《脱法芸能20》今陽子──『恋の季節』ピンキーの復帰条件は「離婚」

渡辺プロダクション元取締役の松下治夫は、著書の『芸能王国渡辺プロの真実。―渡辺晋との軌跡―』(青志社)の中でこう述べている。

「女性タレントを扱っていて、かならずといっていいほど直面するのは、やはり恋愛問題だ。恋愛沙汰というのは、タレントの商品価値を落とすことに直結する。イメージを損なってしまったら、その時点でそのタレントは終わりになってしまう。だから、ぼくらも慎重にならざるをえない。ぼくなんかは単刀直入に、恋愛をやめろ、と言う」

これが芸能界一般の常識である。前回紹介したように、ちあきなおみも郷鍈治との結婚を機に芸能活動が停滞し、カムバックの報道とともに離婚に向けた報道が流されたが、かつてボサノバグループのピンキーとキラーズで一世風靡した今陽子も、業界から仕事のために離婚を強要されたタレントの一人だった。

◆1968年の『恋の季節』

今陽子は1967年にビクターレコードからデビューしたが、曲はヒットせず、68年にキングレコードに移籍。そして、新たに結成されたグループ、ピンキーとキラーズのボーカル、ピンキーとなり、リリースされた『恋の季節』は240万枚という大ヒットとなり、今陽子は国民的アイドルとなった。

1968年に発売されたピンキーとキラーズの『恋の季節』は240万枚の大ヒット

だが、ピンキーとキラーズは72年に解散し、今陽子の人気も下降線をたどっていった。私生活では、74年にモデルの松川達也と結婚し順調だったが、ピンキーとキラーズとしてデビューしてから10年目の78年に突如として離婚騒動が持ち上がった。

78年4月15日、松川は深夜に帰宅し、翌日、友人を招いて麻雀をすることを思い出し、「おい、あしたマージャンするんだったら、おれがメンバー集めるぞ」と言うと、「私、それどころじゃないわよ。いまはそんな気になれないわ」と言葉をにごし、そのうち、真剣な顔をして「離婚したいんだけど……」と切り出した。

その理由は、「まわりの人たちからもいわれるの。“このままの状態では中途半端になっちゃう。歌手としてもういちどやりなおすんだったら離婚したほうが、過程をたいせつにするんだったら、歌手をやめるほうがいいんじゃないか”って」という。

そして、4日後の4月19日、松川が目を覚ますと、今は置き手紙を残し、仕事で仙台にでかけていた。手紙の文面は次のようなものだった。

「達也さんへ。なんだか、こういうことになってしまってごめんなさい。でも本当に楽しく平和な結婚生活でした。達ちゃんはやさしすぎるのです。だから私は悩むのです。そして理解がありすぎるのです。だから私は困ります。

(中略)

しばらくはさわがれるのでたいへんだけど、落ち着いたら、又デートをしたり食事をしようね。だからあんまり悲しまないで仲よく別れましょう。

ヘンな云い方だけど、お互いにこんなに好きなんだから、又人生のチャンスがあるかもしれないし、家へも(どこになるかわからないけど)遊びに来てね。とにかく一人になって達ちゃんが心配です」

そもそも、今と松川が出会ったのは、74年2月、東京、帝国劇場で行なわれたファッションショーでのこと。当時、トップモデルだった松川にゲストで招かれた今が一目惚れし、知り合って3ヵ月後に婚約を発表し、10月にホテルオークラで盛大な披露宴を開いた。手紙にあるようにその後の夫婦関係も円満そのものだった。突然、離婚を突きつけられた松川は、悪い夢でも見ているような思いがしたが、5月30日、2人は正式に離婚した。

◆復帰条件に「離婚」を強要される

離婚の原因は何だったのか。

『週刊平凡』(78年5月11日号)に、今の離婚騒動の内幕が書かれている。

78年1月ごろ、人気が低迷していた今に「もういちど死にもの狂いで再起してみないか」として、新曲『誘惑』の仕事の話が舞い込んできた。今の周囲の人間は「離婚してでもやる気があるのか」と問いただしたという。

さらに2月、西武劇場の8月公演での出演オファーが入ってきた。その時、「ヌードになれるか」「ピンキーという名を使えるか」「離婚できるか」という3つの条件が突きつけられたという。

仕事に行き詰まり、悩んでいた今は、これに飛びつき、離婚を決意したのである。離婚後、今は「恋はしたいけど、もう結婚はしないつもり」と語った。

その後、日本では、85年に男女雇用機会均等法が施行され、現在、政府は「女性が輝く日本」と銘打ち、女性が家庭と仕事を両立するための環境が整備されてきたが、芸能界はどうだろうか。

近年も、沢尻エリカが高城剛と結婚してから、所属事務所との関係が悪化し、その後、芸能界復帰の条件として離婚が突きつけられ、2013年12月28日に離婚が成立した。

芸能界では昔も今も明確な人権侵害が公然と行なわれ、それに対して非難の声が上がったことがない。一種の治外法権のような世界なのである。

 

▼星野陽平(ほしの・ようへい)

フリーライター。1976年生まれ、東京都出身。早稻田大学商学部卒業。著書に『芸能人はなぜ干されるのか?』(鹿砦社)、編著に『実録!株式市場のカラクリ』(イースト・プレス)などがある。

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