蹴りが速かった麗也、グッサコーンノーイの圧力に負けず

パンチ、ヒジ、蹴りの連打で心折った麗也の勝利

柴田春樹vsジェイ・ボイカ。ウェイト差、パンチ力、連打力が優ったジェイ・ボイカ、再戦に期待したい

間の取り方が上手かったブンピタック、石川直樹は学ぶこと多かった

かつては治政館ジムの若く将来有望だった志朗は、今やムエタイランカークラスにインパクトあるKO勝利を収めるメインイベンターに成長、今後、日本キック界のエース格を争わせるイベントに出場しても、人気と好ファイトを確信できる存在となりました。

ファイトマネー総取り額は150万円。決して高い額ではありませんがタイ側にとっては魅力的だったでしょう。

◎WINNERS 2017.1st
1月8日(日)後楽園ホール17:00~20:55
主催:治政館ジム / 認定:新日本キックボクシング協会
放送:テレビ埼玉. 1月28日(土)20:00~20:55

《主要4試合》

◆54.0kg契約 5回戦

麗也(元・日本フライ級C/治政館/54.0kg)
           VS
グッサコンノーイ・ラーチャノン(元ルンピニー系SF級2位/タイ/53.0kg)

勝者:麗也 / TKO 3R 1:35 / カウント中のレフェリーストップ
主審:椎名利一

実質大トリメインイベントを初めて務めた麗也はアグレッシブに攻めてくるグッサコンノーイに速いローキックと地道に当てるパンチで徐々にダメージを与え、打ち負けることなく倒して勝つ、そのメインの役目をしっかり果たしました。

◆ヘビー級3回戦

日本ヘビー級チャンピオン.柴田春樹(ビクトリー/93.0kg)
           VS
ジェイ・ボイカ(元・J-NETWORKヘビー級C/ブラジル)

勝者:ジェイ・ボイカ(=楠木ジャイロ)/ TKO 2R 1:40 / カウント中のレフェリーストップ主審:和田良覚

日系ブラジル人のジェイ・ボイカは分厚い上半身で一気にラッシュするパンチの圧力が凄い。柴田はローキックで勝機を掴むも、踏ん張るジェイ・ボイカのパンチで崩れ去りました。ジェイ・ボイカは弱点はありつつも日本の人材不足のヘビー級には必要な存在でしょう。

◆52.5kg契約3回戦

日本フライ級チャンピオン.石川直樹(治政館/52.5kg)
VS
ブンピタック・クラトムブアカーウ(タイ/52.0kg)

勝者:ブンピタック・クラトムブアカーウ
判定0-3 (27-29. 27-30. 27-30)

チャンピオンになって初戦の石川にムエタイ技が圧し掛かる。圧力に負けない積極性が増した石川でしたが、3ラウンドに左フックでダウンを奪われ、ヒジで額をカットされる大差判定負け。一瞬の隙を突いたムエタイ技に過去にない経験をした石川はこれからも続くムエタイ対策に磨きをかけなければいけません。

志朗のローキックでジワジワとパカイペットの戦力を弱めていった

パカイペットの強い蹴りに決して下がらなかった志朗の返しの蹴りに、パカイペットも焦りの表情に変わる

意識朦朧のままコーナーへ引っ張られリングを降りたパカイペット、蹴られた太股も志朗以上に傷が残る

◆ファイトマネー勝者総取りマッチ 56.0kg契約 5回戦

ISKAムエタイ世界バンタム級(-55kg)チャンピオン.志朗(治政館/55.7kg)
VS
ルンピニー系スーパーバンタム級6位.パカイペット・ニッティサムイ(タイ/55.7 kg)

勝者:志朗 / KO 5R 3:10 / テンカウント / 主審:少白竜

ファイトマネー総取りマッチはタイではよくある賭け試合です。パカイペットは総額30万バーツ(約95万円)を賭けた試合を行ない勝利したこともあるという意欲ある選手。1年前に日本バンタム級チャンピオン.瀧澤博人(ビクトリー)を左ミドルキックでTKOに追い込んだタイのランカーで、志朗にとって過去最強の相手とされていました。

骨の硬くて重くて速いパカイペットの左ミドルキックとローキックで志朗を攻める。志朗はブロックしてパンチやローキックを返す蹴りも負けていない志朗だが、骨同士が当たると素人目にはいかにも痛そうな蹴りは、貰い続けては動けなくなりそうな予感。

賞金が懸かると本気になるタイ選手らしく、中盤から組み合ってのヒザ蹴りも勢いが落ちないが、志朗もローキックを強く返し、パンチが何度もパカイペットの顔面を捉える。

キックボクシングとして、3ラウンドまでの公開採点によるポイントはパンチで優る志朗が僅差で上回るも、後半に勢いが増すパカイペットに微妙な判定か、または延長戦か、または暴動寸前の猛抗議か、そんな予想も見事に不要となったラストラウンド終了間際1、2秒前の志朗の隙を突いたパンチがアゴにヒットしグラつくと更に連打しパカイペットが崩れ落ちる。完全に効いた重いダメージでほぼテンカウントを聞いてもしばらく立ち上がれないパカイペットに完勝した志朗でした。

志朗はWINNERS,2nd.5月興行でISKAムエタイ世界バンタム級王座の防衛戦が予定され、志朗の後輩の麗也も後に続く成長を遂げ、今春、ベルギー遠征が予定されており、ISKAオリエンタルルールの世界ランキング査定試合が行なわれます。いずれもISKA路線ですが、タイで名の売れた二人はタイ二大殿堂スタジアムでの試合も増えるでしょう。

運命を分けたラストのほんの数秒の出来事、劇的勝利の瞬間

◆翔栄(元・日本ライト級C/治政館)引退セレモニー

翔栄は外傷性くも膜下血腫の為、引退することになりました。2011年に16歳でデビュー。元・日本フェザー級チャンピオン.雄大の弟としても、兄と比べられる現役生活でした。2014年5月に王座決定戦で、現チャンピオンの勝次(藤本)と対戦、判定勝利で王座に就いていますが、ここで身体の異変に気付きドクターストップが掛かると、これがラストファイトとなり、22歳での惜しまれる引退となりました。

以下、9試合は割愛します。

麗也と志朗。二人ともKO賞を獲り、志朗はベストファイト賞も獲ってのツーショット

《取材戦記》

私がタイにいた1988年頃のジムで、賞金総取りマッチがありました。ファイトマネーというより、陣営が出す金額そのまんま掛け金となったと思います。なので、「ハルキも賭けるか?」と言われましたが、その試合に出場するダウヨット・チャイバダンという選手の技量からいって勝つ気はしましたが、相手のことがわかりません。

我が陣営が言うには「ノム(ダウヨット)は負けないよ、大丈夫」と言われつつも弱気な私は賭けませんでした。ジム仲間の選手達は皆少ないながら持ち金を賭けていました。試合には勝って我が陣営は総取りに成功。1万バーツほど賭けていたジム仲間は、その後しばらく姿をくらました奴もいて、彼女と遊び歩いたのかもしれませんが、たかが2倍になるだけ。負ければ賭け金すべて失うのでリスクが高い遊びです。スタジアムに足を運ぶ群衆もこんなことが道楽で、山に囲まれた田舎でも夕暮れ時に村人が集まって、鶏の喧嘩に賭ける遊びがあったりしますから、人生ゲームを地でいく欠かすことのできないタイ人ならではの文化なのでしょう。

そもそも我々の人生の節目節目が賭けの連続で現在があり、例え負けても“生きているだけで丸儲け”なのかもしれません。

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

タブーなきスキャンダルマガジン『紙の爆弾』

『NO NUKES voice』第10号[特集]基地・原発・震災・闘いの現場