イスラム国は、日本人人質2名を条件を飲まなければ処刑すると宣言した。前日に安倍が、中東諸国に25億ドルの援助を発表した直後の発覚だった。

しかし人質にされている方は昨日今日に身柄を拘束されたわけではなく、昨年来イスラム国側から保釈の条件を交渉するメールが御家族に届いていたという。御家族はもちろん政府に相談をなさっていたようだが、結果的に政府は身柄釈放に配慮することなく、イスラム国への宣戦布告に等しい周辺諸国への多額の援助を発表した。

◆「命」を救う気があるのか?

私は不思議なのだが、首相とはいえ25億ドルもの援助を事前に国会や政府の了解がなくとも勝手に決めても問題はないのだろうか。巨額の援助は外交政策だけでなく、予算にも関わる事項ではないのか。

何よりも昨年来、身柄を拘束されている方の「命」について何らかの戦略や配慮があるのだろうか。

ジャーナリストでイスラム国と独自のパイプを持つ常岡浩介氏は、人質解放のチャンスはあった、と述べている。もっとも常岡氏自身が大学生がイスラム国へ参加を計画していた嫌疑の協力者との咎により日本政府によりパスポートを没収されているそうで、動きが取れなかったようだ。

私は安倍が中東への対テロ対策援助を発表した時点から、安倍は意識的にイスラム国を刺激したがっているなと感じていた。そしてそれは現実のものとなった。イスラム国は人質開放の条件として中東援助と同額を支払え、と要求している。

武装勢力による人質事件の場合、解決には当事者同士ではなく、仲介役が大きな役割を果たす場合が多い。仲介役は表立って名前を出す時もあるけども、全く報道などに名前を出さないこともある。

日本政府は「英国や欧州の国と情報交換を行って」などとほざいているが、イスラム国からすれば、それらの国はいずれも敵国だ。素人目には全く成果が望めないのではと考えてしまうが、安倍や外務官僚には秘策があるのだろうか。

◆イスラム国から敵視されていない交渉役を抜擢せよ!

安倍は一応、人命尊重と口にはしているけれども、その前後の文脈から人質の命についての真剣味は感じられない。安倍は最初から、過激主義とイスラム教は違う、など的外れも甚だしい無知を毎日のように披歴しているけれども、私は訝る。

安倍の本心はイスラム国による邦人の犠牲者を期待しているのではないか。国内でもテロを警戒するよう指示したというが、その原因を作ったのは誰だ? テロが起これば軍事化へ向けた格好の口実に利用できる。安倍はテロを期待してはいまいか。

イスラム国の本質について私は正確な分析を行う情報を持ち合わせていない。しかし、自分がイスラム国の人間であれば、と仮定して考えれば自ずと展開は予想できる。

今、常岡さんやイスラム国に繋がりがある同志社大学客員教授の中田考さんが交渉役を担っても良いと表明している。人質の解放を望むなら彼らに交渉を依頼すべきではないか。

少なくとも彼らはイスラム国からは敵視されていない。彼らを猜疑的に疑い、前述の大学生がイスラム国参加問題が起きた時二人の自宅を家宅捜索したのは、日本の警察だ。

無能な外務官僚や安倍より交渉に於いては期待できる方々だろう。だが、それを政権が許容するだろうか。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

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