◆インボイスは輸出時の価格明細書だが

インボイス制度を御存じだろうか? 2023年10月から導入される、税制上の大きな変更点である。というよりも、貿易業関係者でもなければ、インボイスという言葉そのものに馴染みがないと思う。そのインボイスが今回の参院選挙の争点の一つとなっている。

制度の解説よりも、わたしの体験から解説しよう。海外に物品を送付するさいの参考にしてほしい。

わたしが関わっている出版社では、中国の大学から翻訳出版の委託を受けている。中国と韓国に顕著なことだが、国内の研究を日本や欧米に紹介する目的で、金銭的な支援付きの出版事業を行なっているのだ。ジャンルは学術研究から小説、観光案内など多岐におよぶが、自国の文化を国際的に紹介するのが目的だ。まぁ、文化輸出政策である。

とくに学術関係では、ヨーロッパ(独仏)・アメリカ発のものが圧倒的な影響力を持ち、最近ではアントニオ・ネグりなどイタリアの現代思想も多くなっている。アジア発の思想というのは、毛沢東以降ほとんどないと言っていいだろう。

しかし中国でも現代思想の研究はさかんで、マルクスやレーニンはもとより、フーコー、ハイデッガーなどである。話が逸れたが、資金援助している以上、日本で刊行された本を中国の研究機関に送るのも、こっちの仕事である。

国際郵便には船便、航空便、EMSがあり、大量に輸送できるのは船便である。じつは国際郵便にも政府が主導するデジタル化の波が押し寄せ、日本郵便のサイトでプリントアウトした書類(ラベル)が推奨されるようになった。郵便局に置いてあるラベルは、PCを使えない人用のものとなり、手書きで手続きをするときに、局員があらためてデジタル入力するという、迂遠な方法になってしまっているのだ。わたしの場合も「プリント(家庭用プリンター)の角度がダメ」ということで、局員が入力しなおすことになった。手間ばかりかかる、まことにバカバカしい「デジタル化」だ。

以前の船便は大きなズタ袋に、重量制限のない段ボール入りの荷物をドコンドコンと入れて、針金付きの手書きラベルを結わえて重さを測るという、荒っぽいものだった。海賊のような荒くれ船員が、そのズタ袋をドーンとカーゴに投げ込むんだろうなぁ、と思ったものだ。

それも改正されて、制限重量が30キロとなった。しかも2021年2月付で、20万円をこえるとインボイスが必要となっていた。長々と読ませてすいません、ここからが本番です。わたしの仕事は献本であって、べつに本の輸出ではないのだが、価格が付いている以上、インボイスが必要ということになる。

だからインボイスって何なんだ、という声に、そろそろお答えしよう。要するに、請求書である。国税庁の概念では、適格請求書(適格請求書等保存方式)ということになる。直営郵便局(各自治体にひとつはある、大きな局のこと)なら用紙を印刷してくれて、そこに金額とこっちの住所、宛先などを書き込むことになる。郵便局関連はここまでにします。

◆免税業者からも徴税

要件は消費税(仕入れ税)のやり取りを明確にし、徴税を円滑にしたいという財務省(国税庁)の思惑である。やっかいなのは、売り上げ1000万円以下の業者やフリーランス(免税事業者)にも、この影響がかかってくるということだ。

たとえばフリーライターが出版社に「請求書を起こしてくれ」と言われれば、消費税分を明記した請求書に発行者の登録番号を明記しなければならなくなるのだ。要件だけ列記しておこう。

◎請求書に必要な記載
1.請求書発行者の氏名又は名称
2.取引年月日
3.取引の内容(軽減対象税率の対象品目である旨)
4.税率ごとに区分して合計した税込対価の額
5.請求書受領者の氏名又は名称

◎インボイスになると追加される記載
1.請求書発行者の登録番号
2.適用税率
3.税率ごとに区分した消費税額等

問題なのは、登録番号である。このインボイス発行事業者以外からの仕入で支払った消費税は、原則として仕入税額控除の適用を受けられないのだ。フリーライターの原稿料の場合、たとえば一本の記事が税込何千円という具合に契約されていれば、出版社側でおこなう源泉徴収だけで手続きは終わる。確定申告用の支払調書を発行してもらえば済む話だ。

だが、青色申告をしている事業者の場合で、下請け業者が登録業者でないケースは、1千万円以下の売り上げ(従来は免税)でも消費税分を負担することになるのだ。要するに、インボイスが導入されると、誰もが登録業者として適格請求書を作成しなければないという、面倒くさいことになるのだ。インボイス登録をしていない業者が仕事を切られる可能性が高くなる。

このインボイスが、制度導入の根拠である消費税減税として参院選挙の争点になっているのは周知のとおりだ。

各政党の公約を入れておこう。

自民・公明・維新・N党      消費税維持・インボイスやります
立憲・共産・国民民主(野党共闘) 消費税減税5%・インボイス中止
れいわ              消費税廃止=インボイス消滅

19日のNHK日曜討論で自民党高市政調会長は、れいわ新撰組の大石政審会長の「数十年にわたり法人税は減税、お金持ちは散々優遇してきたのに消費税減税だけはしないのはおかしい」という追及に、こう反論して話題になっている。

「れいわ新撰組から消費税が法人税の引き下げに流用されているかのような発言が何度かありました。これは事実無根だ」と色をなして反論したのだ。

◎[参考動画]https://youtube.com/shorts/fZQW_4qrWy8?

消費税は法律で社会保障に使途が限定されているとして「デタラメを公共の電波で言うのはやめていただきたい」とまで言い放ったのだが、おかしいと思いませんか。使途が限定されていても、お金に色が付いていないのだから──。

消費税が法人税の穴埋めに使われているのは数字上、明らかだ。財務省の「一般会計税収の推移」によると、消費税が導入された1989年度の消費税収は3.3兆円だったが、昨年度は21.1兆円と6倍に膨れ上がっている。いっぽう、法人税は19兆円から12.9兆円へと6.1兆円も減税されているのだ。

消費税がここにきて問題になっているのは、悪い物価高(原材料費の高騰)が国民生活を直撃しているからにほかならない。自民党は大勝が見込める選挙と口にしてきたが、このかんのメディアによる物価高報道に、危機感を明らかにしている。ひきつづき、参院選挙の焦点である物価高・消費税・防衛費増額などを解説していきたい。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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