またこの男の立ち回りが脚光を浴びている。「なぜか捜査を受けない竹中平蔵の脱税疑惑 ── 持続化給付金と規制緩和の利益誘導で私腹を肥やす?」(2020年12月2日)において、竹中の浅薄な経済政策理解を批判してきた。

◆いまだ解明されない脱税疑惑

「『格差が問題なのではなく、貧困論を政策の対象にすべき』としてきた結果は、中間層までも不安定な雇用関係に陥らせる格差の拡大、大企業の内部留保(500兆円)だった。いまや、消費の低下が国民経済を最悪のところまで至らせている元凶となるものが、この竹中による構造改革・労働政策だったというほかにない」と。

そしてその「罪業」は、小泉政権時の経済政策担当大臣、安倍政権におけるブレーンとしての経済政策だけではない。

「国民の血税をかすめ取る吸血鬼のような男ではないだろうか。その竹中平蔵の脱税疑惑は、小泉政権当時から指摘されていた」のである。

元国税庁職員だった大村大次郎(経営コンサルタント、フリーライター)は、こう批判している。

「竹中平蔵氏が慶応大学教授をしていたころのことです。彼は住民票をアメリカに移し日本では住民税を払っていなかったのです。住民税というのは、住民票を置いている市町村からかかってくるものです。だから、住民票を日本に置いてなければ、住民税はかかってこないのです。
 もちろん、彼が本当にアメリカに移住していたのなら、問題はありません。しかし、どうやらそうではなかったのです。彼はこの当時、アメリカでも研究活動をしていたので、住民票をアメリカに移しても不思議ではありません。でもアメリカで実際にやっていたのは研究だけであり、仕事は日本でしていたのです。竹中平蔵氏は当時慶応大学教授であり、実際にちゃんと教授として働いていたのです。」(2020年10月1日付けのメルマガ)

ようするに竹中平蔵は、日本で仕事をしながらアメリカに住人票を置いて、「節税」をしていたのだ。つまり巧妙な、そして明白な「脱税疑惑」があるのだ。

 

佐々木実『竹中平蔵 市場と権力 「改革」に憑かれた経済学者の肖像』(講談社文庫2020年9月)

ジャーナリストの佐々木実は、『竹中平蔵 市場と権力』において、次のように指摘してきた。

「竹中平蔵の本業は慶應義塾大学総合政策学部教授だったが、副業を本格的に始めるために〈ヘイズリサーチセンター〉という有限会社を設立した。法人登記の『会社設立の目的』欄には次のように記されている。

『国、地方公共団体、公益法人、その他の企業、団体の依頼により対価を得て行う経済政策、経済開発の調査研究、立案及びコンサルティング』

「フジタ未来経営研究所の理事長、国際研究奨学財団の理事というふたつのポストを射止めた段階で、副業はすでに成功していたといえる。竹中個人の1997年の申告納税額は1958万円で、高額納税者の仲間入りを果たしている。総収入は6000万円をこえていただろう」と。

◆持続化給付金を吸い取る

竹中が個人的なビジネスで成功するのはいいだろう。それが「脱税疑惑」であれ何であれ、個人的なものにすぎない。

だが、竹中は小泉・安倍政権に寄生することによって、政商ともいうべき地位を築いたのだ。みずからのリスクを投じたビジネスではなく、国民の税金を吸い上げる利権に群がる利殖構造を築いたのである。

昨年の持続化給付金の業務は、サービスデザイン推進協議会という一見してニュートラルな組織に769億円で委託され、そこから電通に749億円で再委託されている。その段階で電通が約20億円を中抜きし、さらに下請け孫請けで実務が行なわれていたのだ。あまりにも複雑怪奇な外注に、自民党の政策担当者も驚かざるをえなかったという。

そして、この持続化給付金の業務委託を実質的に請け負った主要企業のひとつが、竹中平蔵が会長を務めるパソナだったのである。いや、そうではない。一次請けの「サービスデザイン推進協議会」それ自体が、元電通社員・パソナの現役社員が名を連ね、最初から最後まで税金を中抜きするトンネル構造だったのだ。

立憲民主党の川内博史議員は、国会においてこう指摘している。

「社団法人を通じて、電通をはじめとする一部の企業が税金を食い物にしていたわけです。持続化給付金事業に限らず、経産省の事業ではそうしたビジネスモデルが出来上がっている」と。

◆東京五輪の日当35万円というトンデモ報酬

そしていままた、東京オリンピック利権に竹中平蔵のパソナが大きくかかわっているのだ。

コロナ禍にもかかわらず、今回のオリンピック・パラリンピックには多くの市民ボランティアが無償奉仕する。9万人といわれるボランティアのうち1万人が辞退し、80%の国民が「中止・延期」を希望しているものの、国民の奉仕精神に依拠した大会は、まがりなりにも実現されるのであろう。

それはひとつには、強硬開催することで国民的な祝祭感をつくりあげ、コロナに人類が打ち勝ったという雰囲気で、政治危機の突破をはかる菅政権。

そして組織としての存続が、強行開催をもってしか果たせないIOCおよびその周辺の「オリンピック貴族」、各種スポーツ団体。

そしてもうひとつは、オリンピック開催で暴利を得ようとする企業。その筆頭が大手広告代理店であり、大手派遣会社パソナなのである。

大会の準備業務をになうディレクター職は、1人あたり1日35万円のギャラだという。40日間でひとり1400万円が得られることになる。運営計画業務のディレクターは1人あたり25万円。こちらも40日間で1000万円である。

以下、運営統括が1日25万、サブディレクターが1日10万円、ボランティアとほぼ同じ業務のサービススタッフも1日2万7000円である。募集人員は800人、報酬金の総額は6億2300万円であるという。

5月26日の衆議院文部科学委員会で、このトンデモ報酬は追及に遭った(立憲民主党の斉木武志議員の質疑)。

しかるに、丸川珠代五輪相は「守秘義務で見せてもらえない資料がある」などと称して答弁に応じなかった。国税をつぎ込んだ事業の受注した企業のどこに「守秘義務」が生じるのか、そもそもこの大臣は基本的な行政知識がない。自民党も政府と一体となって、参考資料の配布を拒むという悪あがきに終始したのである。


◎[参考動画]衆議院 2021年05月26日 文部科学委員会 #04 斉木武志(立憲民主党・無所属)

◆募集欄は時給1650円

これらトンデモない高額報酬の人材確保は、つねのことながら電通、博報堂をはじめとする大手代理店に丸投げされ、諸経費として20%が代理店に落ちる。20%は通常の広告出稿手数料だが、丸投げでは中抜きと言わざるをえない。

ところが、である。この業務に参加するスタッフに支払われるべき報酬は、募集段階で大半がどこかに消えてしまうのだ。

算数ができる人間ならば、誰にも目を疑うような事態が起きている。パソナのオリンピック業務募集欄を見ていただきたい。

スタッフの募集欄には、1650円と明記されているのだ。1日8時間労働として、1万3200円である。上記の最低賃金「サービススタッフ」ですら2万7000円だというのに、半分以上が中抜きされているのだ。この「中抜き」はしかし、パソナの収益構造なのだ。政府が募集業務の内容を限定し、直接雇用した場合は、そもそもこんなトンデモ報酬は発生しないはずだ。

もはや明らかだろう。今回のオリンピックは菅政権の政治的ツッパリであるとともに、寄生業者とりわけ広告代理店とパソナによる利権事業と化しているのだ。じっさいに、パソナの昨年の収益は10倍に伸びたという。持続化給付金で味をしめた寄生業者パソナは、派遣業務というある意味ではフレキシブルな業態によって、イベントを高額化することで、いままた法外な超過利潤を得ようとしているのだ。


◎[参考動画]【竹中平蔵の骨太対談】 第7回 前編 パソナグループ代表 南部靖之氏(KigyokaChannel 2016年12月3日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』7月号