本稿は『季節』2023年夏号(2023年6月11日発売号)掲載の「原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

◆原発は電力の安定供給に役立たない

経産省は原子力基本法の改訂理由で、60年を超える運転に道を開く「原発利活用」について「安定供給」を理由に挙げている。

ウクライナ戦争と円安の影響で急激に値上がりした天然ガスなどの輸入エネルギー。電力改革に背を向けて自社の利益を最優先に違法カルテルを大規模に行い、競合他社の保有情報を盗み出すなどした大手電力会社の行為に加え、国の無策が招いた電力価格の高騰を奇貨として、国民のあいだに蔓延する「値上げへの嫌悪感」を利用しての原発利活用政策の導入は、盗人に追い銭の典型である。

電力安定供給についても、原発には重大な欠陥があることを無視している。地震や台風災害時に発生する大規模な停電は、原発の再稼働などではなく電力システムの改革によってしか解決できない。

現在の日本は大規模な発電所が中心のシステムで成り立っている。この電力供給体制こそ改革しなければならないのに、原発の稼働を増やせば安定供給になるとの発想そのものが、災害時の電力不足を深刻なものにする。

昨年6月や今年3月に起きた東電管内での「ひっ迫」は、電力需給がアンバランスになって起きる通常時の「ひっ迫」だが、これは電力系統の問題であって発電所の出力の問題ではない。原発を増やしたところで解決などしない。

電力会社は原発の再稼働を進めて原発依存度が高まると、火力を廃止する。以前は待機電力として稼働可能な状態で休止する場合が多かったが、「脱炭素」のかけ声のもとで次々に廃止している。

大手電力の経営状態も悪化しているので、なおさら原発を代替できる火力設備を持ちたがらない。その結果、100万キロワット級原発が止まれば即座に電力がひっ迫する危険性が高まる。それを回避するために送電網を整備して他電力からの送電を円滑に行おうと考えている。再生可能エネルギーの広域運用を送電網整備の理由に挙げているが、実態は原発の電力を大都市(特に東京)に持っていくのが目的だ。

◆事故を起こせば国を滅ぼす原発

原発が事故を起こせば広大な地域を汚染し、人々の生活や生業を破壊してしまう。チェルノブイリ事故37年、東電福島第一原発事故12年、いずれも収束にほど遠い現状だ。

東京地裁朝倉裁判長は東電株主代表訴訟において原発の事故は国を滅ぼすことにつながると指摘し、福井地裁樋口裁判長は高浜原発の差し止め判決で原発事故で失われた国土は「国富の喪失」と指摘した。

震災以前には日本では原子力防災が事実上存在すらしていなかった。1999年のJCO臨界被曝事故は、東海村の燃料加工工場JCOで「むき出しの原子炉」が出現し、65センチの遮蔽もない容器内でウランが臨界状態になって従業員2名が死亡する世界中でも例がない異常なものだった。

事故直後から中性子線や各種放射性物質が拡散していったが、収束作業の手段さえ見つからず、周囲350メートルに避難指示、周囲10キロ圏に屋内退避が発令された。立ち入り禁止措置も取られ、国道6号や常磐自動車道が閉鎖された。常磐線も止まった。あらかじめ計画されたものではなく、その場での判断の積み重ねだった。住民避難を指示した東海村の村上村長は孤独な決断を強いられた。日本の原子力災害史上初の避難指示も独自の判断だった。

当時の原子力安全委員会は「今回の事故においては国の初動対応が必ずしも十分でなかったため、結果的には非常に適切な措置であった避難要請は国や県の指導助言なしに東海村長の判断で行われた」(ウラン加工工場臨界事故調査委員会報告の概要1999年、原子力安全委員会)と、村上氏の判断の適切さと国の初動対応の不適切さを認めている。

しかしこの教訓は震災時も生かされなかったし、今に至るも本質は何も変わっていない。大規模な放射性物質拡散事故が起きた場合、収束に当たる人々、避難を誘導し先導する人々、刻々と変わる放射性物質の拡散経路を見極めて住民避難を計画する機関などは依然として地元自治体の業務であり、国は助言し支援する立場である。しかし自治体には余りに重すぎる任務だ。

過酷事故は国を滅ぼすほどの災害になるとの認識はない。むしろ、規制基準適合性審査を通っているから安全性は確保できるとする、昔ながらの安全神話をそのまま引きずっている。これに加えて老朽原発を60年以上動かすことができるとする改訂は、さらに悪化した安全神話の姿だ。(つづく)

◎原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点[全4回]
〈1〉福島の反省も教訓も存在しない
〈2〉原発は電力の安定供給に役立たない

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像 ―― 原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』(共著/木村朗、高橋博子編/明石書店 2015年)等多数。

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龍一郎揮毫

本稿は『季節』2023年夏号(2023年6月11日発売号)掲載の「原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

原発の60年超運転を可能にする束ね法案「GX(グリーン・トランスフォーメーション)脱炭素電源法案」が4月27日に衆議院本会議で可決された。

世界でも例のない60年を大きく超える運転を可能にし、新型炉の開発と原発へ国が投資を行うことを法律で裏付ける「原発推進法」。原発依存からの脱却どころか推進する政策へと大転換を強行するものだ。

改訂される主な法律は原子力基本法、電気事業法、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(炉規法)、原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施に関する法律(再処理法)、再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(再エネ特措法)だ。

さらに所得税法、地方税法、法人税法、消費税法などの法律も一部改訂される。

特に原子力基本法の目的は、「原発依存からの脱却」を永遠にできなくするための法的縛りを、事業者だけでなく国や地方を含む行政全体にも及ぼそうとするものだ。

なお「再処理法」の改訂理由は、原発を廃炉にするために必要な費用を積立金方式で拠出金する改訂(電気事業法)と、その拠出金の管理を使用済燃料再処理機構で行うことを規定するためのもの。この目的のため機構の名称を「使用済燃料再処理・廃炉推進機構」に変更する。

「再エネ特措法」の改訂は、送電線の整備計画を経済産業大臣が認定し、認定を受けた整備計画のうち工事に着手した段階から系統交付金を交付するもの。電力システム改革が一向に進まないことから、電力事業者任せにできないということで国が推進するとの仕組みだが、多くの電力を東京圏などの大消費地に集中するためのものだ。名目は再エネの利活用といいながら、実態は東電の原発の出力が再稼働をしても柏崎刈羽原発6、7号機だけで震災前より大幅に減ることから、他電力からの原発の電力を送るためのものだ。

特にリニア新幹線などのような大電力を使うシステムを動かすには、東西の連系が重要になる。北海道の原発が定格出力運転をしていると電力が余剰になるため東京など大都市に送電することも想定している。

これらを「束ね法案」の形式として一つの改訂法にまとめて国会に提出し成立を図った。

しかし原発の利活用、原発の安全規制、運転期間のさらなる延長、廃炉費用積み立て、送電網の整備の支援の多岐にわたる変更点をひとくくりにした束ね法として国会で議論をすることから、分かりにくく論点も深まらない。

政府の思惑通り、議論も深まらないうちに衆議院の委員会審議は25時間程度で終わり衆議院本会議でも可決された。

◆福島の反省も教訓も存在しない

東電福島第一原発事故は現在収束どころか、原子炉圧力容器の真下の土台部分でコンクリート材が消失していることが分かるなど、次々に新しい問題が見つかっている。人類が経験したことのない3基の原発の同時メルトダウンと、溶け落ちた核燃料、大量の放射性物質からの放射線が作業を困難なものにし、デブリから生ずる汚染水発生を12年経っても止めることさえできないでいる。

敷地内のタンクに溜まっている汚染水は、今年夏にも海洋放出される計画で、放出設備は7月末までに完成する予定だが、地元漁協はもちろん、全国漁業協同組合連合会も反対の姿勢を変えていない。(※東電は8月24日から海洋放出を開始)

住民の多くも反対の意思を表明し、運動も続いている。国と東電は「関係者の理解なしに、いかなる処分も行わない」と口ではいいながら夏にも放出開始を強行するつもりだ。

「帰還困難区域」と呼ばれる広大な土地は今も立ち入り制限されており、居住も生産の場にも使えない。チェルノブイリ原発事故から学ばなかった日本は、犠牲を被災者に押しつけたまま、新たな原発推進への道を突き進もうとしている。(つづく)

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像 ―― 原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』(共著/木村朗、高橋博子編/明石書店 2015年)等多数。

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龍一郎揮毫

本稿は2022年12月18日大阪市で行われた「チェルノブイリ・ヒバクシャ救援関西発足31周年の集い」の記念講演「福島第一原発事故から11年 今 伝えたいこと」の講演データです。一部再構成した上で、前編、後編の2回に分けて掲載します。

◆提訴の思い ── 国と東電に被曝と生活権破壊に対する責任を認める姿勢を質したい

 

以上(講演前編)のような状況から、私は国と東電が避難者に今後の被曝に対する不安を残し、安住生活を破壊してしまった責任をきちんと認める姿勢を質したい。

飯舘村民が、長期間の高放射線被爆により健康不安を引き起こした初期被曝に対する代償、そして飯舘村民を引裂き、暮らしに欠かすことのできない美しかった自然環境の破壊と安定した社会生活を形成してきたコミュニティの崩壊を引き起こし、飯舘村で安心・安全な、そして充実して暮らしてきた生活権の破壊に対する代償を求めて、2021年3月5日に訴訟を提起しました。

避難から11年を費やしてしまい、事故前のような飯舘村での暮らしはままならない状況を作り出した福島第一原発事故は、如何に住民にとって過酷な事故であったかを理解して欲しいと願うばかりです。

◆変わり果てた美しかった故郷 ── いかに日本国民は将来への負担を抱えたか

 

何十年、何百年という何代にもわたって培ってきた自分の生まれ育った飯舘村は変り果て、美しかった自然環境は崩れ、黄金色に輝いていた田面は、いたる所で真っ黒いソ-ラ-パネルに埋め尽くされています。

それでも、一方では村民の努力で水稲栽培が復活したところも有り、野菜や花卉の栽培も進められ、徐々にではあるが農業の再生が進められています。

事故を起こした福島第一原発は、事故収束と廃炉に向けた事故処理が行われていますが、そのためにはどれだけの無駄な歳費が支払われているかを考えるに、このことによっていかに日本国民は将来への負担を抱えたかである。

◆原発再稼働・新設を語る政治・経済界は、福島県の被災者の心を全然理解していない

このような危険極まりない原発を再稼働とか新設とかを語る政治・経済界は、福島県の被災者の心を全然理解していないことにつながり、底知れぬ恐ろしささえ覚える。

日本国憲法の下で、国民が安全安心して暮らせる国づくりを基本とすべきものを国民不在の知らされないところでの政治がなされてきていると感じている。

ましても、最近の政治家の不祥事にもあきれ果てる場面が多々見受けられるが、「ウソ・偽り」のないクリーンな社会を創造する義務を忘れ、自己本位で独裁的な方向に導こうとしているように思えてならない。

その現状を垣間見るようなメディアの報道は、いかがなものか。姿勢を正して真実をきちんと導き出し、国民に明らかにしていく真の精神が欠けていると感じている。

◆国は国民の利益増進し安定して暮らせる社会を築くべき ── 国民一人ひとりの行動が大切

国家は、国民の利益を増進させ、安定して暮らせる社会を築くべきで、その転機にある時期ととれる。

コロナ禍ではあるが、国民はもっともっと政治に関心を持ち、国民一人一人の意思が格差なく反映され、平和で民主的な日本国とするために行動することが何よりも大切なことと最近では特に思えてならない。

◆飯舘村の新たな施策に期待したい

飯舘村の再生は、一言では言い表すことができないほどに、場所も人の心も崩壊してしまっているのが現状です。

インフラの整備と外からの移住政策の推進に邁進する国家政策では村の再生はかなわないと思っているが、村長の交代による新たなる施策に期待したいと考えている。避難している以前の飯舘村民の生活再建施策が乏しい中でも、新村長の公約は「ふるさと再生」ととれる考えに期待をかけたいと思う。

生業の再生なくして帰村しての生活は成り立たないのですから、経済基盤の立てなおしに行政の力を発揮してほしいと祈願している。

 

◆私たちは、飯舘村の大地に根を張った飯舘村民

私たちは、飯舘村の大地に根を張った飯舘村民なのです。長年暮らしてきた飯舘村の光景は、毎日のように脳裏に映ります。そんなに簡単に消えることはないのです。それを長期的に放射能汚染されてしまった悔しさと怒りは計り知れません。

自然の魅力と恵みがあり、安心して暮らせる環境が整った飯舘村での生活再開を心待ちしているのが、避難している多くの飯舘村民の願いですから、国・県はその願望に寄り添った的確な対応をすべきと思う毎日です。

本日ご参加戴きました皆さん。

この地球に暮らすほとんどの人々は、とくどなく平和を望んでいます。

敗戦国である日本の平和のために、そして世界の平和を造るために、国民の責任だと偽ってまで、増税による軍備は本当に必要なのでしょうか?

世界でただ一つの被爆国である日本は、世界大戦の悲劇を全世界に発信する外交がなされ、世界に働きかけるべきなのに不思議でなりません。

どうか、このことを国政に反映する日を待ち望みたいと思います。本日は、ご静聴頂きまして誠にありがとうございました。(完)

◎菅野 哲《講演》福島第一原発事故 ── 今 伝えたいこと
〈前編〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=47836
〈後編〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=47855

▼菅野 哲(かんの ひろし)
1948年、戦後開拓入植者の長男として飯舘村で生まれる。福島県立相馬高校卒。家業の農業に従事後、飯舘村森林組合に就職。1969年、飯舘村役場に奉職。2009年、定年退職後、農業に復帰。2011年3月、原発事故により福島市に85歳の母と妻の家族3人で避難生活。2014年7月、長谷川健一団長と共に「原発被害糾弾 飯舘村民救済申立団」を立ち上げ、副団長として「申立の趣旨」文案にかかわり、組織化につとめる。2019年7月、「飯舘村民救済申立団」解散。現在は公益社団法人相馬広域シルバー人材センター理事長。報徳会相馬理事。主著に『〈全村避難〉を生きる:生存・生活権を破壊した福島第一原発「過酷」事故』(言叢社2020年)。

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2023年秋号

◎鹿砦社HP http://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000729

龍一郎揮毫

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本稿は2022年12月18日大阪市で行われた「チェルノブイリ・ヒバクシャ救援関西発足31周年の集い」の記念講演「福島第一原発事故から11年 今 伝えたいこと」の講演データです。一部再構成した上で、前編、後編の2回に分けて掲載します。

 

◆はじめに

2011年3月11日の東日本大震災と福島第一原発事故から早くも11年の月日が過ぎ(講演当時)、福島市で妻と二人の避難生活です。当時62歳の私も74歳を迎えました。この11年という時間は、私の人生ではどう捉えたら良いのか思いもつきません。あまりにも人生を考える上で想像を超えるものがあり、予期せぬ人生の一コマですから、これまでの人生の7分の1を費やしてしまったことになります。

(2011年当時は)人生の区切りの60歳を迎え、シニアライフプランをもって農業に復帰し、時代に即応した新しい農家経営の改善に取り組んだばかりでした。何代にもわたって村民の手で培ってきた平和な美しい飯舘村は放射能汚染によって避難・追放となり、コミュニティは崩壊しました。村民は引裂かれ、暮らしの根底を崩壊され、恒常的に安定して暮らす生活権を喪失したのです。

◆事実上の強制避難、高かった初期被曝

 

事故後、計画的避難とはいえ事実は強制避難だった。人生をかけて作り上げてきたものが全て壊され、一からのやり直しを強いられました。

飯舘村民の避難は、避難指示が事故から一か月以上も遅れたことで、避難先が見つからずに長く高放射線量下の村内に居住していて確実に高い放射線被曝を被ったはずです。

しかし、避難に当たっては、スクリ-ニングもなされず、線量検査もされなかったのは何故なのか。国・県の災害対応のマニュアルには記されていたはずです。

11年を経過した今では計測も出来ないし、行動記録も曖昧になってきているから判定は難しいと言うことになるのでは納得がいきません。しっかりした回答が欲しい。

◆何百年も続く汚染と住民の苦悩~原発事故の現実を伝えるべき

飯舘村では村の80%の除染ができておらず、山も川も放射能汚染はそのままで、野山の恵みである山菜もキノコも後何百年と食べることも出来ないという。まだまだ住民は苦悩しながら生きていかなくてはならない。

必ず原発事故が起こればこうなるのだという、この現実を日本国民は知り、後々の代まで伝えるべきです。

今の飯舘村は、8割近くの人が避難先で暮らしているのは何故か。生業の目途が立たないばかりではなく、事故前のような暮らしが出来ないからです。国・県による外からの移住政策ばかりがアピ-ルされていて、既存の住民の生活再建施策が乏しいからであると感じています。

◆「風評」はまやかし、「放射能汚染は健康に影響せず安全」とどうして言えるのか

「風評」という言語は、政治・行政が作り上げた戯言で、多額の公費を費やして如何にも安全だとアピ-ルし、国民を安心させ黙らせようとするまやかしの手法、全く本末転倒です。被災地では放射能による長期的汚染の被害が実在しているのですから。

 

ましてや国も東電も事故の責任を取る姿勢もないし、原陪審のいう慰謝料等の賠償金を支払うことで済まそうとしているように取れる。

たばこの煙が健康に影響するとして行政罰が科されるのに、なぜ放射能汚染は健康に影響しない安全な物と言えるのか、私たち被災者には到底理解できない。

いくつかの裁判の例を見るに、司法の場でも明らかにされないのかと思うときに、このままいくと私たちは棄民にされるのではと危惧しています。(つづく)

▼菅野 哲(かんの ひろし)
1948年、戦後開拓入植者の長男として飯舘村で生まれる。福島県立相馬高校卒。家業の農業に従事後、飯舘村森林組合に就職。1969年、飯舘村役場に奉職。2009年、定年退職後、農業に復帰。2011年3月、原発事故により福島市に85歳の母と妻の家族3人で避難生活。2014年7月、長谷川健一団長と共に「原発被害糾弾 飯舘村民救済申立団」を立ち上げ、副団長として「申立の趣旨」文案にかかわり、組織化につとめる。2019年7月、「飯舘村民救済申立団」解散。現在は公益社団法人相馬広域シルバー人材センター理事長。報徳会相馬理事。主著に『〈全村避難〉を生きる:生存・生活権を破壊した福島第一原発「過酷」事故』(言叢社2020年)。

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龍一郎揮毫

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広島市は9月21日、開会中の広島市議会・9月定例会の一般質問に答える形で「米国政府の原爆投下責任を棚上げする」ことを表明しました。

広島市の松井市長は、G7広島サミット終了後間もない2023年6月29日、議会にかけることもなく、米国政府(ジョー・バイデン大統領、エマニュエル駐日大使)との間で平和記念公園とパールハーバーの姉妹協定を締結してしまいました。このことへの中村孝江議員(安佐南区・日本共産党)による疑問に担当局長が答えたものです。

「原爆投下に関わる米国の責任の議論を現時点で棚上げし、まずは核兵器の使用を二度と繰り返してはならないという市民社会の機運醸成を図っていくために締結した」というのが市の答弁の要旨です。

◆「核使用を繰り返してはならない」どころか「核兵器禁止」が市民社会の趨勢!

「市民社会の機運醸成を図っていく」というのがいかにももっともらしい答弁です。しかし、そもそも、世界の市民社会の大勢は、核兵器の使用を繰り返さないどころか、核兵器の禁止こそ人類が進むべき唯一の道であるという認識の核兵器禁止条約(2017年7月7日採択、2021年1月22日発効)に賛同しているのです。NGOが働きかけてできた条約と言っても過言ではないし、日本など核の傘にある国の多くの市民、自治体なども同条約に賛成しています。そのことを背景に、92か国が同条約に既に署名し、68か国が批准しています。

また、先方の地元自治体のホノルル市は、平和首長会議に参加しています。平和都市首長会議は核兵器禁止条約の推進を求める署名活動を実施しています。 

「まずは核兵器の使用を二度と繰り返してはならないという市民社会の機運醸成を図っていくために締結した」とは何を寝ぼけたことを広島市は言っているのでしょうか?

問題なのは自治体を含む市民社会ではなく、核兵器を使ったことへの反省のない米国政府であり、また核兵器による威嚇を放棄しない米国以外も含む核保有国の為政者です。そして、その反省のない米国政府と姉妹協定を広島市が締結してしまったことが問題なのです。

◆G7広島サミット契機にアメリカ忖度進む

しかし、広島市は決して寝ぼけているわけではないでしょう。むしろ、世界の趨勢は認識しつつも、G7を契機にアメリカのバイデン大統領に忖度していると言わざるを得ません。

まず、広島市では「はだしのゲン」が小学校の教材から、また、第五福竜丸/ビキニ水爆実験が中学校の教材から削除されました。これらについては、通常あるべき市教委内部での議論がすっ飛ばされていることが明らかになっています。はだしのゲンの削除については、一定程度マスコミも批判をしています。しかし、第五福竜丸/ビキニ水爆実験の削除も同様に大問題です。第五福竜丸に触れないで反核・平和について学ぼうとするということは、例えば、徳川家康と彼がやったことを知らないで、江戸時代の歴史を学ぼうとするような間が抜けた話です。また、高校の教材でも、日米の和解を重視するような内容に改変されました。全体としてアメリカに忖度したものと言わざるを得ない。

この問題については様々な論客が様々な検証をしていますが、正直、そんなに難しい話ではないと思います。大筋としては「G7で広島にお見えになるバイデン大統領のお目を汚すようなものは、なくしておこう」という忖度ではないでしょうか?そうでないと、様々な内部での議論をすっ飛ばしての教材の改変ということはあり得ません。

その延長に、「ロシアの核威嚇は怪しからんけど、アメリカなど西側は核を防衛のために持って良いですよ。」という趣旨のG7広島サミットでの「広島ビジョン」があるのではないでしょうか?

さらに、その延長線上に、6月29日の松井市長とエマニュエル駐日米国大使による平和記念公園=広島市とパールハーバー=米国政府の姉妹協定があるわけです。

世界で最初の核兵器使用である米国政府による原爆投下は免責しておかないと、広島ビジョンも正当化できない。そう、岸田総理ら日本政府は考えているでしょう。そして、今までは建前は核兵器を絶対に許さない、という姿勢だった広島市にも日本政府の言うことを聞かせる必要があったわけです。

◆広島市による「米国責任」棚上げで露中朝印パなども図に乗る

だが、世界最初の核兵器の被害者・広島市が米国政府による原爆投下責任を棚上げしてしまったら、ロシアや中国、朝鮮、インド、パキスタン、イスラエルの核軍拡や核使用へのハードルが下がることになるのではないでしょうか?

「実際に使用したアメリカでさえ棚上げしてもらっている。俺たちが威嚇するくらい、何が悪い」とプーチン大統領や習近平国家主席や金正恩総書記やモディ首相やネタニヤフ首相が開き直ったら、広島市はどう責任を取れるのでしょうか?

日清戦争から広島は大日本帝国陸軍の軍都として侵略の拠点となりました。しかし、原爆投下による惨禍、そして日本国憲法の制定、平和記念都市建設法制定のための住民投票を経て、広島は平和都市・ヒロシマとなったはずだった。アジアへの加害責任の反省は不十分で栗原貞子らに批判はされたし、原発製造企業などに支えられた発展であったのも間違いない。それでも、平和都市であったのは間違いない。しかし、G7広島サミットを経て、アメリカの核戦略にお墨付きを与えるHIROSIMAに成り下がろうとしています。さらには、そのことで、他の核保有国や核を保有しようとする国の為政者も図に乗らせかねない有様です。

◆元をたどれば姉妹協定、そしてG7サミットがまずかった

やはり、広島市と米国政府が直接組む平和記念公園とパールハーバーの「姉妹協定」はまずかったと言わざるを得ません(写真、広島市と米国政府の姉妹協定を批判する筆者発行の「広島瀬戸内新聞7月号」)。そして、元をたどれば、5月のG7広島サミットを契機に、こういうことになってしまったのです。

岸田総理はある意味、安倍晋三さん以上に名誉白人志向ともいえます。安倍晋三さんは、政治的には権威主義的なイメージが強い反面、例えばイランや中国などとの関係も意外と重視していました。しかし、岸田総理は、リベラルなイメージとは裏腹に、いわば旧白人帝国主義国家におだてられていい気になっているだけではないか?

もっと踏み込んでいえば、民主主義の名のもとに、日本に核兵器を使ったアメリカに、安倍さん以上にべったりではないのか?

そう思えば、G7広島サミットの結末は見えていたと言わざるを得ません。

 

◆サミットに評価・期待してしまった自民から共産 問われる既成政党の政治センス 
 軍都・廣島から平和都市・ヒロシマへ。そしてサミットを経て、米国忖度のHIROSHIMAへ!

所詮は旧白人帝国主義国家(1945年当時、まだ事実上英国植民地だったカナダは別として)の集まりに過ぎないのがG7ではないでしょうか?それを開いてしまった時点で、広島の歴史的な誤りは決定づけられました。

2023年4月執行の広島県議選では、自民から共産に至る、全ての既成政党の県議が、マスコミや市民団体のアンケートに対して「サミット(開催・誘致)」を「評価・期待」すると言う趣旨の回答をしてしまいました。そして、筆者・さとうしゅういちのみが、あの選挙の候補者では、ほぼ唯一、はっきりとサミット誘致を評価せず、期待せず、のスタンスを掲げていました(写真、「広島瀬戸内新聞」6月号)。(なお、今回の質問をされた日本共産党の中村市議は、サミットに対しては「政治ショーに過ぎない」などと批判的なスタンスの回答をされていました。党内でも見解が分かれているところです。)

 

共産党県議はさすがに広島ビジョン発表の後は、批判に転じましたが、立憲民主党に至っては泉さんが原水爆禁止世界大会へのメッセージでも広島ビジョンを賛美する有様です。広島サミットを評価・期待してしまった、自民から共産に至るすべての既成政党系県議におかれては猛省を求めます。

その上で、きちんとアメリカ政府には謝罪すべきは謝罪していただくよう動くべきです。

今回、広島市の松井市長ご自身ではなく、局長に答弁させたところに、市長の姑息さを感じます。おそらくは、自身が前面に出ずに、部下に答弁をさせるという、「観測気球」的な部分もあるのでしょう。いまこそ、きちんと声を上げて、松井市長に軌道修正を迫りたいものです。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年10月号

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2023年秋号

◆「次世代革新軽水炉」と称する原発の正体

「今後、地域理解や安全向上に係る取組、次世代革新炉の開発・建設の進展や、国際的な基準の確立、安定供給に係る社会的な情勢の変化等を継続的に確認しつつ、制度に係る予見性確保等の観点から客観的な政策評価を行うこととする。また、仕組みの整備から1定の期間を経た後、必要に応じた見直しを行うことを明確化する」と書かれている。

これは震災後に比較的早期に再稼働をしている原発もあることから、停止期間を加えても採算性が悪い、特に関電と原電の原発を念頭に置いたものであろう。

さらなる運転期間の延長を目論むこと、そして延長しても2050年頃には期限が切れる日本原電東海第2と敦賀2号機への対応で加圧水型軽水炉を2基、敦賀原発3・4号機として敦賀市に建設することを想定しているものと思われる。

震災前から計画中の敦賀原発3・4号機は、ウェスティングハウス社製のAP1000型で計画されており、この建設を推進すると思われる。

このタイプを「次世代革新軽水炉」と呼ぶのだが、すでにフランスのアレバ社が欧州加圧水炉(EPR)として世界で6基建設を進め、そのうち中国で建設された2基が運転を開始している。しかし残りの4基はいずれも建設期間が大幅に延び、中には訴訟も絡んで、極めて高価な原発だ。

そのうちフィンランドのオルキルオト3号機は2005年に建設が開始されたものの、現在も建設は終わらず、総額1兆4千億円もの費用がかかり、2022年12月217日に営業運転を予定していたが3台すべての2次系給水ポンプの羽根車に亀裂が生じる欠陥も生じ、運転開始時期も見通せない。

フランスのフラマンビル3号機も2012年運転開始予定が2022年を過ぎても稼働できず、2024年にまで延びるという。そのため建設費の総額は1兆8千億円を超える。

イギリスのヒンクリーポイントCは、2基を計画しているが合計で約4兆~4兆1700億円に達するという。運転開始時期も1基は2027年頃を想定しているもののさらに大幅に遅れるという。

すでに稼働している中国の台山1・2号機は、運転直後に1号機の燃料損傷が見つかった。しかし中国はすぐに原発を止めず、運転を継続しようとしたためEPRを建設したフランス・フラマトム社が中国の頭越しに燃料損傷が起きていることを米国のメディアにリークした。批判が高まったこともあり、中国は運転を止めて損傷燃料を交換した。EPRは日本の定義では次世代革新炉だ。しかし余りに費用がかかり、建設期間も長期化している。

◆原発の利用政策拡大はさらなる原子力災害を生み出す

政府は原発に加え、再処理工場を含む核燃料政策を推進するという。これでは第2、第3の原子力災害のリスクが増えるだけだ。

原発の利活用推進と同時に、核燃料サイクル政策の推進も資源エネルギー庁の「原子力利用に関する基本的考え方」で1章を割り当てる課題だ。核燃料サイクル事業は国の政策であり電力会社が勝手に行っているものではない。

中心のプルトニウム・ウラン混合燃料(MOX燃料)の価格は輸入ものでもウラン燃料の10倍、六ヶ所再処理工場を稼働させてMOX燃料加工工場で生産すれば30倍に達するとの試算もある。しかも燃料の燃焼性能はウラン燃料の75%ほどしかなく、合わせて燃料としての価値はウラン燃料の40分の1ほどだ。

この計算を炉心全部でMOX燃料を燃やすとする電源開発大間原発(青森県大間町で建設中)に当てはめると、MOX燃料を国内で製造するとした場合、一炉心の燃料体価格はウラン燃料の500億円程度に対して1兆5000億円にもなる。しかも性能は通常の燃料より短いので、3年しか燃やせない。

言い換えれば、毎年5000億円規模の燃料費がかかる。原発が1基建設できるほどの値段だ。ウラン燃料価格の30倍ではきかないとしたら、さらに金額は上振れし、到底競争力がない発電システムになってしまう。

プルサーマル計画は当初、 「高速炉燃料サイクルへの繋ぎ」としてしか存在しなかった。しかし高速炉計画が消滅したためプルトニウムを燃やせるのは原発しかなくなり、この計画が主になった。

その時点でドイツなどのように、核燃料政策の見直しと再処理事業の中止が最も合理的な判断だった。

MOX燃料の炉心安定性はウラン燃料よりも悪いこともあり、性能も悪くリスクも高い計画をプルトニウム利用政策と核燃料サイクル政策と称して推進することに今も合理性はない。

さらに日本は公約として使うあてのないプルトニウムを持たないとしている。原子力委員会によれば、分離したプルトニウムは47トンを上限として、これ以上保有しない。毎年プルサーマル計画により原発で燃やすプルトニウムは2トン弱にすぎないから、20年以上もプルトニウムを取り出す必要はない。

六ヶ所再処理工場の建設を取りやめ、現在存在する使用済燃料をできるだけ安全な方式、敷地内乾式貯蔵に移行することをまず進めるべきである。(完)

本稿は『季節』2023年春号(2023年3月11日発売号)掲載の「『原発政策大転換』の本命 60年超えの運転延長は認められない」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

◎山崎久隆「原発政策大転換」の本命 60年超えの運転延長は認められない
〈1〉唐突に原発推進が目玉政策に
〈2〉原発の運転延長の狙うものはなにか
〈3〉規制委も「規制の虜」に
〈4〉原発の利用政策拡大はさらなる原子力災害を生み出す

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像 ── 原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』(共著/木村朗、高橋博子編/明石書店 2015年)等多数。

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2023年9月11日は、アメリカでの同時多発テロ事件から22年。このテロを悪用してアメリカはアフガニスタン、ついでイラクを攻撃。アメリカこそ、核兵器は使わなかったものの、劣化ウラン弾やバンカーバスターなどを使用し、多くの罪のない市民も殺戮しました。そして、もうひとつ、忘れてはいけないのが50年前の1973年9月11日にチリで行ったアメリカ自身による「911テロ」です。

アメリカCIAの手先であったアウグスト・ピノチェト元被告人は、民主的に選ばれたチリのアジェンデ政権を打倒し、多数のアジェンデ支持派を虐殺しました。他方で、日本で言えば竹中平蔵さんや広島県の湯崎英彦知事・平川理恵教育長が進めているような「新自由主義」政治を世界に先駆けて1970年代から実践しました。銅山を除く多くの公営事業を民営化。一時的には「チリの奇跡」と言われたのですが、実際にはGDP成長率の平均値3.7%は、クーデター以前の平均値3.86%を下回ってしまいました。格差も拡大し、今は左派政権が後始末に追われています。

二つのテロの記念日に、筆者は、湯崎英彦知事の新自由主義と岸田総理の原発推進に抗議する行動を行いました。

◆社民党市議とコラボで暴走・湯崎英彦知事を批判

 

県立広島病院

この日の朝は、広島市南区の県立広島病院=県病院周辺で、湯崎県政を批判するチラシを配布。そうこうするうちに、社民党の有田優子市議が、定例の朝の街宣を電停前の空間で行うために見えられました。

有田市議は2023年4月の統一地方選挙の市議選で南区から立候補。湯崎英彦知事が強引に推進する県病院やJR病院、中電病院、舟入病院小児救急などを統合する新病院構想を厳しく批判し、社民党の基礎票を大きく上回る得票で当選されました。

9月8日(金)に湯崎知事が病院の基本構想を発表してから最初の週明けです。1300-1400億円かかかるというこの構想。先端医療や過疎地で働く医師の育成など、夢のような機能を持たせるという。

しかし、本当に湯崎知事が言う通り、新病院に過疎地で働くような若い医師が来るのでしょうか? 広島駅近くという都会を好むタイプの方が過疎地で働くというイメージはない。また、新病院は公立ではなく独法です。先端医療と言っても待遇が不安定化する中で腕の良い医師が来るのかどうか? また、築10年もたっていないJR病院を駐車場に変えるのももったいない。疑問は尽きません。

 

社民党の有田優子市議と筆者

有田市議は出勤途中の病院の医療労働者などに対して、「県病院の統廃合計画。意見を聞いた上で計画をつくるべき。今回も湯崎英彦知事が勝手に発表しているだけで何も本当は決まっていない。あきらめてはいけない。」と訴えました。

マイクを渡された筆者はこの日が、チリで起きた911クーデターから50年だと紹介。ピノチェトの新自由主義独裁政治の概要を説明した上で、

「知事の湯崎さんは、ピノチェトのような虐殺はしていないが、県民の言うことを全く聞かないという意味ではピノチェトとそっくりだ。その上で、ピノチェトが国民向けサービスをカットしたように、湯崎知事も農業ジーンバンクや県立高校をろくに住民の声も聴かずに潰した。ピノチェト同様、削ってはいけないコストを削り、ホーユーのような業者に給食を委託して大騒動になっている。」

「三原の産業廃棄物の問題でもすでに汚染水が出ているのに裁判所の判決や住民の声を無視し動かない。企業ベッタリだ。この地域では県病院の問題でも声を聴かずに暴走し、大変なことになりかねない。」

「わたしは東区民で県病院を潰してできる新病院は近いけど、歓迎はできない。東区は渋滞が常にひどく、救急車をさばききれるか不安だ。」

と湯崎知事の新自由主義政策を激しく批判し、定例県議会を前に湯崎知事へのチェックをするよう県民に呼びかけました。

◆伊方原発のある佐田岬半島の岩盤はひび割れだらけ

筆者はこの後、自転車で中区の広島地裁に移動し、伊方原発広島裁判の口頭弁論に原告として参加しました。

この日は構造地質学、岩石学、岩石年代学者の早坂康隆さんが原告側証人として証言しました。伊方原発のすぐ北側600mの海底にある中央構造線は危険な活断層であること。そして、伊方原発のある佐田岬半島は、岩盤がひび割れだらけの「ダメージゾーン」だと早坂さんは証言しました。四国電力は、「地震を起こすのは伊方原発8km北方の活断層」「伊方原発は岩盤の上にあるから安全だ」と主張してきたのですが、それを覆すものです。

要は、中央構造線自体が、1億年程度活動している日本を大きく分ける壮大なプレートの境界で、いわゆる中央構造線から南側の外帯はかなり南の海上に浮かんでいたそうです。そして、現在では中央構造線を境に伊予灘は沈降するハーフグラーベン構造をしているのですが、中央構造線の南側もそうした地殻変動の力を受けて岩盤が傷んでいるのです。

大浜寿美裁判長は、早坂さんや、早坂さんに質問した原告・被告双方の弁護士に対して細かく発言内容について確認をされていたのが印象的でした。

 

伊方原発広島裁判口頭弁論後の報告会

また、裁判終了後、弁護士会館で早坂さんが出席しての報告会がありました。早坂さんは40年前から伊方原発に関心を持って、伊方原発近くの中央構造線について研究をされておられます。山口地裁岩国支部での裁判にも証人として出廷経験があります。

広島大学で早坂さんは、50年前に提起された伊方原発1号機の許可取り消しを住民が求めた裁判で、裁判所命令での鑑定である越生鑑定書(裁判長交代でなかったことに)を補佐した小島先生の「三波川帯」についての最終講義に感銘を受けられたそうです。越生鑑定書はこんな岩盤がひび割れだらけの場所に伊方原発許可した国に怒りを向けていたそうです。つまり、40年以上前にすでに今回の早坂さんの法廷での証言と同趣旨のものが、裁判所に提出されていたのです。

早坂さんはその後、大学―大学院と古い時代の石の研究に熱中されたそうです。安佐北区では姶良カルデラの火山灰を発見したそうです。花粉分析で天気や季節も分かったそうです。細かいことがわかるのがこの分野の研究の面白さということです。「裁判を闘っている人には失礼だが楽しんで研究」されているそうです。

次回は10月4日(水) 13時半から原告本人尋問です。

 

9月5日から閉鎖中の裁判所の食堂

◆裁判所の食堂も「ホーユー」でした

この日は、裁判所の食堂で昼食にしようと思ったのですが、写真の通り、9月5日から閉鎖中でした。

経営破綻したホーユーがこの裁判所の食堂も運営していたためです。労働者にろくに連絡していないこの会社は大問題です。ですが、他方で、経営が成り立つはずもない価格で県は県内の多くの高校の食堂や議会の食堂を委託していたのです。一定の価格を下回っても失格にするような制度にしていなかった。そんなネオリベ県政に改めて怒りを覚えました。

◆昼休み時間帯に岸田総理の事務所に申し入れ

裁判が昼休みの時間帯、筆者は友人二人とともに、岸田文雄衆院議員事務所に「フクシマ処理汚染水の海洋放出の中止および上関中間貯蔵施設建設を含む原子力政策の抜本的転換を求める要望書」を提出しました。女性スタッフが一人で事務所番をされていたので、あまり突っ込んだやり取りにはなりませんでした。それでも、この日は福山市で市民運動の仲間が処理汚染水放出反対の街宣を実施。また、「韓日市民行進」の皆様が国会前に到着し、請願行動をされました。9月11日という同じ日に、東京と広島、同時多発で総理の核政策に抗議の声を上げることができました。

 2023年9月11日 

衆議院議員 岸田文雄様

衆議院広島県第1区 有権者有志
連絡先 佐藤 周一 
hiroseto2004@yahoo.co.jp
090-3171-4437

フクシマ処理汚染水の海洋放出の中止および
上関中間貯蔵施設建設を含む原子力政策の抜本的転換を求める要望書

内閣総理大臣としての貴職と東京電力は2023年8月24日から東電福島第一原発におけるALPS処理水(処理汚染水)の放出を開始しました。貴職はご自身の政治活動用ポスターで「地域の声で新たな日本へ」で選挙区である広島1区の有権者に呼びかけられています。

しかしながら、福島の漁業者の皆様も納得していない中で福島原発からの処理汚染水を放出した結果、9月8日には差止め裁判が起こされています。「地域の声」を活かすというなら、処理汚染水の海洋放出は中止してください。

そもそも、核燃料に直接触れた水を放出しているのは世界広し、といえども日本だけです。トリチウムだけでなく半減期が100年にも及ぶような他の核種もあり、「ただちには影響」がないにせよ、処理汚染水の放出が長期に渡れば食物連鎖による濃縮は十分に考えられます。

そして、今回の放出には中国だけでなく、マーシャル諸島など過去に大国の核実験で被害を受けた太平洋の島国の議会からも反対の声が上がっています。被爆地、それも爆心地である広島1区を選挙区とする総理が核実験による被爆経験がある国の意見を無下にして良いのでしょうか?

処理汚染水については、モルタル固化や本格的な大型タンクでの保管などの手段を議論しなおしてください。

また、廃炉の在り方も現行のデブリを取り出す方針の是非も含めて議論しなおしてください。

なお、一部中国人によるとみられる過剰な抗議活動は問題ですが、過剰反応しても問題解決にはなりません。威力業務妨害罪などで捜査すべきは捜査するとして、日本は自分自身の課題解決を冷静に考えていくべきです。

また、上関町では、中国電力と関西電力が共同で核のゴミの中間貯蔵施設の調査を8月2日に表明し、上関町長は議会の議決もなしに調査を受け入れました。しかし、周辺自治体の首長からは懸念の声が上がっています。現在、核のゴミの最終処理のやり方も決まっておらず、中間貯蔵は最終貯蔵になりかねません。また、輸送にともなう事故のリスクは上関町だけにとどまらず広島県内も含む周辺自治体に及びます。核物質を拡散することがそもそもリスクです。

そもそも、貴職が制定した自称・GX法により、関西電力が高浜原発など老朽原発を再稼働したことにより、核のゴミが増える見通しとなったことが、自称・中間貯蔵施設計画の背景にあります。そもそも、原発も温排水などの問題があり、本当のGXにはなりません。

貴職におかれては自称・GX法を撤回するとともに、再生可能エネルギー、スマートグリッド、蓄電池など、真のGXへ方向をすべきです。

また、国が国策として原発を推進してきた以上、問題解決を小さな自治体と電力会社に任せずに、国が責任を持つべきです。

よって、以下、要望します。

要望事項

1、東京電力福島第一原発の処理汚染水の海洋放出を中止してください。
2、汚染水を発生させてしまう現状の廃炉方針を根本から見直してください。見直しの期間に発生する汚染水については大型タンクなどで保管し、放出を避けてください。
3、海や魚の放射性物質による汚染状況については、長期にわたりお手盛りでない方法で調査し、公表してください。
4、中国の禁輸に伴う十分な補償を福島だけなく北海道など全国の漁業者に行ってください。
5、核のゴミを増やす自称「GX法」による原発推進政策を撤回してください。
原発は推進した国が責任をもって廃炉し、再生可能エネルギー、蓄電池、スマートグリッドに国として重点を置いてください。
6、広島から82kmしかない上関町への関西電力・中国電力による核のゴミの「中間貯蔵施設」については、上関町だけでなく、影響を受ける地域の住民・首長の声を聴いて対応してください。
7、一部中国人による過剰な抗議活動によるとみられる過剰反応せず、日本自身の課題解決を優先してください。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年10月号

世界の原発は、スイスのベツナウ原発が53年運転しているなど、長期間運転は普通だといった認識が原子力関係者にはあるらしい。確かに米国には原子力規制委員会が最長80年まで運転できる許可を出している原発がある。

しかし実際に60年以上も運転している原発は存在しない。80年の許可を得ているのに経済性がないなどで早期廃炉になった原発もある。

日本の原発は、当初は輸入品だった。米国から「ターンキー方式」で導入された原発が福島第一原発であり、1号機から3号機まで連続してメルトダウンを起こしたのは偶然ではない。

加えて、今から40年以上も前に建設された原発は、今では使用できない可燃性のケーブルが使われていたり、地震想定などが極めて甘かったり、圧力容器や格納容器やコンクリート材の材質が悪いなど、安全性に重大な問題がある原発ばかりである。

これをさらに長期運転するとしたら、安全性はどうやって確保するのか。その責任を負うのが規制委だ。しかし、原子炉等規制法に定める運転期間を超える運転を経産省が許可しても、規制委が厳しく審査するというのだが、信じることはできない。

新たな規制方針は30年目に高経年化評価を行い、その後は10年ごとに稼働できるかどうか審査するとしている。しかしこの方法は震災以前に行っていた高経年化評価と同様のサイクルである。内容はいまだ分からないが、今の20年延長運転許可でさえ、可燃性ケーブルのままだったり地震・津波・火山対策の評価が甘いなどの問題がある。これが抜本的に変わるなどは、今の規制委の姿勢では考えられない。

一方、運転期間の延長に際し、諸外国では運転期間の制限を設けていないと主張する人には、では日本ほど地震や津波の脅威がある原発が世界にどれだけあるのかと問いたい。また、日本の原発はすべて海に面して建てられており、海沿いの原発では常に塩分の影響を強く受けているので、劣化も早い。一度海水が炉心まで浸入すれば使用不能になる。

日本以外でも海岸立地の原発はあるが、加えて地震の影響を受けている原発はほとんどない(台湾くらい)。

原発から30キロ圏内に90万人を超える人々が住んでいる原発もない。さらに日本海側の場合、豪雪の影響も受ける。これは避難路を断ち、外部電源系統を遮断し、救援も阻むリスクがあるが、これらがすべて重なっている原発は日本以外には存在しないのである。

このような現状に対し、規制委は60年超の規制緩和について予め反対しないことを決めていた。

原子炉等規制法には明確に40年+20年を原則として明記されているにもかかわらず、それを超える期間運転することを認める経産省の方針を、利活用を決めるのは規制委ではなく経産省であるとして、規制委は関与しないとしているのだ。

安全神話により原発震災を引き起こしたことを反省して運転期間を最長でも60年に制限することで老朽原発の持つリスクを減らそうとしたにもかかわらず、これが規制ではなく利活用方針の変更であると勝手に決めて更なる延長を認めること自体が規制側の責任放棄だ。

現在でも規制委が「規制の虜[注]」(国会事故調委)となり、機能不全に陥っているのに、さらに運転期間を延長することを認めてしまうのだから、その姿勢は厳しく批判されなければならない。(つづく)

[注]「規制の虜」とは、規制当局の側よりも規制される側が専門知識や情報を有していることで、規制側が事業者の言いなりになり、規制そのものが機能しなくなることを指す。それを排するためには、規制側にも高い知識と能力が求められるが、20年運転延長問題の時にも審査書及びそれに至る審査会合で事業者の主張がまかり通るケースをしばしば見てきた。

本稿は『季節』2023年春号(2023年3月11日発売号)掲載の「『原発政策大転換』の本命 60年超えの運転延長は認められない」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

◎山崎久隆「原発政策大転換」の本命 60年超えの運転延長は認められない
〈1〉唐突に原発推進が目玉政策に
〈2〉原発の運転延長の狙うものはなにか
〈3〉規制委も「規制の虜」に

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像 ── 原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』(共著/木村朗、高橋博子編/明石書店 2015年)等多数。

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目玉政策の「原発の運転延長」とは、どのような仕掛けだろうか。それは2022年12月23日付けの原子力関係閣僚会議作成「今後の原子力政策の方向性と行動指針」に記載されている内容で分かる。

まず、「運転期間の延長など既設原発の最大限活用」として、以下の項目が設定されている。

「運転期間の取扱いに関する仕組みの整備」 「立地地域等における不安の声や、東電福島第一原発事故を踏まえて導入された現行制度との連続性、技術的な新陳代謝の確保等にも配慮して、現段階における仕組みとしては、引き続き運転期間に上限を設けることとする」とし40年規制が生きているかの印象を与えている。

これは、原子炉等規制法改正時に20年の延長申請ができる規定を設けた際に、例外的として延長を認めながら、美浜3、高浜1・2、東海第2の延長を次々に許可してきた規制委の現状を見れば形骸化することは明らかだ。

この結果、既存の原発はすべて60年超運転を行おうとする。延長の条件としてあげているのは、「電力の安定供給の選択肢確保への貢献、電源の脱炭素化によるGX推進への貢献、安全マネジメントや防災対策の不断の改善に向けた組織運営体制の構築」だという。

前の2つは、そもそも原発政策の大転換をもたらした所与の条件である。これらの事情がなくなったと認めるときには期間延長を止めるのかというと、そんなことはありえない。一度決めてしまえば、ずっと延長を認めることになるから、条件ではなく延長する理由を書いているにすぎない。

「延長を認める運転期間については、20年を目安とした上で、以下の事由による運転停止期間についてはカウントに含めないこととする」との記載こそが延長期間の定義だが、あまりにもあいまいで、どうとでも導き出せてしまう。

具体的に指摘する。

その1「東日本大震災発生後の法制度(安全規制等)の変更に伴って生じた運転停止期間(事情変更後の審査・準備期間を含む)」について

原子炉等規制法の改正法は2012年9月19日に、条文の多くが施行されているが、特定重大事故等対処施設(特重)については5年間の猶予が設けられていて、その間に短期間再稼働した原発もある。

では基準日は2017年9月以降を指すのか、判然としない。震災で止まったものはその日だとしたら、制度改正までの空白期間はどう考えるのか。

計算可能な最大期間を取れば東海第2が震災で止まって以降動いていないので2011年3月11日を基準日とすると、仮に2024年9月に再稼働をした場合13年6月を加算して実に73年6月も稼働することができるということになる。

その2「東日本大震災発生後の行政命令・勧告・行政指導等に伴って生じた運転停止期間(事業者の不適切な行為によるものを除く)」について

事業者の不適切な行為以外で、行政機関が「運転停止」を命じたり、指示したりするなどあり得ないし、できない。法律の根拠もなく、そのようなことをしたら訴訟になるだろう。

これまでの経過で考えられるのは浜岡原発が民主党政権時代に菅直人首相の要請で停止したことくらいだが、これもその後、炉規法改正によって止まっているのだから、わざわざこんな規定を設ける理由がない。これは意味がわからない規定だ。

その3「東日本大震災発生後の裁判所による仮処分命令等その他事業者が予見しがたい事由に伴って生じた運転停止期間(上級審等で是正されたものに限る)」について

脱原発を目指す訴訟による差止(本訴では勝訴しない限り止められないし、それで止めた例はないが、仮処分の場合は即時止めることができる)への対抗手段として出てきたものだ。しかし上級審で覆されたとしても、いったんは司法の場で差止の判断が成されたことを、遡って事実上訴訟の効力がなかったことにしようとするものであり、三権分立の司法権への侵害で違憲だ。(つづく)

本稿は『季節』2023年春号(2023年3月11日発売号)掲載の「『原発政策大転換』の本命 60年超えの運転延長は認められない」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

◎山崎久隆「原発政策大転換」の本命 60年超えの運転延長は認められない
〈1〉唐突に原発推進が目玉政策に
〈2〉原発の運転延長の狙うものはなにか

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像 ── 原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』(共著/木村朗、高橋博子編/明石書店 2015年)等多数。

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〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2023年秋号

龍一郎揮毫

私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

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岸田政権にはまったく理性がありません。原発の四十年越え運転のみならず、60年越え運転まで認めてしまいました。岸田最悪政権によるとんでもない判断により、日本で再び原発事故が発生する可能性は、さらに増してしまいました。

 

『季節』2023年秋号

福島第一原発事故被害者の厳しい現実(生活破壊・甲状腺がんなどの健康被害)を、この国の政府やマスコミは全力で隠蔽しようと血道を上げています。東京五輪開催やリニアモーターカーの建設、そして軍事費の倍増が、被災地の復興と関係があるでしょうか。まるで原発事故などなかったかのように、政権やマスコミは虚飾にまみれた日常を演出しています。意図的に原発事故の忘却を進めようとする連中の行為は、原発事故を引き起こした人間たちの責任と同様に極めて重大です。そしてあろうことか岸田最悪政権は「福島第一原発汚染水」(「処理水」と国やメディアは報じますが欺瞞です。「汚染水」であることに間違いありません)の海へ垂れ流し(海洋放出)を8月24日に国内外の圧倒的反対を無視して開始する暴挙に出ました。

個人の興味や趣向は様々で人間は多彩です。しかし、原発事故による被害はどんな人であろうと平等に襲いかかります。本誌をご覧の皆さんには当然の道理かもしれませんが、日本に住む多くの人は「原発事故が起きれば国家を失う一歩手前であった」2011年3月11日の経験を忘れさせられています。

今号では特集で、元京都大学原子炉実験所助教小出裕章さんと元福井地裁裁判長樋口英明さんに「原発問題の本質を論じる」対談をお願いしました。今日誰一人の例外なく、わたしたちが直面させられている「原発」や「戦争」の危機についてお二人には5時間以上にわたり対談していただきました。予定調和の対談ではありません。危機の時代にあって個人がどう考え、どう行動すべきか、への示唆がふんだんに盛り込まれた対談は必読です。

そして、読者の皆様に編集部からのお願いです。本誌は発刊以来、今日まで多くの皆様に支えられ発刊を続けておりますが、決定的な弱点があります。それは読者数が増加しないという現実です。これにはもちろんわれわれの努力不足もありますが、読者の皆様にもお力添えをいただけないでしょうか。まず本誌のご愛読者には一名で結構ですのでご友人かお知合に本誌の購読をお勧めいただきたくお願い申し上げます。あるいはご近所の図書館に、本誌の定期購読をお申込みいただくことも、読者増のためにはとても有益です。

自然の季節は移ろいますが、原発を巡る季節は好ましからざる停滞を強いられています。わたしたちはすべての原発廃炉が実現する日まで『季節』を発刊し続ける所存です。皆様のお力添えを重ねてお願いいたします。

2023年9月 季節編集委員会

〈原発なき社会〉を求めて集う
不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2023年秋号

通巻『NO NUKES voice』Vol.37
紙の爆弾2023年10月増刊
2023年9月11日発行
770円(本体700円)

《グラビア》真の文明は、海を荒らさず ── 福島の漁師と船上の民俗学者
「おれたちの伝承館」

《コラム》川島秀一(民俗学者)
海を回るもの 循環と放棄の違い

《インタビュー》小野春雄(福島県・新地町漁師)
海はつながっている。だから福島の漁師だけじゃなく、
全国の人たちが、人間として反対の声を上げてほしい

《対談》樋口英明(元福井地裁裁判長)×小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
原発問題の本質を論じる
原発と戦争をなぜ止められないのか

《インタビュー》木幡ますみ(福島県・大熊町議)
転居八回当選二回
この十二年間でどれだけ暮らしが変わったか

《報告》尾崎美代子(西成「集い処はな」店主)
「おれたちの伝承館」ができるまで

《講演》コリン・コバヤシ(ジャーナリスト)
福島12年後 ── 原発大回帰に抗して【後編】
最新フランス原子力事情と日仏の原発回帰

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
原発事故は国の責任です
最高裁判所の判例変更を成し遂げるために

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
老朽化原発の安全確保の理屈が成り立たない理由

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
汚染水海洋放出(投棄)と反対運動 
 
《報告》原田弘三(翻訳者)
グレタ・トゥーンベリさんへの手紙

《報告》大今 歩(高校講師・農業)
電気自動車(EV)は原発で走る

《報告》板坂 剛(作家/舞踊家)
ジャニーズよ 永遠なれ

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
「不沈空母」タエタニップ号の沈没
~ヤマんト魂一本槍で沈没に突き進む米国隷属「会社主義」国家ニッポン

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子が語る世界〈21〉
文化に人権の香りがない国・日本

再稼働阻止全国ネットワーク
汚染水を海へ捨てるな!
原発再稼働反対! 福島第一原発大惨事忘れない
《女川原発》舘脇章宏(「ストップ!女川原発再稼働」意見広告の会)
女川原発再稼働に反対する意見広告=紙面デモにご協力を!
《福島》黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち)
知っていますか? 汚染水は減っています!
《反原発自治体》結柴誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
「福島を忘れない」取り組みを再開! 原発推進法の実施許さない闘いを!
反原発自治体議員・市民連盟第一三回総会で闘う方針を決定
《常陽》渡辺寿子(元・核開発に反対する会)
高速実験炉「常陽」運転再開の意味するもの
《東海第二》志田文広(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
11・18首都圏大集会に向けて
《汚染水》柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
東電本店合同抗議行動「汚染水の海へ投棄反対」で盛り上がる!
トリチウムなどを含む「処理水」は「陸上保管が望ましい」……経産省高官発言
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
「老朽原発うごかすな!」 闘いの報告と今後の闘い
岸田政権は「原発依存社会」に向かって暴走
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
島崎邦彦の責任を糾弾する
~原子力規制委員会地震学者初代委員長代理が今の日本をもたらした!
《読書案内》天野惠一(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
今田高俊・寿楽浩太・中澤高師『核のゴミをどうするか もう一つの原発問題』

反原発川柳(乱鬼龍 選)

書=龍一郎

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2023年秋号

龍一郎揮毫

私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

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