◆大晦日の井岡一翔の“タトゥー”をきっかけに

大晦日のWBO世界スーパーフライ級タイトルマッチで、井岡一翔の左腕と脇腹に見られた“タトゥー”について賛否両論の意見が交わされました(刺青、入れ墨、タトゥーは慣習的には示すものが違うかもしれませんが、ほぼ同じ意味らしいです)。

日本ボクシングコミッションルールの欠格事由に「入れ墨など観客に不快の念を与える風体の者」は試合に出場できないというルールがありますが、ファンデーション等で隠すなど表面から一時的にも消す場合は出場許可される場合が多いようです。

入れ墨をドーランで隠す配慮ある石川直樹(2020年1月5日)

大月晴選手は胸に小さな☆マーク。可愛いもんである(2019年4月13日)

こういうルールがあること、賛否を議論されることは、それだけメジャーな競技である証明でもあり、更に細分化した部分で問題が起きているのが今回の入れ墨問題。その入れ墨はどこで線引きをするかは難しい問題でもあります。

以下、4つに分けると、

(1)どんな小さな入れ墨でもダメ。
(2)全身大部分の入れ墨や暴力団組員を表すもの、それを連想させるものでなければOK。
(3)身体の一部分で、デザイン化した絵柄、お守り的意味合いならOK。
(4)海外はOKなんだから日本も海外に合わせないと時代遅れ、どんな入れ墨もOK。

ルール的に(1)~(4)のどこで線引きするかとなると“ちょっとならOK”としたら、その線引きが難しくなります。

“大晦日の井岡一翔の場合まではOK”となる線引きするとしたら、その境界線で「井岡のより小さいのにダメなの?」や、「井岡のより大きくてガラ悪いのにOKになった!」といった損する選手、得する選手が出てくる僅差の判定に起こりがちの不可解感が生まれ、抗議殺到の可能性が高いでしょう。だから今は、従来通りのルールでいくしかないプロボクシング。それでも寛大に、ファンデーションで隠すならOKとされているのでしょう。

年代や育った環境にもよるので、意見が纏まらずに落としどころが難しい問題です。

一方で「ボクシングを健全な競技、スポーツとするのであれば、入れ墨は小さくてもダメ。“テレビに出る=世間一般への影響力”を考慮しなければならない。」という意見や、「日本では昔から“入れ墨=反社会勢力”という印象が強過ぎるせいで、未だに良くないという印象が根強く、ヒーロー的な選手が入れ墨を彫ると、それに憧れる子供が真似をする影響からダメ。」等の意見もあるのも事実。また、「皮膚移植して入れ墨を消してでもやりたいボクシング。」という選手も居た魅力あるスポーツでもあるのです。

JBCの入れ墨に関わるルールを変えたいなら、それなりの署名運動や嘆願書など諸々の手続きを取ればいいところ、井岡一翔の行動で問題提起の良いきっかけにはなったことでしょう。

弾正勝vsロッキー武蔵。昔のキックボクサーはサポーターで入れ墨を隠した(1985年3月16日)

◆キックボクシングでは入れ墨OK?

マイナー競技としての年月を経たキックボクシングは、創生期からルールが大雑把なため、テレビ局から対応を求められる以外は規制が緩い部分が多い。

昔のキックボクシングでは腕や太腿に入れ墨していた選手がサポーターを着けて試合出場していた選手がいました。腕や脚をダメージから保護してしまう不平等性があるのではないかという意見もありながら、細かいことの規制はありませんでした。

TBSテレビ放映時代の日本ヘビー級チャンピオン,ジミー・ジョンソン(横須賀中央)は横須賀米軍基地勤務からアメリカへ帰り、再び日本のリングに立った時は、腕から胸に厳つい入れ墨が大きく彫ってあったものでしたが、これも何も問題にならない昭和の時代でした。

現在も入れ墨がある選手が試合出場していますが、団体やフリーのプロモーター興行によってルールや出場条件はやや違いがあるようで、全身に近い彫りものでも隠さず出場したり、ある程度はファンデーションで隠す配慮をする選手やジムの意向、団体の規律がある興行も存在します。

もう入れ墨には慣れっ子になってしまった我々以下の世代。何といっても普段は一般人らしく礼儀正しく振舞う選手が多く、反社会勢力的存在ではないことは分かります。しかし、初めてキックボクシングを観たという一般人からは怖く見えるものということを考慮した方がいいかもしれません。

首にかけて阿涅塞と彫ってあるような字はイタリアのオリビア・ロベルト(2020年2月16日)

左腕も厳つい絵柄のオリビア・ロベルト。海外では珍しくない入れ墨である(2020年2月16日)

◆タイの国技・ムエタイでは

ムエタイが国技のタイ国では、昔からサックヤーン(タイ仏教が関連する伝統タトゥー)が普通にありますが、やはり一般的に中流以上のタイ人は入れ墨はしておらず、身体に彫るのはやはりチンピラ気質の輩や、ムエタイ選手、トレーナー、運転手、アーティスト、水商売系が多いようです。刑務所に服役する者は、やっぱり厳つい入れ墨が入ってる連中ばかりであるようです。

昔のムエタイジムでも、子供の頃に彫ったのだろうと思える、手の甲や腕にサックヤーンが入っていたのを何人も見たことがありますが、お守りとして彫る文化としては仕方無いものの、日本では教育現場で大問題となるでしょう。

タイのお坊さんも慣習的に入れ墨は多い(2003年3月15日ワット・ポムケーウ)

◆入れ墨問題の今後

キックボクシングは今後、統括する組織が出来上がる時代が来れば、入れ墨問題も提起されることでしょう。今でも「ボクシングが入れ墨ダメなんだからキックボクシングでもダメだろう」と思っている選手も居るらしい。

競技は別物でも、他競技にも影響を与える歴史と伝統あるプロボクシングは、あらゆるルールやシステムがキックボクシング界に真似されてきた経緯があり、お手本となる存在でもあるのです。今回の“井岡一翔のタトゥー問題”は物議を醸しながら何らかの進展は見られるはずで、他人事ながらそこはしっかり見守って、いずれキックボクシング界でも活かして欲しいものです。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]

フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

月刊『紙の爆弾』2021年2月号 日本のための7つの「正論」他