人質処刑のタイムリミット過ぎたが、本稿執筆現在までのところ悪い知らせは届いていない(1月24日に人質の一人、湯川遥菜さんが殺害されたとされるビデオ映像が動画サイトに投稿されたものの真偽は未確定)。条件や交渉内容はどうであれ人質の解放が切に望まれる。

そして、日本政府が思い知るべきは、今回安倍が5億ドルの「対テロ支援」を宣言したことにより、このような事件が引き起こされたという教訓である。

安倍は「いや、あれは人道支援だ」などと、この期に及んで言い訳しているが「このような過激集団には毅然と対応する」と事件直後に語っていたではないか。その時の安倍の内心は「よっしゃ! 思ったより早く仕込みが効いてきたわい」ではなかったか。もう取り返しはつかないけれども、国際政治で「敵」をわざわざ作り出すような愚かな行為を繰り返さないことだ。

日本国内でも安倍の気まぐれな「対テロ支援」については批判が高まっているし、人質解放に向けて際立った判断や交渉が進展しているふしはない。欧米列強も口では「支援」と言ってはいるけども内心「日本の事は日本で解決しろ」という態度が見て取れる。特に米国の日本無視は露骨だ。

◆「安保と危機管理」に精通した石破国務大臣を人質の身代わりにしてはどうか?

そこで、私は「イスラム国」も必ず飲む交渉方法を提案する。

石破国務大臣 (地方創生・国家戦略特別区域担当)を2人の人質の代わりに差し出すのだ。そうすれば交渉の時間は稼げるし、いくら武装勢力とて「簡単」に現役の大臣を処刑することは出来ないだろう。何故石破氏かと言えば、彼こそは最近の政権右傾化と軍事化を先頭でけん引してきた人間であるからだ。国防の重要性やテロの危機を常に口にして防衛大臣の椅子にも座った。本音を言えば「安倍本人を」と言いたいところではあるが、さすがに首相自らが現場を離れることは難しかろうから、大臣が適任だ。

即だ。石破氏をシリアに飛ばすのだ。石破氏は嫌がりは出来まい。これまで散々「テロの危機」を説いてきたご本人だ。その危機に対応するのは政治家としての道義的義務でもある。心配しなくとも「地方創生」の仕事など、石破氏は実際には何の興味もないのだし、彼がいなくともがなくとも代わりはい幾らでもいる。「戦争」や「テロ」を語るからには現場に赴き自分が体でその緊張感と現実を体験してくるのが何よりの勉強ではないか。「軍事オタク」としても戦場で人質になる、これ以上、刺激的な体験があろうか。

◆安倍自民は「よど号」ハイジャック事件に学べ!

私の提案は荒唐無稽に聞こえるだろうか。でも同様の人質交換には前歴がある。1970年赤軍派による「よど号」ハイジャック事件の際、ソウル金浦空港で膠着状態に陥った機内に民間人の人質に代わり、単身乗り込んでいったのは山村新治郎議員だった。彼が一人で人質となり「よど号」はソウルを離れそのまま朝鮮に飛んでいった。山村氏は朝鮮で数日を過ごしたが帰国し、春日八郎が「身代わり新太郎」という歌まで歌ったほど、一気に時の人となった。

どうだ。この歴史を見れば石破氏には「世界のイシバ」と名をはせる絶好のチャンスではないか。また、安倍も本心では石破を嫌っているから、最悪石破が銃殺されても「心外だ。石破氏の死を無駄にはしない」と一応沈鬱な顔で語ればいいだけの事で、目の上のたんこぶを除去できるではないか。おまけに武装勢力の恐ろしさもさらに誇張できる。これぞ誰もが損をしない最高の解決策ではないか。

冗談に聞こえるかもしれないけれども、武装勢力を敵に回すということはそういうことだ。少なくとも彼らはこれまで日本を敵視はしてこなかった。これは「イスラム国」に限らず「タリバン」しかり、あるいはアラブ諸国全般に言えることだ。日本は欧米と親密でありながら、アラブの側は日本を欧米と同列に扱ってはこなかった。とても幸いだったのだ。

ところが、この僥倖もまたしても安倍の愚劣な思い付きにより、破綻を見ることになった。安倍自身が言うようにこれから日本人を狙った同様の攻撃は増加するだろう。日本自身が「あなたたちに敵対します」と宣言したのだから仕方がない。

安倍! お前はどうやって責任を取れるというのだ!

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

◎「イスラム国」人質事件で見えてきた「人命軽視」の安倍外交
◎2015年日本の現実──日本に戦争がやってくる
◎「シャルリー・エブド」と「反テロ」デモは真の弱者か?

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