11月29日は国連が定めたパレスチナ人民連帯デーです。 

 

1947年11月29日、国際連盟によるイギリスの委任統治領だったパレスチナをユダヤ人国家とアラブ人国家に分割し、エルサレムは特別な都市とする決議が採択されました。ところが、アラブ人国家パレスチナはつくられず、ユダヤ人を中心とするイスラエルのみが1948年に成立しました。そして、イスラエルは数度の中東戦争でアラブ人地域とされた地域への侵略を繰り返して今日に至っています。

1993年には米国クリントン政権の仲介により、PLOアラファト議長とイスラエルのラビン首相がオスロ合意を締結し、二国家併存を定めました。しかし、イスラエルの政治はラビン首相が95年に極右青年に暗殺されたことを契機に、混迷・右傾化を加速。それでも労働党のバラク首相が和平へ努力していたのですが、2000年に右派リクードのシャロン元首相がエルサレムの聖地訪問を強行。日本に喩えれば、伊勢神宮や法隆寺に外国の首相が「ここは俺のものだ」と乱入してきたような話です。

当然、アラブ側の反発も強まり、交渉は暗礁に乗り上げました。そして、バラクが2001首相選でシャロンに敗れました。勝ったシャロンも一時はイラクやアフガンでの「対テロ戦争」に専念したい米欧の圧力もあって中道政党・カディーマを結党するなど一時柔軟化も、2006年1月に病に倒れて日本の田中角栄がそうだったように影響力を喪失。パレスチナ側では総選挙でハマスが圧勝(ファタハ側のクーデターで政権交代ができなかったが、ご承知の通り、ガザでは現在まで政府を形成している。)。

イスラエル側では右派権威主義的なネタニヤフ被告人が長期政権を築きました。ネタニヤフはオスロ合意に違反してパレスチナが治めるべき土地にユダヤ人入植という侵略を実施。ガザへも何度も武力攻撃を行い、多くのパレスチナ人を虐殺したり罪名もなしに不当逮捕・投獄したりしました。

そうしたなかでハマスが2023年10月7日に行った大規模な「反撃」を契機に、ネタニヤフはガザに侵攻し、14843人とも言われるガザの人々が殺戮されました。当初は総団結してイスラエルを擁護していた米国など日本以外の西側も、ついにネタニヤフをかばいきれなくなりました。

11月24日には戦闘休止が合意され、ハマスはイスラエル人やタイ人の人質を解放し、イスラエルはパレスチナ人の不当逮捕被害者を解放するという作業が行われている中、11月29日を迎えました。

◆パレスチナの若者からのメッセージ=モノローグを交代で読み上げる

広島では、11月26日に翌日からスタートした核兵器禁止条約締約国会議に合わせて、「NO GENOCIDE IN GAZA NO WAR NO NUKES」のキャンドルナイトが行われました。

こちらは「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」が呼びかけて行われたもので、主には被爆者団体の方が中心となって原爆ドーム前に集まりました。(筆者のXより

そしてこの11月29日は、TEARS FOR PALESTINE が開催されました。原爆ドーム前ではジェノサイドが終わるその日まで、広島市立大学の田浪亜央江准教授など、どなたかが17時半くらいからかならず待機し、スタンディングを行うそうです。この29日は12~19時という長時間でどの時間帯でもいいから参加できるよ、という趣旨でも行われたそうです。

筆者は、自分自身が原告である伊方原発広島裁判の第42回の口頭弁論がこの日のメインの活動であり、法廷が昼休みの時間帯に原爆ドーム前まで自転車を飛ばしてかけつけました。

この日は、広島市立大学の学生(留学生含む)らが、12時過ぎに原爆ドーム前に現れ、横断幕や受付、ハンドマイクの準備を開始されました。

そして、ガザ地区の若者が今回の戦争で体験したことをまとめたメッセージ(モノローグ)を、学生らが代読しました。

「世界でもっとも美しい都市になるのに必要なのは安全だけ」

という悲痛な訴え。モスクが爆撃されたり、街が破壊されたり自分たちの身近な友人が遺体となったり。生々しい、ガザの若者の悲痛なメッセージが原爆ドーム前に響きました。

◆岸田文雄様 イスラエルとの防衛協力を停止し、ジェノサイドを止めさせてください!

筆者は主催者に「何かできることはないか?」と声をかけさせていただきました。「はがきを出してほしい」と主催者がおっしゃるので、それではということでハガキを受け取り、「岸田文雄様」宛に、「イスラエルとの防衛協力を停止し、ジェノサイドを止めさせてください!」というメッセージを書き込み、原爆ドームから見て電車通りをはさんで斜め向かい(真向いは旧広島市民球場)の広島中郵便局の窓口に差し出しました。

窓口の局員の年配男性が「63円です」とちょっと緊張した面持ちでおっしゃっていたのが記憶に残っています。

やはり、広島といえば、岸田総理の選挙区です。総理に地元有権者の一人として物申す。当たり前のことです。

日本とイスラエルは残念ながら、安倍政権下で防衛協力を進めています。そのこと自体は憲法違反の疑いが濃厚であり、嘆かわしいのですが、この局面では「ジェノサイドを止めないと防衛協力を止める」ということは外交カードにはなります。日本はかつてときの福田赳夫総理が「人の命は地球より重い」と言った国です。今は、とりあえず、何でもいいからカードを使って虐殺を止めさせる。G7広島サミットでは「ヒロシマ」の名前を西側の核正当化に利用されてしまった岸田総理ですが、ここはひとつ、汚名を返上していただきたいものです。

◆犠牲者一人一人の年齢と名前を読み上げ、赤い涙を模造紙に描く

 

犠牲者の名前を呼びあげるのに合わせて赤い涙を模造紙に描いていく若者ら。門田佳子市議のXより

筆者が原爆ドーム前を去った後、地元・中区の無党派の門田佳子市議らが入れ替わりに来られました。門田市議は2003年のイラク戦争反対運動に筆者とともに無党派の若者として参加。2023年の広島市議選では市長に批判的な保守系会派の所属で5期つとめられた無所属女性市議の後継として見事当選されました。IT化社会における高齢者の生活支援などの課題に取り組まれているほか、松井現広島市長の市政を厳しくチェックする質問もされています。

犠牲者おひとりおひとりのお名前を読み上げ、そのたびに赤い涙を模造紙に描くという作業が行われました。(写真=門田佳子市議のXより) 
 

お名前が判明している方のみですが、とにかく、殺されたひとりひとりに名前があるのだ、ということを改めて確認していきたいものです。

ハマスのせん滅には市民の犠牲はやむを得ない!と暴走するネタニヤフ被告人の論理に対抗するにはひとりひとりの命の重みを大事にしていくしかありません。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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◆不祥事でボロボロも教育長に居座る劣化ウラン面皮

平川理恵・広島県教育長は、数々の不祥事にもかかわらず、教育長に居座ったまま年を越しそうです。

2022年夏に県教委が平川教育長のご親友のNPO法人パンゲアに発注した事業(合計金額2600万円)を巡る官製談合疑惑が『文春砲』で暴かれました。弁護士による外部調査でも地方自治法違反、官製談合防止法違反が指摘されました。さらに、その弁護士への依頼費用約3000万円は全て県民のお金で賄われています。また、2021年度には100万円、2018年度からの4年では700万円のタクシー代を使っていたことが明らかになりました。

これとは別に、大阪の企業で、平川教育長の別のご親友が社長の『キャリアリンク』との取引は『教育長案件』と職員に認識されていたことが、中国新聞の情報公開で明らかになりました。平川教育長自身は、キャリアリンクに発注したのは『自分の指示ではない』と否定していますが、そんな弁解は誰も信用していないような状況です。

また、平川教育長はさらに別のご親友の児童文学評論家の赤木かん子さんに学校図書館のリニューアルを委託し、旅費など646万円を支払いました。おまけに、図書を入れ替える際に、大量に赤木さんの著書を購入させていました。内部調査では法令違反ではないとされました。しかし、頭ごなしのリニューアルは、図書館の自由に関する宣言に反するものです。

2023年2月21日、平川教育長は一連の『事件』当時課長級だった職員一人を戒告処分としたうえで、自分自身は給料の自主返納という「処分にもならない」幕引きを図ろうとしました。

そして、横浜で民間出身校長だった当時の平川教育長を「一本釣り」してきた湯崎知事も教育長を罷免しようとはしていません。

最近では、赤木かん子さんが図書館のリニューアルから外されるなど、平川教育長の権力低下は著しいものがあるそうです。とはいえ、依然として県教育のトップに居座っておられるのは事実です。

鉄面皮、いや、劣化ウラン面皮とでもいうべき平川教育長に、怒りを通り越して、うっかり尊敬の念さえ抱いてしまいそうになるほどです。劣化ウランは鉄よりも硬いので戦車の装甲や砲弾に使われていますが、平川教育長は、その劣化ウラン並みに打たれ強いと言えます。

◆議会の追及は口先だけ⁈

一方、県議会でも追及は続いています。11月24日の広島県議会決算特別委員会では、日本共産党や保守系で湯崎知事に批判的な会派の議員だけでなく、湯崎知事に近い自民党会派出身の議員からも『中途半端な調査報告のために反省もない対応を、議会として認めることはあってはならないと考えています』との批判が噴出する有様です。

他方で、この決算特別委員会では結局、昨年度の県の決算を賛成多数で認定してしまっています。決算というのは認定されなくても実際には混乱は生じないのですから、平川教育長に対してノーを突き付ける意味で、決算認定をしないという手もあったはずです。しかし、それを県議会の多くの議員が選択しなかったということは、やはり、口先だけと言われても仕方がありません。

他の自治体では教育長に対する辞職勧告決議案も出ています。兵庫県太子町では2022年にセクハラ疑惑を起こした教育長に対して辞職勧告決議を町議会が検討。町議会が始まる1週間前の8月22日にこの教育長は辞任を表明しました。議会がその気になれば教育長を打倒することはたやすいことです。
https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/202208/0015576441.shtml

◆不祥事で懲戒免職の教員も「平川教育長名」で処分の笑止

さて県内では一連の『事件』発覚後も、教員による不祥事が相次いでいます。広島市を除き、公立学校の教員の処分は県教委、すなわち平川教育長の名前で行われることになります。

2022年12月21日、県立高校の教諭二人が18歳未満の女性にわいせつな行為をしたとして懲戒免職になりました。
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/513384.pdf

当時の広島県教育委員会の松下大海教職員課長は「教育の信頼を損なう事態が発生したことについておわび申し上げます。再発防止に取り組んでいきたい」と話したそうですが、「あなたの上司である教育長が一番教育への信頼を損なっているのでは?」とニュースを報じるテレビ画面に突っ込みを入れてしまったのを覚えています。

2023年3月24日には、コロナ休暇を不正に取得したとして県立学校の主事が停職2か月となりました。
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/524711.pdf

直近では10月13日、18歳未満の女性への買春などの被疑事実で逮捕され、70万円の罰金が確定した廿日市市市立中学校教諭の宮本竜太被疑者(当時35)が懲戒免職になっています。

「教育公務員としての職の信用を著しく損なう重大な非違行為であり、信用失墜行為の禁止を定めた地方公務員法第 33 条の規定に違反する。」というのが処分理由です。
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/552231.pdf

未成年者とのわいせつ行為や買春はとんでもないことです。それはそれとしても、これらの処分を受けた先生方も平川教育長の名前で処分されたくはないでしょう。平川教育長が居座れば居座るほど、教職員のモラルは崩壊していくのは間違いありません。

◆県外のお友達優遇止め、県内にお金を回すべき

平川教育長は県外のご親友ばかりを優遇してきました。そもそも教員の研修など、県教委に指導主事がいるわけです。その人たちを差し置いて県外に発注するのは、県費の無駄遣いではないでしょうか?

それよりも、例えば、『ホーユー事件』で明らかになったような低すぎる給食の単価を引き上げる。そのために入札制度を改革する。非正規の先生だらけの状況を正規への登用で是正していく。

そうしたことが今、必要なことではないでしょうか?

大阪の企業を振興したいなら、それこそ、広島県教育長などさっさとお辞めになって、今春の大阪府知事選挙にでも立候補されれば良かったのです。

◆地方衰退への危機感の勢い余って食い荒らす自称『新しい血』……平川問題の教訓

平川教育長については、マスコミが天まで持ち上げていたことは忘れてはなりません。もともと、広島は保守的な土地柄で、『年配男性中心』の意思決定が根強くありました。そうした中で、全国と比べても様々な面での遅れが目立っていたのは事実で、広島県庁在職中の筆者もそのことは痛感していました。

そうした中で、文科省官僚や教員上がりといった『既存型人材』、あるいは年配男性を中心とした地元の旧来型政治家への不信感、不安感も広がった。そこに、平川教育長は巧妙につけ込んだとも言えます。

そして『旧来型政治家』が多数を占める議会も、結局、平川教育長へのチェック機能は十分に果たしていません。

今後も、衰退する地方ほど、これまでの古臭さへの「焦り」から『女性』とか『若い』というだけで、平川教育長のような人に権力を与えてしまい、却ってドカ貧を招く、という恐れは十分にあります。
 
「年配男性」「天下り官僚」「地元旧来型政治家」といった『旧来型権力者』に対してだけでなく、平川教育長的な「外部の新しい血」を標榜する権力者に対しても、市民・県民が舐められないよう、きちんとチェックしていくべき。このことは大きな教訓です。

筆者と広島瀬戸内新聞では『湯崎知事や平川教育長らから広島を取り戻し、広島とあなたを守るヒロシマ庶民革命』『総理や知事や教育長になめられない広島県民をつくるヒロシマ庶民革命』を呼び掛けています。

2025年11月の広島県知事選挙へ向け、湯崎英彦現知事の打倒と庶民派知事・庶民派県議の誕生を目指しています。

◆住民訴訟、本格化

こうした中、平川教育長による疑惑幕引きを是としない頼もしい県民がおられます。8月29日、平川教育長に対して、県にパンゲアとの取引で生じた2645万円、弁護士費用3000万円、2021年度分のタクシー代100万円の計5745万円を返すようもとめる住民訴訟が広島地裁に提起されました。

第二回口頭弁論は以下の予定です。

県教委「官製談合」をただす住民訴訟
第2回口頭弁論は12月5日(火)13:30~
弁護団は県教委の「答弁書」に反論、詳述する書面を提出予定

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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子ども時代(保育園から中学2年生まで)の父親からの性的虐待により、大人になった現在、PTSDに苦しんでいるとして、広島市の40代女性が父親に慰謝料など3700万円を請求している「性虐待PTSDひろしま裁判」の控訴審判決が11月22日、広島高裁であり、原告=被害者女性の訴えを棄却する不当判決となりました


◎父親から性的虐待、女性が損害賠償求めた裁判 広島高裁が訴え退ける「請求権は消滅」女性は上告の方針(広島ニュースTSS 2023/11/23)

◆「人倫にもとる」と父親を断ずるも「除斥期間」を理由に却下

広島高裁の脇由紀裁判長は被告=加害者=父親による性的虐待行為は「人倫にもとるもの」認定しました。しかし、女性が10代後半にはPTSDの症状を発しており、不法行為から「除斥期間」である20年がたってからは請求する権利はない、として一審判決同様、女性の訴えを退けました。原告の女性は、この判決にあきらめずにただちに上告することにしました。

原告は、2020年に提訴。しかし、広島地裁は2022年10月に父親による性的虐待の事実や女性の被害を認定しましたが、「10代後半には精神的苦痛を受けていた」ので、「遅くとも20歳になったときから20年が経過した提訴前の時点で、賠償請求できる権利が消滅した」と判断して原告の訴えを棄却。原告が控訴していました。

◆苦しむ期間が長いほど不利になる理不尽な理屈

たしかに本件の性虐待自体は20年以上前ですが、被害者はそれによって大人になった後もPTSDに悩まされています。父親による被害が現在進行形で続いています。裁判長は、PTSDが10代後半で既に発症していたことも理由に、そこを起点に除斥期間を設定してしまっています。これは苦しむ期間が長いほど、被害者が不利になるという理不尽な理屈です。

そもそも時効とは法的安定性の確保のために「権利の上に眠る者は保護せず」というのが趣旨です。権利があるのに怠慢で権利行使を怠ってきた者にはもう権利行使は認めないのが民法の思想です。例えば、友人に貸したお金の返済を長い間催促しなかったとか、大家さんが借主に未払いの家賃を催促しなかったとか、そういう場合を想定しています。今回適用された法理は旧民法で定められていた除斥期間であり、不法行為の債権が20年で消滅するというものです。モノを壊された被害者が20年間損害賠償を請求しなかったとか、そういう類のものです。

しかし、本件では、被害者は権利を漫然と行使せずにきたのではなく、10代後半以降、ずっと苦しんでおられたが、父親の性暴力による被害であることさえ意識できなかった。そして最近、やっと被害を言い出すことができたという事情があります。この点が、一般の損害賠償請求訴訟とは異なります。さらに、その被害は今も継続しているのです。被害者が直面した事態は、除斥期間を旧民法に導入した立法者が想定していない事態です。旧民法の時代には、そもそも家父長制のもと、父親の権威は絶対です。それと連動して刑法には戦後も維持された尊属殺人という規定がありました。父親の虐待に耐えかねて父親を殺した娘にあわや死刑適用かという場面もありました。この時は尊属殺人の規定は違憲だという判断が示されました。この時は「裁判官が仕事をした」と言えます。

だが、脇裁判長は、尊属殺人の規定があった時代の考えをひきずって今回の判決を出した、すなわち「仕事をしなかった」とも言えます。

◆伊方原発広島裁判仮処分却下に続き期待を裏切った脇裁判長

今回の裁判長は女性の脇由紀裁判官であったことから、ひょっとしたら、原告勝訴の判決もあるかもしれない、と筆者も期待しました。しかし、その期待はもろくも打ち砕かれました。冷静に考えると、脇裁判長は、筆者も原告である伊方原発広島裁判において、筆者ら原告側が求めていた運転差し止めの仮処分申し立てを却下した裁判官でもあります。要は、従来の判例から踏み込んだ判断をされるような裁判官ではなかったということです。

不当判決を上告した原告を徹底的に支援するとともに、一方で、裁判官の質によって被害者の救済が左右されないよう、今回のような事案に対応した法改正も必要と感じます。

◆フラワーデモ「勇気をもって訴えた原告に感謝」

広島高裁による不当判決を受け、「フラワーデモ」が夕方17時から広島市中区の本通り電停前で行われました。フラワーデモは2019年3月に、性暴力で起訴された男性が相次ぎ無罪となったことを受けて、それに抗議するために2019年4月11日に東京駅前で始まりました。それにより性暴力の厳罰化など、一定の法改正が進んだのは皆様もご承知の通りです。

広島高裁による不当判決を受け、広島市行われた「フラワーデモ」

この日は11日ではありませんが、今日の判決日にあわせて被害者勝訴であろうが、不当判決であろうが、開催されることになっていました。広島市での開催は大都会の割に少なく、7回目です。それだけ広島が特に岸田総理の選挙区である中心部ほど保守的ということはあるのですが、そんな状況で開催されている皆様には敬意を表します。

フラワーデモでは、まず、寺西環江弁護士から本件判決についての報告が行われました。

また、夫婦同姓を義務付けた民法の規定は「法の下の平等」を定めた憲法に違反するとして、国を訴えていることでも有名な恩地いずみ医師は「勇気をもって提訴した原告に感謝する」と原告の勇気を称えました。

また、主催者を代表して岡原美智子さんからはフラワーデモの歴史などについて紹介。その上で「同じ広島県内で、男性塾講師から10年以上も洗脳の上、性暴力被害を受け続けた20代女性が、フラワーデモのニュースを見て勇気を得て、弁護士に相談。提訴をし、事実上勝利となる和解を勝ち取った」ことが紹介されました。

広島県内では、このほかにも、呉の海上自衛隊でセクハラ被害者の女性隊員が望まないのに、加害者に直接謝罪させ、女性隊員が退職に追い込まれる一方で、加害者や上司は停職処分で済まされるという理不尽な事件が起きています。

全国的に見れば、例えばジャニーズにおける性加害問題は、長年、鹿砦社を除いてほとんど追及されてきませんでした。

性暴力を許さない社会へ、今回のように声を上げた被害者を支援することで声を上げやすくするとともに、裁判官の質によって被害者の救済が左右されないような必要な法改正が引き続き求められます。

[追記]広島高裁による不当判決を受け、広島市で行われた「フラワーデモ」は、毎月11日に首都圏で行われているフラワーデモとは直接、組織的な関係はなく、今回の原告の支援者が不当判決に抗議して行った街宣です。(筆者)

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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広島市の松井市長は11月30日からハワイの真珠湾を訪問することを発表しました。これは、今夏、米国政府=エマニュエル駐日大使=との間で締結した真珠湾国立公園との「姉妹公園協定」を具体化するためとのことです。

広島市は9月の定例市議会で「原爆投下に関わる米国の責任の議論を現時点で棚上げし、まずは核兵器の使用を二度と繰り返してはならないという市民社会の機運醸成を図っていくために締結した」と答弁しています。 その答弁を具体化した形です。

◆「原爆投下を反省しない米国政府」と組んで良いのか?

 

真珠湾の戦艦アリゾナ(撮影=広島瀬戸内新聞関西支社の鈴木記者)

筆者は、そもそも論として、広島の平和記念公園とパールハーバー=真珠湾の「姉妹公園協定」に反対です。広島市とホノルル市は姉妹都市であり、ホノルル市は広島市が主導する「平和首長会議」にも加盟しています。平和首長会議は核兵器禁止条約推進の署名活動もしており、広島市とホノルル市はそうした意味で「同志」の自治体であります。その一環として松井市長がホノルルに行かれることには異存はありません。ただし、きちんと平和行政の推進に効果があるかどうか、説明責任を果たしていただきたい、というスタンスです。

だが、米国政府は、いまだに広島への原爆投下を反省していません。「必要だった」というスタンスは崩していません。もはや、原爆投下は戦争の犠牲を減らすためではなく、日本人をモルモットとした「実証実験」であり、戦後に米国の強力な対抗馬になることが確実だったソビエトへのけん制でもあったという議論が主流となった今でも、米国政府はまったく反省していません。オバマ大統領が2016年に広島に来た時もまるで他人事のような挨拶であり、反省や謝罪の言葉はありませんでした。

日本政府についていえば、基本的にはいわゆる村山談話を継承し、第二次世界大戦における加害責任について一定のお詫びをしています。必ずしも十分ではないと筆者は考えますが、それでもまったく反省も謝罪もない米国に比べればすべきことはしています。

そんな米国政府の原爆投下責任を棚上げにして組んで良いのだろうか?そのことは、「核兵器の使用を二度と繰り返してはならない」という国際世論を後退させてしまうのではないか? そう思うのです。

「広島が米国政府を許したのであれば、俺たちが核兵器を使っても構わないよね?」と、米国以外の中露英仏はもちろん、インド、パキスタン、朝鮮、そして今ガザ虐殺で非難を浴びているイスラエルまで言いだしかねません。すくなくとも核兵器使用のハードルを下げる方向に「米国政府の責任棚上げ」はなると思います。

◆G7広島契機に「平和都市ヒロシマ」から「米国忖度都市 HIROSHIMA」への変質

そして、繰り返し指摘したいのは、2023年5月のG7広島サミットを契機に広島が曲りなりも「平和都市ヒロシマ」だったのが「米国忖度都市 HIROSHIMA」に変質しているということです。

すでに、今年度から広島市の平和教育の教材から『はだしのゲン』(小学校)や『第五福竜丸』(中学校)が削除されています。広島市教育委員会はマスコミの取材に様々な弁明をされています。しかし、こんな変更をさせたのは誰か?松井市長以外にあり得ないでしょう。すでに、教育行政については、第二次安倍政権における法改定で首長の「独裁」が事実上可能になっています。広島県の場合は、湯崎英彦知事がお気に入りの平川理恵教育長を任命して彼女に独裁的な教育行政をやらせています。他方で広島市の場合は松井市長が教育長には影が薄い方を任命し、松井市長が強力なリーダーシップを発揮している感があります。

そうした中で、G7で広島にお見えになる米国のバイデン大統領の「お目を汚さない」ようにはだしのゲンや第五福竜丸を削除させたのは、この間の流れを見れば、見え見えではないでしょうか?

そして、G7広島サミットでは、西側の核保有は肯定する「広島ビジョン」が採択されました。

また、対ロシア戦争中のゼレンスキー大統領がまるで「乱入」するかのように途中参加し、まるで対露戦争会議のようになってしまいました。

「平和都市ヒロシマ」は、「米国忖度都市 HIROSHIMA」に変質してしまいました。

◆ガザ虐殺応援団サミットでもあったG7広島、恥ずかしすぎる

あれから半年。ガザでは、ハマス政権の「反撃」に対してイスラエル総理のネタニヤフ被告人が大軍をガザ地区に送り込み殺戮を続けています。そして広島に集ったG7のうち、日本を除く米英仏独伊加や欧州委員長らは核兵器保有国でもあるイスラエルべったりです。ゼレンスキーも核兵器保有国であるロシアによる侵略被害者のはずが、核兵器保有国かつ侵略者であるイスラエルを全面支持する始末です。G7広島サミットはまさに、ガザ虐殺応援団サミットだったことに結果としてなってしまいました。

また、これはサミット広島県民会議を管轄する湯崎英彦知事の暴走になりますが、平和記念公園内にG7広島サミットの常設展示コーナーを5000万円かけて設けるということです。恥ずかしいからやめていただきたい。

広島がガザ虐殺応援団サミットの場に結果としてなってしまった。そのことへの反省も松井市長の現時点での行動からはみじんも感じられません。松井市長には、どうせ訪米するならハワイへ行くよりも、それこそ、長崎市長とも歩調を合わせ、ワシントンやNYに行って、アメリカや国連にネタニヤフの暴走を止めるよう要求したらいかがでしょうか?

◆広島市は米国政府より、まずは市民と連携の「王道」を

ここで強調したいのは、広島市はあくまで自治体であるということです。そもそも、米国政府と組む、というのがおかしな話です。

むしろ、強化すべきは世界各都市(自治体)とそこに住む市民との連携です。11月27日からNYで第二回締約国会議が始まる核兵器禁止条約。この条約も市民運動が各国政府を動かしたのです。米国政府との連携を急ぐ前に、まずは各国市民との連携を密にする。そして、日本政府にもせめて核兵器禁止条約の会議にオブザーバー参加はするよう圧力をかけつつ、核保有国に迫っていく、というのが王道ではないでしょうか?

米国政府のエライ人に一生懸命に胡麻をすったところで、良いように利用されるだけではないでしょうか?

◆「サミット期待・評価」の野党政治家も反省を……平和都市ヒロシマ回復への道

また、くりかえしになりますが、G7広島サミットについては立憲民主党や日本共産党などの国政野党の県議も2023年統一地方選におけるマスコミや市民団体のアンケートに答える形で「G7広島サミットに期待」「G7広島サミット誘致を評価せず」と表明してしまいました。筆者自身は県議候補では唯一「サミットに期待せず」「評価せず」と回答しました。その後の広島ビジョン発表で、日本共産党などの県議はあわてて政府批判に転じましたが、遅すぎました。すでに、松井市長や湯崎知事はアメリカ忖度の方向で暴走を加速した後でした。G7という核保有&イスラエル応援団に悪用され、「米国忖度都市HIROSHIMA」に変質しつつある広島。

一方で、2023年統一地方選でも広島市議選の候補者では、日本共産党や保守系無所属の一部候補でも「サミットに期待しない、誘致を評価しない」という筆者と同じ回答をした方もおられます。

国政野党の皆様にもご反省をいただいたうえで、平和都市ヒロシマを取り戻すため、ともに進んでいただきたいと強く要望します。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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2021年7月に入所者の90代男性がゼリーを誤嚥して死亡したのは施設職員が男性の誤嚥を防ぐ義務を怠ったことなどが原因として、広島市内に住む60代の長男が施設を運営する社会福祉法人平和会(佐伯区)に3465万円の損害賠償の支払いを求めた訴訟の判決が11月6日、広島地裁でありました。大浜寿美裁判長は施設側の責任の一部を認め、平和会に2365万円の支払いを命じました。

◆「介護をするのが怖くなる」判決

筆者を含めて、この判決に介護現場の労働者には「介護をするのが怖くなる。」という声が広がっています。

ある介護福祉士は以下のようにX(旧Twitter)で発信しています。

仕事として介護をするのが怖くなる。
「ゼリー喉に詰まらせ窒息死 判決で被告の介護施設側に2365万円支払い命令」ってニュースを見たけど、あなたはどう思う?
僕も毎日、利用者さんに水分ゼリーを配るし、他人ごとではないと思った。
裁判長は「ゼリーを配る職員は他の利用者に配膳し、男性が誤嚥する様子を見ていなかった」とした。
と書かれていたけど、他の利用者さんに配膳するときは食べやすい位置にセッティングして、ゼリーがゼリーであることを説明(認知症の方はゼリーをゼリーと認識できない方は多い)
他にも介護職が気を配る要素は数えきれない。
ゼリーを配っているときにトイレに席を立たれる方、ズンズン玄関に向かって歩かれる方、お茶をこぼしてしまわれる方…同時多発的にハプニングが起こるのが介護の現場の現実です。
信じられないかもしれませんが、特別養護老人ホームで高齢者20人の食事を終えるために配置される介護職員は2人~3人。(平均介護度は要介護4)
「職員らが食事の介助などの措置を講じていれば防げた」と言っているみたいですが、現場を見てから、体験してから言ってほしい。
みんなギリギリで頑張ってる。全神経を張りつめて、事故が起きないように頑張っている。
ぶっちゃけ「2365万払え」なんてなにもわかってない。
悔しすぎ。介護をするのが怖くなる。
こういう記事が出るたびに思うのが、介護する人がいなくなる。介護職不足が加速するだけ。

◆そもそもゼリーこそが「誤嚥防止」の最大限の努力

そもそも、食事や水分摂取をゼリーの形態にするのは、最大限の誤嚥防止の努力なのです。まず、普通食では危ないと思われるご利用者については、刻み食にしてお出しします。それでも危ないと思われる方にはミキサー食にしてお出しします。さらに危ないと思われる方にはゼリーの形にしてお出しします。

水分についても、普通の状態で危ないと思われる方にはとろみをつけてお出しします。それでも危ないならゼリー状にしてお出しします。

そして、それ以上、誤嚥を防ごうと思えば、今度は胃婁(いろう)にするしかありません。おなかに穴をあけて胃に直接栄養分を流し込むのです。

ただ、それだと、生きていることの楽しみの大きな要素である食べるということ、味わうということの楽しみは一切ありません。それでいいのかどうか? それはそれで、ご家族、ご利用者の間でもきちんと話し合ってそこまでして後悔しないかどうか、合意形成をしていただく必要があります。

◆コロナで、てんやわんやだった2021年当時

今でこそ、コロナは5類に降格し、むしろしばらく大流行がなくて皆が集団免疫を喪失しつつあるインフルエンザの方が脅威になっています。しかし、2021年7月と言えば大変な時期でした。東京方面で再び感染者が増え、そんな東京からIOCのバッハ会長が大勢を引き連れてお見えになる、そして、月末からは再び広島でも感染爆発が始まる。そんな状態でした。

現場では、感染防止にまず最大限の注意を払っていたのです。その上で、誤嚥防止など、通常業務もしなければならない。精一杯の状態でした。その状態で、「過失があった」として損害賠償をそれも要求額の約3分の2にあたる2365万円も認められたのでは「やっていられるかよ?!」というのが多くの介護現場職員の本音でしょう。裁判長は、当時の状態をもうお忘れになったのでしょうか?

当時は感染対策もあって、レクリエーションなどもやりにくかった。そういう中で、嚥下機能含めて急速に衰える方も多かったということもあります。いろいろな背景をご理解いただきたかった。

◆現状の人員体制ではこれが限界

そして、現状の介護保険制度が定めている人員基準では、「これが限界」です。国がべらぼうに人員基準を強化し、介護報酬もそれに応じてアップしてくれているのであれば、もっと誤嚥を防止するために力を注ぐことはできるでしょう。しかし、現状では、上記のXにもあるように、20人の利用者の食事を2-3人でケアしなければなりません。それでも、誤嚥しそうな人には後回しで配膳するか、職員がつくかします。だが、普段は誤嚥の恐れが少ないような人がいきなり誤嚥するということも起きるのです。それこそ、おやつの時間中に、先ほどまで、それなりに元気だった人が誤嚥でもないのに、いきなりぶっ倒れて亡くなる、ということも筆者も経験しています。あちらが立てばこちらが立たず。そういうことはよくあります。
 
◆「安全至上主義」で入所者は幸せなのか?

誤嚥と並んで多いのは転倒です。今回のような判例が定着してしまうと何が起きるか?介護職員側としては、転倒による負傷を恐れて、ご利用者様に歩かせない、という方向にどうしても走ってしまいます。それが果たしてご利用者様にとって幸せなのでしょうか?それなりに、普段しっかり歩けている人でも、認知症や薬物依存症の後遺症の症状で、職員の目が届かないところで、いきなり走り出して転倒するなどのことは実際に筆者も経験しています。夜間であればトイレへ行こうとして転倒ということは日常茶飯事です。利用者が動き出したことを知らせるセンサーマットをつけていたとしても、駆け付けた時には転倒ということもあります。

だが、だからといって、例えば、その方に歩かせずに車いすを利用していただくことが本当に幸せなことなのでしょうか? そもそも、夜間だったら、寝ぼけていることもあり、車いすではなく歩き出すでしょう。安全性の追求にはきりがない。このあたりは、介護職員、ケアマネ、そしてご本人、ご家族で合意形成すべきではないでしょうか?

◆合意形成にご家族も本気で参加を

ところが、その合意形成に腰を入れて参加しようとしないご家族も少なくないのが実情です。中には「自分は親と仲が悪いので行きません」とおっしゃりながら何か起きればすごい剣幕で電話をしてこられる方もおられます。 それこそ、三波春夫の「お客様は神様です」を完全に誤解しておられるのではないか?としか思えないご家族も中にはおられますし、数は少なくとも、介護職員は消耗させられます。

もちろん、いまはヤングケアラーだけでなくビジネスケアラーの問題も深刻です。そうした中で、在宅ではなく施設でというのも、大事な選択肢ではあります。しかしながら、そうであるならば、食事や移動・行動(入浴時に機械に依存するか、ご自分で一定程度されるのかも含めて)をどうするのか?どの程度のリスクを許容するのか?

完全に安全を求められるのであれば、それこそ、在宅で、訪問介護・看護を24時間、べったり、介護保険以外の自腹負担も含めて利用するということしかなくなるのではないか?そのことも、現行の介護保険制度のもとで、ご理解いただくしかないのではないでしょうか?実際に、「転倒に関しては施設の責任を問わない」という同意書を取っている施設もあるそうです。

◆伊方原発広島裁判も「大浜裁判長」! 現実をきちんと理解した上で仕事を!

大浜裁判長が女性だからと言って、介護のことをきちんとわかっているわけではないことはよくわかりました。まじめに現場を理解しようともしていないことは今回の裁判でよくわかりました。

こんな判決を判例として定着させてはいけない。もしそうなれば、ただでさえ、給料も低く、労働もキツイ介護職員を誰もやらなくなってしまいますよ。

その上で、大浜裁判長が筆者も原告である伊方原発運転差止広島裁判の裁判長でもあることも気がかりです。

もちろん、原告弁護団は最大限、裁判長にわかっていただくような書面を書いておられます。しかし、それでも、このままでは原発の問題でも、十分に現実を踏まえないで判決を出されるのではないか?という危惧がぬぐえないのです。もちろん、どうか、大浜裁判長には、「介護」でも「原発」でもきちんと現実を理解した上での仕事をお願いしたいと思います。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
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広島県立広島病院(県病院)やJR広島病院など広島都市圏の病院を再編し、広島市東区二葉の里地区に新しい巨大病院を建設する広島県の計画で、広島県の湯崎知事は10月27日、建設予定地の取得に向けた売買契約をJR西日本と交わしました。

 

JR広島病院

建設予定地はJR広島病院の建物や駐車場がある約2万6千平方メートルで、JR西日本が所有しています。購入費181億円で契約を結び、土地の引き渡しと代金支払いは2025年4月を予定しています。

◆やる気なし!ガラガラの会場で自称「説明会」

また、県は10月29日、筆者も含む東区民にほとんど周知作業らしいこともしないまま、説明会を強行。出席した有田優子・広島市議によると会場はガラガラでした。有田市議が参加人数を質問したところ、人数すら県は把握していなかったそうです。まったく、説明をやる気が感じられません。今年の夏、高速5号線二葉山トンネルの工事を再開した直前にも、ほとんどの住民がボイコットする中で説明会と称するイベントを行っています。

こうした「説明会」と称するものを行ったとして、事業を独裁的に進めていくのが、湯崎知事の最近の手法として定着しています。

◆県民の意見を聴かずに健全経営の病院潰し

さて、度々お伝えしていますように、県病院廃止→新巨大病院計画は矛盾だらけです。

第一に、県病院もJR広島病院も、総務省による再編の対象になっていません。県病院については、他の都道府県の公的病院のような経営破綻状態にあるわけでもありません。それをわざわざ潰すのはどういうことか?

 

広島県立広島病院(県病院)

第二に、県病院の地元の住民の意見をほとんど聞かずに計画を決めています。地元の患者を見放しています。また、江田島市などから船で県病院に来ている患者も不便になってしまいます。

◆独立行政法人化で人材流出、医療崩壊の恐れも

第三に、新巨大病院を県立ではなく独立行政法人にしています。独立行政法人にしてしまうと、県知事や議会は関与できない独立採算制になってしまいます。

第四に、にもかかわらず、湯崎知事は高度医療をこの新巨大病院にやらせようとしています。高度医療はどうしても赤字になりやすい。他方で知事は県立をやめて独立採算制にしてしまうので赤字を県が穴埋めすることが難しくなります。そうなれば、最悪の場合、経営が破綻ということも考えられます。高度医療もダメ、一般的な医療もダメ、という共倒れ状態になりかねません。

第五に、県立病院から独立行政法人になることで医師や看護師の待遇が悪くなる可能性が高い。そういう中で新病院に残りたいという職員は15%という組合側のアンケート結果もあります。

現実に、「子供を養っていくには将来不安」という理由で、県病院をすでに退職することを決め、県外の給料の高いところに移るという方もおられるそうです。今や若手女性を中心にカナダやオーストラリアに行く時代。人材流出の結果、スタッフが不足し、崩壊しかねない。人材流出で病院が崩壊する恐れがあります。

◆移転でむしろ強まる災害・渋滞リスク

第六に、新病院の予定地の東区二葉の里は交通渋滞が今でも激しいことです。筆者もバスで帰宅するより徒歩の方が早いと思えるような渋滞に良く巻き込まれます。新病院ができれば外来患者の車でさらに渋滞は激化し、さらに救急車の走行も困難になります。助かる命も助からなくなりかねない。

第七に、今の県病院の位置は津波のリスクがあるとされており、だから広島駅北口に移すのだ、と県は言っています。しかし、津波による水没のリスクであれば、広島駅周辺も同程度のリスクがあります。土砂災害のリスクについては新病院予定地の方がむしろ土砂災害警戒区域が敷地近くに迫っています。

いずれにせよ、このままでは何のために巨大病院を作ったのか分からなくなります。全国的に見ても公的な病院再編の事業規模は50億円程度ですが、広島県は1300-1400億円と桁が二つ違います。結局は、「JR病院を消費税で救済するだけはないか?」という疑念がぬぐえません。

◆労働組合と議会はチェック機能果たさず

さて、こんなふうに経営者=知事が暴走するとき、労働組合は職員の立場で、県議会が県民の立場で歯止めになるべきです。しかし、現実には労働組合(自治労県職連合)は知事による基本計画を呑んでしまったそうです。筆者は組合OBとして、後輩たちのふがいなさに情けない思いです。労働組合は、労働者と患者=県民を新自由主義独裁者の知事に売り渡したといっても過言ではないでしょう。

広島県議会でも労働組合を基盤とする立憲民主党の県議も含めて知事の案に賛成してしまいました。他方で、一部の保守系の特に女性議員の方がこの問題では頑張っておられます。

 

社民党の皆様と街宣を行う筆者

◆消費税を財源のご乱行、止めるチャンスはある

そして、こんなずさんな事業の財源は消費税です。こんなことに使うくらいなら消費税を減税・廃止し、庶民の暮らしを楽にしていただきたいものです。

他県では青森県では(同じ自民党系とはいえ若い方に)知事が交代して計画が修正される、三田市でオール与党の市長が無名のサラリーマンに打倒されています。宮城県議選で知事与党が敗北するなどしています。広島も今後、どうなるかはわかりません。

街頭活動では「県病院は残してほしいけど、もう決まったのでしょ?」というご反応もあります。

しかし、筆者は他県の例をご紹介して、「まだまだ諦めてはいけない」ということを申し上げ、それにより相手の方の反応も「じゃあ、署名しておこう」と変わることも経験しています。

県病院問題を考える会(代表代行・有田優子市議)では、超党派で署名活動や学習会、関係者への要請活動などに力を入れています。

当面は第二回学習会が予定されています。第一回は福島瑞穂参院議員が講師でしたが、第二回では広島県庁の担当者をお招きし、意見交流を図ります。

◎県病院問題を考える会 第二回学習会
12月16日(土)14時-16時 (13時開場)
東区民文化センター 3F大会議室
・講師 広島大学大学院 先進理工系科学研究科 早坂康隆先生 
演題 瀬戸内・広島の自然災害と安全問題~日本列島の成り立ちから~ 
・広島県庁担当者との意見交換
広島県医療機能強化推進課長 渡部滋 様
連絡先 県病院問題を考える会 広島市南区翠町1丁目10-27
TEL 082-250-3155 / FAX 082-250-3157

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
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タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年12月号

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パレスチナ・ガザ地区では、イスラエルの総理・ベンヤミン・ネタニヤフ被告人※による攻撃で子どもを中心に多数の犠牲者が出ています。こうした中、広島でもネタニヤフ被告人に対してガザでの虐殺を止めるよう要求する行動が行われています。

(※イスラエルの現総理のベンヤミン・ネタニヤフ被告人は、日本の総理だった故・安倍晋三さんとほぼ同じようなことをやって、イスラエル警察に送検され、検察に起訴され、現職総理のまま被告人になっています。妻のサラ被告人も日本の安倍昭恵さんとほぼ同じことをやったとして罰金刑が確定しています。ネタニヤフ被告人は安倍さんと違い、野党共闘に打倒されましたがすぐに返り咲き、イスラエルの司法を日本の司法のように総理=行政府に忖度する司法に改悪しようとしています。)

このうち、11月3日の文化の日=日本国憲法公布記念日には原爆ドーム前でNO WAR NO KISHIDA 11・3ヒロシマ憲法集会2023が行われました。

 

広島市立大学准教授の田浪亜央江さん

各界のアピールの中では、広島市立大学准教授の田浪亜央江さんが中東研究者として発言。

「なんでこれまでもっとガザについて発信してこなかったのか? 後悔している」と振り返りました。

「かろうじてアメリカとは一線を画して中東アラブ諸国との関係を維持してきた日本が安倍政権下で特にイスラエルとの関係強化を図り軍事協力を進めてきた。その日本の責任は本当に大きい。日本のこの間のイスラエルとの軍事協力強化その動きは世界的に見ても突出している。」

「安倍政権で武器輸出3原則が変更され、原則自由、紛争当時国のみは除外するということで日本政府はイスラエルを紛争当事国と認めなかった。しかし今少なくとも、日本政府の立場に立っても今こうやって日々ガザの虐殺を進行しているイスラエルが紛争当事国でないわけはない。」と指摘。

「今私たちがすぐできることとしてイスラエルと日本の軍事協力をすぐに辞めさせることだ。自衛隊とイスラエルはもうすでに軍事協力共同研究を進めてきている。是非この場を借りてこのことを訴えたい。」と強調しました。

田浪さんたちは、毎日17時半、原爆ドーム前でガザ虐殺を止めろとスタンディングを行っておられます。じっと立ってくださるのでも構わないということです。夕方、広島市都心部に来られる方はちょっとでも良いのでのぞいてくださると幸いです。連絡先 tanami1012@yahoo.co.jp 

◆イスラエル=侵略者という原点

たしかに、ハマス政権(2006年のパレスチナ総選挙で勝利している)が、10月7日、ガザに対しては主に封鎖・武力行使、ヨルダン川西岸に対しては主にユダヤ人の入植という形で侵略を続けているイスラエルへの「反撃」を行いました。ただ、この「反撃」は民間人の拉致などを含むもので、国際人道法違反です。東京裁判に当てはめればいわゆるC級戦犯です。国際人道法は、侵略・攻撃側だけでなく、防衛側も守らなければならないものです。例えば、第二次世界大戦において、先に手を出した日本への米国の自衛権はあるが、東京大空襲や原爆投下は国際人道法に反します。ただ、世界最強の国・米国を裁けるような力を持った主体がないというだけです。

ところで、イスラエル自体が1948年の第一次中東戦争以降、とくに1967年のヨルダン川西岸やガザも含めた広範囲を侵略した第三次中東戦争以降、ずっとパレスチナ人を侵略してきました。そして、米国の仲介でパレスチナにおけるイスラエルとパレスチナの「二国家並立」で合意した1993年のオスロ合意以降も、イスラエルは約束を守りませんでした。特に、シャロン元首相が聖地訪問を強行してムスリムを挑発した2000年以降のイスラエルのやったことは酷すぎた。ヨルダン川西岸にはユダヤ人入植を続け、ガザは天井のない監獄状態に置かれてきた。そして、断続的に戦闘が行われ、多くの場合はイスラエルによるパレスチナ人への一方的な殺戮となった。上記の状況がある中で、ハマス政権による反撃が行われたわけです。

イスラエルがこの75年間ないし56年間やってきたことはいわば「平和に対する罪」であり「戦争犯罪」です。もちろん国際人道法にも反しています。東京裁判に当てはめれば、いわゆるA級戦犯、B級戦犯、C級戦犯すべてを含んでいるのが、これまでにイスラエル政府がやってきたことです。

◆G7広島、イスラエル全面支持の「こんな人たち」を集めた黒歴史だった

にもかかわらず、特にハマス政権による「反撃」当初は、米英仏独伊加といった日本以外のG7首脳は一致団結して一方的にイスラエルに与しました。言うなれば旧白人帝国主義国家の醜悪な面を嫌というほど見せつけられました。

ウクライナのゼレンスキー大統領もイスラエルを全面支持してしまいました。ウクライナについていえば、残念の一言です。侵略者イスラエルを一方的に支持したことに一片の正義もない。そして、ロシアに対する「ウクライナ防衛」という大義名分を自ら投げ捨ててしまいました。ゼレンスキー大統領は調子に乗ったのか、最近の「反転攻勢」が上手くいかずに焦っているのか、どちらかわかりませんが、ともかく、自分で自分の首を絞めてしまいました。これで、グローバルサウス諸国の中には、ウクライナーロシア戦争について「白人同士で勝手にやっておけ」という本音になってしまった国も多いのではないかと思います。ゼレンスキー大統領が支持を失うのは自業自得としても、巻き添えを食うウクライナ国民にとってはこのことは悲劇ではないでしょうか。

筆者は改めて「こんな人たち」(米英仏独伊加首脳+ゼレンスキー)を広島に集めたG7広島サミットは、広島にとって「黒歴史」だった、ということを改めて強く確信しました。

さらにこんなサミットの誘致を「評価」したり「期待」したりしてしまった、特に左派野党の政治家たちには反省していただきたいものです。

◆日本も米国の「最初は煽って後から梯子外し」にご注意!

さて、当初、米国は「ハマスは純粋な悪」(バイデン大統領)などと言ってイスラエルを煽りました。それにも支えられてネタニヤフ被告人が調子に乗って虐殺しまくっている面は否定できません。だがその後、国際的なイスラエル批判の世論を見て、だんだん、米国も一時戦闘停止などを言いだすようになりました。これをイスラエル側から見ればある種の梯子外しとも言えます。もちろん、米国でさえも距離を置かざるをえないこんな大虐殺を引き起こしたネタニヤフの自業自得ではあります。それでも、日本にとってはこれを他山の石としなければなりません。

米国の高官やマスコミは、2022年ころから2023年の前半くらいに、特に「台湾有事」を煽り立てました。それに呼応して麻生太郎さんらが「台湾(中華民国)とともに戦う覚悟」などと勢いづきました。

だが、そもそも、米国も日本も中華人民共和国が中国を代表する政府だ、と認めています。台湾を中華人民共和国軍が武力攻撃するような事態は絶対に避けなければならない。中華人民共和国とて、台湾=中華民国=の半導体には大きく依存しています。

しかし、万が一起きたとしても、日本に少なくとも武力で手出しをする権利は全くありません。「日本の安全保障に関わるから」程度で出兵したのならロシアのプーチン大統領によるウクライナへの自称「特別軍事作戦」と変わりません。日本はプーチンに対するのと同様の非難を米国以外のほとんどの国から浴びかねません。そして、「侵略者」の汚名を着た日本は中華人民共和国軍に「侵略への反撃」と称した攻撃の口実を与えてしまいます。そうなると、米国は米国で「俺たちは知らない」と米軍をグアムあたりに退避させることもあり得ます。下手をすれば南西諸島は中国軍の「日本による侵略への反撃」と称したミサイル攻撃にさらされます。またも沖縄は中央政府の捨て石にされる。本土に住む我々も、食料やエネルギーが止まり、下手をすれば日本が経済制裁の対象にでもなったら餓死よりほかなくなります。

今回のガザ戦争拡大における米国によるイスラエルを「最初は煽って後から梯子外し」について、日本人は刮目しておく必要があります。

日本国憲法9条とはまさに手を出して自滅しないようにする安全装置である。9条がありながら、台湾有事という名の中国の内戦にのめりこみ滅亡、などというバカげたことにならないよう、日本政府をチェックしなければなりません。

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四国電力伊方原発3号機の運転差し止めを求めて、筆者自身も含む広島県民を中心とした住民が2016年3月11日に広島地裁に提訴した伊方原発広島裁判は大詰めを迎えています。

いま、地元を選挙区とする岸田総理がグリーントランスフォーメーション、脱炭素と自称して、原発推進に舵を切っています。3.11のフクシマ以降、民主党政権後半から安倍政権にかけて曲がりなりにも継承されていた脱原発ないし(自民党のマニフェストにも小さくですが記載されていた)脱原発依存も反故にされました。

また、総理の政策転換も背景に関西電力が高浜原発などの運転を再開。そこで発生した核のゴミを上関に押し付けようともくろみ、上関原発建設のめどが立たずに苦しんでいる中国電力と利害が一致。上関への中間貯蔵施設を計画し、この夏の短期間で町長にのませてしまいました。そうした中で、本裁判は終盤を迎え、2024年6月頃、結審になろうとしています。

本裁判のここまでの大まかな経過をおさらいしますと、以下のようになります。

◆同時進行の運転差し止め仮処分を高裁はいったん認めるも覆る

 

2016年3月11日の提訴と同時進行で原告=住民側が仮処分を申し立てました。これは、本裁判の判決を待っていたら、その間に伊方原発が事故を起こしてしまう危険があるからです。

紆余曲折を経て、2017年12月13日、広島高裁がいったんは仮処分を認めました。しかしながら、四国電力から異議が申し立てられ、2018年9月25日に四国電力の異議を認める形で運転差止が却下されました。そして、我々原告=住民側が新たに申し立てた仮処分申請も2021年11月4日、吉岡裁判長により却下されてしまいました。その後、我々は広島高裁に抗告しましたが、2023年3月24日、脇由紀裁判長により仮処分の申し立てはが却下されてしまいました。

◆これまで41回の口頭弁論

2023年11月1日現在、41回の口頭弁論が行われました。

2023年9月11日の第38回口頭弁論では、元広島大学准教授で地質学者の早坂康隆さんが原告側の証人として証言。四国電力が伊方原発は岩盤の上にあるから大丈夫という趣旨の主張をこれまでしている中で、早坂さんは伊方原発のすぐ北側600mの海底にある中央構造線は危険な活断層であることや伊方原発がある佐田岬半島は、ダメージゾーンにありひび割れだらけであることを暴露しました。

 

東日本の広い地域が、放射性廃棄物と同等の放射能汚染に覆われている(写真の黄色以上に濃い色の点が該当)

2023年10月4日の第39回口頭弁論では原告側証人尋問として、福島第一原発事故による避難者である鴨下美和さんと久保山康代さんが証言しました。鴨下さんは2022年12月14日に意見陳述をする予定でしたが、直前に被告の四国電力からの要求で裁判所が陳述を認めなかったという「事件」がありました。夫婦で放射性物質も扱う仕事をしていた鴨下さん。東日本の広い地域が、放射性廃棄物と同等の放射能汚染に覆われているという趣旨の指摘を行いました。

また、国の避難指示区域外からの自主避難のために賠償金は出ず、大変過酷な避難生活になったこと。先に避難した鴨下さんに対して、夫はいわきに残りましたが国の避難指示が無かったこともあり、『いわきは汚染などしていない、全く問題がない』と信じている周囲の人たちの中で、罵声を浴び、孤立したこと、若い人の突然死に二度も立ち会ったことから憔悴し、二年後に避難したことなどを回想。『願わくは、私たちのような思いをする人が、二度と出ないように。これ以上、原発によって国土が汚染され、人々の暮らしが歪められないように。祈りを込めて、私は、伊方原発の再稼働に反対します。』と結びました。

同10月11日の第40回証人尋問は原告側の野津厚さん(国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所、 港湾空港技術研究所領域長)の証人尋問の続きで、被告四国電力側による反対尋問が行われました。伊方原発が南海トラフ巨大地震の想定震源域のほぼ北西端に位置していることはよく知られていますが、四国電力は、「M9南海トラフ巨大地震が伊方原発敷地直下約41kmの地点を震源または強震動生成域として発生しても最大地震動は181ガルである。」と主張しています。

野津さんは、強震動地震学の専門家として、2011年のM9東北地方太平洋沖地震によって発生した地震波の研究から、南海トラフ巨大地震のようなプレート間地震では、致命的な地震波(キラーパルス)は一辺が数十kmのような大きな断層面(SMGA)から平均的に襲来すると考えるよりも、一辺が数kmのような小さい断層面(SPGA)から襲来すると考えた方が、実際の観測記録とよく一致するとして、キラーパルスの発生源はSPGAと想定しています。そして、野津さんはもっとも強力なSPGAを伊方原発に近いところに配置し、強震動計算を行ったところ、最大地震動は約1900ガル、地震波の最大速度が秒速約138cmという結果を得ました。なお、この計算では、伊方原発敷地は非常に強固な岩盤の上に立地しており、地震波の増幅特性はほとんどないものとして想定していますが、それでも、伊方原発の基準地震動650ガルの約3倍に相当します。

同11月1日(水)、第41回口頭弁論では、原告側の高島武雄さん(熱工学の専門家。元小山高専教授)への水蒸気爆発をテーマとしての証人尋問が行われました。福島原発事故の時、溶融炉心が原子炉建屋内のコンクリート構造に反応して水素が発生し(「MCCI」)、水素爆発が発生しました。

四国電力は水素爆発の防止策として、こともあろうに原子炉容器の底部(キャビティ)に水を張ることにしました。これだと溶けた炉心は水の中に落ち、なるほどコンクリート構造に接触しませんからMCCIは起こらず、水素爆発のリスクは大幅に軽減されます。しかし1000度以上に溶けた炉心が水に触れたとたん大規模な水蒸気爆発は起こらないのかという重大な疑問が起こります。常識的には水蒸気爆発の危険があると考えるのが普通です。しかし四電は「起こらない」と断言します。原子力規制委員会でこの問題の審査が行われた際、委員長の更田豊志さん(=当時)が「水蒸気爆発は起こらないと決意しなければ、なかなか水は張れませんね」と意味不明のコメントをしておられます。

「水張り」で大規模水蒸気爆発は起こらない、とする四電の主張の根拠は、過去に行われた国際的な研究や解析(経済開発協力機構=OECD のトロイ装置やクロトス装置を使った研究、欧州委員会のファロ研究、韓国原子力公社のコテルス研究など)から導いた結論です。ところが、肝心要のOECD の「セレナ研究」の結果を全く無視しているのが大きな特徴です。そのセレナ研究では「実際の原子炉内で大規模な水蒸気爆発が起こらないという確実な証拠がない以上、水蒸気爆発は起こると考えておくべき」という趣旨の結論を導いているのです。

◆今後の予定

今後は、以下のような予定です。

11月29日(水)10時半~、被告・四国電力側証人の金折裕司さん(山口大学 理工学研究科 教授)に対する『活断層』をテーマとした証人尋問が行われます。

12月18日(月)13時半~原告側証人の原告 伊藤正雄さん(原告団副団長)/証人 渡辺美和さんに対する証人尋問が行われます。

2024年1月22日(金) 13時半~ 原告側証人の原告 森本道人さん/原告 福島敦子さんに対する証人尋問が行われます。福島さんは2022年1月19日の第26回口頭弁論でも意見陳述をされています。南相馬市から京都へ避難した福島さん。この意見陳述では『福島市の避難所では「死ぬときは死ぬのだ」があいさつだった避難所の生活は忘れられなかった』『娘は「フクシマゲンパツ」とあだ名をされたこともあった。その日その日を精一杯「生きる」ことで過ぎていった』などと振り返っておられたことが筆者も昨日のことのように思い出されます。

なお、予定は変更の可能性もあります。
直近に原告団のホームページをチェックしていただければ幸いです。
https://saiban.hiroshima-net.org/

広島選出の岸田総理が全国の皆様にいろいろご迷惑をおかけしていることを深くお詫び申し上げますともに、伊方原発ストップ、また上関中間貯蔵阻止という結果をお届けできるよう、筆者も奮闘して参ります。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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◆「三バンなし」新人が自民推薦現職破る!

筆者は介護福祉士として広島県安芸郡海田町(かいたちょう)でも仕事をしております。2023年11月5日執行の海田町長選挙は、びっくり仰天の結果になりました。

岸田総理の選挙区内で、新人でほとんど支持団体や組織もない竹野内けいすけさんがなんと自民党推薦で3期目を狙う現職を1000票以上の大差で破る結果になりました。地盤、看板、カバンのいわゆる「三バン」があまりない候補が現職に勝った。ボクシングで言えば挑戦者が二度目の防衛を狙う王者に番狂わせのKO勝ちというところです。

海田町長選挙開票結果      投票率 38.29%
竹野内けいすけ 無所属新人       5133
西田祐三    無所属現職(自民推薦) 4035


◎[参考動画]広島・海田町長選 首相のお膝元で自民推薦の現職敗退 影響は?(広島テレビニュース 2023/11/06)

 

竹野内けいすけさん(右)と筆者(左)

◆広島市に包囲された「豊かな町」

海田町は、人口約3万人。筆者が住む広島市に包囲されるような地形になっています。2003年に広島市との合併協定に調印するも2004年に住民投票で撤回されました。背景には陸上自衛隊駐屯地や同じ安芸郡内府中町(ただし広島市により同じ安芸郡なのに分断されている。)に本社を置くマツダの関連工場が多くあるために財政が豊かであること、瀬野川と湧き水を利用した上水道が独自にあり、太田川を水源とする広島市と合併してしまうと、水道代が暴騰することが懸念されることなどがありました。

海田町は面積が狭いが、それだけにコンパクトな街の構造で、非常に暮らしやすい町と言われています。2022年には合計特殊出生率が1.86と日本全国平均はもちろん、先進国では出生率が高い部類のアメリカよりも高くなっています。同町は豊かな財源を活かしつつ、県内では子育て支援は充実している部類に入っています。

◆広島市職員を辞めて退路を断った竹野内さん

竹野内けいすけさんは今年43歳。海田町の筆者の勤務先のご近所で小さな建設会社をご両親が営むご家庭に育ちました。広島大学付属高校・大阪大学ご卒業後、京都市職員、そして広島市職員を20年間、務められました。2023年8月31日に広島市役所を退職して退路を断ち、3期目を目指す現職に挑むことを決意されました。

広島市役所と言っても、海田町自体が広島市に包囲されているような地形ですから、海田町から広島市役所に務める人も多いですし、逆に海田町役場に広島市から通う人もたくさんおられます。そして、竹野内さんご自身は町民として海田でずっと暮らしておられるわけですので、その点、不安がありません。

ちょうど筆者が、2011年1月31日に広島県庁を退職し、4月の広島県議選に挑んだことが昨日のことのように思い出されました。

ただ、地方選挙の特徴として、例えば海田町なら海田高校、そして大学も広島大学など地元出身の方が有利なものです。例えば、高校、大学とも県外の筆者はその点は不利ですし、竹野内さんの場合も、やや不利な点は否めないと思い、心配していました。

◆「エライ人」暴走に歯止めを掛けてほしいと

海田町議会では現町長の問責決議案が毎年のように可決されています。やはり、町民的な合意形成が不十分なまま、物事を進めていく現町長の在り方には筆者も危機感を持っていました。また、広島県内を全体的に見ても、住民の意見を十分に聞かずに、首長や教育長など「エライ人」だけで物事を進めてしまう状況が目立ちます。その結果、後からいろいろな問題が噴出するなどしています。

そうした中で、町民との対話集会を開くことを公約するなど、対話重視の町政への転換を訴えている竹野内さんに筆者も期待したものです。

 

手作り感満載。竹野内さんの選挙カー

◆手作り感満載の選挙カー

10月31日の告示日、竹野内さんの出発式は9時半からでした。ご両親の会社を兼ねた自宅を事務所とし、その玄関先に椅子を少数並べたものでした。現職はもちろん、国会議員、県議会議員、近隣首長など多数の応援を得た組織選挙です。

竹野内さんは、出発式を待たずに8時半過ぎに七つ道具を選管から受け取るとすぐに自宅兼会社の駐車場から選挙カーを発進させました。

なんと、竹野内さん自らが、脚立に載って、選挙カーの除幕を行う有様でした。筆者もお手伝いさせていただきましたが、間近に拝見した選挙カーの看板はまさに手作りそのものでした。正直、大丈夫かなと思いましたが、まあ、町長選挙は5日だし、国政や県政に何度か立候補し、他人の選挙参謀も務めた筆者の経験からしても5日くらいは大丈夫だろうと感じました。あまりお金をかけないという姿勢も大変好感しました。

◆ギリギリで差し切れれば御の字と思ったが

正直、相手はいくら評判が悪いとはいえ、現職で知名度は抜群。若い竹野内さんへの期待は日に日に高まってはいるが、なかなか厳しいだろうと思っていました。

最後にぎりぎりで差し切って、例えば100票差以内の勝利というのが筆者の想定する最も良いシナリオでした。

しかし、冒頭にもご紹介したとおり、なんと1000票以上の差をつけて、現職を破ってしまったのです。

投開票の翌朝=6日朝、筆者はいつもどおり出勤する前にお祝いの言葉を申し上げに竹野内さんの事務所に伺いました。親御さんによると、「本人もこの結果には驚いている」ということです。筆者も35%くらい竹野内さんが勝つ確率はあるが、勝っても僅差だと思っていたので驚きました。高齢者の中でも「若い人に任せないといけない」という声が確かに日に日に高まっているとは伺っていましたがまさかここまでの結果とは?!

◆「世代交代」「対話重視への転換」への期待を自民党の組織力で抑えきれず

今回の選挙を総括すると「若手への期待」「もっと対話を重視する行政への転換への期待」を「自民党の組織力」が抑え込むことができなかったということです。国政選挙と違って自民党の不人気が直接的に現職落選につながったかどうかはわかりません。ただ、新人への期待の流れを押しとどめるほどの組織力はいまの自民党広島県連にもないというところではないでしょうか?

本当に自民党が強かったら、竹野内さんのように支持団体が全くない状態から現職に挑んだ方が勝つのは難しかったでしょう。間違いなく自民党の弱体化は岸田総理の選挙区でも起きているのでしょう。

ただ、正直、「残念ながら」現時点では、いくらなんでも広島1区(中区、東区、南区、府中町、海田町、坂町)での岸田総理の落選につながるほどのことはないようにも思います。

◆自民は総理地元でも沈没中だが野党もパッとしない

ただ、他方で、露骨に野党が推薦したらたぶん、「いまの岸田さん、自民党に失望」「現町長に失望した」保守層の取り込みが難しかったでしょう。結果論ですが、支持団体がない、完全無所属での立候補が奏功したのではないでしょうか?

実際に、同時に執行された町議補選(改選数2)では29歳、39歳の無所属新人が当選しました。正直、筆者の海田町在住の同僚たちも「なぜ、この人たちがここまで票を伸ばして受かったのか?よくわからない。」という声が多数でした。

また、唯一の政党公認の共産党元職は補選候補者の中では抜群の知名度を生かせませんでした。次点にもならず4位に終わりました

自民党・岸田総理は目下、地元でも沈没中だが、野党も今一つ、ということが読み取れます。

◆海田町政の今後に注目

ともかく、まずは竹野内さんが公約通り、対話を重視する町政運営をきちんとやるかどうか?

まずは、街づくりの計画策定へ対話を進めていかれるそうです。筆者は隣の広島市民であり、海田町民ではありませんが、同じ広島都市圏の住民として、また広島県民として、注目していきます。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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広島空港(三原市本郷町)が10月29日、開港30年を迎えました。正確には「広島空港の本郷町移転30年」というべきでしょう。そして、この地域に空港が移転したことが広島の衰退の一因ということは良く地元では言われています。

広島空港HPより

◆元々は広島市内にあったが手狭で豊田郡本郷町へ移転

広島空港は、元々は広島市西区観音地区(天満川と太田川放水路に挟まれた)にありました。この旧広島空港は国管理の空港で、1961年に完成しました。32年間にわたり、広島の空の玄関として機能してきました。しかし、滑走路が短く、ジャンボジェット機が離着陸できない、また航空需要に離発着数の供給が追い付かないということから、新しい空港が1980年代に模索され、結局、豊田郡本郷町(市町村合併を経た現在は三原市本郷町)に1993年に移転しました。

当時、滑走路は南北に伸びており、北側は広島市西区の市街地で、とてもではないが土地買収すれば高い費用が掛かります。さりとて、瀬戸内海を埋め立てて滑走路を広げれば環境破壊との批判はまぬかれません。そうしたことから、地価の安い地域、それも、県内の当時の自民党大物政治家が関係する地域に移転されたという経緯があります。

西区観音地区の旧広島空港は、広島西飛行場と改称され、県の管理する空港に格下げされました。宮崎線や鹿児島線など短距離の路線に使用されてきました。

筆者が広島県庁に入庁した当時の2000年頃の広島では、
広島県=広島空港(本郷町だけに本県の空港機能を集約)
広島市=広島西飛行場も維持して、羽田線も復活させ、東京への本市の利便性を維持したい、
という対立構図がありました。

広島南道路建設のために滑走路を短縮せざるを得なくなりました。西飛行場の機能を維持・拡充したい広島市は南道路をトンネル方式にして滑走路を維持する方向を模索しました。しかし、2004年に橋梁方式での道路建設に県と市が合意。そのため、滑走路の短縮を余儀なくされました。そして、県自体が、空港運営からの撤退を表明。広島市はなおも広島市営の空港化を目指します。

しかし、広島市の秋葉市長の政権末期の2011年3月議会で広島西飛行場を市営空港にする条例案が当時は市長野党だった自民党主流派などの反対多数で市議会で否決されてしまいました。この結果、空港として使える展望がなくなり、2012年に県営のヘリポートになりました。

◆アクセスが課題「広島空港」こと「三原(本郷、白市)空港」

しかし、現広島空港は、正直、広島空港というよりは三原空港ないし、本郷空港、または白市空港(東広島市内の最寄り駅の名前より)と呼んだ方が適切な空港です。

移転当初から、広島空港へのアクセスは重大な課題とされてきました。例えば、九州の中枢都市の福岡空港は博多駅から地下鉄でたった二駅です。一方、広島空港は広島駅からクルマやリムジンバスで45-50分、広島バスセンター(広島県庁や平和公園近く)から55分くらいです。また、鉄道によるアクセスも不便で、最寄りの在来線の山陽線白市駅からバスで15分かかります。マイカーでも空港内の駐車場は全て有料で、無料の駐車場が広がる岡山空港と対照的です。

なお、二葉山トンネル含む高速5号線が開通すれば広島駅―広島空港は38分に短縮されますが、そもそも供用時期が2029年に延期されているうえ、度重なるトラブルでいつ完成するかも分からない状態です。また5号線が完成したとしても、当然、道路交通の泣き所として渋滞による速度低下のリスクは大きく鉄道に定時制では劣ります。

過去にはアクセスのための鉄道も計画されました。JRに県などが打診をしてきたものの、むざむざ自社の新幹線が飛行機に客を奪われる結果になる空港アクセス鉄道をJRがつくるわけがありません。まだ、JRが国鉄であれば、国の指示で、アクセス鉄道を造らせるという手もあったでしょう。しかし、現実にはJRは民間企業です。県内でも芸備線の廃止まで検討しており、空港のために新線をつくるどころではないのは火を見るよりも明らかです。そんなものをJRが作ったらそれこそ、JR西日本幹部が株主から背任罪で告発されかねません。

そこで、広島県自身が独自にアクセスの鉄道を造る計画も検討はされたものの、2006年に凍結されています。

◆東京アクセスの主役から転落!

こうした中で、広島西飛行場から東京へのアクセスの主役を奪ったはずの広島空港も主役を新幹線に奪われていきます。すなわち、2002年度に広島-東京の旅客シェアは航空機 vs 新幹線で62% vs 38%だったのが2008年度には50% vs 50%になり、さらに2016年度には37.3% vs 62.7%となり、現在では新幹線が圧倒しています。

おまけに2012年には強力なライバルとして(岩国基地拡張強化の見返りの側面が強いが)岩国基地を民間に開放した岩国錦帯橋空港が開港しています。同空港は岩国駅から2.5kmです。それこそ、体力に多少の自身がある方なら岩国駅で降りて、歩きながら市内の観光を楽しみつつ、途中の商店街のレストランで食事・休憩をして搭乗、という楽しみ方もできますし、筆者も暇とお金さえあればやってみたいと思っています。もちろん、条件付きですが空港の駐車場も無料です。

かつては西飛行場=旧広島空港が存在意義を問われたのですが、いまや、移転先の広島空港自体が存在意義を問われかねない瀬戸際にあります。

◆交通の在り方について県民的な議論を!

そもそも、何で、こんなに広島市から遠い空港なのか? それをいまさら言っても仕方がありませんが、現実には、新幹線や岩国錦帯橋空港の方が東京へ行くには便利です。海外へいくにしても、広島空港は中途半端です。筆者自身も広島に在住するようになってからの三度の海外旅行(2004年のベルギー、2007年のノルウェー、2009年の韓国)では、広島空港ではなく関西空港しか使ったことはありません。本当は、広島市安佐北区あたりに空港を造ればいいという話もあったし、今となってはその方が良かったと筆者も思うのですが残念ながら今となっては後の祭りです。

もうひとつ、「1990年代に強行された広島市外への移転」が広島衰退の一因となったものとしては、広島大学が広島市から東広島へ移ったことがよく地元では挙げられます。しかし、広島大学については、2023年度から法学部が広島市中区に戻っています。広島市中区には地裁、家裁だけでなく、高裁もあり、それこそ、法学部生の生きた教材がそこにはありますから再移転は正解でしょう。少しでも広島の衰退に歯止めがかかることを願います。

しかし、大学の再移転はできても、空港(の移転)は本当に頭の痛い負の遺産となっています。

もちろん、広島県や広島市だけで解決できる問題でもないでしょう。国全体の交通政策の課題でもあります。しかし、まずは広島県民が交通の在り方についてもっと議論を深めていくことが重要だし、湯崎英彦知事も、県議ももっと、議論を促していくべきではないでしょうか?

例えば、ドライバーなど人材不足の今、
・(高速5号線二葉山トンネルを含め)「三原(本郷、白市)」空港へのアクセスへの投資
・県内各地から広島市への公共交通を維持・充実(バスも鉄道も)させる
のどちらに重点を置いた方が良いか?
ということも問われます。

筆者なら後者に重点を置いた方が良いと考えます。そもそも、冷静に考えて、海外や東京の方が観光をするにしても広島駅で降りて広島市が軸になる時代が今後も続くだろうし、広島県民にとっても、広島市へのアクセス充実・維持をした方がトータルでは生活や仕事の上でも実利があると思われるからです。

「県民によく考えられると困る」政治家も中にはいらっしゃるかもしれませんが、広島県が人口流出全国ワーストワンを二年連続で続ける中、きちんとした議論は避けて通れないのではないでしょうか?

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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