星野陽平『芸能人に投資は必要か? アイドル奴隷契約の実態』(10月26日発売)

著者の星野陽平氏は学生時代から知っている。といっても、わたしは星野氏よりもふた回りほど年上で、早稲田大学の学生サークルに請われて部室に出入りしていた関係でおそらく一方的に、そこに知己のあった氏を知ったということになる。

そのサークルからは、歌舞伎町やアジア系犯罪組織などの本を著し、編集プロダクションを立ち上げたO氏、『噂の真相』でデビューしたフリーライターのO・K氏、作品社の取締役編集者となったF氏、ほかにも業界紙記者や出版社の女性編集者など、いまにして思えば錚々たる人材を輩出したことになる。

当時すでに何冊かの著者があり、総合誌の編集者、出版プロデューサーだったわたしは、ひそかに彼らの「師」を任じていた。ちょうど『アウトロー・ジャパン』(太田出版)を立ち上げる直前のことだったが、星野氏についてはほとんどコンタクトがなく、のちに市場系の本を著したことで記憶が喚起された記憶がある。

鹿砦社から刊行された『芸能人はなぜ干されるのか? 芸能界独占禁止法違反』は、版を重ねて準ベストセラーと呼ばれるにふさわしい内容を擁していた。アマゾンを見れば旧版・新版ともに、高評値のレビューがそれを裏付けている。その続編ともいうべき新刊が『芸能人に投資は必要か? アイドル奴隷契約の実態』(鹿砦社)である。

◆日本の芸能界の構造的な弱点 

上條英男氏の『BOSS』がプロデューサーの側からみた芸能界の歴史であれば、星野氏の芸能本はノンフィクションライターが膨大な資料を背景に書き上げた、芸能界のドキュメンタリーということになる。

前著とともに、堅実な作業の積みかさねがなさしめた仕事である。日本の芸能界の問題点は星野氏が強調するとおり、アメリカのショービジネスとの対比に明らかである。すなわち、日本では音楽事務所協会の「統一契約書」によって肖像権(パブリシティ権)や出演を選択する権利が、芸能事務所に帰属することになっている。そこで「奴隷契約」に縛られたタレントたちは独立をめざすのだ。それはしかし、タレントを食い扶持にしている事務所が許してくれない。

アメリカでは俳優の労働組合が1913年に設立され、劇場に対して何度もストライキを積み重ねることで労働条件の改善がはかられてきた。組合はユニオンショップであり、強力な発言権をもっている。しかもタレント・エージェンシー(芸能プロ)は反トラスト法の規制で、制作業務を行なうのを禁じられている。したがって、芸能プロが俳優や歌手を抱え込んで、番組制作まで仕切ることはできないのだ。単なる営業代理店ということになる。

◆このままでは、本格的なショービジネスは育たない

著者の調べによると、アメリカではタレントと芸能事務所(タレント・エージェンシー)の関係は対等であるという。そしてアメリカの芸能事務所は、そもそもタレントに投資をしないのだ。しばらく前にNHKで放送されていたアクターズ・スクールのような、アクティング・スタジオ(俳優養成学校)がタレントを育てる。タレント(俳優)志望者たちは、ここでスキルを磨きながらエージェントをさがす。ちょうど大リーグにおけるエージェント(代理人)をイメージすればいいのだろうか。エージェントはモデル、コマーシャル、演劇の三つに区分される。

とはいえ、演劇ジャンルでは高度な演技力がもとめられるために、ハリウッドでもエージェントを持てない俳優が多いのだという。そこでオーディションが大きな位置を占めてくる。日本でも大きなプロジェクト(予算規模の大きな映画など)ではオーディションが行なわれているが、実態は芸能事務所の力関係によるところが大きいと言う(独立系の俳優の話)。

じっさいに、筆者はVシネマの脚本を手がけた経験があるが、小さな芸能事務所の売り込みはすさまじい。ギャラの未払いも気にせずに、何の実権もない脚本家に売り込んでくる。それはしかし、ほとんど意味がなかった。キャスティングの大半は、配給元の東映やミュージアムに、箱書き(あらすじ)段階から握られていたのだから。

◆生々しいタレント稼業の実態

日米のタレントの境遇の違いは、そのままショービジネスの規模の違いに反映される。日本のように芸能事務所が「奴隷契約」でタレントを縛り、テレビ局と事務所間の力関係や政治力で配役が決まるという馴れ合いでは、真のアーティスト精神は生まれない。作品のために厳しい役づくりに取り組み、まさに「当たり役」という奇跡を演じるのは、タレント(才能)ではなく努力であろう。その努力を、日本の芸能界は必要としないのだ。

いっぽうで、独立して厳しい条件からでも再出発しようとするタレントを、テレビ局と芸能事務所が「干す」という行為に出る現実がある。本書はその意味では、芸能人の残酷物語の第二幕でもある。

もはや論じるよりも内容を列挙しておこう。本書のタイトルとは別ものである。安室奈美恵の独立騒動、江角マキコ独立後の「暴露報道」、ビートたけし独立事件の裏側、安西マリア失踪事件の真相、ちあきなおみの芸能界への失望、中森明菜の独立悲話、加勢大周の芸名騒動、ホリプロからの独立した石川さゆりの演歌力、松田聖子性悪女説は音事協の陰謀である、などなど。どうです、すぐにも読みたくなったでしょ?

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
編集者・著述業・Vシネマの脚本など。著書に『山口組と戦国大名』(サイゾー)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社)など多数。

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