育館

恒例となる全試合を終えて集合写真。負傷選手は上がっていませんが、この場に残るのも価値ある瞬間

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

基地・原発・震災・闘いの現場『NO NUKES voice』10号
タブーなきスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2017年1月号!
『反差別と暴力の正体――暴力カルト化したカウンター-しばき隊の実態』

ムエタイ“上位王座”の厚い壁──撥ね返された三人の挑戦者たち

ジュニアキックで経験を積んだ15歳の少年が世界王座に挑んだのはWMCの最軽量級ながら今後の成長に繋がる節目の挑戦でした。

◎ムエローク 2016.4th
11月13日(日) 新宿フェイス17:30~20:40  主催:尚武会 / 認定:WMC

◆WMC世界ピン級タイトルマッチ 5回戦(100LBS=45.359kg)

前チャンピオン.シューサップ・トー・イッティポーン(17歳/タイ/47.1→46.7kg)
VS
挑戦者.吉成名高(エイワスポーツ/アマチュア17冠王/45.1kg)
勝者:シューサップ / 判定3-0
主審:チャンデー・ソー・パランタレー 副審:シンカーオ50-47. ノッパデーソン50-47. ナルンチョン50-47

シューサップは計量失格でこの時点で“前チャンピオン”となります。こういう事態がここ数年増えたのは、「日本での試合を軽く見ている」という意見をよく聞きます。あえて擁護するなら、17歳という若さで外国に出向き、体の成長や気候の変化に対応できなかったこともあるかと思いますが、それでも1.3kgオーバーはデカ過ぎですね。この辺の対処はプロボクシングと同じ、吉成名高には挑戦者として、勝利した場合のみチャンピオンとなり、シューサップが勝っても王座は空位となります。

15歳での世界戦は力大きく及ばずで、ジュニアキックで力を付けていても、やはり人生経験がまだ15年というところも成人との認識の違いがあったでしょう。シューサップも17歳で若さで似たところあれど、ムエタイそのものの経験は豊富。やはり後半にピッチを上げてきたシューサップは後半、首相撲技で繋ぐ膝蹴りや崩しで見た目にも大差が付いた印象がありました。吉成はアマチュアといえど数々の王座制覇してきた自信で、試合終了まで視線はしっかり強気な表情は変わらず、崩されても立ち上がる諦めない挑戦でした。

吉成名高vsシューサップ。吉成のジュニアキック出身の技量はしっかり披露。今後に期待

◆セミファイナル 63.0kg契約 5回戦

DAIJU(尚武会/62.9kg)vsNKBライト級チャンピオン.大和知也(SQUEA-UP/63.0kg)
勝者:DAIJU / TKO 4R 1:40 / タオル投入による棄権
主審:ナルンチョン・ギャットニワット

NKBから大和知也が出場。戦う相手の範囲が広まった中で、より活きのいい試合を続けているのも明るい事実です。

DAIJI(だいじゅ)は大和知也からハイキックでダウンを奪って攻勢を続けTKO勝利。大和は第4ラウンド途中から古傷の左腕が動かしにくい状態で劣勢の中、タオルが投入。6月の試合での負傷箇所を再び傷めた様子。序盤はスピーディーなパンチとローキックで優勢気味だった大和知也にとっては悔しい負傷。来年の奮起に期待したいところです。

大和知也(右)の得意の右ストレートがDAIJUを捉えるが、逆転は難しい段階だった

  
◎M-ONE 2016 4th(FINAL)
11月23日(祝・水)ディファ有明16:00~20:30  主催:ウィラサクレック・フェアテックス / 認定:WPMF

会場前には建物上部からの、10月13日に崩御されたプミポン国王画の肖像画と、館内にも肖像画と記帳スペース、喪に服す黒の正装のタイ人関係者が目立ち、セレモニーでは王室唱歌と98秒間の黙祷も捧げられ、タイの国民性が現れたセレモニーでした。

石井達也は日本タイトル返上後、なかなかビッグマッチのチャンスが回って来ない中、今回M-ONEからWPMF世界戦出場のチャンスが舞い込むも、ゴンナパーは在日選手として日本人の前に立ちはだかる壁は健在でした。

◆WPMF世界スーパーライト級タイトルマッチ 5回戦

チャンピオン.ゴンナパー・ウィラサクレック(タイ/63.5kg)
VS
石井達也(元・日本ライト級C/藤本/63.5kg)
勝者:ゴンナパー / TKO 4R 1:39 / ドクターの勧告を受入れレフェリーストップ
主審:チャンデー・ソー・パランタレー

毎度のことながらゴンナパーの上下へのパンチとキックの使い分け、その蹴りが重く鋭い。石井の強打が遅れがちになり、その差が大きく見えてしまうが応戦する石井も強い蹴りとパンチを返す中、熟練ゴンナパーのヒジ打ちで切られた額のドクターチェックを3回受けた後、レフェリーストップ。敗北より最後まで戦いたかった表情の悔しい敗戦となりました。

どこを狙うか分からないゴンナパー(左)の蹴りは“ハイ”だった瞬間
切られ、蹴られ、ゴンナパーの上手さが続く中、劣勢の石井はこれでも諦めてはいなかった
高橋一眞(左)と鷹大の強打者の攻防。この後、戦略勝ちの鷹大の攻めが勝る

◆59.0kg契約3回戦(アンダーカードから抜粋)

鷹大(元・WMC世界&WPMF日本SB級C/WSR・F西川口/59.0kg)
VS
NKBフェザー級1位.高橋一眞(真門/58.95kg)
勝者:鷹大 / TKO 3R 2:40 / カウント中のレフェリーストップ
主審:ヌンポントーン・バンコクストアー(現役時名)

こちらもNKBで活躍する高橋三兄弟の長男・一眞の登場。9月14日にKNOCK OUT発表記者会見試合で、森井洋介にパンチで倒されたばかりながら、前回よりは冷静に試合を進め、攻勢もあったものの、再びパンチで2度のダウンを喫してKO負け。鷹大もチャンピオン経験を持つ強者。高橋は経験値上回る相手との試合が続きますが、他団体出場に恵まれた現在、この試練を乗り越えて欲しいところ。短期でのノックアウトの連敗は心身ともに休養も必要です。

日本のトップを争う、終り無きトーナメントが続く中、一歩前進の鷹大の勝利

  
◎NJKF 20周年記念スペシャルマッチ開催!NJKF 2016 7th
11月27日(日)後楽園ホール17:00~21:35
主催:ニュージャパンキックボクシング連盟 / 認定:NJKF、WBCムエタイ日本実行委員会

国内下部王座から段階的に上位を目指さなければならないシステムからWBCムエタイのインターナショナル王座決定戦に挑んだのは同組織日本王座を持つ健太。スウェーデンの強豪、サモン・デッカーは頑丈な体格で怯まず前進する圧力があり、これを崩せずに終る。

◆WBCムエタイ・インターナショナル・ウェルター級王座決定戦 5回戦

健太のハイキックにもたじろがなかったサモン・デッカー

世界12位 健太(日本同組織同級C/29歳/E.S.G/66.68kg)
VS
世界13位 サモン・デッカー(24歳/スウェーデン/66.6kg)
勝者:サモン・デッカー / 判定0-3
主審:多賀谷敏朗  副審:大沢47-49. 水谷48-49. 少白竜48-49

サモン・デッカーはかつてのラモン・デッカー(オランダ)の再来と言われる存在で、ムエタイ修行経験も豊富なファイタータイプの選手。とにかく頑丈な体格で蹴りの威力あり、下がらない圧力に健太は主導権を握れないまま、5ラウンドにはヒジで切られる劣勢が響きました。今後、タイ選手以外の強豪が日本人の前に立ちはだかるのも面白い展開でしょう。

両者ガッチリした体格ながらサモン・デッカーのハイキックに圧力を感じる攻防

◆セミファイナル 62.0kg契約3回戦

宮越慶二郎のハイキックを避ける羅紗陀。この日は宮越の動きが機敏だった

WBCムエタイ・インターナショナル・ライト級チャンピオン.宮越慶二郎(拳粋会/62.0kg)
VS
羅紗陀(元・WBCムエタイ日本SFe級、L級C/キング/61.8kg)
勝者:宮越慶二郎 / 判定3-0
主審:竹村光一  副審:多賀谷30-26. 水谷30-26. 少白竜30-26

NJKF20周記念スペシャルマッチとして組まれたカードでした。羅紗陀は右足腓骨骨折の負傷から5月に2年3ヵ月ぶりに復活。しかし後に腰の状態を悪化させ7月興行は欠場に。今回の半年ぶりとなる復帰第2戦で宮越慶二郎との対戦が実現となりました。

父親が昭和の新格闘術連盟で活躍した内藤武である宮越は、その父譲りの変則気味の動きが活かされた展開。羅紗陀は父親が元・日本ウェルター級チャンピオン.向山鉄也で、その父親譲りの激闘威力が少なかった印象。第1ラウンドにスリップ気味のダウンに加え、第3ラウンドはまともに右ストレートによるダウンを奪った宮越が大差判定で勝利。怪我やブランクの影響がまだ続いている感じもあり、完全復活にはもう少し時間が掛かりそう。宮越はマッチメイクに難航し、来年2月に延期された王座防衛戦を目指します。

逆転を狙う羅紗陀のヒジ打ちは空振りだが、迫力ある攻防

◆取材戦記

三つの興行をまとめると、アンダーカードをほとんど割愛しなくてはならない事態となってしまいました。ひとつずつ興行を拾うとかなり先延ばしになってしまうので、ちょっと纏めることも出てきた最近ですが、格闘技専門サイトでもないので、本来アンダーカードまで拾う必要もないかもしれませんが、融通利く限りは少しでも選手の活躍を、試合結果だけでも世間に出してあげようと思う次第です。

その試合結果も絶対に間違えてはいけないプレッシャーもあります。自分の書き留めた記録だけで判断しないことで勝者敗者を間違えないこと、その為にも公式記録の開示を各興行ごとにお願いしている場合があります。この点もまたひとつのテーマとして今後、書き上げたいと思います。

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

タブーなきスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2017年1月号!
『反差別と暴力の正体――暴力カルト化したカウンター-しばき隊の実態』

女子キックボクシング闘魂史──熊谷直子からRENA、リトルタイガーまで

「女がキックなんかやるもんじゃねえ!」そんな声が聞こえた昭和の時代。マスコミの中にも一部そんな偏見を持つ者もいました。

その後、女子の可能性に閃いたプロモーターによって試合が増え、女子の世界タイトルマッチまで到達しても、そのマイナー競技の層の薄さに、そこに注目するファンも少なかった時代が続きました。

そんな邪道とされた女子キックも、次第にスポーツ全般の女子選手の活躍に負けない活動が注目され始め、近年の少年(少女)育成のジュニアキック卒業後の高度成長からも女子キックを、決して侮れない時代になりました。

市販のランニングパンツで試合する、まだ女子キックも確率していない頃のエキシビジョンマッチ(1984年1月5日)

◆70年代──女性選手がやり難い時代

キックボクシングが1970年代の隆盛期を迎えた時代にもすでに女子キック団体は存在しており、しかしその存在は非常に小さく、低い技術の試合より、色気に目がいった観衆の異様な視線に、キックをやりたいと思う女性がいてもその環境は程遠く、やり難い時代だったかもしれません。

◆80年代の開花──WKA世界王座を勝ち取った熊谷直子

そしてこの女子の存在に本格的に力を注ぐ兆しとなったのは、女子プロレスのブームもそのひとつだったでしょう。1980年代のクラッシュギャルズ中心の“善玉悪玉の戦い”は競技性よりも、観衆に、特に女性から注目を浴びる輝いたリングでした。

キックボクシングそのものが低迷し、復興に力を注いでいたこの時代、女子の試合は重要視されない環境でも、実力ある選手が台頭してきたのは、新しい競技のシュートボクシングにおける若菜などの活躍、全日本キックボクシング連盟ではWKA世界王座まで到達した熊谷直子がスター的な立場となりました。後には熊谷の後輩となる三井綾、中沢夏美や、他団体にシュガーみゆき、神風杏子なども存在し、比較的軽量級では選手層が充実していた時代でした。

その熊谷が目指したもの、女子選手だけによる興行を実現させたのが1994年10月でした。後の通常の興行でも女子がメインイベント3試合を飾ることも実現させるなど、過去に無い女子キックボクサーの存在感をアピールするも、後の世代まで継続させるほどの勢いは無く、女子キック存在の厳しさは続きました。

[左写真]女子キックのレジェンド、WKA女子世界ムエタイ・フライ級、バンタム級チャンピオン熊谷直子。[右写真]神風杏子(左)vs熊谷直子(右)(1998年に2度対戦)
[左写真]JBCの女子公認前にエキシビジョンマッチで、プロボクシングのリングに上がったことがあるシュガーみゆき。[右写真]2000年代に入ってボクシングとキックで活躍した柴田早千予

◆タイ人オカマボクサー、パリンヤー・ギャップサバーの新風

その頃、異色の新風を起こしたのはタイ人オカマボクサー、パリンヤー・ギャップサバーの出現とタイでのブーム。これが話題中心に作られたものでなく、男子ムエタイボクサーとして実力が伴なったものでした。それが日本にもやって来るほど、“男性”ではある為、男子キックで戦い、その後、女子プロレスラー・井上京子との異種格闘技戦は話題を呼びました。こうしたオカマボクサーが強かったが為、男女とも刺激を受けた時期でした。

[左写真]一世風靡した“オカマムエタイ?”のエース、パリンヤー(1998年頃)。[右写真]ワイクーも女らしさを出したパリンヤーの戦いの舞
女子ムエタイのベテランエース、Littele Tiger(2016年9月25日)
女子シュートボクシングのエース、RENA(2015年2月11日)

◆99年協会設立を経て00年代女子「覚醒の時代」へ

一連の女子の活躍からひとつ世代が変わり、2000年代前半は徐々に各競技でも女子選手が増えた時代でした。特に女子プロボクシングの台頭は大きく、MA日本キックボクシング連盟の山木敏弘代表がキック興行の中に女子ボクシングを組み込む経緯を経た1999年4月、日本女子ボクシング協会を設立しました。

当時は女子キックボクサーのボクシングとの両立が中心でしたが、2005年11月に菊地奈々子が日本人女子として初のメジャー団体王座、WBC女子世界ストロー級チャンピオンになったことで世間に名を轟かすひとつとなり、一般女性にもボクササイズとしてのボクシングに触れる機会が増え、「蹴りがあるほうが楽しい」といった感覚でキックに目覚める女性もいたでしょう。

2008年春には女子プロボクシングがJBC管轄下の日本プロボクシング協会に吸収された“メジャー昇格”で、後には主要4団体の世界戦実現に至りました。

日本でのプロボクシングの伝統・格式の違いから、他競技との壁は出来たものの、競技性の面白さでは女子キックボクシング系競技も上昇気流に乗り、2000年代後半にはリトルタイガーやRENAのデビュー。幼少期からの育成時代に入ると、伊藤紗弥が4歳から男子に混じっての練習で力を付け、2015年には16歳で32歳のリトルタイガーから世界王座を奪う成長ぶりでした。

◆世界フライ級チャンピオンRENAが切り開く“ツヨカワイイ”の時代

男女に関わらず、タイ国同様に幼少期から鍛えれば本当に強くなるという現実があり、「女がキックなんか……」と言われた偏見が完全に崩れた現在、今後のこの競技の在り方次第で、女子キックもより選手層充実に繋がるでしょう。キックボクシング系競技で現在そのトップにいるのはシュートボクシングの世界フライ級チャンピオンRENAで、メディアに取り上げられるのも“ツヨカワイイ”のが武器であります。

厳密な経緯には程遠く語弊もあるかもしれませんが、大雑把に歴史を追った女子キックの発展経緯でした。当初、マスコミの中にいちばん女子キックに偏見を持っていたのは、実は私自身であり、全日本キック時代、女子がメインイベントを張ったラスト3試合を取材せずに帰ったのはマスコミで私一人だったでしょう。

「大人げないことするなよ!」と元・日本フェザー級チャンピオンの葛城昇氏に窘められた次第ですが、後に知人のカメラマン菊地奈々子や、キックをやるとは思えなかった知り合いの一般女性が鍛え、プロ出場した影響や、過去記事にあるように、男女どんな選手もスタッフも、生涯で公式リングに立っていられる時間というものを貴重に思い、そこで悔いの無い実力を発揮出来るよう、反省を込めて願うこの頃であります。

女子ムエタイの新スター、伊藤紗弥(2016年3月21日)

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

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商業出版の限界を超えた問題作!
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総合格闘技「BFC」──有力選手の「体調不良」引退で多難な人気復活への道

「ヘビー級の体重を維持できなくなってしまった……」

川口雄介選手

9月29日、総合格闘技「BFC」(10月10日 ディファ有明)の対戦カード発表会見で、異例の“しょんぼり”コメントをしたのが無差別級の試合に出る川口雄介。海外強豪相手にやってきたことで戦績は14勝12敗2分とイマイチだが、DEEP初代メガトン級チャンピオンとして、日本の総合格闘技ヘビー級のトップファイターとして戦ってきた有力選手だ。

しかし、36歳という年齢もあり少し前に「あと7試合で引退」を決め、これまで2勝3敗。6試合目が今回の瓜田幸造戦なのだが、会見では「実は引退を決めたのは年齢より体調面なんです」と吐露。

「糖尿で入院したところ体重が90キロをきってしまい、ヘビー級の体重を維持するのが困難になってきたんです。今年1年をなんとか頑張ろうと決意しました」

瓜田幸造選手

[/caption]

(伊東北斗)

『反差別と暴力の正体――暴力カルト化したカウンター-しばき隊の実態』(紙の爆弾12月号増刊)
 
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NJKF DUEL.8とKICK Insist6 ──勇気を持って強豪に立ち向かった二つの興行!

まだ日本の頂点ではない現段階、今後の挑戦が能登龍也の真のチャンピオンロード

NJKF若武者会は、30代~40代の若い世代のNJKF加盟ジム会長で組織される「DUEL」という興行名で昨年の4月から開始し、今回で8回目。ディファ有明は初進出。会場規模もマッチメイクも一層向上してきました。

新日本キックボクシング協会のビクトリージムも年々マッチメイクが向上している「KICK Insist」を開催しています。東日本大震災復興チャリティーイベント として2011年から開催し、11月6日は熊本地震チャリティーとして、15試合中3試合が日本vsタイ国際戦、10試合が他団体かフリージムとの交流戦と、共催ながらビクトリージムならではの興行体制でした。

◎NJKF DUEL.8 /
10月30日(日)ディファ有明16:00~21:00
主催:NJKF若武者会 /
認定:ニュージャパンキックボクシング連盟

元・WBCムエタイ世界スーパーライト級チャンピオンの大和哲也(大和)は昨年5月に敗れた相手へのリベンジマッチの予定でしたが、怪我で欠場となり、後輩の真吾YAMATOが代打で出場。

1996年1月生まれの20歳で、10戦7勝(3KO)2敗1分の戦績で元ムエタイチャンピオンに挑みましたが、第2ラウンドにゴーンサックにパンチで2度ダウンを奪われ、最後は第4ラウンドに左ハイキック一発で倒される、荷が重い内容でしたが、勇敢に向かった試合でした。

ローキックで攻め立てる波賀宙也

波賀宙也はバランスいい元ムエタイチャンプにローキックでたじろがせる圧倒を見せ判定勝利。日本人選手がかつてやられたパターンで、こんな逆転した展開を見せる時代になったことを実感させられる試合でした。

NJKFフライ級王座はパンチでダウン奪った能登が形成逆転、大田のヒジ、ヒザのムエタイ技での優勢は一気に空気が変わり、後半も能登のパンチが活き僅差ながら判定勝利で第10代チャンピオンとなりました。

《主要4試合》

◆64.5kg契約 5回戦

NJKFスーパーライト級2位.真吾YAMATO(大和)
    VS
ゴーンサック・シップンミー(タイ)=元ルンピニー系フェザー級、スーパーフェザー級チャンピオン
勝者:ゴーンサック / TKO 4R 0:48 / ノーカウントのレフェリーストップ
主審 山根正美

◆56.0kg契約 5回戦

WBCムエタイ日本スーパーバンタム級チャンピオン.波賀宙也(立川KBA) 

ゴーンサックの左ミドルキックは重かった
左ハイキックで倒された真吾

    VS
クワンペット・ソー・スワンパッディー(タイ)=元ルンピニー系バンタム級チャンピオン
勝者:波賀宙也 / 判定3-0
主審 多賀谷敏朗 / 副審 西村50-47. 竹村50-47. 山根50-47

◆NJKFフライ級王座決定戦 5回戦

1位.大田拓真(新興ムエタイ)vs2位.能登龍也(VALLELY) 
勝者:能登龍也 / 判定0-2
主審 松田利彦 / 副審 西村48-48. 多賀谷48-49. 山根47-48

◆NJKF女子(ミネルヴァ)アトム級(102LBS)王座決定戦3回戦 

佐藤怜南(team AKATSUKI)
    VS
C-CHAN(T-GYM)
引分け 三者三様(公式記録) / 主審 多賀谷敏朗
副審 竹村30-29(9-10). 西村28-29(9-10). 山根29-29(9-10)
延長戦0-3(三者とも9-10)による“勝者扱い”でC-CHANが新チャンピオン

◎KICK Insist6
11月6日(日) ディファ有明16:00~20:45
主催:ビクトリージム、治政館ジム / 認定:新日本キックボクシング協会

C-CHANがデビュー1年でチャンピオンへ

やっぱり厚かったムエタイの壁、瀧澤博人は念願の“現役”ムエタイチャンピオンとの対戦も、内容的に大差を付けられる完敗。蹴りもパンチも単発では崩せないが、次に繋げさせないカオタムの距離とバランス。ラウンドが進むにつれ、瀧澤のパターンが読まれると組まれてヒザ蹴りのカオタムのペースに巻き込まれる経験値の差がありました。これで奮起するのが瀧澤博人、次の国内防衛戦を通過点として、またムエタイ第一線級戦士に向かっていくでしょう。

山田航暉は元・タイ東北スラナリースタジアム・ミニフライ級チャンピオンのラチャシーに、ローキックで勝機を掴み、2度目のダウンになるローキック後、崩れ行くところを顔面にキック、そのままノーカウントのレフェリーストップ勝ち。

石原將伍は元・タイ国ムエスポーツ協会ランカーのゴーンポンレックに強打が通じず、戦法読まれて攻め倦む判定負け。

大田原友亮はムエタイ技の基礎が出来ている選手ですが、キックボクシングのリズムが噛み合わず凡戦が多くまたも引分け。

日本ヘビー級チャンピオン初戦の柴田春樹は、総合格闘家の酒井リョウとキックの試合には成り難いリズムが狂った展開でも、ダウンと酒井の反則減点で大差判定勝利。

《主要5試合》

蹴る威力が増し、元ムエタイ地方チャンピオンを圧倒した山田航暉

◆55.6kg契約 5回戦

日本バンタム級チャンピオン.瀧澤博人(ビクトリー/55.55kg)
VS
タイ国ラジャダムナン系スーパーバンタム級チャンピオン
カオタム・ルークプラパーツ(タイ/55.1kg)
勝者:カオタム・ルークプラパーツ / 判定0-3
主審:椎名利一 / 副審:桜井48-50. 少白竜47-50. 仲47-50

パンチの距離を狂わされた石原將伍

◆51.5kg契約 5回戦

WMC日本スーパーフライ級チャンピオン.山田航暉(キングムエ/51.3kg)
VS
ラチャシー・ギャットアノン(タイ/50.9kg)
勝者:山田航暉 / TKO 3R 1:28 / 主審:仲俊光

◆59.0kg契約 5回戦

日本フェザー級1位.石原將伍(ビクトリー/58.9kg)
VS
ゴーンポンレック・ギャットゴーンプン(タイ/58.3kg)
勝者:ゴーンポンレック・ギャットゴーンプン / 判定0-3
主審:少白竜 / 副審:桜井47-49. 仲47-49. 椎名47-49

アトム山田と大田原友亮はドロー

◆58.0kg契約3回戦

ユウ・ウォーワンチャイ(=大田原友亮/ウォーワンチャイ/57.65kg)
VS
JKIフェザー級1位.アトム山田(武勇会/57.7kg)
引分け 0-1 (29-30. 29-29. 29-29)

◆ヘビー級3回戦

日本ヘビー級チャンピオン.柴田春樹(ビクトリー/92.65kg)
VS
酒井リョウ(バラエストラ松戸)
勝者:柴田春樹 / 判定3-0 (三者とも30-26)

◆取材戦記

蹴り合いは少なかったが、立ち技の経験値で勝利を導いた柴田春樹

NJKF興行では女子の試合は「ミネルヴァ」と表現しています。ローマ神話の女神に名称を由来すると言われおり、カッコいい名称ですが、一般の方が見た場合、何の試合か分かるでしょうか。最近、NJKF関係者に「ミネルヴァと書いてください」と言われたこともありました。しかしそこは「女子キック」と表現しなければ一般の方には分からないでしょう。

今回のDUELでは各選手のウェイトが発表されませんでしたが、全選手リミット内であったようです。ウェイト競技たるもの、計量記録も大事な試合の内と思います。前日公開計量のある興行では、選手の調整具合がしっかり読めてくることあるので、こういう機会は増やして欲しいと思います。

次回NJKF興行は11月27日(日)後楽園ホールでの「NJKF 2016.7th」に於いてWBCムエタイ・タイトルマッチ5試合が主要試合として行なわれます。

新日本キックボクシング協会の藤本ジム主催興行は12月11日(日)に後楽園ホールに於いて「SOUL IN THE RING.16」が行なわれます。

過去の敗戦を糧に強くなった瀧澤博人、更なる奮起に期待

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

『反差別と暴力の正体――暴力カルト化したカウンター-しばき隊の実態』(紙の爆弾12月号増刊。11月17日発売。定価950円)
タブーなきスキャンダル・マガジン『紙の爆弾』!

キックボクシングに人の歴史あり──名選手たちの同窓会のようなトークショー

酒を酌み交わす仲、そこはかつて殴る蹴るの試合で戦った者の集まり。

キックボクシング創設50周年、シュートボクシング創設30周年、これらの競技がここまで永く発展、継続され、名選手が生まれてきた歴史に学ぶことは、今後も完全には廃れることなく、また隆盛も迎えつつ次の世代へ繋がっていくのだろうと考えられます。

◆キックボクシング取材の先駆者、舟木昭太郎さん主催の貴重なトークショー

舟木昭太郎氏(左)、バズーカ岸浪氏(中央)、増沢潔氏(右)。岸浪氏が増沢氏から全日本ウェルター級王座を奪ったのが1972年(昭和47年)1月でした

継続されてきたのは名選手だけではない、興行団体や裏方のスタッフやマスコミの存在もありました。現在は現場に足を運ばれることは少なくなっても、キックボクシングの創生期から隆盛期、低迷期、また復興期からシュートボクシングの創設と発展までしっかり現場を見て来られたのがキックボクシング取材の先駆者、舟木昭太郎さんでした。

舟木さんは「プロレス ボクシング キック」と銘打たれた月刊ゴング誌の編集長を永く務められた、多種プロ格闘技に渡り取材経験豊富な方で、沢村忠も藤原敏男も具志堅用高も前田明にも、その時代のカリスマ的存在に、同時期の第一線級記者として取材した、まだ月刊雑誌が待ち遠しいほど貴重だった時代に取材し、全国のファンに情報を伝えていたというだけでも、我若輩者は圧倒される想いがあります。
こういう人だからこそ参加者が大勢いて出来た、舟木昭太郎さん主催のトークショーが今年10月までに2回開催されています。

左から増沢潔氏、藤原敏男氏、竹下氏、バズーカ岸浪氏、佐藤正信氏
足を骨折していても、この前日もムエタイ観戦していた元気な藤原敏男氏。乾杯の音頭を取るものこの人ならでは
若き頃のやんちゃな話題を語る仙台青葉ジム、瀬戸幸一会長

◆戦った者同士が酒を酌み交わす親交空間

7月30日には「黄金時代を熱く語るキックボクシングデー!」と銘打ったテーマで渋谷区富ヶ谷の台湾料理「麗郷富ヶ谷店」で行われ、10月22日には同所で「シュートボクシング30周年を共に語ろう!」というテーマで行なわれました。

いずれも集まるメンバーに、懐かしい顔が見られ、黄金時代を熱く語るキックボクシングデーでは藤原敏男さん、竹山晴友さんをはじめとするお酒好きの名選手、名チャンピオンが来場されていました。

皆、年輪を重ねた顔を見せつつ、大きい声は出すは、笑い声が元気な元チャンピオン・ランカー達の、かつて戦った者同士が酒を酌み交わしながらの会話は、見ていて羨ましいほどの親交深まる空間がありました。

◆歴代チャンピオンたちの存在感

その中でも藤原敏男さんの存在感はやっぱり偉大で、外国人(日本人)初のラジャダムナンスタジアム認定チャンピオンの英雄と一緒に写真に収まろうとする人々の光景は子供のようでもありました。

仙台青葉ジム会長の瀬戸幸一氏も83歳となられても益々元気に、「空手がいちばん強いと思っていた時代に仙台からわざわざキックの目黒ジムに殴り込みをかけた」と語る血気盛んな裏話や、元・全日本ウェルター級チャンピオンの増沢潔さんが披露してくれたのはNETテレビ(現テレビ朝日)が放映していた昭和45年当時のチャンピオンベルト(全日本キック王座が出来る前)。

わずか1年未満の活動でしたが、振り返れば創生期のキックブームの裏にいろいろなことがあったんだなと再認識させられる話題も多だあり、かつてのキックボクサーが互いに当時の想いを語り合うこの集いに存在意義があるのでした。

シュートボクシング創始者シーザー武志氏、その経緯を語る
元・極真からキック転向し、話題を振り撒いた竹山晴友氏、話題では藤原氏に次ぐ存在

◆「シュートボクシング30周年を共に語ろう!」の主役シーザー武志さん

10月22日の「シュートボクシング30周年を共に語ろう!」ではシーザー武志(本名=村田友文)さんが主役。45年になるお付き合いから「こんな会を開きたいと申し出たら快く受けて頂きました」と語った舟木氏でした。そんな紹介の中、蹴る殴るの格闘技をやるとは思えぬSB女子世界フライ級チャンピオンのRENAさんの存在が光っていましたが、そんな時代の流れを感じる世代を越えた顔ぶれもありました。

シーザー武志氏がキックボクサーとしてデビューした1972年(昭和47年)頃は、「舟木さんのゴング誌に書いて貰うのが夢でした」という素朴な夢や、デビューから3連敗しても負けた悔しさをバネにして4戦目で3戦3勝の相手に勝ったことや、「キック団体がついたり離れたりして纏まらず、選手がかわいそうだった。それだったらキック団体でなく、ひとつの競技を作り上げてしまおう」という発想から、シュートボクシングを創設するに至る経緯を振り返り、UWFを立ち上げた佐山聡氏と知人を通じて知り合い、前田明や高田信彦、山崎一夫といった選手に蹴りを教える縁に繋がり、その後、佐山聡氏がシューティング(現在の修斗)を創設したことから真似て、“シューティングボクシング”を立ち上げようとしましたが、佐山氏に「“ING”が二つ付いたら駄目ですよ」と助言を受け「“シュートボクシング”に定着しました」という設立の裏話もされていました。

NETテレビ時代の貴重なチャンピオンベルトを持つ増沢潔氏
右側が比較的最近の選手といっても8年前まで現役のSB日本スーパーウェルター級チャンピオンの緒方健一氏。かなりふっくらしました

◆RENAさんが切り開いたMIO選手たちの強くて可愛い連鎖の時代

試合用スパッツに関しては、今までに無いものを作り出したい想いと、知人から指摘された“脚の筋肉のラインをキラッと見せる華やかな発想”から作り出した経緯のようでしたが、腹に脂肪があっては逆効果もあり、身体の身だしなみも強制的に躾けられるスパッツであるようです。

昭和のキックボクシングがテレビによって隆盛期を迎え、その後テレビが離れると、定期興行が打てない閑散とした低迷期に突入し、何とか各所で支援者に恵まれたキック業界は復興に至りました。隆盛期から復興期まで時代を跨って活躍した中にはシーザー武志氏もいた訳です。団体を作るより、競技を創設する苦労は、このシュートボクシングを世界に支部を作り定着させなければならない活動が続きました。現在は女子選手が実力を付け、RENA選手がメインイベントを務める時代とまでになりました。強く可愛い連鎖で後輩のMIO選手も力を付けています。

オークションでサイン色紙をゲットしたセントポールズサロン銀座(次回開催地)の森和夫社長がシーザー武志氏とRENAさんに囲まれる

◆11月26日開催のPART3は「藤原敏男の炎のキックボクシング講座」

現役を引退した選手らは、この業界にはわずかしか残れない中でも、赤字を覚悟したジム運営や興行に汗を流す日々となり、そんな業界であっても、かつて戦った者同士の、あの時代を語る集いは、年取った者が懐かしむだけかもしれませんが、今現役の選手も、この時代を取り巻くファンもやがて同じ集いを行ない、現在、喧々囂々やりあっている現役選手も30年もすればこんなテーブルに付くのだろうと想像してしまいます。

以上はパーティーで印象に残った話をマニアックに簡潔に拾ったものを披露したものですが、今の若い記者個人では出来難い、舟木氏のベテラン記者としての人脈がありました。キックボクシングの取材現場には一部を除き、長く務める顔ぶれは少ないものですが、マスコミとしても培っていかねばならない継続力を学ばせて頂いたパーティーでした。

11月26日(土)には中央区銀座の「セントポールズサロン銀座」に於いて13時より舟木昭太郎氏主催のトークショーPART.3として「藤原敏男の炎のキックボクシング講座」が開かれ、藤原氏をメインに現役時代のラジャダムナン戦などの映像を観ながらのトークのようです。現在に繋がる基盤を作り上げた諸先輩方の集いは今後も続いていくことでしょう。

※イベント詳細は舟木昭太郎さんのブログ「日々つれづれ」をご参照ください。

今、最も旬な二人、RENA選手、MIO選手

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

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MAGNUM.42 一心に王道を突き進むのみ、三つのリベンジ戦!

ローキックで強く攻める江幡塁の戦略。セーンピチットも必死になる
次第に効いてきたローキック、ブロックも追いつかなくなる
効いてしまうと心折れる訳でなく、麻痺して立てなくなるのがローキック

江幡塁と重森陽太の二人は、5月29日、タイのラジャダムナンスタジアムで現地常連選手に判定負けを喫しています。そのリベンジ戦、江幡塁はバットを圧し折るような左ローキックでセーンピチットを担架で運ばれる事態に追い込む圧勝。

重森陽太は様子見の手数少ない序盤から次第にしなりある蹴りで攻勢に立ち、後半にパンチでラッシュし、試合をコントロールした勢いで判定勝利。

3月13日、石川直樹と王座決定戦で引分け(公式記録)、延長戦での“勝者扱い”で王座奪取となった泰史の初防衛戦は再び石川直樹と対戦。ヒジ打ちで眉間をカット成功した石川直樹は反撃に出る泰史を首相撲からのヒザ蹴り中心に優勢を守り、泰史はドクターチェックを2度受けた後、続行中にレフェリー判断で試合をストップ。石川直樹は王座を?ぎ取るリベンジで第9代日本フライ級チャンピオンとなりました(新日本キック制定)

緑川創は右足の指を骨折する中で苦戦の引分け。ラジャダムナン・ランカー相手に打ち負けない展開は実力を証明した内容。

勝次は元・タイ南部ライト級チャンピオンのトックタックに様子見に時間が掛かるもパンチで前に出て勢いに乗り、KO出来なかったが安定した試合運びで判定勝利。
喜多村誠はジャントーンのパンチに攻め難さがあったが、右ハイキックでダウンを奪い、右ストレートで仕留めるTKO勝利。

◎MAGNUM.42
10月23日 後楽園ホール 17:00~20:50
主催:伊原プロモーション
認定:新日本キックボクシング協会

《主要6試合》

◆56.0kg契約 5回戦

WKBA世界スーパーバンタム級チャンピオン.江幡塁(伊原/56.0kg)
 VS 
セーンピチット・STDトランスポート(タイ55.6kg)
勝者:江幡塁 / TKO 4R 0:51 / カウント中のレフェリーストップ

◆日本フライ級タイトルマッチ 5回戦

チャンピオン.泰史(伊原/50.8kg)vs1位.石川直樹(治政館/50.8kg)
勝者:石川直樹 / TKO 4R 1:18 / レフェリーストップ

ヒジで切った後は攻められても冷静に試合をコントロールした石川直樹
レフェリーが傷を見てストップ、石川直樹に苦労の裏返しとなった笑顔が浮かぶ
怪我が多かった今年、それでも負ける訳にはいかない緑川創
油断ならないシップムーンの荒技、バックエルボーの脅威

◆70.0kg契約 5回戦

緑川創(前・日本W級C/藤本/70.0kg)
VS
タイ国ラジャダムナン系ウェルター級2位
シップムーン・シットシェフブーンタム(タイ/69.4kg)
引分け / 三者三様(49-48. 48-49. 49-49)

柔軟な蹴りを持つ重森陽太はターレーグンにリベンジ成功

◆57.5kg契約 5回戦

日本フェザー級チャンピオン.重森陽太(伊原稲城/57.5kg)
 VS
ターレーグン・ポー・アーウタレーバーンサレー(タイ/57.3kg)
勝者:重森陽太 / 判定2-0 (50-48. 49-47. 49-49)

◆63.0kg契約 3回戦

日本ライト級チャンピオン.勝次(藤本/63.0kg)
 VS 
トックタック・トップキング(タイ/62.7kg)
勝者:勝次 / 判定3-0 (30-28. 30-28. 30-28)

◆70.0kg契約3回戦 

日本ミドル級チャンピオン.喜多村誠(伊原新潟/69.5kg)
 VS
ジャントーン・エスジム(カンボジア/70.0kg)
勝者:喜多村誠 / TKO 3R 2:18 / カウント中のレフェリーストップ

アンダーカード5試合は割愛します。

《取材戦記》

江幡塁は試合後、25歳となった今年、「今だったら3年前と違います」と、ラジャダムナン王座に挑戦してKOで敗れ去った頃を意識しての発言。来年には再度ラジャダムナン王座に挑戦し、奪取する意気込みを感じられました。

新日本キックボクシング協会所属以外でタイ・ラジャダムナン王座奪取が続く今年、その中の一人、T-98(タクヤ)に3年前、判定勝利したことがある緑川創は、もう一度、この高校野球部時代の先輩と対戦する舞台に立ちたいところでしょう。パンチで倒してTKO勝利した喜多村誠も同じく、T-98に挑戦の意思を示し、チャンスを待つ者の一人です。

喜多村誠のハイキック、ラジャダムナン王座再挑戦へ向けて勢いが増す

日本人選手ではないですが、ラジャダムナン・ミドル級チャンピオンに就いたユセフ・ボーネン(フランス/ベルギー)は5月27日にコムペットレック・ルークプラバート(タイ)との王座決定戦で2ラウンドにユセフが股間へのヒザ蹴りでコムペットレックが悶絶。ユセフの失格負けとなり、コムペットレックが新チャンピオンになり、その初防衛戦が8月31日のユセフとのダイレクト再戦でした。

そしてユセフが第4ラウンドに左ボディブローで倒して王座奪取。意外にもタイの専門誌記者の間では、”外国人ムエタイ選手の中で一番強い”と評価されているようです。

ラジャダムナンスタジアム王座は、スーパーウェルター級チャンピオンがT-98、ミドル級チャンピオンがユセフ・ボーネン、ライト級チャンピオンが梅野源治。タイ側から見れば軽量級境界線のライト級を除き、あまり評価が高くない領域となりますが、昔は重量級でも強いチャンピオンがいたムエタイ王座です。日本人でも挑戦資格を獲れる実力を持った選手が多いので、タイ側を慌てさせるよう掻き回して欲しいものです。

勝次も目指すものが見えている中での勝利

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

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日本キック連盟の巻き返し──天下布武・武士シリーズ!

豪快なKO勝利もあり、存在感大きかった34歳桃井浩

◎武士シリーズ vol.4
10月2日(日)後楽園ホール17:30~21:15
主催:日本キックボクシング連盟 / 認定:NKB実行委員会

《ハイライト》

◎今年2月、ゴンナパーに判定負け、6月、翔センチャイジムに負傷による棄権TKO負けと白星が無い大和知也が中尾満を圧倒し、エース格の面目躍如。

◎高橋一眞に雪辱果たして王座に就いた村田裕俊が複数団体同級チャンピオンの久世に判定勝利。

◎興味深かった高橋三兄弟次男・亮21歳と佐々木雄汰16歳のルーキー対決。互いに持ち味出した戦いで高橋亮が判定勝利。

◎桃井浩が劣勢の判定負けながら力出し切ったラストファイト。

主要6試合

◆64.0kg契約5回戦

NKBライト級チャンピオン.大和知也(SQUARE-UP/63.75kg)
VS
中尾満(エイワスポーツ/63.85kg)
勝者:大和知也 / KO 1R 2:45 / 3ノックダウン

ローキックのけん制からボディへ右ストレート、更にコーナーに詰め連打でダウンを奪い、巻き返しに出てくる中尾と打ち合いの中、連打で2度目のダウンを奪い、効いていない様子の中尾だったが、仕留めに掛かる大和は連打の中、右ストレートで3度目のダウンを奪い久々の圧倒KOでの完勝。

距離を詰めるにも勢いがあった大和知也のボディブロー
他団体チャンピオン下し、更なる上位を目指す村田裕俊

◆58.0kg契約5回戦

NKBフェザー級チャンピオン.村田裕俊(八王子FSG/58.0kg)
VS
WMC日本フェザー級チャンピオン.久世秀樹(レンジャー/57.8kg)
勝者:村田裕俊 / 判定3-0 / 主審 馳大輔
副審 前田49-47. 川上49-48. 佐藤友章49-48

序盤は久世がムエタイ技で積極的に出てヒジ打ちで村田の額を切ることに成功。後半は村田がローキック主体にジワジワ巻き返し、久世の勢いが衰えるがまま、村田の判定勝利。

勢いの違いが出始めた後半の高橋亮のミドルキック

◆53.7kg契約5回戦

NKBバンタム級チャンピオン.高橋亮(真門/53.6kg)
VS
WPMF日本スーパーフライ級チャンピオン.佐々木雄汰(尚武会/53.6kg)
勝者:高橋亮 / 判定3-0 / 主審 鈴木義和
副審 前田50-49. 川上49-48. 馳50-48

高橋亮は三兄弟の中で最初に王座に就いたNKBとしても有望な存在。佐々木雄汰は16歳でWPMF日本スーパーフライ級王座に就いたスーパールーキー。ムエタイ技で佐々木が上回り、素早さ、ヒジ打ち、転ばしも上手いが高橋は冷静に様子見。3Rには佐々木を空回りさせるキックスタイルの高橋のパンチで佐々木は鼻血を出す。後半に得意とする戦法を活かした高橋が勢いを増した展開で判定勝利。再戦すればまた向上した面白い戦いになりそう。

キックボクシングスタイルの高橋亮が優ったボディブロー
凡戦となったが、一発の破壊力はKOのチャンスもあった田村と西村

◆NKBミドル級5回戦

1位.田村聖(拳心館/72.15kg)vs6位.西村清吾(TEAM-KOK/72.45kg)
引分け 1-0 / 主審 佐藤友章
副審 川上49-49. 馳49-49. 前田50-49

決定打が少ない中、パンチのクリーンヒットが当たると勢い増すかと見入っても、スタミナ切れのパッとしない中、KOを期待した観る側は長い5ラウンドとなった展開。

劣勢が続くもラストファイトを悔いなく戦った桃井浩

◆ライト3回戦

NKBライト級2位.桃井浩(神武館/61.0kg)vs増倉敦(TRY-EX/61.1kg)
勝者:増倉敦 / 判定0-3 / 主審 鈴木義和
副審 馳28-30. 佐藤友章28-30. 前田28-30

桃井浩のラストマッチは増倉に攻められっぱなし。2Rにはちょっと逆転は無理かと思うほど手数が減り、3Rは踏ん張って反撃もスタミナ切れ。しかしラストマッチとしての力を出し切る意地を見せた感動も残りました。

◆NKBフェザー級3回戦

4位.高橋聖人(真門/57.0kg)vs6位.安田浩昭(SQUARE-UP/57.05kg)
勝者:高橋聖人 / 判定3-0 / 主審 川上伸
副審 前田30-27. 佐藤彰彦30-28. 馳30-27

技が多彩な高橋聖人がしだいに圧倒。安田はパンチで出るしかない劣勢に。やや見過ぎで勢い弱まる高橋も攻勢を維持し判定勝利。

※他、5試合は割愛します。

技の多彩さで安田を圧倒した高橋聖人
他団体チャンピオンを意識したアピールの大和知也

取材戦記

「キックボクシング業界がこれから盛り上がっていきますので、いろんな大会に出れるよう頑張ります。他の団体とか他のチャンピオン倒しますので宜しくお願いします。」(大和知也の勝利者インタビュー)

「NKBの盾になって他団体のチャンピオンをバタバタ倒していくので応援お願いします。」(村田裕俊)

 こうした発言が出てきたのは、NKB自体が「KNOCK OUTイベント」を意識したり、交流戦が出来るようになってきたゆえだと思います。この団体の選手にも新たな目標が出来ることで活気が出て来た証しともいえそうです。

「KNOCK OUT」による波紋は団体によって違った形で出ていると思いますが、NKBにおいてもこのように他の選手にとっても同様の意識があるでしょう。初戦は敗れた高橋一眞も再度出場を狙っていることでしょうし、売り出し中の高橋三兄弟の飛躍に期待が掛かります。

武士シリーズVol.5は12月10日(土)17:30より後楽園ホールにて、NKBフェザー級タイトルマッチ.チャンピオン村田裕俊が同級2位.優介(真門)を迎え初防衛戦を行ないます。他団体交流戦を目指す村田が上昇気流に乗った勢いで初防衛を果たせるか期待のかかる防衛戦です。

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

 7日発売!タブーなきスキャンダル・マガジン『紙の爆弾』!
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T-98(今村卓也)がタイのラジャダムナンスタジアムでムエタイ王座初防衛の快挙!

ボディブローもダメージを与える有効技

T-98(今村卓也)が10月9日、日本人として初の(外国人として2人目の)現地ラジャダムナンスタジアムで防衛を果たす快挙、更なる証しに挑戦です。

◆タイ国ラジャダムナンスタジアム・スーパーウェルター級(154LBS)タイトルマッチ 5回戦

チャンピオン.T-98(今村卓也/クロスポイント吉祥寺)
VS
挑戦者.プーム・アンスクンビット(タイ)

勝者:T-98 / TKO 3R / カウント8でレフェリーストップ

一瞬の隙を突いたヒジ打ちは要注意。やはり上手い現地のランカー
一瞬、危なかったプームのハイキック
ダメージを重ねたT-98の右ローキック

開始からT-98が右ローキックで、圧力かけるように前へ出る展開。足効かせて勝利を導く狙いがあるような流れでした。プームは、ヒジ打ちのタイミングやハイキック、組んで転ばす技はやはり上手で、後半にいくほど厄介さを感じさせます。

T-98のローキックは見た目地味にもコツコツ強く蹴り続け、ボディブローもヒットさせ、ひとつひとつの攻防に絶対劣勢に立たない、ダメージを与えられる打撃は何でも出す圧力を続けました。

力尽きたプームは心折れた表情で立てず

プームが組んでヒザ蹴りで出てきてもT-98は応戦し負けない蹴り合い。コツコツ蹴り続けた右ローキックで、3Rに最後の強烈な一発を食らって限界にきたプームはあっけなく崩れ落ちてしまい、キツさを表情に出してギブアップ状態。レフェリーはカウント途中で止め、T-98のTKO勝利。

T-98は感じていたプレッシャーから開放されたように喜び飛び跳ね、応援に来ていたリングサイドのファンに手を振っていました。

プレッシャーから開放された喜びのT-98

T-98は6月1日に後楽園ホールに於いて、REEBLS興行でのラジャダムナンスタジアム・スーパーウェルター級級王座挑戦し、チャンピオン.ナーヴィー・イーグルムエタイ(タイ)に判定勝ちし王座を獲得。日本人5人目となるラジャダムナンスタジアムのチャンピオンとなりました。

今回の防衛戦は前チャンピオンのナーヴィーとのダイレクトマッチが予定されていましたが、直前にプーム・アンスクンビットに変更となりました。

これでT-98は現役ラジャダムナン・スーパーウェルター級チャンピオンとして12月5日の「KNOCK OUT興行」に出場し、長島自演乙雄一郎と対戦することになります。

取材戦記

二大殿堂のラジャダムナンスタジアムに対するルンピニースタジアムでは、過去にムラッド・サリとダミアン・アラモスのフランス人選手2人がスーパーライト級で王座に就いています。

ラジャダムナン王座にタイ人以外の外国人が就いたのは過去、藤原敏男(ライト級)、小笠原仁(スーパーウェルター級)、武田幸三(ウェルター級)、石井宏樹(スーパーライト級)、ジョイシー・イングラムジム(ウェルター級)とT-98で6人目。現地ラジャダムナンスタジアムで防衛に成功したのは、ジョイシー・イングラムジム(ブラジル)に次ぐ2人目でした。ジョイシーが2度目の防衛を果たした時の相手がナーヴィー・イーグルムエタイで、ジョイシーが王座返上後にナーヴィーが王座決定戦で奪取していました。

ムエタイ二大殿堂王座は、その王座を奪取すれば、その階級で頂点に就いたと証しとなりますが、真のチャンピオンに達したと認められるには、賭け屋(ギャンブラー)と言われる観衆の大声援による支持が証しとされます。

現地で日本人チャンピオンの手が挙げられる
現地での堂々の防衛で勝者コールを受ける

タイは民族的に身体が小柄で、ボクシング、ムエタイにおいても軽量級が激戦区で、線引きするなら60kgに満たないクラス(スーパーフェザー級)までを指されます。そこで頂点を極めるのは至難の業で、日本人挑戦者も過去7人が挑戦していずれも撥ね返されており、センスや実力があっても獲れなければ無名のまま。その中には梅野源治も江幡ツインズもいます。

60kgを超えると中・重量級であるが故、層が薄いと言われるムエタイ王座ですが、そんな重量級の選手にとって、王座奪取してもより付加価値を付けなければ世間に認めてもらえない厳しさがあります。

T-98がまず目指したのは、「現地で防衛してこそ本物のチャンピオン」と言われる称号で、その第一歩に成功。更には今後、賭け屋の支持を多く受けなければならない難度な道程です。

過去の外国人ラジャダムナンチャンピオン全6人の内、藤原敏男氏は唯一、タイのトップクラスとの現地での激しい試合が賭け屋の支持を多く受けたチャンピオンでした。1977年4月、現地でノンタイトル戦ながら現役チャンピオンに判定勝ちする快挙を果たした後、王座奪取は1978年3月18日の後楽園ホールでしたが、初防衛戦は期間が3ヶ月弱での6月7日、現地ラジャダムナンスタジアム。短い期間で初防衛戦を迎え大声援の中、接戦の判定負けを喫しました。「藤原は勝っていた」という賭け屋の支持も多く、防衛は成りませんでしたが、藤原氏の名声は今も語り継がれるほど、現地のファンも当時のランカーもレフェリーも記憶に残る名選手でした。

藤原敏男氏の知名度には及ばないですが、これに次ぐ実績を残したのが、ブラジルのショイシー・イングラムジム(ジョス・ロドリゲス・メンドーサ)。彼は2013年7月、ラジャダムナン・ウェルター級王座を現地で奪取し、2014年9月、日本で田中秀弥(RIKIX)の挑戦を退け初防衛し、2015年6月、2度目の防衛戦で再び現地でナーヴィー相手に防衛を果たす、現地で獲って現地で防衛する実績を残ました。いずれも技術と駆け引きで優って勝つのは難しいと言われる判定勝ちでした。ノンタイトル戦で緑川創(藤本)も下している、日本でも名を知らしめた選手です。

T-98に懸かる期待は藤原氏とジョイシーの二人を超えること。対戦候補となるジョイシーは現役のトップクラスでいます。前チャンピオン. ナーヴィー・イーグルムエタイも現地での再戦を待っているでしょう。更に日本人同士のラジャダムナンタイトルマッチも計画されているという、日本を含め、外国にも強豪はまだいる重量級です。

チャンピオンベルトという物的証しの上に、一人一人のファンが集まって大群集となるファンの支持力が真のチャンピオンの証しとなり、そこではノンタイトル戦であっても大群衆は注目します。T-98は重量級であっても自身の名声を高める戦いは今後も続き、層が薄いと言われている現状でも、好カードで現地防衛を重ねることが一番価値を残すでしょう。

控室側にある撮影ブースで、応援の旅に付いて来てくれた仲間と記念撮影

《追記》

8月31日(水)、現地でのラジャダムナンスタジアム・ミドル級タイトルマッチで、チャンピオンのコムペットレック・ルークプラバートを4R、ボディブローで倒し、TKO勝利したユセフ・ボーネン(フランス)が、ラジャダムナンスタジアムの外国人7人目のチャンピオンとなっています。

また10月23日(日)、ディファ有明でのREBELS興行で行なわれた、ラジャダムナンスタジアム・ライト級タイトルマッチで、チャンピオンのヨードレックペット・オー・ピティサックを、判定3-0で破った梅野源治(PHOENIX)が、ラジャダムナンスタジアムの外国人8人目のチャンピオンとなっています。

[現地撮影]Mr.Pornchai Udomsomporn (weekly MUAY TU)
[文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

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キックボクシング新イベント「KNOCK OUT」開催に向けた2試合追加発表!

12月5日開催のキックボクシング新イベント「KNOCK OUT」の対戦カードの2試合追加が9月30日の記者会見で発表されました。

リング上に描かれたKNOCK OUTロゴマーク

◆契約ウェイト未定5回戦

宮本啓介(橋本) vs 工藤政英(新宿レフティー)

森井洋介(ゴールデングローブ) vs ヨードワンディー・ニッティサムイ(タイ)

◆9月14日に発表された契約ウェイト未定5回戦2試合

T-98(今村卓也/クロスポイント吉祥寺) vs 長島☆自演乙☆雄一郎

大月晴明 vs スターボーイ・クワイトーンジム(タイ)

初回興行出場の4名、左からT-98、梅野源治、森井洋介、長島☆自演乙☆雄一郎

メインイベント出場予定の梅野源治選手については、10月23日(日)のREBELS興行に於いて行なわれるタイ国ラジャダムナンスタジアム・ライト級王座挑戦試合の結果を以って発表予定です。

RIKIX代表、小野寺力氏
キックスロード社長、花澤勇佑氏
メインイベント出場の大役を担う梅野源治選手
司会進行とテレビ実況担当の村田晴郎氏

ヨードワンディー・ニッティサムイ選手は6月25日、ローキックで梅野源治選手を苦しめた選手で、スターボーイ・クワイトーンジム選手は3月12日に、梅野源治選手からヒジ打ちでダウンを奪い、それぞれのNO KICK NO LIFE興行で引分けた選手で、梅野源治との絡みで実力が測れるのも、ファンが興味を持ち易い理想的な傾向でしょう。

ヒジ打ち有りルールの試合で今後、地上波テレビで放送されることに、「これで地上波に乗るのかな」という不安もあるという声があり、一般視聴者から見れば今迄と違った(ヒジ打ちの無い競技を見慣れている感覚)危険な見方をされる懸念について、小野寺力氏は「大流血になってもドクターとレフェリーが判断して試合が止められることや、UFCでもヒジ打ちの出血でも全然止めないですし、プロボクシングにおいてもパンチで顔面が切れることがあるので、そこまで心配する事案ではなく、格闘技としてある程度の出血は仕方ないところと思います。」といった回答をされました。

梅野選手も、「ヒジ有りがメジャーになり難いという懸念と、今後大きい舞台でのヒジ有り試合を驚く人もいましたが、ムエタイはヒジ打ち有りだから面白いと言う人も多く、僕もヒジ有りのムエタイの面白さというのは、どうにかして伝えたいなというのは以前から思っていたので、今回KNOCK OUTが始まるということで凄いチャンスと思うので、とにかく自分が激しい試合をしてムエタイの面白さを伝えられたらなと思います。」という内容の回答。

そしてまず梅野選手の、10月23日のラジャダムナン王座挑戦に関して「トレーナーや仲間たちがサポートしてくれて、目標にしていたラジャダムナンタイトルに挑むことができるので、10月23日はしっかり結果を残して、チャンピオンベルト巻いて12月5日に『ムエタイは本当に凄いんだぞ』という試合をしたいと思います。第1回大会ということでメインイベントを務めさせて頂けるということで、みんなの期待に応えられるような激しい試合をしてKNOCK OUTの名前どおり、ノックアウトでキッチリメインの大役を果たしたいと思います。」と抱負を語りました。

宮本啓介 vs 工藤政英戦は、8月のREBELS興行に於いての3回戦で、持ち味を出し切った引分けで、小野寺氏がその場で、両方のジムとプロモーターに交渉して、すぐ決定に至った経緯がありました。この辺は正に若い世代のジム・プロモーターの交渉で弊害が無く、纏まりが早いところです。

森井洋介選手も9月14日の発表会見試合で高橋一眞(真門)を豪快にKOして、初回興行出場を希望し、願い叶って強いタイ人のヨードワンディーと対戦が決定。

また会見に参加していたT-98(タクヤ)選手も、6月に後楽園ホールでラジャダムナンスタジアム王座を奪取した時のチャンピオン、ナーヴィー・イーグルムエタイと10月9日に、ダイレクトマッチで初防衛戦が予定されていましたが、挑戦者がプーム・アンスクンビットに変更となった模様。記者会見時点で「6月に奪取して防衛戦のことだけを考えてきたので、現役ラジャダムナンチャンピオンとして12月5日の出場を約束します。」と宣言していました。

9日のラジャダムナンスタジアムでの結果は、初回から右ローキックで徐々に圧力かけていたT-98(タクヤ)が3Rに右ローキックでプームが崩れるように倒れTKO勝利、日本人として初の現地での防衛に成功。外国人としては昨年の、ウェルター級チャンピオン.ジョイシー・イングラムジム(ブラジル)に次ぐ快挙となります。
これでT-98は晴れてラジャダムナン・スーパーウェルター級現役チャンピオンとして「KNOCK OUT興行」に出場することになりました。

10月9日、ラジャダムナンスタジアムで日本人初の防衛を果たしたT-98選手

取材戦記

追加カード発表会見ながら興味を引いたのは、ヒジ打ちに関する世間の意識と時代の流れでした。

昭和40年代にTBSで毎週月曜夜7時から放送されていたキックボクシングはヒジ打ちも頭突きも投げもありました。後楽園ホールでは、昔は後方の固定テレビカメラで南側と東側からだけの撮影で、ハンディカメラが使われるようになったのは昭和50年代に入ってからだったと思いますが、ヒジ打ちがあること自体、当時は放送が懸念される事案では無かったと思います。

現在のような解像力良く鮮明に映すカメラやハイビジョン大型画面とデジタル放送がある上、ラウンド外ではハンディカメラがリング内に入ってまで撮影し、ドクターチェックされる顔面アップまでカメラが追っていることもあり、ヒジ打ちで切れた顔面を捉える機会は多いに有り得ることで、「地上波に乗るのか」という心配が出るのも仕方ないかもしれません。

とはいえ、そこは放送の仕方、映像の捕え方で守れるように思います。ヒジ打ちが懸念材料になることに意外な印象を受けるのは年配者だけかもしれませんが、ヒジ打ちで眼球破裂という事態が起こりうる危険はあります。しかし、キックボクシングやムエタイは元から危険な競技で、ヒジ打ちは必要な技術であることは50年経っても変わらないと思います。キックとムエタイの技の多彩さと躍動感をテレビで伝えられたら喜ばしいことでしょう。

9月30日の記者会見第二弾は(株)ブシロードが入る住友中野坂上ビルの“2階”の予定が、前日に“6階”に変更発表されました。これは取材陣が増えて広いスペースに変更かと思いましたが、取材陣はいつもと変わらない格闘技専門サイト記者中心の10人未満のスペースでした。

マスコミの数というのも今後、どれほど一般誌やスポーツ新聞が関わってくるかも興味を引くところ。これから始まるKNOCK OUT、決して楽観的には見ていられない問題も起こるかもしれませんが、まずは第1回目の「KNOCK OUT」に期待したいと思います。

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

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