8月9日、大国町「ピースクラブ」で、ドキュメンタリー映画「ふるさと津島」の上映会と浪江町津島から兵庫に移住した菅野みずえさんのお話会を行った。以下、菅野さんのお話を全3回の短期連載で紹介する。今回が最終回。(取材・構成=尾崎美代子)

お話をする菅野みずえさん。テーブルの花束は、三木の自宅の畑から菅野さんが摘んできた。右側は本稿筆者の尾崎美代子さん

◆そんなものを日本中にばらまいていいわけがない

最初、映画「ふるさと 津島」を見て、皆さんが違和感持たなかったこと、これだけ原発に反対する皆さんが集まってもなお、気づかなかったというところに、私は原発事故の酷さと惨さを思います。

コロナウイルスにマスクするなら、同じ様に被ばくした土地に行ってもマスクしないといけないんです。触ってはいけないから手袋をする、そしてそれを捨ててくるんです。中で使ったものを持って帰ってはいけないことになっている。それほど汚染された場所だと、国が暗に認めているところで、防護しないということは何なんだと、私は思います。

最近飯舘村が「事故から10年経ったんだから、帰りたい人は、除染せずに帰ってもいいんじゃないか」などと言い始め、飯舘村が言っているということで、国まで除染しないと言い出しています。とんでもないことです。「ばらまいたものは仕方ないから、諦めてよ」というのはないと思うし、みんなで痛み分けしようと、8000ベクレル以下の土を持ってきて、高速道路の基礎に埋めようなんて話はとんでもないことです。いつ地震でひっくり返り、隆起して出てくるかもしれない。そんなものを日本中にばらまいていいわけがないと思っています。

自分の故郷が二度と帰れないところになるという理不尽さは、皆、一人一人持っています。原発は東にあり、津島では「東夕立」は来ることはなかった。だから8割の放射性物質は海へ落ちて、残りの2割が地上30メートルで大きな爆発を起こした。広島、長崎の何十倍の爆発です。そうしたらその膨大な熱量が冷たいところに一気に風が流れ込んだ。そこが津島だと思っています。

帰還困難区域特定拠点解除のための除染

そうしますと、皆さん、今、私たちの住んでいる関西の原発は、黄砂が吹いてくる根元にある。黄砂が吹く時期、原発事故が起きていたらどうします? 放射性物質が黄砂にまといついてやってくるのです。各ご家庭のものほしの隅々まで。そこも住めなくなるのではないですか? 8割が関西に流れるのだから。愛媛の伊方原発で台風のとき何かあったらどうなるか? 玄海原発で何かあったらどうする? あれだけ火山活動が活発な火山の近くの川内原発で目詰まりしたらどうするの? でも門司当たりにまだ原発作ろうとかいう。もう狂っているとしか思えません。事故を起こした国が造る原発は安全なんだそうです。私たちは本当にがんばって原発をとめていかないと、この先なんの未来もつくれないと思っています。

今日参加されたみなさんを見ておりますと、毎日時間がおありのような方が多い(笑)。だったら、今日も明日もあさっても、コロナはあっても原発に反対できます。街頭で反対運動などするのが不安だと思う方々は、市役所や府庁へいって、「おかしいんじゃないか? 避難計画はどうなっているの? うちの自治会に避難してくる人は、福井の京都府のどういう人たちなんだ?」ということを知って、そこの自治体の人たちと交流する、そういうことも大事ではないかと思っています。

◆ハローワークで募集されている「きれいな人の役に立つ仕事」

町中を走る除染土を運ぶ車両

私たちの地域では国の「避難計画」で、「この114号線では避難できないから拡幅してくれ」と要求が出ているなかで、原発事故がおきました。そしてあの雪道の中を逃げました。今は、放射性廃棄物を運ぶために道が広くなっています。ものすごく頑丈な道に変わろうとしています。小繋の峠というところがありました。そこを超えるとすごい車酔いするような峠、雪があるときなど福島で一晩泊まってくるというようなところでした。それが今、直線道路になろうとしている。原発があり、事故が起こったから、1日に放射性廃棄物を10トントラック2800台で運んでいます。2800台分のものを大熊町と二葉町で受け入れる能力があるからです。

家の前の、以前はのんびり通っていた道を、突如2800台のすべてではないが、少なくとも1400台のトラックが通る。15分計って58台とか通る。とんでもない汚染物がまだまだあるということです。今は風評被害をなくすためということで、福島市など町中にあった放射性廃棄物を山の中に隠して見えなくしています。そういう仕事をだれがするかというと、ハローワークで関西などにも募集がかかっています。息子が仕事を探しにいったら「きれいな人の役に立つ仕事」とあり、仙台事務所と書いてあったそうです。

浪江町の人口も増えていますが、それは還って来た人より、除染や廃炉作業の人たちです、なぜかというと、原発の仕事は地域優先なので、その自治体周辺に住民票のない人は雇わないことになっているからです。そのため、近隣自治体に簡単な宿舎を造って、そこに住民票を移して仕事をするわけです。浪江町も1000人超しました。役場で「元の住民は何人くらい?」と聞くと200~300人といってました。ほかは除染や原発に従事している人たちです。除染作業の人たちは簡単なマスク1枚です。私たちは除染労働をしてくれる、誰かの被ばくとひきかえに故郷を手に入れようとしている。そのことは本当にありなのかなと、本来は住民自身が考えなければならないことだと思っています。

原発事故は本当にあってはならないものです。原発そのものがあってはならないものと思っています。

上映会とお話会の最後に「山の歌」を歌う「アカリトバリ」。アカリさんは福島県出身。

◆日本中、どこでも明日、避難と被曝は生活の傍にある

原発事故は今は福島の人の事、関東以北の人の事ようにとらえられますが、明日は関西に済む皆さんの事。日本中に原発のあるのですから、何処でも明日避難と被ばくは生活の傍にある秘かな危機のはずです。

そのことに原発を許した世代のわたしたちが、頑張って行かなければならないことだと、思っています。

どうぞご一緒に、出来ることをできる力で頑張って行きましょう。(終わり)


◎[参考動画]福島ミエルカプロジェクト:自宅は帰還困難区域になり、関西へ避難した菅野みずえさん(FoEJapan 2020/03/10)

菅野みずえさんが語る映画「ふるさと津島」〈1〉津島の風土と映画への違和感
菅野みずえさんが語る映画「ふるさと津島」〈2〉私は原発を許した世代です
菅野みずえさんが語る映画「ふるさと津島」〈3〉避難と被曝は生活の傍にある

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

『NO NUKES voice』Vol.25

『NO NUKES voice』Vol.25
紙の爆弾2020年10月号増刊
2020年9月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

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総力特集 ニューノーマル 脱原発はどうなるか
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[グラビア]〈コロナと原発〉大阪、福島、鹿児島

[報告]小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)
 二つの緊急事態宣言とこの国の政治権力組織

[インタビュー]水戸喜世子さん(「子ども脱被ばく裁判」共同代表)
    コロナ収束まで原発を動かすな!

[座談会]天野恵一さん×鎌田 慧さん×横田朔子さん×吉野信次さん×柳田 真さん
    コロナ時代の大衆運動、反原発運動

[講演]井戸謙一さん(弁護士/「関電の原発マネー不正還流を告発する会」代理人)
    原発を巡るせめぎ合いの現段階

[講演]木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
    危険すぎる老朽原発

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
    反原発自治体議員・市民連盟関西ブロック第四回総会報告

[報告]片岡 健さん(ジャーナリスト)
    金品受領問題が浮き彫りにした関西電力と検察のただならぬ関係

[報告]おしどりマコさん(漫才師/記者)
「当たり前」が手に入らない福島県農民連

[報告]島 明美さん(個人被ばく線量計データ利用の検証と市民環境を考える協議会代表)
    当事者から見る「宮崎・早野論文」撤回の実相

[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
   消える校舎と消せない記憶 浪江町立五校、解体前最後の見学会

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
    《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈9〉
    「原発事故被害者」とは誰のことか

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎共同代表)
    多量の放射性物質を拡散する再処理工場の許可
    それより核のゴミをどうするかの議論を開始せよ

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
    具体的なことと全体的なことの二つを

[報告]板坂 剛さん(作家/舞踊家)
    恐怖と不安は蜜の味

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
    山田悦子の語る世界〈9〉普遍性の刹那──原発問題とコロナ禍の関わり

[読者投稿]大今 歩さん(農業/高校講師) 
    マンハッタン計画と人為的二酸化炭素地球温暖化説

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
    コロナ下でも萎縮しない、コロナ対策もして活動する
《北海道》瀬尾英幸さん(脱原発グループ行動隊)
《石川・北陸電力》多名賀哲也さん(命のネットワーク代表)
《福島・東電》郷田みほさん(市民立法「チェルノブイリ法日本版」をつくる郡山の会=しゃがの会)
《規制委・経産省》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《東京》柳田 真さん(たんぽぽ舎、とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
《浜岡・中部電力》沖 基幸さん(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)

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