12~17歳の少女11人に対し、性的な行為をしたり、タブレット端末で性的な動画を撮影して保存したりしたとして児童買春・ポルノ禁止法違反などの罪に問われた県立広島病院の60代の男性医師の裁判で、広島地裁が3月5日、判決を言い渡す。

手術の腕は医師仲間からの評価も高く、病院では内視鏡外科グループの主任部長を務めていた男性医師。しかし、昨年6月に警察に逮捕されて仕事を失った。現在は暫定的に親しい医師の病院で働いているが、今後は医師免許を取り消され、医師ができなくなる可能性もあるという。

男性医師はなぜ、自分自身を窮地に追い込むような犯罪を繰り返したのか。裁判を傍聴した私が気になったのは、性犯罪を起こした有名芸能人たちとの「ある共通点」だ。

◆本人は犯行の動機として「仕事の重責」と「家庭の問題」を挙げたが……

「仕事の重責に押しつぶされそうになっていたことと、家庭でも妻、息子との意思疎通が十分にとれずに自分が不幸せだという感情を抱いていたことが要因として考えられると思います」

2月10日、広島地裁の第304号法廷。証言台の前に座った男性医師は、犯行の動機をそう語った。

男性医師によると、仕事の重責に苦しむようになったのは、病院で主任部長に就任してからのことだったという。

「それ以前は手術だけをしていればよかったのですが、主任部長になって全体のスケジュール管理もしないといけなくなった。それで精神的にも肉体的にも負担を感じるようになりました」

一方、家庭の問題は20年近く前からのことだったという。きっかけは、妻が多発性硬化症という難病を患ったことだった。

「息子が小1になる頃でした。妻は病気で身体が動かなくなり、私が充分にサポートできず、ぎくしゃくした関係になりました。当時の自宅は尾道市でしたが、妻は実家に戻り、私も広島市に単身赴任し、別々に暮らすようになりました」

妻は現在も闘病中で、車椅子の生活。この間、息子も高校を不登校になって中退した。男性医師はそんな生活にやり切れない思いを抱える中、仕事での負担が増えたことによるストレスも重なった。そして当初はデリヘルに癒しを求めたそうだが…。

「デリヘルでは、寂しさを紛らわせませんでした。それで、出会い系サイトで知り合った女性と交際するようになりました」

最初に交際した女性は、自分のことを「大学生」だと言っていた。しかし実際の年齢は18歳未満だったという。

「18歳未満の女性と交際したら犯罪だということはわかるので、最初からそういう女性を探したわけではありません」

男性医師は強い口調でそう言った。しかし実際には、その18歳未満の女性と交際して1年くらい経った頃から、ツイッターで「パパ活募集」している女性を探すように。そして、中高生の少女たちを相手に次々と犯行を重ねたのだという。

男性医師の裁判が行われている広島地裁

◆私が思い起こした男性芸能人のY氏とA氏

私は男性医師のそんな話を聞いていて、この人はおおむね正直に話しているように思えた。だが、事件を起こしたことの要因として、他にも指摘できることがあると思った。少し前に性犯罪を起こし、社会を騒がせた2人の男性芸能人と「ある共通点」があるからだ。

2人の男性芸能人とは、酒に酔って共演者の少女に無理やりキスをした男性アイドルグループのY氏と、派遣型マッサージ店の女性従業員に性的暴行をして服役中の俳優A氏だ。そして、この2人と男性医師の共通点とは、社会的地位が高く、金もある一方で、一緒に暮らす家族はおらず、一人で暮らしていた――ということだ。

一般的に、犯罪は社会的地位が高い人や金のある人よりも、社会的地位が低い人や金の無い人が起こしやすい。これは偏見ではなく、厳然たる事実だ。

ただ、社会的地位の高い男性や金のある男性はそうでない男性に比べると、女性と接する機会が多くなりやすい。女性にモテない男性でも金さえあれば、女性と接する機会はすぐ作れる。そういう男性が何かのきっかけで魔が差した場合、一緒に暮らす家族がいればストッパーになるだろうが、一人暮らしをしていたら…。

私は、男性医師が犯行に至った経緯を聞きながら、A氏やY氏のことを思い出し、そのように考えをめぐらせたのだった。この記事を読んでくれたあなたは、どう思われるだろうか。

なお、男性医師の裁判では、検察官が懲役3年を求刑しているのに対し、弁護人は男性医師が「被害者」11人のうち、連絡がとれた8人に各50万円の被害弁償をしたうえ、600万円の贖罪寄付もしていることなどを説明し、寛大な刑を求めている。裁判の最大の争点は執行猶予がつくか否かだが、男性医師本人は医師免許がどうなるかが一番気がかりなのではないかと思う。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。近著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(著者・久保田祥史、発行元・リミアンドテッド)など。

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