「おかん、あのおっちゃんはどこから来たん?」。幼い子が道端の野宿者を指差しておかんに聞いた。よその国から来たとでも思っているのだろうか? 「令和」「令和」の大合唱と「奉祝」ムード一色の中、日の丸振られるあの二人と一緒、野宿するおっちゃんもおかんの股ぐらから産まれたんやで。

そんな「奉祝ムード」とは裏腹に、4月24日センターから締め出された人たちが集まるシャッター前では淡々とした時間が流れている。減るかと思われた荷物は日ごとに増え、仮設トイレも設置された。「こっちの方が大勢いるから安心や」と新たに寝床を求めてくる人。「『この国は冷和(つめたいわ)』の看板、センターの中に入ったままや。 いつ返すんや」と怒る人。

このあいだホルモン屋きらくで常連客が話していた。「センター潰した跡地にな、子どもが遊べる公園とか出来るらしいで」「緑地公園みたいな、あれか?」。建て替え後のセンターがどうなるか、行政・まちづくり会議では、まだ決まってないと言いながら、こうした曖昧な情報が独り歩きする。

しかし南海電鉄高架下の仮庁舎を見れば、彼らの魂胆は明らかだ。釜ケ崎で長年働いてきた労働者やおっっちゃんを閉め出し、「安心・安全なまちづくり」「子育て世帯を応援!」「笑顔溢れる」などのキャッチコピーで「まちづくり」を進めるつもりだ。そこにホルモン屋で安い焼酎を飲むおっちゃんらの居場所はないで。

身体も荷物も表に放り出されたが、まだまだ闘いが続く、釜ヶ崎のセンターから報告する。

◆誰のための、何のための「まちづくり」(西成特区構想)か?

1月5日に開催したシンポジウム「日本一人情のある街、西成がなくなる?!」でパネラーを務めた島和博氏(大阪市立大)氏はまちづくりに関してこう話した。

「『まちづくり』は今ブームです。いろんなところで『まちづくり』運動がやられている。そのときに私なんかは、ちょっと違和感を感じる。『まちづくり』はいったい誰がその主導権を握ってやっているのかが語られていない。市民の『まちづくり』運動なんてありえない。誰が主導権をとってやるのかどうか、そこを考えないで『みんなにとって良いまちづくりをやろうね』とやると『西成特区構想』みたいなロジックに巻き込まれてしまう」。

その「西成特区構想」のプログラムは、2012年、橋下徹元市長の「西成が変われば大阪がかわる」発言から始まったと指摘するのは、同じく同シンポのパネラー原口剛氏(神戸大准教授)だ。原口氏が翻訳し、広めている「ジェントリフィケーション」という言葉は 、西成特区構想が何を狙うのかを考えるとき、非常に役に立つ。原口氏はこう語った。

「このジェントリフィケーションの標的になるのは、どこでもそうなんですけど、都心の貧しい人が暮らす地域です。こうした地域は都心ではあるが、家賃や地価が安い。安いからこそ、貧しい人たちとか住まうことができ、コミュニティをつくることが出来た。ところが家賃や地価が安いことに目をつけてデベロッパー(土地開発業者)などの不動産資本が進出してくる。つまり安い土地を元手に開発することで、莫大な利益を生み出そうとする。そういった事態が起きてしまった」

「それから釜ヶ崎や西成の場合には、家賃や地価の安さのほかに、もう一つ条件が加わります。それは交通アクセスです。関空とか、新幹線ですとか、あるいはダウンタウンとかそういった盛り場にアクセスがいい。この点をもって『この街をそのままにしておくのはもったいない』という主張が出てくるわけです」。

◆警察主導、官民一体で進む「西成特区構想」で釜ヶ崎はどうなるのか?

大阪維新が進める「西成特区構想」は、 民意で進められたとよく言われる。確かに2014年9月から6回にわたり開催された「あいりん地域まちづくり検討会議」は誰でも傍聴できた。しかしある回でファシリテーター役の委員が、私たち参加者の意見を紙に書かせボードに貼るワークショップを見たとき、「これは怪しい」と直感した。こうした手法は様々な場所で行われているが、「意見を聞いた」とはなるが、何も決定はしない。委員の1人もtwitterで「まちづくり検討会議に決定権はありません。行政は尊重するとしているだけです」と書いている。

その後、非公開で行われているテーマ別の各部会も同様だ。委員で参加する稲垣浩氏(釜ケ崎地域合同労組委員長)は、シンポの中でこう話している。「会議はもともと何かを決定する場所じゃなくて、意見を言うだけの場所なんです。決定するのは大阪市、大阪府、国の行政です。役所は自分たちの都合のいいところだけ、委員の発言をとって、それで進めていくんですね」。

震災と原発事故からの「復興」が進む福島県飯舘村で元酪農家の長谷川健一氏が、「復興委員は村長のイエスマンばかり。復興計画(案)は天から降りてくる」と話したが、釜ヶ崎も同じだ。違うのは、警察権力の力を借りなければ計画が進められないという点だ。

その大阪府警・西成警察署は、2014年6月19日開催の「西成特区構想テーマ別シンポジウム~観光・福祉について」の中で、西成特区構想に「5ケ年計画」(2014~2019)で参画することを表明した。5億円の予算がつき、監視カメラを100台超も増設、そして官民連携による「不法投棄」「露店、覚せい剤(売人)」の摘発」などを進めてきた。

覚せい剤撲滅キャンペーンには「まちづくり検討会議」の各団体が協賛団体となっている(注:「釜ヶ崎医療連絡会議)は仲間の指摘を受け、参加していない)。彼らはヤクザのあとに誰が「撲滅」の標的にされるか、考えていたのだろうか?

同じく2014年から始まった西成警察の「あいりんクリーンキャンペーン」にも、先の委員や関係者が多数参加している。パレードのあとお茶や下着、ズボンなどが配布されるが、急いで前に出ようとする労働者を「9人づつ言うたやろっ」と怒鳴り付ける作業服姿の若い警官。このような警察主導の官民一体の連携体制を長年かけて強化してきたからこそ、4月24日センター内の労働者らに対して、何の躊躇もなく暴力的な排除がやれたのだろう。「安心・安全なまちづくり」を主張する人たちは、どちら側に立っているのだ!

◆「令和」の大合唱から弾かれた人たちこそが、今、声を上げなくてはならない!

「もう決まったことやろ?」。センターでビラを撒いていると、そんな労働者の諦めるような言葉を良く聞く。島和博氏は労働者が高齢化し生活保護を受ける中で闘う力を奪われてきたからだと説明する。生活保護を否定するものではないが、本来権利であるはずの生活保護が、行政(お上)から与えられる「恩恵」にされてしまっているからだ。

役所の窓口で「その歳まで何をやってきた?」「面倒見てくれる家族はいないのか?」「所持金を使いきったらまた来い」とさんざん虐げられ、警察、行政「お上」に逆らえなくされた労働者も少なくない。「令和」「令和」の大合唱が更に「黙ってろ」と圧力をかけてくる。

黙っていたら、殺(や)られるぞ! ヤクザのあと標的にされたのは、「令和」「令和」の大合唱から弾かれ、「民主主義」も「法の下の平等」も何もない、天皇制の真逆に追いやられた、釜ケ崎の労働者だ! 維新の「都構想」につながる「西成特区構想」──センター潰しに反対しよう! 5月19日15時半、釜ケ崎の三角公園に来たらええねん!

▼尾崎美代子(おざき・みよこ)https://twitter.com/hanamama58
「西成青い空カンパ」主宰、「集い処はな」店主。

〈原発なき社会〉を目指す雑誌『NO NUKES voice』19号 「はなまま」尾崎美代子さんによる報告「美浜、大飯、高浜から溢れ出す使用済み核燃料を関西電力はどうするか?」を収録

タブーなきスキャンダリズム・マガジン『紙の爆弾』5・6月合併号【特集】現代日本の10大事態