「731部隊展覧会実行委員会/新宿区婦人問題を考える会」が主催する「731部隊を検証する 4.11公開学習会」に行ってきた。講師は、「731部隊」の研究では第一人者である、慶應義塾大学名誉教授の松村高夫氏だ。

たとえば文部科学省は、昨年1月、教科書検定基準を改定し、近現代史では、「政府の統一的な見解、または最高裁判所の判例が存在する場合には、それらにもとづいた記述がされていること」としたが、731部隊について記述した教科書は「政府見解と異なる」として検定意見をつけられる恐れがある。

なぜなら、731部隊は人体実験を行い、細菌兵器を開発、製造し、多くの中国人や朝鮮人、モンゴル人を殺してきた。だが、日本政府の見解は異なるからだ。2012年には、服部議員が国会で質問主意書を出したが、「731部隊は、防疫給水活動をしていたの であり、人体実験や細菌戦を行った資料はなく、事実と認めらない」と答弁した。日本政府は、ずっとこうした見解を崩していない。

だが、中国・黒竜江省で731部隊跡を世界文化遺産に登録する準備が進められているが、もしユネスコで登録の 議論が深まり、登録が実現して世界の注目を浴びるようになったら、果たして日本政府は外圧に負けずに、同じ回答を維持できるのだろうか。

◆731部隊当事者から聞き取りを行った「フェル・レポート」の存在

「731部隊」研究の第一人者、松村高夫=慶應義塾大学名誉教授

そうしたことを踏まえての松村名誉教授の講義は、当時の731部隊の関係者から聞き取りを行った「フェル・ レポート」や「ヒル・レポート」にも言及した。たとえば、「フェル・レポート」にはこう記述がある。「炭疽菌」についての記述だ。

『野外試験の完全な細部の記述と図表がある。ほとんどのばあい人間は杭に縛りつけられ、ヘルメットとよろいで保護されていた。地上で固定で爆発するもの、あるいは飛行機から投下された時限起爆装置のついたものなど、各種の爆弾が実験された。雲状の濃度や粒子のサイズについては測定がなされず、気象のデータについてもかなり雑である。日本は炭疽の野外試験に不満足だった。しかし、ある試験では15人の実験材料のうち、6人が爆発の傷が原因で死亡し、4人が爆弾の破片で感染した(4人のうち3人が死亡した)。より動力の大きい爆弾(「宇治」)を使った別の実験では、10人のうち6人の血液中に菌の存在が確認され、このうち4人は呼吸器からの感染と考えられた。この4人全員が死亡した。だが、これら4人は、 いっせいに爆発した9個の爆弾との至近距離はわずか25メートルであった。』(『<論争>731部隊』(松村高夫著)より。

これだけとってみても、日本政府は嘘つきだ。731部隊はガチンコで人体実験をしているではないか。これは、 「細菌戦に従事してきた日本の重要な医学者」に聞き取りをしたレポートなのである。

松村名誉教授は語る。

「細菌散布による犠牲者は、8地域で死者数合計1万694人が認定されています。いまだに被害者数をはじめ、731部隊と細菌戦の実態が明らかにならないのは、資料の隠匿にも起因しています。公開された関連資料には、ソ連のハバロフスク裁判 (1949年)の「公判書類」、アメリカの戦後1945~47年の4次の報告書、(特にフェルとヒルの報告書が重要)、中国の『細菌戦と毒ガス戦』(1989年)などがあるが、肝心の日本が資料を公開していないのです」

◆731部隊の石井四郎軍医にも尋問している「ヒル・レポート」

「731部隊」を率いた軍医、石井四郎にも尋問した「ヒル・レポート」にはこうある。

『倉沢の病理標本は、ハルビンから石川太刀雄によって1943年に持ってこられた。それは、約5000の人間の事例からの標本から成っている。そのうちの400だけが研究に適した標本である。ハルビンで解剖された人間の事例の総数は、岡本耕造博士によれば、1945年に1000以下であった。この数は石川博士が日本に帰ってきたときのハルビンに現存していた数より約200多い。最初に提出された標本目録の結果からして、多くの標本が提出されていないことが明らかであった。しかしながら、最初提出されたよりも著しく多い標本の追加的コレクションを入手するには、多少催促をするだけでよかった。』

「ヒル・レポート」によれば、様々な疾病毎の事例数と研究に適した標本の事例数は、850の記録事例があったが、401例が適した標本であり、317例は標本がない。これは岡本博士の説明によるものであり、彼は500を越えない事例が石川博士によりハルビンからもってこられたことに疑いをもっている、とのことだ。

「最初に提出された標本目録の結果からして、多くの標本が提出されていないことが明らかであった」の部分に はあきれる。石井四郎軍医は、「アメリカにすべての資料を提出」することで戦犯を逃れ、命ごいをしたにもかかわらず、まだ何かを隠そうとしていたのだ。

「731部隊の戦犯」たちよ! 僕はこの戦犯たちを決して許さない。もしも許したときに、国家がまた戦争に突入したような「暴発」が始まるとも限らないのだから。政府よ!「731部隊」の戦犯が何をしたか明らかにせよ。そのことが最大の「反戦」である。

(小林俊之)


[参考動画]731細菌戦部隊と現在(1)松村高夫=慶應義塾大学名誉教授(2014年3月31日公開)

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