どれほど社会を騒がせた重大事件も少し時間が立てば、すぐに人々の記憶から消えていく。あとから次々に新しい重大事件が起こるためである。最近起きた事件では、あの「宇都宮爆発事件」もすでに忘れ去られた感があるが、事件の現場は今、どうなっているのか。

栗原容疑者が爆死したあたりはブルーシートで囲まれていた

◆連続テロとも思われた大事件だったが……

事件が起きたのは10月23日の昼前だった。宇都宮市中心部にある宇都宮城址公園で、元自衛官の栗原敏勝容疑者(72)が自作の爆発物を爆発させて自殺。近くのコインパーキングでも栗原容疑者の車を含む3台の車が炎上したが、これも栗原容疑者の犯行とみられている。当初、凄まじい爆発音は地元の人たちを「連続テロか」と戦慄させたという。栗原容疑者が爆死した周辺では3人が巻き込まれて重軽傷を負った痛ましい事件だった。

もっとも、これほど社会を騒がせた事件も月が変わり、早くも忘れ去られた感がある。5歳の男児が焼死した明治神宮外苑の火災や、博多駅前の道路陥没事故など次々に新しい重大事件が起こり、人々の関心はそちらに移っていったからだ。おそらく12月になる頃には、これらの事件も当事者や関係者以外の人々の記憶から消えていることだろう。

爆死現場のかたわらにある歴史資料館は何事もなかったのように営業を再開していた

◆日常生活を取り戻していた人々

忘れ去られていく事件のその後を知りたく、私が宇都宮爆発事件の現場を訪ねたのは、事件から1週間余り過ぎた日のことだった。そこでわかったのは、現場界隈の人々が思ったより早く日常生活を取り戻していたことである。

公園で栗原容疑者が爆死したあたりは青いブルーシートに囲まれて立ち入れないようになっていたが、そのかたわらにある歴史資料館はすでに何事もなかったかのように営業を再開。3台の車が炎上したコインパーキングは、事件直後の報道の写真、映像では激しく燃えていたが、早くも地面のアスファルトが修復され、やはり何事もなかったかのように営業が再開されていた。

そんな中、事件の痛ましい傷跡が唯一残っていたのが、コインパーキングの隣にある民家の建物側面の焼け跡だった。しかし私が現場界隈を取材して回っていると、修理業者とみられる人がやってきて、民家の住人らしき人たちと何やら話し込んでいた。おそらく近々、この民家の建物の焼け跡も修復されることだろう。

ふと気づけば、そんな光景を見ながら、私は少しばかりの感動を覚えていた。それはおそらく、人間の強さやたくましさのようなものを見せて頂いたような気がしたからである。

◆宇都宮取材で再認識させられたこと

今から70年余り前、広島では原爆が投下されて3日後、早くも路面電車が焼け野原となった街で運転を再開したという。私は数年前から東北に取材で何度も足を運んだが、わずか5年余り前に震災で壊滅的被害を受けた地域でも今は何事もなかったかのように建物が立ち並び、人々が普通に生活している(すべての地域がそうではないが)。原爆や震災と比べると被害規模は小さいが、宇都宮爆発事件の現場の回復ぶりにも相通ずるものがあるように思えた。

どんな重大事件も少し時間が経てば、すぐに人々の記憶から消えていく。あとから次々に起こる新しい重大事件に人々の関心は移っていく。それをなんとなく悪いことのように思っていた私だが、人が辛いことや悲しいことを忘れるのは前を向いて生きていくためだ。よく考えれば当たり前のそんなことを再認識させられた宇都宮取材だった。

巻き添えになり、重軽傷を負った方々に関しては、現状は不明なので軽々しいことは言えないが、一日も早く以前と変わらぬ日常生活を取り戻して頂きたい。

車が燃えたコインパーキング。隣の民家の壁には焼け跡が残っていたが、地面のアスファルトは修復されていた

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

『反差別と暴力の正体――暴力カルト化したカウンター-しばき隊の実態』(紙の爆弾12月号増刊。11月17日発売。定価950円)

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

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