8月9日、大国町「ピースクラブ」で、ドキュメンタリー映画「ふるさと津島」の上映会と浪江町津島から兵庫に移住した菅野みずえさんのお話会を行った。以下、菅野さんのお話を全3回の短期連載で紹介する。今回は第2回。(取材・構成=尾崎美代子)

お話をする菅野みずえさん。テーブルの花束は、三木の自宅の畑から菅野さんが摘んできた

◆毎日東電がセシウムという肥料を与えてくれるから、花が咲き実が成る

あの映画見たら「わあ、きれいな緑」と思われるかもしれない。事故前はあんな緑で覆われてはなかったんです。家の前はどこも開いていた。西側に阿武隈山系から降りてくる「やませ」を防ぐ防風林はありましたがね。原野になるのがはぜ早いのか? それは放射性物質がまき散らかされたからです。セシウムというのは放射性カリウムです。カリウムは何かというと、花を咲かせるとか緑を濃くするものです。私は避難の家の畑で何か作るとき、実の成るものには骨粉などを与えます。これを東電が毎日やってくれるということです。そしたら緑は濃くなり花も咲く。津島の我が家で、事故前まではキュウイは剪定しないと実が成らなかったが、事故後10年近く剪定してないがキュウイがたわわに実っています。毎日東電が肥料を与えてくれるから、花が咲き実が成るのです。

福島県は南相馬に猪専用の焼却場を造っています。それを急いだのは、猪が凄いセシウムだらけだからです。埋める訳にもいかない。猟友会に駆除を頼み、檻を設置している。これまでは冷凍するしかなかったが、県の冷凍庫が一杯になって、ほかのものが入れなくなった。それで焼却場を造った。大変なことです。燃やしても放射能が濃縮された灰が残る、それをどうするかです。

今年のお盆に津島地区を訪問した。事故から9年過ぎた菅野さんの家(写真提供=Eiji.Etouさん)

◆国や東電が「処理水」と呼ぶ汚染水

汚染水も国や東電は「処理水」といって、タンクを置く場所がない写真ばかり見せる。すると善良な人たちは「場所がないなら仕方ないだろう。毎日増えるんだから流すのもしょうがない」と思ってしまう。でもあの一杯になったタンクの後ろの山は東電が新しい原発造ろうと買い占めた山です。そこを整地して、もっとコンパクトなタンクになるような技術でやればいいのに、それを一切言わない。だからそういう写真が出ると、いつも私は「土地はあるよ」と書き込むようにしています(笑)。

今、津島も大熊も双葉も、年間50ミリシーベルトの蓄積被ばくがある帰還困難区域です。そこを除染して住めるようにするということで、我が家もそのエリアに入りました。なぜ除染で家がなくなるかというと、家などそこにあるもの全てが放射性廃棄物だからです。だから今だったら公費で壊すが、それ以降は自費で、放射性廃棄物としての取り扱いをしないといけないという。こういう時だけ「放射性廃棄物だ」としっかり言うのですね、大事なことですが。解体は放射性廃棄物としての取り扱いだけで余分に1戸あたり750万~1000万円掛かる。そんな金のかかることを、子どもや孫に残すわけにはいかないので、皆さん一生懸命取り壊しています。我が家も母屋を除いて全部取り壊すことになって、先日打ち合わせに行ってきました。役場の職員と1時間くらい、家の中にいて、0.5マイクロの被ばくでした。今は葉っぱの表面について、それが毎日落ちてくるから高い。それまでのものは地面に落ちている。それが風で舞い上がる。やっぱり防護はしてほしいと思います。

津島の自宅。いつも菅野みずえさんが車を置いていた場所(写真提供=Eiji.Etouさん)

◆白血病の話

先ほどの白血病の話ですが、なぜかなと思いますが、あの時、そこでは果樹栽培の木を全部高圧洗浄器で洗ったんです。おっちゃんが上で水をかけ、母ちゃんが下で脚立を支えていた。1人でやって、何人も脚立から落ちて骨折したので危険なんです。それでも線量が下がらず、柿木の皮を全部剥いだそうです。そいういう作業をした人たちが、私は病気になっているのではないかと、勝手に思っています。たくさんの病人が出ています。一時期、福島でアフラックの宣伝がなくなったと聞きました。あまりにもペイしない話だからと。

私は2011年2月に東電の説明会を聞きました。東電は「いかなる災害にも耐えうる」と言い、「7人に1人がガンになる時代なので、原発で癌になるわけではありません。それは誤解です」と言っていました。事故が起きて避難している間には5人に1人が癌でした。私が甲状腺癌をした2016年頃は、3人に1人が癌でした。たかだか7年で統計学的、あるいは疫学的に「7人に1人の癌」が「3人に1人」になるだろうか? そう思うと私は、放射性物質というのは、そんなに能天気に笑っていれば大丈夫のものではない気がしています。

通り門を入ろうとするけれど、蜘蛛の巣と草ばかり

◆私は原発を許した世代

私は原発を許した世代です。被害者となって避難して思います。放射性物質は県境で「おっと」と言って、越えないものではないのです。去年は富士山麓の自然のキノコは食べられなかった。今年は長野のコシアブラから放射性物質が出ました。それだけ風に乗って広まったということです。だから私は、自主避難の人は相応性がないというのは、嘘だと思います。どこから避難したかは問題ではない。原発事故があったから、身を守るために、避難した。それは子供を守った偉大な話として浪曲になりそうな話ですよ。それが今では非難の対象になる。おかしな話です。

今、コロナの時代に原発はすぐさま止めるべきだという新たな裁判をやっています。福井県の石地優さんという男性がなぜ原告になろうと思ったか話しています。コロナで輸入できなくなったら、日本の食の自給率が問題になる。自分たち百姓が立ち上がらなければ、日本の食は守れない。外国から入ってこなくなったら、日本の人たちは何を食べるんだ。そういうことを考え、すぐさま原発は止めるべきだと立ち上がったそうです。7人が原告になりました。すぐさま止めてもらわないといけないので、2回くらいの裁判で結審してほしいと思っています。

次回審尋は9月14日にあります。私は、避難所はどういうところか、密にならない避難所はありえないし、避難そのものもができないではないかと訴えます。国はコロナ禍で原発事故が起きたら、換気しないで屋内退避すると主張しています。コロナウイルスよりも実は放射性物質の方が怖いんだと、暗に認めたということです。コロナウイルスが蔓延するなか、大きな事故は起きないかもしれないが、地震や台風が複合して起こらないとは言えない時代です。危ないものは元から絶たないとダメだと思います。経済活動というなら、原発を止めるべきと思います。原発事故が起こることが最大の経済危機だと思います。今だからこそ、「原発は止めないと」と頑張らなければと思います。特に避難者である私は、そのことがよくわかっていますので、これは何としても頑張らなければと考えています。

だから津島の上映会と聞いたら、もれなく私がついていくようにします(笑)。だってこれだけ見て違和感持たない人が増え、「津島の人たちは可哀そう」で終わったら困るんです。これが一人歩きしたらどうなるかと不安です。私たちは、ただ家を奪われただけではなく、撒き散らされたものが危なくて逃げている、還れないんです。それは危ないものだからです。それは防護してもらわないと困る話です。被ばくという点でおかしいと、100年後の人たちに伝えるなら、津島が何に汚されたか、何に追われて私たちは避難したかを伝えなくてはならないと思っています。(つづく)


◎[参考動画]DVD 「ふるさと津島」ダイジェスト映像(Media Laboノダグラ 2020/06/30)

菅野みずえさんが語る映画「ふるさと津島」〈1〉津島の風土と映画への違和感
菅野みずえさんが語る映画「ふるさと津島」〈2〉私は原発を許した世代です
菅野みずえさんが語る映画「ふるさと津島」〈3〉避難と被曝は生活の傍にある

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

『NO NUKES voice』Vol.25

『NO NUKES voice』Vol.25
紙の爆弾2020年10月号増刊
2020年9月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

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総力特集 ニューノーマル 脱原発はどうなるか
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[グラビア]〈コロナと原発〉大阪、福島、鹿児島

[報告]小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)
 二つの緊急事態宣言とこの国の政治権力組織

[インタビュー]水戸喜世子さん(「子ども脱被ばく裁判」共同代表)
    コロナ収束まで原発を動かすな!

[座談会]天野恵一さん×鎌田 慧さん×横田朔子さん×吉野信次さん×柳田 真さん
    コロナ時代の大衆運動、反原発運動

[講演]井戸謙一さん(弁護士/「関電の原発マネー不正還流を告発する会」代理人)
    原発を巡るせめぎ合いの現段階

[講演]木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
    危険すぎる老朽原発

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
    反原発自治体議員・市民連盟関西ブロック第四回総会報告

[報告]片岡 健さん(ジャーナリスト)
    金品受領問題が浮き彫りにした関西電力と検察のただならぬ関係

[報告]おしどりマコさん(漫才師/記者)
「当たり前」が手に入らない福島県農民連

[報告]島 明美さん(個人被ばく線量計データ利用の検証と市民環境を考える協議会代表)
    当事者から見る「宮崎・早野論文」撤回の実相

[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
   消える校舎と消せない記憶 浪江町立五校、解体前最後の見学会

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
    《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈9〉
    「原発事故被害者」とは誰のことか

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎共同代表)
    多量の放射性物質を拡散する再処理工場の許可
    それより核のゴミをどうするかの議論を開始せよ

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
    具体的なことと全体的なことの二つを

[報告]板坂 剛さん(作家/舞踊家)
    恐怖と不安は蜜の味

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
    山田悦子の語る世界〈9〉普遍性の刹那──原発問題とコロナ禍の関わり

[読者投稿]大今 歩さん(農業/高校講師) 
    マンハッタン計画と人為的二酸化炭素地球温暖化説

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
    コロナ下でも萎縮しない、コロナ対策もして活動する
《北海道》瀬尾英幸さん(脱原発グループ行動隊)
《石川・北陸電力》多名賀哲也さん(命のネットワーク代表)
《福島・東電》郷田みほさん(市民立法「チェルノブイリ法日本版」をつくる郡山の会=しゃがの会)
《規制委・経産省》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《東京》柳田 真さん(たんぽぽ舎、とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
《浜岡・中部電力》沖 基幸さん(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)

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