◆頭字語タイトル

最近のキックボクサーの肩書きに付くタイトル(王座)やランキングには、リリースされる対戦カードを見る度、長い名称や頭字語が付くタイトルが多くなったと感じます。

プロボクシングでは存在しない、キックボクシングでの聞き慣れないタイトル全てを、一般の方々から見た場合、どう捉えるでしょうか。そんな選手の経歴はどんな位置付けにあるものか、今後も出て来る選手の所属する団体やタイトルを少々解説しておきたいところです。

キックボクシング雑論を書き始めの最初が2015年10月31日掲載の「群雄割拠? 大同小異? 日本のキックボクシング系競技に『王座』が乱立した理由」でしたが、早いものでやがて満6年となります。団体やタイトルに関わる似た文言は何度も出てきた部分もあるかと思いますが、再度振り返りと今回はタイトル名称の在り方で進めたいと思います。

ISKAに日本タイトルは無いが、存在感は大きい

◆古くからの団体制

プロボクサーなら日本○○級チャンピオン、東洋太平洋〇〇級チャンピオン、WBA世界○○級チャンピオンと形式上は段階的に上がり、世界は主要4団体となってアジアエリアも変化がありましたが、昔からの存在に於いてはその地位や価値が分かり易い。

キックボクサーの場合、国内に於いては、日本○○級チャンピオン、全日本○○級チャンピオン。そして10位までのランキング。2団体制の時代までは分かり易かったところ、新団体設立毎に“日本”に複合的な名称が付いたり、“日本”は出尽くして、“ジャパン”と名の付く団体や、フリーのプロモーターが主催する興行コンセプトといった名称のタイトルが増え、一つ一つの王座の価値が曖昧な存在となってしまった現在です。

新日本キックボクシング協会での選手の肩書きには“新日本”ではなく、日本○○級チャンピオンや、日本○○級1位といった“日本”を名乗る、その老舗からの由来がありました。

ジャパンキックボクシング協会は2019年3月に設立。ジャパンキック○○級チャンピオンという表記が多いが、もうひとつジャパンキックボクシングイノベーションという団体が存在するので、頭字語は“JKA”とも表記されています。

[写真左]UMAは2019年12月にルンピニージャパン・ウェルター級王座獲得(2019年12月1日)、[写真右]馬渡亮太は2019年8月、JKAバンタム級王座獲得。後に上位目指し返上(2019年8月4日)

ニュージャパンキックボクシング連盟は1996年8月の設立当初は“新日本”を名乗っていましたが、先に新日本キックボクシング協会(当時は休会)が存在していた経緯があり、“ニュージャパン”に変更も、文字数が長くなるので頭字語を中心にNJKFに落ち着いた流れで、“NJKF○○級チャンピオン” のような表記になります。

J-NETWORKは1997年の設立団体で、そのまんまJ-NETWORKと表記。

その1年後にキックボクシングユニオンが設立しましたが、習志野ジムの樫村謙次会長がK-1に倣って名付けたと言われ、当初からK-Uと簡略化されています。

古き時代のアジアモエジップン連盟は1983年設立。日本とタイの懸け橋と謡った設立も、1年後にはアジア太平洋キックボクシング連盟に改名。頭字語はAMFからAPF、時代を経てAPKFに移っています。

10月16日に3度目の防衛戦を行なうNKBライト級チャンピオン高橋一眞(2017年12月16日)

毎度登場の日本キックボクシング連盟は1984年(昭和59年)11月に統合団体として設立。後の2000年頃、NJKF、K-U、APKFと共に団体統合はせず、4団体でNKBを発足して統一王座トーナメントを経て2002年に各階級で王座決定戦開催。現在は日本キックボクシング連盟とK-Uだけで継続されています。NKBは“日本キックボクシング”から来る頭字語です。NKBライト級チャンピオン.髙橋一眞といった表記になっています。

マーシャルアーツ(MA)日本キックボクシング連盟は当初の日本キックボクシング連盟と枝分かれした団体で、呼び名を “マーシャルアーツ”と単独で呼んで、競技名のややこしさを残しましたが、肩書きはMA日本○○級チャンピオンという有るがままの呼び方になっていきました。

ジャパンキックボクシング・イノベーションは2013年に設立。通常はイノベーションと呼ばれること多く、INNOVATION○○級といった表記。団体名頭字語はJKI。ここまではジムが加盟して出来た協会や連盟といった団体図式です。

◆フリーの存在

昔は既存の団体の縛りが厳しく、どこにも所属しないで興行開催など考えられなかったところ、1992年にK-1の出現以降、団体の縛りの無いフリーのジムやプロモーターが徐々に増え出し、単独興行が成り立つ時代となりました。そしてそのイベント単位でタイトル(王座認定)化したものが多くなりました。

その中ではテレビを通じて世間一般に浸透したK-1や、PRIDEが原点のRIZIN は現在も存在感は大きい。2016年発祥のKNOCK OUTは代表者が代わり、方針も変わりながらビッグマッチを行なうイベントとしては有名です。10年続いたREBELSは今年3月より、KNOCKOUTに吸収される形で統合されました。

NJKFで興行を開催されてきたムエタイオープン興行は2014年に独立後、独自の興行名をタイトル化し、ブランド効果高いルンピニー・ボクシング・スタジアム・ジャパンタイトルも立ち上げました。頭字語はLBSJとなるところが、一般的にはルンピニージャパンと簡略して呼ばれ、LPNJと表記されています。

本場タイにある世界プロムエタイ連盟(WPMF)の日本タイトルは主にM-One興行で開催されていましたが、日本支局消滅により現在は休眠状態。他にも1995年にタイ発祥のWMC(世界ムエタイ評議会)の日本タイトルがあり、主にBOM(=Battle of MuayThai)興行で開催。WBCムエタイはプロボクシングのWBC(世界ボクシング評議会)が活動を広めた世界機構で、下部にインターナショナル、日本タイトルが存在し、主にNJKFとJKイノベーション興行で開催されています。

[写真左]2016年6月にWBCムエタイ日本王座制し、NJKFと二つの獲得となった白神武央(2016年6月)、[写真右]翔センチャイは2017年8月にWMC日本ライト級王座獲得(2017年8月11日)

小野瀬邦英の引退式で贈られたチャンピオンベルトは古き時代のもの(2002年12月14日)

◆ローカルタイトルの役割

国内で発祥のRISE、蹴拳、Krush、DEEP☆KICK、ビッグバン、聖域、KOS(=King of Strikers)、沖縄発祥のTENKAICHI、神戸発祥のACCEL等(他、地方発祥在り)もタイトル制定があり、これらの団体や興行のタイトルはプロボクシングの一国一コミッションが基の唯一の日本タイトルではなく、いつまでも続く保証は無い私的団体だが、乱立細分化はマイナス要因ばかりではなく、選手にとっては最初の目標となるステータスとなって競技人口が増えている現象もあります。

キックボクシングの真の日本統一タイトルは存在しないものの、パンフレット、対戦カード等に聞き慣れない選手の肩書きがあったら、その地位は低くとも、チャンピオンロードの始まりの世界最高峰への第一歩として、何となくでも理解して頂ければと思う次第です。

以下は従来どおりタイトル名や出場選手の肩書きが付いている、10月16日(土)後楽園ホールにて開催予定の「NKB 2021 必勝シリーズ 6th」の主要6試合の対戦カードです。(主催:日本キックボクシング連盟 / 認定;NKB実行委員会)

NKBライト級タイトルマッチ 5回戦
NKBライト級チャンピオン.髙橋一眞(真門)vs 挑戦者同級1位.棚橋賢二郎(拳心館)

ウェルター級ノンタイトル3回戦
NKBウェルター級3位.笹谷淳(team COMRADE)
     vs
ACCELライト級チャンピオン.どん冷え貴哉(Maynish)

第9代NKBバンタム級王座決定4人トーナメント(準決勝)3回戦2試合
出場4名によるトーナメントは抽選による対戦カード決定。決勝戦は12月11日。
1位.高嶺幸良(真門)
2位.海老原竜二(神武館)
3位.則武知宏(テツ)
5位.龍太郎(真門)

フライ級3回戦
NJKFフライ級3位.谷津晴之(新興ムエタイ)vs 杉山空(HEAT)

63.0kg契約3回戦
NJKFライト級6位.梅津直輝(エス)vs YASU(NK)

他の他団体興行スケジュールも発表されていますが、ここでは一例を掲載致しました。

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※高橋一眞(真門)vs棚橋賢二郎(拳心館)のNKBライト級タイトルマッチは高橋一眞の欠場により、メインイベントは以下に変更になりました。

ジャパンキックボクシング協会ライト級2位.内田雅之(KickBox)
     VS
NKBライト級3位.野村怜央(TEAM KOK)
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▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

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