◆戦前のような感覚が「普通」になったのか?

下に引用した、ふたつの記事を見ていただきたい。武闘路線を解除し地下組織を解散したといわれる新左翼のなかでは唯一、革命軍戦略(武装闘争)を中止していないとされる(機関誌で革命軍の存在をPR)革労協両派に、公安当局の捜査が入った。とはいえ、読む者をドキリとさせるような内容ではない。

見方によっては「トホホ」なものでありながら、思わず法の運用を間違えたのではないかと驚愕させられる。活動家への私文書偽造容疑は珍しいことではないが、マンションを借りるのに「わたしは過激派の革労協に所属しています」と言わなかったから「身分詐称の詐欺罪」だというのだ。現在の日本に「身分」があるのか。

そもそも革労協(赤砦派)にかけられたこの「詐欺罪容疑」は、暴対法および暴排条例で、ヤクザの組員を取り締まる手法なのである。公安委員会から革労協が「指定暴力団」に指定されたのは、寡聞にして聞かない。

ヤクザに対する法運用にも、問題がないわけではない。銀行口座を作る際やクルマを購入する際に、あるいはゴルフ場や喫茶店に入るときに「ヤクザです」と言わなかったから「詐欺なのだ」と。一連の裁判では暴排条例そのものの違憲性が問われ、少なくない例で「詐欺とまでは言えない」という判決が下っている。当たり前である。カネを出してゴルフやコーヒーを愉しむ側に、とくべつの金銭的な利益が発生するわけでもない。ぎゃくにヤクザが銀行口座を開けないことから、その子弟が不利益を被ることで人権問題が派生しているのだ。

◆日本には、まだ「身分制」があるのか?

そもそも「身分を隠して」というのは、21世紀の日本に、いまだに差別的な「身分社会」があるという意味だ。この「身分」とは、古代社会の「奴婢」や江戸時代の「士農工商」と同じ意味であって、明治維新後は「身分解放令」(「穢多非人ノ称ヲ廃シ身分職業共平民同様トス」明治4年8月28日太政官布告第449号)施行により廃止された。いまの日本には「国籍」や「学生割引」「60歳以上の年齢割引」などの証明、および刑事罰による「公民権の停止」以外の「身分証明」は存在しない。警察庁が無理やり「反社会的勢力」という「身分制」を勝手に作り上げたものなのである。

それでも「反社会勢力」排除という流れは社会の隅々まで行きわたり、マンションの管理組合の規約も、当局の指導で「反社の居住をみとめない」方向で改正されている。今回の事案はおそらく、捜査当局の現場感覚で「過激派も反社だろ」という安易な判断で行なわれたものだろう。暴対法で「指定暴力団」であるヤクザの場合よりも、新左翼は国家の転覆まで目標にしているのだから、けだし当然であるという見方があるかもしれない。

だが、いまだ国家公安委員会は左翼団体を「危険団体」と指定したことはない。いや、ヤクザなら誰でも賛成するだろうという見込みで成立した暴排条例(地方議会)とはちがい、左翼団体を非合法化した場合の国会での法的な論争を、捜査当局および公安委員会が引き受けられるとは到底思えない。かつて「過激派に人権なし」という時代もあったが、精緻な法律論争をやればのっぴきならないことになるのを、警察庁も知っているのだ。ヤクザ(暴力団)とは違って、左翼団体と労働運動団体・市民団体の線引きが、かぎりなく不可能に近いからだ。革命を標榜することが、思想信条の自由および結社の自由(憲法)に保障されているのは言うまでもない。

◆法的な争点を精密に論じよ!

もうひとつの事件は、無許可で金貸し業をやっていたという容疑(4回にわたって、わずか1万2000円……しょぼい)だ。この場合、カネを貸すことで利益が生じたのか否か、あるいは個人間での貸し借り契約(融資)に違法性があるのか(個人的な契約でも、利子は当然発生する)。これが法律上の焦点となる。

かりに無許可で「貸金業」をやっていたとするのなら、当該の容疑者が「営業活動」をしていた事実の立証が必要である。闇金のように看板をつくって「おカネ貸します」とか「カネのないヤツは、俺んところに来い。俺もないけど心配するな!」(植木等)とか言っていた、というのだろうか。

新左翼の中には、かなり酷い法運用を行なわれても「不当弾圧」一般で済ましてしまう傾向があるが、このさい革労協(現代社派)は法律的な争点を明確にし、国賠訴訟で争って欲しいものだ。

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【私文書偽造と「身分詐称の詐欺」事件】

警視庁公安部と埼玉、神奈川両県警は8日、有印私文書偽造・同行使の疑いで、過激派「革労協反主流派」の非公然部門最高幹部、土肥和彦容疑者(71)=横浜市港北区樽町=を、詐欺の疑いで同派非公然活動家、石岡朱美容疑者(57)=同=を逮捕した。調べに対し両容疑者とも、黙秘している。

警視庁によると、土肥容疑者は長期にわたって、非公然部門の最高幹部を務めており、活動全般に影響を与えていたとみられる。2人は石岡容疑者が借りたマンションで同居しており、警視庁などは石岡容疑者が土肥容疑者をかくまっていたとみて調べている。

土肥容疑者の逮捕容疑は平成30年3月、東京都板橋区の歯科医院で、架空の氏名と住所を診療申込書に記入し提出したとしている。石岡容疑者は今年4月、過激派の活動家であるのに身分を隠しマンションの一室を借りた疑いが持たれている。(2019年10月8日付け産経新聞)


◎[参考動画]過激派最高幹部の男を逮捕 歯科診療時に偽名を使用(ANN 2019/10/09公開)

【貸金業法違反】

貸金業法違反の疑いで逮捕されたのは、過激派組織「革労協」主流派の活動家で、住所不詳の緒方信雄容疑者(69)です。

警察は18日の朝から、福岡市博多区にある活動拠点や東京の革労協事務所など5カ所を家宅捜索しました。

警察によりますと、緒方容疑者は2019年5月から8月にかけて、許可がないにも関わらず、県内に住む知人の男性に4回にわたってあわせて1万2000円を貸し付け、貸金業を営んだ疑いです。

警察は緒方容疑者の認否を明らかにしていませんが、革労協による組織的な関与があったとみて、押収品などを調べ容疑の裏付けを進める方針です。(2019年10月18日付けテレビ西日本


◎[参考動画]無断で“貸金業”革労協活動家を逮捕 (福岡TNC 2019/10/18公開)

◆法に依らない日常生活上の禁止

つぎは、11月に延期された祝賀パレード沿道の声(下記引用)である。警視庁は天皇式典の祝賀パレード沿道の住人に対して、ベランダに物を置くな、洗濯物を干すなという「呼びかけ」を行なっているという。「気を付けてください」ではなく「物を置かない」「写真を取らないよう」に「もとめる」。左翼活動家を法的な根拠もなく拘束し、住民には日常生活上の禁止を「求める」のだ。そして問題なのは、これらの指示に従わない者は、社会的に排除される「空気」が醸成されることだ。

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【ベランダに洗濯物を干すな】

警視庁は、祝賀パレードのルート近くに住む人たちに対し、屋上やベランダなどからパレードをのぞき込んだり、写真を撮ったりしないよう協力を呼びかけています。

また物が落下しないよう、廊下やベランダに洗濯物を干すことや、鉢植えを置くことを控えるよう求めています。

ルート近くに住む人からは、さまざまな声が聞かれました。

パレードのルートが見える港区北青山にあるアパートの10階に住む半戸アヤ子さん(77)は、自治会で周知があり、ベランダの鉢植えを移動させる準備を進めていました。

ベランダには、ほかにも夏場に“自然のカーテン”として使っていたゴーヤーのつるが残っていて、その枯れ葉が落ちる可能性があるため、10日はハサミを使って取り除いていました。

半田さんは「なかなか厳しいですが、ベランダから見てはいけないということなので、沿道におりて見ようと思います。天皇陛下が通るのできれいにしておかないといけないと思いますし、洗濯物も1日くらい我慢して干さないようにします」と話していました。

また、千代田区麹町のマンションの10階に住む34歳の女性は「規制について知らなかったのでベランダから見ようと思っていました。

2歳の娘に見せてあげられると思っていましたが、テレビで見ようと思います。何かあったら大変だということは理解できますが、残念だとも思います」と話していました。(2019年10月10日付けNHK

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法に依らない事実上の治安拘束、そしてこれも法に依らない日常生活上の禁止がまかり通るようになったのだ。法に依らないという点では、戦前の特高警察よりも、はるかに悪質な警察権の行使が行われている言うべきであろう。

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業、雑誌編集者。近著に『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)『男組の時代――番長たちが元気だった季節』(明月堂書店)など。

タケナカシゲル『誰も書けなかったヤクザのタブー』

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