2019年になり、すでに約1ヶ月。これからの1年も、良し悪しは別としてICTをはじめまた様々な新しい技術が登場するのであろうか。

それはメディアとて無縁ではない。インターネットをはじめとするICT技術の発達で世界各地の情報に一瞬でアクセスできるようになった。情報の受け手にすぎなかった一般市民もブログやSNSで情報を発信できるようになった。そして、今までは隠ぺいされ永遠に闇に葬られていたであろう凄惨な事件も、もはや隠し通すことは不可能となった。しばき隊内部で発生し、大手メディアや多くの「リベラリスト」たちが必死で隠そうとしていた「M君リンチ事件」(他称:「しばき隊リンチ事件」)はまさにその一例であり、事件についての説明や事件の実際の音声がネット上に拡散されることになった。

さて近年、AI(人工知能)による文章作成技術の向上に注目が集まっている。2016年に、松原仁・公立はこだて未来大学教授が率いた「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」が、第3回日経「星新一賞」(日本経済新聞社主催)に4作品を応募し、作品の一部が1次審査を通過したことは、記憶に新しい。AIが小説を書くことに目覚めるというストーリーは、色々な意味で印象的であった。

小説だけではない。新聞記事もAIが執筆に加わり始めている。2016年8月13日の日経の夕刊の記事には「ワシントン・ポストがリオネジャネイロ五輪の報道で試合結果やメダル獲得数についての記事をAIによって執筆している」ということが掲載されている。さらには、NTTデータがAI技術の一つである「ディープラーニング技術」を用いた天気予報ニュース原稿の自動生成実験を、2016年9月から4カ月間にわたり実施した。実験の結果、作成されたニュース原稿はおおむね従来の気象と矛盾しないレベルに達していることが明らかとなった。

 

NTTデータ、人工知能を用いたニュース原稿の自動生成に関する実証実験を実施(2017年1月27付け日本経済新聞=NTTデータのプレスリリース)(2019/01/22閲覧)

新聞記事や行政の手続き文章、特許の出願書類などは、伝える内容が明確で文章の典型的なパターンがあるため、機械化が容易と言われる。これらの文章の自動作成は、十分な数のサンプルを集め、そのパターンをAIに学習させれば実現可能だという。

こうなるとジャーナリストや記者は、今まで以上に問題意識を持ち、コンピュータにはできない、より深い調査やフィールドワークをしていくことが重要になる。独特な切り口から報道できる能力が求められよう。単に「平凡な」記事を書くだけではAIに取って代わられる可能性もある。よく官邸や官庁の記者会見で、鋭い質問をするわけでもなく、聞き取ったことを素早くPCに入力しているだけの記者クラブの記者をテレビでよく見かける。あるいは何の疑問もなく警察から提供された情報をそのまま記事にしている記者もいるだろう。他にも、冤罪事件に対して過去の自分たちの報道の過ちを反省せず、「ボー」としているような記者もいるだろう。

このような問題意識が薄くて、深い分析ができない、あるいは分析しようとしない記者はやがてAI記者に取って代われてもおかしくない。先ほど紹介したAIによる文章作成技術とより向上した聞き取り能力(例:Android搭載のスマートフォンに「OK,Google」と呼び掛けるとそれを聞き取る)が組み合わさることによって、大臣や企業経営者などの記者会見においてAI記者がその場で瞬時に記事を作成するというケースは十分想定できる。官邸などでの記者会見では、「うまい汁の吸える」記者クラブで政権や公安当局と癒着して、望月衣塑子記者(東京新聞)のように鋭い質問も投げかけず、ただPCに書き取るだけの記者が多数派を占めているという。そのような記者はAI記者に代筆させれば十分であろう。

テレビでも似たような状況になりつつある。少し前の2018年11月に、中国の国営新華社通信ではAIアナウンサーが登場した。実在のアナウンサーの映像と声を用いて、まるで本物の人間のようなアナウンサーが製作された。このアナウンサーは24時間作動し、疲れることも読み間違えることもないという。中国語と英語に対応している。


◎[参考動画]Xinhua’s first English AI anchor makes debut(New China TV 2018/11/07公開)(2019/01/21閲覧)

このようなAIアナウンサーが普及すれば、単に原稿を読み上げるだけの人間のアナウンサーは居場所がなくなる可能性がある(バラエティー番組が主な職場のアナウンサーにはダメージは少ないかもしれない)。ニュース関係となれば、やはりAIにはできないような現地調査や分析を行う能力が今以上に必要になってくる。しかし、日本全国のニュースキャスターで今の政府や社会情勢に批判的な姿勢を持ち、鋭い分析や報道ができるような者がどれほどいるであろうか。

今度もAIをはじめとしてICT技術はメディアに何らかの影響を与えていくであろう。ネットニュースや個人が書くブログなどの普及によって、人々の情報を得る手段が多様化した。それに伴い、これまで一方的に情報を掌握していたテレビや新聞の優位は揺らいでいった。日本において新聞の年間発行部数は年々、減少している。「天下の朝日」新聞も例外ではない(「天下」といっても所詮はこの島国だけの話だが)。

AI記者・AIアナウンサーの出現という技術的な観点からも、原発事件の追及や安倍極右政権の横暴、文明間の世界秩序の再編という社会・政治的な観点からも、今こそ記者やアナウンサーには強い問題意識と優れた分析・調査能力が必要なはずである。それは公共的な視点だけではなく、彼ら自身の将来に関わる事である。

しかし、大手マスコミをはじめほとんどのメディア(の記者)は今日の社会・政治の危機的状況に対して鈍感である。そして徹底的に腐敗している。冒頭でも触れた「M君リンチ事件」はそれを決定的に証明することになった。彼らは事件を黙殺し、自らの権益を守るために凄惨な暴力も「見て見ぬふりをする」という手をとった。このような利己主義的で非情なジャーナリストなど、「中立的」でドライなAI記者によって職場から駆逐された方がましである。残念ではあるが自浄能力がない主流メディアは、いずれICT技術によってより一層追い詰められていく運命なのかもしれない。

▼Java-1QQ2
京都府出身。食品工場勤務の後、関西のIT企業に勤務。IoTやAI、ビッグデータなどのICT技術、カリフ制をめぐるイスラーム諸国の動向、大量絶滅や気候変動などの環境問題、在日外国人をめぐる情勢などに関心あり。※私にご意見やご感想がありましたら、rasta928@yahoo.ne.jpまでメールをお送りください。

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