12月4日から10日まで「人権週間」であるという。法務省のHPには、

平成26年度北朝鮮人権侵害問題啓発週間ポスター(法務省)

「国際連合は,1948年(昭和23年)12月10日の第3回総会において,世界における自由,正義及び平和の基礎である基本的人権を確保するため,全ての人民と全ての国とが達成すべき共通の基準として,世界人権宣言を採択したのに続き,1950年(昭和25年)12月4日の第5回総会においては,世界人権宣言が採択された日である12月10日を「人権デー」と定め,全ての加盟国及び関係機関が,この日を祝賀する日として,人権活動を推進するための諸行事を行うよう,要請する決議を採択しました。我が国においては,法務省と全国人権擁護委員連合会が,同宣言が採択されたことを記念して,1949年(昭和24年)から毎年12月10日を最終日とする1週間(12月4日から同月10日まで)を,「人権週間」と定めており,その期間中,各関係機関及び団体の協力の下,世界人権宣言の趣旨及びその重要性を広く国民に訴えかけるとともに,人権尊重思想の普及高揚を図るため,全国各地においてシンポジウム,講演会,座談会,映画会等を開催するほか,テレビ・ラジオなど各種のマスメディアを利用した集中的な啓発活動を行っています。皆さんもお近くの催しに参加して,「思いやりの心」や「かけがえのない命」について,もう1度考えてみませんか?」とある。

なるほど、「人権」意識の啓発は確かに意義がある。殊に「個人情報保護法」や「特定秘密保護法」が「人権」侵害の蹂躙を巧みに準備している今日、また隠された放射能汚染により命の危険が身に迫る庶民にとっては、国の横暴から身を守るすべとして「人権」の正しい理解が進むべきだ。

第33回全国中学生人権作文コンテスト入賞作文集(法務省)

◆奴らは無垢な中学生さえも悪用する

と、書き出したのは新聞に不思議な広告を目にしたからだ。

北朝鮮人権侵害問題啓発週間 12月10日(水)~16日(火)」との見出しで横には「日本に帰る! その日を信じて・・・」と書かれたポスターが掲載されている。どこかの拉致問題関係団体か民間右翼が主催するのかな、と思い紹介文に目を通したら、何と法務省がスポンサーの広告ではないか。

その横には「全国中学生人権作文コンテスト」で昨年、内閣総理大臣賞を受賞した中学生の顔写真と作文の要旨が紹介されている。

作文の題は「それでも僕は桃を買う」だ。

記事では「昨年度は、○○(記事では本名)さんの『それでも僕は桃を買う』が内閣総理大臣賞を受賞しました。この作文は、福島産であることを理由に、国籍の違いで差別を受けた自分を投影し、偏見を持たない差別をしない姿勢の大切さを訴えかけています」とある。

中学生はこの作文で一番伝えたかったことして、「福島産の桃が偏見を持たれて差別されていることと実体験と重なり、差別される側の気持ちを知っている身として、この間違いを伝えていかなければいけないと思い、この作文を書きました」と記している。

無知な善意を悪用する政治権力の薄汚さにムカつきを覚える。奴らは無垢な中学生さえも悪用する。

法務省のHPで作文の全文を読んでみた。中学生は心優しい子に違いない。自分が差別された経験から想像を豊かにして「偏見」や「差別」は許されないと考えている。そこまでは間違ってはいない。だが中学生は「差別」と「区別」を混同してしまっている。全くもって仕方のないことではある。大人でも放射性物質の危険性を正しく認識できていない人も多数いるし、テレビ、新聞では放射性物資の「正しい危険性」などほとんど報道されないし、学校でも教えてはもらえないのだから。

年齢が低いほど人間は放射線への感受性が強いこと、現在流通している食物、ここで言えば「桃」の出荷規制基準は1キログラムあたり100ベクレルであり、それは福島原発事故前の汚染濃度の1000倍に相当すること、同時に事故前1キロあたり100ベクレルは「低レベル放射性汚染物」であったことなどをこの中学生は知らないに違いない。中学生の「無知」を謗るのは気の毒だ。

同時に福島の農家への温かい眼差しには何の悪意もないどころか、人間的な視点にあふれている。

だが(もうここで私が繰り返すまでもないが)、福島(福島だけではない、広く東日本)は深刻に汚染されてしまった事実は消し去れない。農家には全く罪がない。いや罪がないどころか農家は明らかな「被害者」だ。「被害者」などという言葉では足りない。物静かで我慢強い東北の農家。彼らの糧である土地を修復不可能に汚染した犯罪者は東京電力とこの国の政府だ。贖われるべきは放射能被害被災地の人々の生活であり、健康だ。中学生が善意で「桃を買う」ことは犯罪を隠ぺいする行為に加担させられているだけであると気が付いてほしい。

東京の駅頭などで地元から持ってきた作物を売っている福島県の農家の方を目にすると、何とも複雑な気持ちになる。心の中で「ごめんなさい」とつぶやきながら目を合わせることができない。こんな関係性を作り出した連中を心底許せないと思う。

◆「拉致問題」解決を「北朝鮮敵視」にすり替えた安倍自民

で、「北朝鮮人権侵害問題啓発週間」である。

「北朝鮮当局による人権侵害問題に対する認識を深めましょう」とのリードで始まる文章はもうここで紹介したくない。

私は朝鮮民主主義人民共和国の政治が好ましい状態だとは全く思わない。同国は独裁国家であり人権問題が多数存在するだろうと認識している。日本人拉致も重大な犯罪だ。拉致されたご本人、ご家族の苦境は底知れないと思う。

しかし、拉致被害者の家族は明らかに恣意的な勢力に利用されている。私は拉致問題を本気で解決しようと思うなら朝鮮と直接交渉をして、机の下で幾らの金を渡してもいいから人命第一で交渉するしか方法は無いと考えてきた。そうしなければいたずらに時間が過ぎるし、被害者ご当人、家族にとっての心労が増すだけだからだ。

が、安倍を先頭に、拉致被害者家族を取り巻く連中はそうはさせなかった。「拉致問題」の解決を「北朝鮮敵視」にすり替えて、被害者家族を利用し尽した。「北朝鮮は危険な国だぞ!北朝鮮はミサイルを飛ばしてくるぞ!支援なんかもってのほかだ!」と世論を煽り、国会議員の多くは「拉致被害者救出に協力する意思表示」の青いバッチを身に着け始めた。在日朝鮮人、韓国人の人への差別も「拉致問題」をきっかけに極めて悪辣になり、「いい朝鮮人も悪い朝鮮人も殺せ」というプラカードが平然と街を闊歩するようになる。「拉致問題」を政府は軍事化に利用し、民間右翼は更なる「差別」の助長に利用しただけだ。奴らに「拉致被害者の早急な解決」意思など微塵もない。

独裁国家に「圧力」をかけたら意固地になるに決まっているじゃないか。現代の国際紛争や過去の戦争を見れば一つの例外もなく「サンクション」(経済制裁)は当該独裁国の反発しか生んでいない。更に「拉致問題」を米国の力を借りて解決しようと被害者家族を米国議会に送って発言させるに至っては、狂気の沙汰としか表現できない。問題解決を目指すなら決定的な逆効果だ。

かつて拉致被害者家族会の事務局長を務めていた蓮池薫はやがてこのことに気が付き、「家族会」を離れることになる。最近の蓮池さんは「家族会事務局長」当時の憑き物が落ちたように穏やかな表情になり、私同様「北朝鮮を潰しては被害者も返って来ない」との立場から発言されることも多い。

だいたい「人権週間」に税金を使い特定の国を名指しで攻撃する「啓発」などどのように合理的な理由づけができるというのだ。人権問題を抱えた国など世界中にあるではないか。いや、世界を見渡さなくとも「人権週間」に「被曝強要作文」に最高賞を与えたり、特定の国に言いがかりをつけて無駄金を使う国の権力者にこそ「人権教育」がなされるべきだ。しかし、ここまでの「確信的」人権蹂躙犯罪者には「教育」で矯正は無理だろう。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

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