湖東記念病院事件・再審開始決定を勝ち取った井戸謙一弁護士の思想と行動

滋賀県東近江市の湖東記念病院で2003年、男性患者(当時72)の人工呼吸器のチューブを抜いて殺害したとして、殺人罪で懲役12年が確定し、服役した元看護助手の西山美香さん(39)=同県彦根市=が申し立てた再審請求で、最高裁第2小法廷(菅野博之裁判長)は、裁判のやり直しを認める決定をした。3月18日付で検察の特別抗告を棄却した。裁判官3人による全員一致の結論で、事件発生から16年を経て再審開始が確定した。


◎[参考動画]「無罪判決に向け頑張る」 再審確定で西山さん涙(KyodoNews 2019/03/19公開)

最高裁での再審開始決定は、西山さんが冤罪被害者であることを、無実であることを明かすことになるだろう。このようなケースに接するたびに、ひとりの人間を犯罪者と決めつけ服役させたり、場合によっては死刑を言い渡した裁判官や検事、警察官の個人としての責任は問えないものか、といつも疑問がわく。職務として合法的な手段により無辜の市民に刑事罰を押し付ける。こんなことをされたらたまったものではない。仕事でひとを「罪人」と決め付けるのは「犯罪」ではないのか。

鹿砦社代表の松岡が、本人のFacebookで取り上げているが、アルゼ(事件当時、現在はユニバーサルエンターテインメント)により刑事告訴され、逮捕後神戸拘置所に192日も勾留された事件が、他人事ではくその恐ろしさを示している。

◎アルゼ(現ユニバーサル)岡田和生と私の15年戦争(2017年7月3日付デジタル鹿砦社通信)

◎【緊急NEWS!】私を嵌め逮捕―長期勾留―有罪判決を強い、鹿砦社に壊滅的打撃を与えた旧アルゼ創業者(元)オーナー・岡田和生氏の逮捕に思う(2018年8月9日付デジタル鹿砦社通信)

名誉毀損とされた書籍を読んでも、市民感覚からすれば「どこが名誉毀損になるのか」まったくわからない。松岡が書いている通り、アルゼの経営者には警視総監など警察関係者が天下りで就任していたので、実は警察に喧嘩を売っていたのが実情だったのが、逮捕勾留の理由だったのではないか。にしても出版による名誉毀損で逮捕をしなければならない理由がどこにあるというのだ。逮捕勾留は、証拠隠滅や逃亡の恐れがある場合にのみ認められる。松岡の場合、証拠は既に出版した書籍だから隠滅の手段はないし、会社の代表だから社員を放り出して逃げることもないじゃないか。

◆「りんご箱から腐ったりんご」を取り除く井戸謙一弁護士

西山さんの「冤罪」問題を井戸謙一弁護士から聞かされたのは、2年ほどまえだっただろうか。まだどのメディアもこの問題を取り上げておらず、本コラムでさまざまな事件についての取材を執筆している片岡健氏だけが追いかけていた。

◎滋賀患者死亡事件 西山美香さんを冤罪に貶めた滋賀県警・山本誠刑事の余罪(2018年2月16日付デジタル鹿砦社通信)

「実刑判決を受け服役中なんです。あとしばらくしたら満期です。田所さんも是非取材して書いてくれませんか」と井戸弁護士から説明と依頼を受けた。当時わたしは「M君リンチ事件」の取材に忙しく、残念ながら西山さんの事件には手付かずだった。あれから不思議なご縁で、井戸弁護士とはたびたび取材者として、関係者としてお目にかかったり、連絡をさせていただいたりするご縁をいただいた。

井戸謙一弁護士

3月20日、朝日新聞ほか多くの新聞の一面トップは西山さんの再審決定を報じている。19日の午後、井戸弁護士は西山さんの記者会見やその後の取材対応で忙殺されていたに違いない。その真っ最中に滋賀医大附属病院係争関係で、重大な事項が生じた。関係者が井戸弁護士に急報を告げると超多忙のなか「5分だけなら」と井戸弁護士は相談に応じてくださった。夜、関係者及びわたしが送ったメールへも短時間で返信いただいた。西山さんの再審決定の美酒に浸る猶予もなく原発事故被害者、冤罪被害者、刑事被告人、滋賀医大問題関係者……想像を越えるだろう数の人びとの相談に井戸弁護士は瞬時に判断を下す。

弁護士のなかには「かみそり」なんとかと持ち上げられたり、「人権派」と自他称し・されながら、その実暴利を貪り、あるいは「どうしてこんな事件のこんな当事者の弁護に就任するのか」と首を傾げたくなる言行不一致の人物が少なくない。裁判官時代に志賀原発の運転差し止め判決、住基ネット差し止め判決を下した井戸謙一弁護士は、法廷の中だけを見ている弁護士ではなく、事件や争いの本質がどこにあるのか。問題の核心はなにか。そのためにはどのような論理構成が必要で可能かを依頼者の立場で考え、アドバイスを与え、冒頭の西山さん冤罪事件を立件前の証言の変化から緻密に解き明かし、再審を勝ち取った。

たくさんの事件を受任しながら、井戸弁護士は滋賀医大附属病院問題に必ず、法を駆使した「メス」を入れるだろう。そのことが滋賀医大附属病院の腐敗解消の端緒となり、患者の命が救われると同時に、滋賀医大附属病院に勤務する、真面目で誠実な関係者への激励と名誉回復にも繋がるだろう。「悪貨は良貨を駆逐する」が「りんご箱から腐ったりんご」を取り除くことも可能なのだ。


◎[参考動画]〈湖東記念病院事件・再審確定〉元看護助手・西山美香さん会見(shiminjichi second 2019/03/19公開)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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