昨年(2021年)の12月27日、読売新聞社と大阪府は記者会見を開いて、両者が包括連携協定に締結したことを発表した。大阪府の発表によると、次の8分野について、大阪府と読売が連携して活動する計画だという。特定のメディアが自治体と一体化して、「情交関係」を結ぶことに対して、記者会見の直後から、批判があがっている。

連携協定の対象になっている活動分野は次の8項目である。

(1)教育・人材育成に関すること
(2)情報発信に関すること
(3)安全・安心に関すること
(4)子ども・福祉に関すること
(5)地域活性化に関すること
(6)産業振興・雇用に関すること
(7)健康に関すること
(8)環境に関すること

(1)から(8)に関して、筆者はそれぞれ問題を孕んでいると考えている。その細目に言及するには、かなり多くの文字数を要するので、ここでは控える。

◆読売が抱える3件の「押し紙」裁判

多くの人々が懸念しているのは、大阪府と読売が一体化した場合、ジャーナリズムの中立性が担保できるのかとう問題である。もちろん、筆者も同じ懸念を抱いている。

しかし、筆者は別の観点からも、この協同事業には問題があると考えている。それは読売グループの企業コンプライアンスである。大阪府は、同グループによる新聞の商取引の実態を調査する必要がある。

結論を先に言えば、新聞販売店に搬入されている新聞の部数に不自然な点があるのだ。俗にいう「押し紙」問題である。現在、読売新聞社を被告とする「押し紙」裁判が3件起きている。しかも、東京本社、大阪本社、西部本社のそれぞれが裁判の被告になっている。いずれも販売店の元店主が、「押し紙」による損害賠償を求めている。

「押し紙」とは、簡単に言えば、新聞社が販売店に対して買い取りを強要する新聞のことである。しかし、読売本社は一貫して、「押し紙」をしたことは一度もないと主張してきた。読売の代理人を務めてきた喜田村洋一弁護士(自由人権協会代表理事)も、一貫してそのような考え方を表明してきた。

新聞販売店で過剰になっている新聞(残紙)は、新聞販売店が折込広告の受注枚数を増やしたり、本社から支給される補助金の額を増やすことなどを目論んで、自主的に注文してきた部数であるとする立場を貫いてきた。そのために残紙を指して、「押し紙」とは言わない。「積み紙」と言う。用語にもこだわりを持っているのだ。

残紙の回収風景(本文とは関係ありません)

◆ABC部数と実配部数が乖離している可能性

大阪府が調査しなければならないのは、読売新聞社と新聞販売店のどちらに残紙問題の責任があるのかという点ではない。それは裁判所の役割であって、大阪府は関知できない。

問題は、読売側に非があるにしろ、販売店側に非があるにしろ、公表されている新聞の部数(ABC部数)に疑義がある点なのである。実配部数(実際に配達している部数)を反映していないのではないかという疑惑があるのだ。

残紙を抱え込むことで、事業規模を実際よりも大きく見せていれば、広告主(折込広告、紙面広告)が経営判断を誤ることになりかねない。

調査の焦点は、読売グループの残紙である。残紙が確認できる読売の販売店が複数存在することは紛れない事実である。たとえば現在進行中の3件の「押し紙」裁判の資料を、裁判所の記録係で閲覧すれば、それは簡単に明らかになる。(誰でも閲覧可能)。

またABC部数を解析することで、ABC部数と実配部数に乖離があるかないかを推測することもできる。

次に示すのは、大阪府の大阪市におけるABC部数の変化(2016年4月から2020年10月の5年間)である。着色した箇所は、部数がロック(固定)されている期間を示している。

読売新聞 大阪市におけるABC部数の変化(2016年4月から2020年10月の5年間)

通常、新聞購読者の数は日々変化する。しかも、「紙新聞」離れが進んでいるので読者数は極端な減少傾向にある。ところが上の表に見られるように、大阪市における読売新聞の場合、当たり前に部数がロックされている。読売本社が販売店に販売している部数が、1年から数年にわたり固定されているケースが頻繁に観察できる。
 
たとえば生野区の場合、2016年10月から2020年10月までの4年半にわたって、ABC部数が6083部にロックされている。1部の増減もない。その原因が読売本社にあるにしろ、販売店にあるにしろ、広告主(折込広告、紙面広告)は不信感を抱くだろう。PR戦略に不安を感じかねない。常識的にはあり得ない現象であるからだ。

参考までに堺市のデータも紹介しておこう。

読売新聞 堺市におけるABC部数の変化(2016年4月から2020年10月の5年間)

広告主は、ABC部数などのデータを参考にして、紙面広告の媒体を選んだり、折込広告の印刷部数や折込枚数を決めるわけだから、新聞の実配部数(実際に配達している新聞)を把握しておかなければ、経営判断を誤る。大阪府自身も広報紙『府政だより』の広告主(新聞折り込みで配布)になっており、正確な実配部数を把握する必要がある。

ちなみに次に示す熊本日日新聞の熊本市におけるABC部数は、新聞の商取引が正常であることを示している。わたしが知る限り、同紙は自由増減制度(販売店が、自分の判断で注文部数を決める制度と権利)を保証しているから、部数のロックが1部も観察できない。表の上で、着色対象になる期間がまったくない。

熊本日日新聞 熊本市におけるABC部数の変化(2016年4月から2020年10月の5年間)

「押し紙」裁判は、読売本社と販売店の係争(業界内の問題)であり、両者で決着すべき問題だが、残紙問題に折込広告や紙面広告がからんでくると、業界の壁を超えた大問題になる。残紙が広告主のPR戦略と経営判断に影響するからだ。かりに読売グループにコンプライアンス問題があれば、読売関係者が児童や生徒に読み書きや作文を指導するのはふさわしくない。彼らが「道徳」を語るべきではない。

大阪府の吉村洋文知事は、この点を踏まえて新聞の商取引の実態を調査すべきではないか。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
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