全国には刑務所や少年院が300以上あるという。そのすべてをボランタリーに訪れ「プリズン・コンサート」と称されるようになった「慰問」を継続している女性ミュージシャンデュオ「Paix2(ペペ)」の活動は既にご存知の方も多いだろう。

が、ご存知ない方のために、念のために再度ご紹介しておこう。「Paix」はフランス語で「平和」を意味する。manamiさん、megumiさんの二人は2000年にデビューし、その年に1日署長を務めた鳥取県倉吉警察署の方の勧めにより刑務所や少年院などの慰問をはじめる。

◆他の慰問とは一味違う自由な「Paix2」の「プリズン・コンサート」

Paix2「しあわせ」(日本コロムビア2015年6月17日発売)

デビュー以前、manamiさんは岡山大学研究所の技術補佐員で、megumiさんは看護師だった。「Paix2」はその後も精力的に「プリズン・コンサート」を続け、2005年には法務大臣から「プリズン・コンサート」を評価され表彰を受け、2012年には『逢えたらいいな プリズン・コンサート300回達成への道のり(限定版)』を鹿砦社から出版している。さらに2014年には「保護司」に、2015年には「矯正支援官」にそれぞれ法務大臣から任命されている。芸能界きっての活躍である。杉良太郎も「特別矯正監」に任命されているが、杉良太郎の「慰問」は講演が殆どだそうで、果たしてどれほど施設内の人が喜ぶものだろうか。

『体験的獄中マニュアル 新法下での過ごし方』(西本裕隆著 2009年鹿砦社)で「慰問」についての興味深い言及がある。「刑務所では1~2か月に1回、土曜の午前中に慰問が行われる。これは外部の人間が受刑者の前で歌を歌ったり踊りを披露したりするもので、娯楽の少ない刑務所生活においてはこの慰問が楽しみだと言う受刑者もいる。しかし、大多数の受刑者は楽しみにはしていない。かえって迷惑だと思っている受刑者の方が多い。それはこの慰問が強制参加であることと感謝の強制があるからだ。(中略)慰問の内容だが、外部の一般の人が演奏会をしたり、踊りを踊ったりあるいはカラオケ大会をしたりといった素人芸を見せられるというものである。」

素人のカラオケ大会に「感謝の強制」をさせられたのでは受刑者も迷惑千万だろう。

逆に「Paix2」の「プリズン・コンサート」では施設にもよるが、通常許されない「手拍子」などが比較的自由に許されるケースもある。刑務所が「Paix2」の活動を理解しているので受刑者もこの時ばかりは(限られてはいるけれども)、感情の発露を許されることがあるそうだ。そして多くの受刑者は彼女たちの歌や演奏に感激し、涙を流す姿も珍しくないという。出所後「Paix2」のコンサートを見にくる方も少なくないそうだ。

◆ギネスが「Paix2」の偉業を却下した理由

その「Paix2」が全国全ての刑務所を訪問したのをきっかけに約1年前「ギネスワールドレコーズ」に申請を行ったところようやく下記の連絡が返ってきたそうだ。

「ギネスワールドレコーズよりご連絡いたします。
この度は、ギネス世界記録へのご申請をありがとうございます。
ご申請頂きました内容について、審議いたしましたので、ご連絡いたします。

ご申請内容:15年間に亘り、全国の刑務所・少年院で「Prisonコンサート」と称し、ボランティアで通算365回のコンサートを行った女性デュオ

残念ながら、ご申請いただきました記録名に関しては、ギネス世界記録の記録としては、認められません。ギネス世界記録ではたいへん多くのお問合せおよび申請を頂いており、本ケースのように新しいカテゴリーの場合は、まず弊社の理念と照らし合わせたうえで、あらゆる角度から審議され、新たなカテゴリーとして設定可能かどうか判断させて頂いておりますことを、まずご報告いたします。

ご申請内容が記録対象となり得るかどうかにあたり、「微細化されていないこと」、「狭義に過ぎないこと」等も検討されます。この度いただきました申請に関しましては、コンサートの開催場所について「刑務所で」などの細分化はしていないため、残念ながら、審議した結果、ギネス世界記録の対象にはあたらないと判断されました。」

要するに「却下」だ。かつては大食い世界記録やドミノ倒しの数、けん玉を多数の人が同時に載せる人数などは認めているのに、刑務所・少年院への365回の慰問の意味が「ギネス」にはわからないらしい。

この判断を下したのは「ギネスワールドレコーズジャパン 記録管理部」なるセクションだ。「ギネス」は日本の刑務所は「世界的にも劣悪極まりない」と悪評が高いことを知らないのか、あるいは「Paix2」の活動自体を評価する気がないのか。恐らく回答は後者だろう。

そりゃあ、たくさんの申請があるだろうけども、そのほとんどは「質」ではなくてもっぱら「回数」や「量」に審査の重点がおかれているんじゃないか。そもそも「ギネス」ってなんなんだ? そう思って調べてみたら日本で買うと馬鹿高いあの「ギネスビール」の販売元が始めたのが、この「どんなことでも質より量」を競わせる「お遊び」の胴元だった。なーんだ。ビール屋の余技だったんだ。

◆「無料」申請とは別に有料95,000円の申請ルートもあるギネスブック商法

それにしては世界中で既に権威化したといっても過言ではない「ギネス」。かつては「ギネスブック」で大儲けして現在では記録の申請を「有料」と「無料」の2つの方法で受け付けている

「有料」申請の金額を見て驚いた。なんと9万9千円もする。しかもこれでも値下げした金額らしく、かつては12万5千円も取っていたと書かれている。「有料」申請は「ファーストトラック」と呼ばれ、申請への返答も「無料」よりも短時間であるらしい。

「無料」申請でも「証拠物の最終審査結果のご連絡」の「目安」は「約3ヵ月」となっているが「Paix2」への回答には1年近くを要している。か・な・り、怪しくはないか。この「ギネス申請商法」。

「Paix2」への回答で「申請内容が記録対象となり得るかどうかにあたり、『微細化されていないこと』(中略)も検討されます。(中略)この度いただきました申請に関しましては、コンサートの開催場所について『刑務所で』などの細分化はしていないため、残念ながら、審議した結果、ギネス世界記録の対象にはあたらないと判断されました。」と自ら設けた「微細化されていないこと」基準に「Paix2」の申請は「細分化されていない」、つまり「問題なし」と書いておきながら結果が「却下」なのは文章として意味をなさない。

私の邪推かもしれないが「Paix2」が「有料」で申請をしていたら記録は受理されていたのではないか。この「却下」回答理由文章のいい加減さと「有料」申請の異常ともいえる高料金がそう想起させるのだ。

ただ、金を払って「質は関係なく、量や回数だけ」(頭を使うなということか?)に没頭すれば獲得できるのが「ギネス」記録の実態のようだ。重ねて強調するがこの申請料金の9万5千円はいかにも胡散臭い。

「Paix2」の価値を汚さないために申請が受けつけられなかったのはむしろ僥倖というべきかもしれない。

Paix2『逢えたらいいな―プリズン・コンサート300回達成への道のり』(鹿砦社2012年04月20日刊)

Paix2 official website

Paix2 official website
Paix2 official blog of Manami(まなみ)
Paix2 official blog of Megumi(めぐみ)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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