金曜日の夜、新宿駅でばったりと鈴木邦男さんにお会いし、その日ご自身がトークをされたオフィス再生「見沢知廉十三回忌追悼公演『蒼白の馬上~1978326~』」をすすめてくださったので、10日日曜日に千歳船橋のAPOCシアターまで足を運んだ。

◆運動の現場で民主主義を実現することの困難

見沢知廉といえばモテ男で、「死因は自殺でなく女性に殺されたようなものだ」などというまことしやかな噂のある右の作家、という程度の知識しかなかった。だが実は、彼は元は新左翼だった。サイトのプロフィールを引用しよう。

見沢知廉十三回忌追悼公演『蒼白の馬上~1978326~』©平早勉

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高校2年17才、戦旗派の高校生細胞になる。
1978年3月、成田空港開港阻止決戦に参加。
その後、新右翼へ。イギリス大使館火炎瓶ゲリラ、ロシア大使館攻撃、アメリカ大使館ゲリラ、要人テロ計画。
1982年、23才、9月11日、スパイ粛清事件をおこす。殺人の罪で千葉刑務所に12年収監。獄中で新人賞を受賞。
満期出所。作家デビュー。
2005 年、マンション8階より投身自殺。享年46才。
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なぜかブントの、特に元戦旗派の知人が多く(戦旗派の裾野が広いからだが)、三里塚闘争にも関心があり、期待が高まる。

見沢知廉十三回忌追悼公演『蒼白の馬上~1978326~』©平早勉

作り手さんや演者さんは比較的若手であり、連合赤軍の舞台を思い出した。当事者が観たら違和感ある個所は存在するかもしれないが、若い世代に関心を抱かせるに十分。また、「ワナビー(何かになりたい人・こと)」がテーマになっていて、これもたとえば40・50代以下の感覚に響くかもしれない。

1978年を描いた見沢知廉の小説が元になっているとのことだったので、終演後、どこまでが小説で、フィクションとノンフィクションの境目はどこかが気になり調べた。『蒼白の馬上』の元はロープシンの『蒼ざめた馬』で、爆弾を抱えてロシアをさまようテロリストたちが描かれているようだ。そして『蒼白の馬上』は、女性の語りにより、殺人・粛清を小説化したものらしい。彼は左翼に背を向けたので、情念は肯定しても、運動としてはさほど肯定していないことも考えられる。

わたしはいずれもまだ読んでいない。とにかく芝居を観ている間中、わたしはずっと芝居に沿って考え事をしていた。とにかくずっと考えさせられた。たとえば、運動の現場で実現されない民主主義のことを、守るために閉じる組織のことを、闘いの目的のことを、大同団結やワンイシューのことを、それでも理想を描くことが大切であることを、生きているからこそのそれぞれの思いを、そして自らの目の前に常にあるいろいろな問題のことを。

ラストシーンが事実かどうかは調べてもわからなかったが、ショックだった。事実なら書こうと思っていたが、その部分がフィクションで再演があったりするとネタバレになってしまうので、具体的には書かない。否定し続けてきた組織とまったく同じ論理を、仲間を高揚させてまとまり目的を達するために引っ張り出してしまったということなのだから。ありうる話ではあるし、事実でなければ若い人にとって武装闘争はパロディー以上になりえないということなのかもしれない。このへんに関してわたしの考えを書き出すと長くなるので、また機会があれば、ということで。そして、原作を読んでまた考えるということで。オフィス再生の『二十歳の原点』の舞台を観る機会を逃したままのわたしだが。次回公演はドイツ文学とのこと。関心ある方、「闘争」が過去ではないそこのあなたも、今後、チェックしてみてください。

小林蓮実撮影

◆平和を具体的にイメージするイベント2つ

その後、江東区木場公園の野外ステージ・イベント広場で開催された「アースキャラバン2017東京」へ。「アースキャラバン」の公式サイトによれば、「アースキャラバンは、国籍・人種・宗教の違いを乗り越え、戦争を無くすことを誓い合い、 その誓いを世界中に発信する世界規模のイベントです。」と書かれている。

駅から向かうと木場公園の中の橋を渡っていちばん奥に会場があり、ゆるやかなイベントであることが即座に感じ取れる。音楽が演奏され、チャリティーマーケットでは人権・環境・民族・平和・子ども・食・リラクゼーション・クラフトなどにまつわる国内外のさまざまなテーマを掲げたブースが並ぶ。ワークショップも催された。支援金はパレスチナやバングラデシュの子どもたちの支援などに使われる。そして、原爆の残り火「平和の火」を手に、4大宗教の宗教家、イスラム教のアフマド・アルマンスールさん、ユダヤ教のダニー・ネフセタイさん、キリスト教の長尾邦弘さん、仏教の遠藤喨及さん(呼びかけ人)と来場者が、ともに世界の平和を祈った。

アースキャラバン東京実行委員会提供

最後に、代々木公園ケヤキ並木でおこなわれていた「アフリカン・アメリカン・カリビアンフェスタ2017」へ。アフリカ系アメリカ人と、南米東海岸やカリブ海の島に住む人々の中規模の祭といった感じだ。フード、酒、コーヒー、雑貨、衣料品などが販売され、音楽とダンスを楽しむ人々が集まっていた。

1日あちこちめぐり、平和というのは、ゆるい空気なのだと考えた。現在、そのような空気は小さなコミュニティなどでなければ感じられず、大きな範囲の平和を思い描く時には大きな声を出したりしないといけないのかもしれない。いつの時代にも、世界のあらゆるところでも、強い力に対して闘わざるをえないことだってあるだろう。でも、ゆるやかで心地よい世界を実現したい時、わたしたち1人ひとりがそれぞれに、できることがあるのだろう。仲間と一緒に理想を、いま、ここから実現したいと、いつも考えている。秋になったら、もっとゆっくりと、物事を深く考える時間を確保したい。

▼小林蓮実(こばやし・はすみ)[文]

1972年生まれ。フリーライター、エディター。『紙の爆弾』『現代用語の基礎知識』『週刊金曜日』『現代の理論』『neoneo』『救援』『教育と文化』『労働情報』などに寄稿。労働や女性などに関する社会運動に携わる。同世代の中では貴重なブントの「でたらめな魂」に耐えうる人間だと自覚するうち、いろいろなことに巻き込まれる。次に訪れたい国はパレスチナか香港かトリニダード・トバゴ。

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