私は3月の本通信への投稿で「地方自治の解体・民営化が狙われている」と題する一文を投稿し米系外資が日本の自治体を管理運営しようとしている危険性を指摘した。

今、それは4月に行われた統一地方選の結果を利用しながら、自治を解体し日本をなくす「改革」として進められている。今回は、そのことについて、述べて見たい。

 

魚本公博さん

◆狙われている「日本の自治」解体策動

4月に行われた統一地方選は「低調」であった。とりわけ議員の「なり手がない」ことによる無投票が増えた。88の市長選の3割近くの25市が無投票。町村はより深刻で125の町村長選では半数の70町村で無投票。373の町村議員選で1250人が無投票であり、そのうち議員定数に満たない「定数割れ」は前回の2.5倍となる20町村であった。

マスコミがこれを「地方議会の問題」とする中、朝日新聞が「自治制度の危機」と題する社説(4月27日)で、議会活性化のための様々な方途を提示しながら、会社員が議員を兼務することを更に進め、公務員が議員を兼務することも容認すべきだ主張した。

これまで地方自治法で会社員、公務員が議員を兼務することは禁止されてきた。自治体と取引のある会社の取り締まり役、監査役などの幹部社員は議員と兼務できないし、自治体職員も議員と兼務できないとなっている。

これは、自治体と取引関係がある会社や自治体職員が議員を兼務すれば、その議員は会社のため動くようになり、住民自治が損なわれる危険性があるからである。なお首長に関しても、この規制は適用される。

会社員の兼務については、昨年12月の法改正で自治体との取引額300万円以下の会社社員であれば兼務できるとなったがまだ自治体職員(公務員)の兼務は禁止されている。

私は貴通信への投稿(2月)で、デジタル人材を人材会社と協力して都道府県に外部人材とし確保させながら、これを市町村に派遣する総務省の方針について、これは基礎自治体である市町村を米系外資の関連人士が運営するためのものではないかと述べたが、このデジタル人材は、自治体職員になる。従って、会社員と公務員の「議員との兼務」容認は、米系外資の関連人士が首長や議員になることを容認し米系外資が日本の市町村を直接管理運営することを容認し促進するものとなるのではないかということである。

岸田首相は1月の施政方針演説で「地方議会活性化のための法改正」を行うと述べている。それは、日本の自治を解体し米系外資・企業が日本の自治業務や自治体そのものを直接管理運営することを容認し促進させるところに真の狙いがあると思う。 

こうした中、5月3日の憲法記念日に際して読売新聞が行った座談会では、「首長がいない自治体も認めるべきだ」との発言もあった。「首長がいない自治体」? 私が思い浮かべるのは、2005年に米国ジョージア州ワトソン郡に作られたサンディースプリング市のこと。この市は、年収1000万円以上の富裕層だけを集め、「安全」を売り物にして企業が管理する人工市である。そこでは市長も市議会議員も企業が任命する社員である。まさに「首長のいない自治体」である。

それは、公共性を否定し自治体の公共事業を民営化して食い物にする新自由主義者にとって、理想の究極的な自治体の形である。岸田政権の「法改正」は、そこまで視野に入れているように思える。

◆維新の「改革」の実態と本質

米系外資・米国企業が地方地域の自治体を直接管理運営する。維新が推し進めている大阪IR(カジノ)を見れば、その実態が見えてくる。大阪IRは、米国のIR運営会社「MGMリゾーツ」がオリックスなどが出資する「IR株式会社」を前面に立てて運営する。これを安倍、菅政権で首相補佐官を勤め、松井大阪市長が推薦して府の特別顧問になっている人物(和泉洋人)が関与する。

この夢洲IRでは、そのインフラ整備は大阪がやる。それを年間25億円という法外に安い値段で貸し出し、儲けの大半は米国企業が持っていく。そして、そこには大きな利権構造が出来る。維新は「既得権層」の打破を言うが、自らは、これまでの利権とは比較にならない巨大利権の「得権層」になるということだ。

もちろん、夢洲IRは一施設であり、それ自体が自治体なわけではない。しかし、問題の本質は、大阪の自治業務の重要な一環を米国企業が管理運営するという所にある。

IRは、「国際エンターテインメント都市 ”OSAKA”」という維新の地域振興策の重要なカナメであり、そのシンボルである。そうであれば、維新は大阪の自治業務を米系外資・米国企業に管理運営させようとしていると見るべきであろう。IRを通じて見えてくる維新の「改革」の本質はそこにある。

維新はすでに、関西空港業務や公営地下鉄を民営化しており、水道事業や文化施設での府市の業務統合、小中学校を統廃合しての小中一貫校、府立と私立の大学統合、公営病院の廃統合を進め、これを民営化しようとしている。

結局、そこでもIRのように、米国は隠れ日本を前面にたてながら米系外資・米国企業がこれらの自治部門を直接管理運営するようになるだろう。こうして、大阪の自治業務の多くが米国企業によって管理運営されれば、大阪の府や市といった自治体そのものも米国企業が管理運営するものとなる。こうして、大阪の富は食い物にされ、住民はその管理物にされる。そのどこが「改革」なのか。

◆米国の新冷戦戦略から見えてくる、日本をなくす「改革」

IRが象徴する維新の「改革」の本質を見れば、岸田政権が進めようとしている「地方議会活性化のための法改正」の意味と悪辣さも分かるのではないだろうか。

米国は今、新冷戦戦略の下、中国ロシアを敵視しながら、その最前線に日本を立てようとしている。それは衰退した米国覇権回復のためであり、そのために日本の全てを米国に統合する日米統合一体化を進める。そのために、地方地域も米国の下に統合する。

しかも、それを急いでいる。広島で開催されたG7を見ても、最早米国の提起する「民主主義対専制主義」に耳を貸す国はない。それに耳を傾けるのはG7諸国だけだ。とりわけ対中新冷戦では、日本が決定的だ。衰えたとはいえ、日本は世界第三のGDPをもち、技術力も高い。その日本の力を米国のものにすれば、新冷戦で中国に勝てる可能性が高まり、それも今しかない、というのが米国の読みだろう。

かくて、日本をすっかり米国のものにする。「地方議会活性化のための法改正」は、日本の自治を解体し、米系外資・米国企業による地方管理を進めるためのものなのだ。

こうして日本の国の形も変る。地方地域を米系外資・米国企業が管理運営するようになれば、日本の地方地域は、国と切り離されてしまい、日本は一つのまとまった国ではなくなり、日本がなくなってしまう。

統一地方選の最中、維新の馬場代表が「自民が守旧派と改革マインドの強い方に割れ、改革保守政党が出来れば、そこへの参画の可能性はないとは言えない」と述べている。

今後の政局で、維新と自民党内部の「改革」派による改革保守政党が出現するとか、改革保守の連立が進む可能性は大きい。そうなれば、米国が狙う、日米統合一体化、日本をなくす「改革」が急速に進められてしまう。

◆強まる地域を守る闘い

今、日米統合一体化が進む中で、新冷戦の最前線に立つための軍拡が行われ、それが増税、社会保障・福祉予算の削減、地方交付税の削減などとして、国民の生活を直撃するようになっている。

そうした中、生活の砦である地域(市町村)の自治を守り地域住民自身の力で守っていくという志向は強まらざるをえない。そして、この志向は、自治と自治体を解体し米系外資・企業が地域を直接管理運営するという米国の地方地域支配の目論見と真っ向から対決する。

今回の統一地方選の「低調」さの中でも、その「芽」は出てきた。「れいわ」は後半戦で東京区議47人を誕生させる健闘ぶりを見せた。「子どもファースト」や「弱者に寄り添う」独自の政策で注目される明石市では、泉穂房市長が後継者に指名した丸太聡子氏が他を圧倒して勝利し泉氏の「明石市民の会」5人が全員当選した。「公共の再生」を唱える杉並区長の岸本聡子氏が自身の区長選はなかったのに連日、区議選の街頭に立つ奮闘ぶりも多くの人の共感を呼んだ。 

「アップデートおおさか」の谷口、北野さんの「住民自治」の訴え、その具体化としてのカジノ反対の住民投票実施の要求は、維新との闘いとして本質的なものを突いていたと思う。今後、IR(カジノ)の実態が明らかになるにつれ、それへの批判も強まるだろう。谷口、北野さんには、今回の敗北を乗り越え頑張ってもらいたい。

各地で「みんなの、みんなの力による○○を」や「子育ての○○」など自分の地域をアイデンティティとし、左右の違い党派の違いを超えた地域第一の動きも各地で見られるようになった。

泉さんや岸本さんは、地域からの運動を全国化し、日本を変えることを目指している。「れいわ」も「自公政権による売国棄民政策……この腐った政治を変えるのは、あなただ」と呼びかけている。

誰もが、日本の改革を求めている。その重要な力は地域にある。こうした地域の力が互いに連携し全国的な力になっていけば、米国に地方地域を売り渡すような政府や維新などの「日本をなくす「改革」を阻止し、日本の政治を変えることができる。

「地方から日本を変える」、生活の砦である地域を守ることが死活的になってきた今、それが切実に要求されている。その力で日本の政治を変え、日本をなくす改革ではなく、日本をつくる改革を実現していかなければならないと思う。

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼魚本公博(うおもと・きみひろ)さん
1948年、大分県別府市生まれ。1966年、関西大学入学。1968年にブントに属し学生運動に参加。ブント分裂後、赤軍派に属し、1970年よど号ハイジャック闘争で朝鮮に渡る。現在「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『一九七〇年 端境期の時代』

『抵抗と絶望の狭間~一九七一年から連合赤軍へ』

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