10月25日の新日本キックボクシング協会・伊原プロモーション興行「MAGNUM.39」に於いて今後のビッグマッチが期待されるチャンピオンクラスが出場。

日本チャンピオンから一歩上の“東洋クラス”での戦いを重ねる、新日本キックの“殿堂チャンピオン”と言われる元日本チャンピオンの石井達也(目黒藤本/ライト級)、緑川創(目黒藤本/ウェルター級)、喜多村誠(伊原/ミドル級)の3人と、メインイベンターを務めたWKBA世界スーパーバンタム級チャンピオンの江幡塁(伊原)とツインズ兄・睦含め5人は、今後進むステージが険しいものとなろうとも挑まなければならない最高峰が立ちはだかっている。しかしその出番がいつなのか待ち構えるのも辛いものがあるかもしれない。

◆江幡塁 VS プラーップラーム(タイ)

毎度の江幡ツインズの相手は未知数のテクニシャンで苦戦を強いられる試合が多い。今回の江幡塁(伊原/24歳)も56.0kg契約ノンタイトル5回戦で、無名ながらプラーップラーム・バーンボー・ウィッタヤーコム(タイ)のしなやかな蹴りとスピードに「被弾する、攻め倦む、ラウンドは長引く」といった流れを予想してしまうが、被弾も覚悟でパンチとローキック主体にいろいろな攻めパターンを試し、ボディブローで弱点を突き、見事2ラウンド2分33秒KO勝利に導いた。

「新日本キックに新しい伝説を導きます。その為にもラジャダムナン王座獲りにいきます。」
いつもマイクを掴むと大きな声で滑舌よくアピール。早口でも下手なリングアナウンサーより聞き取りやすいのが見事な声量。兄・睦とともにツインズでムエタイ王座同時奪取となれば新たな歴史に名を残すところ、一昨年、そのチャンスに挑んだツインズだったが揃って敗戦。2年前より更に成長したツインズ。伝説を作るには今後のチャンスを逃がすわけにはいかない。

江幡塁(右)vsプラーップラーム戦。カミソリのような切れ味、効くというより "バシッ"と痛そうな塁のローキック

◆重森陽太 VS 内田雅之

日本フェザー級タイトルマッチは、1位.重森陽太(伊原稲城/20歳)が2階級制覇。チャンピオンの内田雅之(目黒藤本/37歳)を判定で下す。重森は1年前の昨年10月、減量苦から瀧澤博人(ビクトリー/24歳)に2-0の判定で敗れ日本バンタム級王座を明け渡すも、今年3月、フェザー級に上げての初戦で内田雅之と59.0kg契約ノンタイトル戦で対戦し、鋭い蹴りで優位に立ち、判定で僅差ながら3-0判定で勝ってしまった。当然今回、王座挑戦資格を持って再戦。内田雅之も、チャンピオンのプライドを懸けての5度目の防衛戦。通常、再戦はチャンピオンが修羅場を潜り抜けてきた経験値で上回り、挑戦者を退けるパターンが多いが、重森の成長度は著しく、そうはいかないパターンだった。重森の鋭い蹴りは早々から主導権を奪い、その優勢を守りきり、3-0(50-48、50-48、50-47)で第9代日本フェザー級チャンピオンとなる。試合後、内田は第2ラウンドに重森のミドルキックを受けて左腕を骨折していたことが発覚。内田はセコンドにも告げずラウンドを重ねた。4度防衛の経験値で最後まで諦めない戦いを貫いた内田雅之であった。

内田雅之(左)vs重森陽太。長い足を利した重森の伸びあるハイキック、今後の脅威となるか

◆緑川創 VS ジン・シジュン(韓国)

緑川創(目黒藤本/28歳)は韓国の突貫ファイター、ジン・シジュンが前に出てくるところを左ヒジ打ちを合わせ、額をカットし3ラウンド28秒TKO勝利。ここ3戦は勝っても負けてもヒジ打ちで切ったり切られたり、接近戦の賭けが明暗を分けるスリリングな試合で、その勝負度胸を持って目指すはラジャダムナン・スーパーウェルター級王座、タイ現地スタジアムに“単独で渡ってでも挑戦したい”構え。喜多村誠との先手争いも見もの。

緑川創(右)vsジン・シジュン。単なる打ち合いはではない、肘打ちか首相撲を視野に入れた前段階

◆喜多村誠 VS ファン・セチョル(韓国)

その喜多村誠(伊原/35歳)はこの春、日本ミドル級王座を返上して、5月に現地ラジャダムナンスタジアムでのスーパーウェルター級王座挑戦もチャンピオンのアーウナーン・ギャットペーペーの厚い壁に撥ね返される判定負けで、今回の再起戦。韓国ファイターを1ラウンドでローキックで弱点を掴むと2ラウンド1分10秒、しつこくローキックで倒すTKO勝利。再度、ムエタイ王座に挑みたい構え。年齢的にはこちらが急ぎたい構えだろう。

喜多村誠(右)vsファン・セチョル。心折れずとも、足が麻痺してへたりこむしかない喜多村の重いローキック

◆石井達也 VS ソン・スター(韓国)

石井達也(目黒藤本/33歳)も韓国ファイターを最終第3ラウンド終了間際にヒジでカットしTKO 勝利。「そろそろベルトを巻きたいです。見たいですよね?」とマイクアピールでファンに同意を求めた。「WKBAでもWBC(ムエタイ)でもチャンスがあれば何でも来い」という、ムエタイ殿堂王座に限らず、いけるものなら“権威有る世界”と名の付く王座挑戦へステップアップ宣言した。

石井達也(左)vsソン・スター。ビッグマッチを想定した前哨戦、試合展開にもゆとりが出てきた石井達也

◆アトラクションは伊原代表 VS 斗吾

アトラクションにおいて、伊原信一代表を相手にミット蹴りを披露した日本ミドル級新チャンピオンの斗吾(伊原/26歳)。先月、王座決定戦で4位.今野明(市原/32歳)をKOし、念願の王座奪取したばかり。自信を持つとより一層激しい蹴りを観客に披露する威力が増したミドル級の重みが響く。観客の前では毎度、伊原代表も選手以上に現役時代のような強い蹴りを披露する。64歳とは思えない重く速い蹴り。しかし疲れを誤魔化さずタイ人トレーナーにミットを渡し、息を整え観客の笑いを誘う。

伊原代表(左)&日本ミドル級C.斗吾。64歳とは思えぬほど、毎年激しさが増す蹴り合いのパフォーマンス、スタミナだけキツそうな伊原代表

新日本キックには他に日本フライ級チャンピオンの麗也(治政館/19歳)も5月にHIROYUKI(=茂木宏幸/目黒藤本/20歳)からKOで王座を奪った。その後HIROYUKIも再起戦を飾り、今後の更なる成長が楽しみなヤングチャンピオン達。日本ライト級チャンピオンの勝次(=高橋勝次/目黒藤本/28歳)も3月に王座奪取したばかりだが、虎視眈々とムエタイ王座に標準を定めている。といった具合に、ステップアップを果たしたい選手が希望通りチャンスが回って来るか、または若い世代に足を掬われるか、過酷な興行継続も注目となる新日本キックボクシング協会の展開である。

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない。」

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