一度やってみたかったことをやろう。
球場で見たプロ野球の試合結果を報じる、すべてのスポーツ新聞をすべて読む。
評論家たちがどこを分析して、どのポイントを勝負の分岐点にしているか比較してみるという、少し「ぜいたくな」リサーチだ。

 

さて、球場で見た試合は4月22日の「巨人対DeNA」で先発は巨人が菅野、DeNAがルーキーの今永だ。まあ好投手どうしだけにロースコアが予想されるゲームだったが、結果から言うと延長12回までもつれこみ1-1でドロー。菅野は7回まで2安打と好投していたが、1-0のスコアのまま7回で降板した。

まずは「スポーツニッポン」だが、解説の中畑清がこんなことを書いている。
『いい投手戦だった。何もなきゃ菅野が勝っていたんだと思う。7回を2安打無四球と完璧に抑えながら、わずか89球で降板。試合後、由伸監督が「マメが…」と降板の理由を明かしてくれてすっきりした。球界には選手のケガについて隠したがる風潮がある。「軍の機密」というやつだ。でも、秘密主義はよくない。ファン目線に立って情報を公開すべき。菅野も公表してもらえばメディアにごまかすことなく治療し次の登板に向けて事情ができると思う。』と書き、続いて好投の今永が5回2死二塁でも小林誠と勝負したのはまちがっていないと断定した。敵を作らない中畑らしい評論だ。

 

さらに元DeNA監督らしく、ラミレス監督とチームは「最後まで諦めない野球ができた」とこれからの浮上を期待して筆を置いている。バランスのいい見方だ。なおかつ野球観も悪くない。この男を簡単に見切るところが球団として「DeNA」が伸び悩んでいる証左だろう。

続いて「東京中日スポーツ」だが慧眼を持つ谷沢健一が「7回の筒香の1ボールからの2球目にど真ん中にストライクを投げておかしいと感じた」と書いた。

僕もあの2球目はよくホームランにならなかったとしてドキリとして見ていた。筒香は見るからにスライダーの間合いでスイングしていたので、これは結果オーライだったのだ。谷沢の慧眼は衰えていない。おそらく中日の監督をやったら、少なくとも谷繁よりはいい仕事をするだろう。

 

もっとも「過去のある経緯」から中日は谷沢を受け入れにくいだろうが。「スポーツ報知」は報知新聞客員のミスターこと長嶋茂雄が小林誠のキャッチングを誉めて、高橋尚成が「菅野は実は指でボールにスピンをかけるトレーニングをしていて、その後遺症が出た」と事情通らしく解説している。もっともそんな内情をばらして後で高橋監督に大目玉を食らったようだが。

さて、一番注目すべきは「サンケイスポーツ」の野村克也が語る「ノムラの考え」のコラムで、【結果オーライの引き分けにみたDeNAの「最下位野球」】と辛辣なタイトルがついている。9回裏の土壇場でリリーフの切り札の沢村から同点ソロアーチをかけた代打・乙坂を野村はこきおろす。野村はボールが2球続いて3球目に打って出た乙坂について「なぜ待てないのか」と批判している。

『なぜ待てないのか。この局面で先頭打者がなすべきことは、出塁である。そして、このカウントでは四球での出塁チャンスが広がっている。何が何でも1点を奪いにいくという、姿勢が見えてこないのだ。さらに4球目がボールとなり、カウント3-1、またも乙坂は打って出た。これが同点本塁打になったのだが、私ならやはり「待て」のサインを出す。本塁打はそうそう打てるものではない。長丁場のシーズンで、こういう攻撃をしていては、確率的に負けが込むのは自明の理。だから結果オーライを言わざると得ないのだ。十二回の守りでは、今度は1点を防ぎに行く姿勢が見えなかった。先頭の片岡に四球を許し、巨人ベンチは3番の長野に代打・松本哲を送ってきた。みえみえのバント要員である。そして、走者を得点圏に進ませることは一打サヨナラ負けを意味する。この局面では、走者の二進を防ぐことが最重要課題となる。とkもろが初球、簡単にバントを許した。一塁のロペスはベースに張り付いたままで、三塁の飛雄馬もチャージしてこない。最後のクルーズの併殺打に助けられただけで、これも結果オーライと言わざるを得ない。』として、試合を通じて無策だったベンチを責めているのだ。

 

「弱者には弱者の戦術がある」と野村は書く。
やはり野村は見ている視点はほかとちがう。一般に、9回裏でボールが2つ続いた場合、先頭打者が待つ確率は9割を超えるだろう。高校野球を見ているとそのあたりはよくわかる。

野球に詳しいスポーツライターに聞いてみると、「ラミレス監督(DeNA)が戦術について吟味する時間があまりにも少ない。守りを固めるのに精一杯で、もうひとりの攻撃用の戦術コーチが必要だ」ということだ。捕手の戸柱がまだ経験が足りずに、配球をベンチで組み立てているようだが、そこにかなりラミレス監督の神経は集中している。あまり報じられていないが、ラミレスはかなり頭がいい。最初に会っただけで、記者の名前はフルネームで頭に入っている。そして打者時代から、投手の配球がほぼすべて頭に入っていた。高橋監督ですら、現役のときにラミレスのそうした緻密な頭脳をまのあたりにしていたから相当、戦術については警戒しているはずだ。

そして今は、ラミレス監督は敵のバッターについて緻密に掌握しているが、攻撃時のベンチワークまで頭がまわっていなのだろう。

さらに、東京ドームでは、「打たれない投球」というのが以前にもまして徹底していたと感じた。

この球場ではボール1つ、ローに投げろ、とコーチは徹底して投手に言う。
この試合はテレビ中継をしていたので録画してカウントしてみると、89球のうち、ストライクゾーンの半分から下に投げた球は菅野が37球、今永が101球投げて39球だった。

両先発とも、それだけ「ロー」に投げる神経を使っていたのだ。ただし菅野は高いウエストをときに効果的に使っていた。

ちなみに「夕刊フジ」は菅野の一番看板では巨人はもたない、そして「東京スポーツ」は11試合で3度同点に追いつかれてほかの投手の勝利を消した守護神、沢村を批判していた。「日刊スポーツ」「デイリースポーツ」もこの試合にはとくにタッチしていない。

というわけで、僕にとって本番で見た試合をつぎの日に「すべてのスポーツ新聞を見て全解説を吟味する」という贅沢な時間は終わった。諸兄も一度やってみるといい。1000円もかからない贅沢なのだから。

▼ハイセーヤスダ(編集者&ライター)
テレビ製作会社、編集プロダクション、出版社勤務を経て、現在に至る。週刊誌のデータマン、コンテンツ制作、著述業、落語の原作、官能小説、AV寸評、広告製作とマルチに活躍。座右の銘は「思いたったが吉日」。格闘技通信ブログ「拳論!」の管理人。

抗うことなしに「花」など咲きはしない『NO NUKES voice』Vol.7