地元住民や地元市議会の反対も押し切って三原市の水源地のど真ん中に広島県(湯崎英彦知事)が許可してしまったJAB協同組合が経営する本郷産廃処分場。2022年9月から一部操業し、2023年6月にはBODやCODが基準値を上回る(住民の岡田和樹さんら調べ)汚染水が流出してしまいました。

その産廃処分場の設置許可取り消しを住民らが求めていた裁判で7月4日(火)13時10分、広島地裁の吉岡茂之裁判長は知事に対して許可取り消しを命じる判決を言い渡しました。

◆ずさんな業者の調査を鵜呑み、県知事の判断の過程に大きな誤り・欠落

 

吉岡裁判長は「処分場の許可に至る広島県知事の判断の過程には看過しがたい過誤・欠落がある」と指摘。

具体的には業者JAB協同組合による生活環境影響調査が、

・法によれば調査しないといけない処分場に近い既存の井戸が調査されていない。専門家の会議の中でも近い井戸がないか?と聞かれても業者は「井戸はない」と主張し、県もスルーしてしまった。実際には井戸があることが発覚した時も、井戸の持ち主が即答を避けただけなのに「調査を拒否された」ということにしてしまった。

・農業用水に使われている川への影響の調査の仕方もおかしい。処分場の調整池から水が流れてくる近くで調査をしないといけないのに、取水口を5つも経た700mも下流でしか調査していない。

ことが、「水質に関する必要十分な把握と言う不可欠な前提が欠けている」と判断されました。

この日は、筆者も傍聴に行きました。判決を言い渡した吉岡茂之裁判長は、昨年2022年6月には、操業差し止めを求める仮処分申請を却下していました。また、同裁判長は、今年2023年5月には故・後河内真希先生の労災認定を却下しています。さらに伊方原発広島裁判では、運転差し止めの仮処分申請を却下した「前科」もあります。従って「これは、今回もダメ(不当判決)かな」とひやひやしていました。
13時10分、吉岡裁判長が言い渡した判決は「被告・広島県知事に許可を取り消すことを命ずる」というものでした。原告住民に喜びが広がりました。

◆住民に5年以上の闘いを強いる広島県

これまでの経過をおさらいしますと、2018年4月にJAB協同組合が三原市と竹原市の水源地のど真ん中である三原市本郷町南方に産廃処分場の計画を発表。このJAB協同組合が広島市安佐南区上安に設置した産廃処分場では、いい加減な処分方法で、汚染水を流出させる、また、処分場の真下が元保安林の上に不適切な盛り土をした場所だったことが発覚する、など問題が続発しています。その上、JABはこの処分場を拡張した上で所有権を外資系企業に数百億円で売却しています。金儲け中心の事業体であることがうかがわれます。

当然、住民は猛反対をしますし、三原市議会、竹原市議会でも産廃処分場には対する決議が可決されます。

だが、2020年、広島県はJAB協同組合に産廃処分場をつくる許可を出してしまいます。これに対して住民が2020年7月15日に許可取り消しを求める行政裁判を起こしたのです。その間、2022年9月に産廃処分場は稼働し始め、群馬や長野など遠方から産廃が運び込まれてしまっています。そして、ようやく、今回、地裁レベルでありますが、産廃処分場の許可を取り消すよう裁判所は県に命じました。

しかし、広島県がこの判決を受け入れずに控訴すれば、原告住民はさらなる闘いを強いられます。そうこうするうちにも、県外からも含めて産業廃棄物が搬入され、水の汚染がさらに広がることになります。

◆酷い事業者にいい加減な県、そして住民の地道な努力が「勝因」

判決後、原告団長の山内静代さんは「一致団結して闘ってきた原告の皆様に感謝したい。地元の皆様は『家の前を30トントラックが毎日通過するのを見るのはつらい』とおっしゃる。水質汚染はどこまで広がっていく。命にかかわる産廃問題を他人ごとと考えないように、我が事と考えるようにマスコミの皆様にもお願いしたい。」と訴えました。

原告弁護団の山田延廣弁護士は「原告の岡田さんがわたしに相談してこられたとき最初は断った。裁判をささえるだけの運動がつくれるか心配だったからだ。しかし、三回も来られて「絶対運動をきちんとします」と言われてお受けした。」

「今回は許可取り消しになって当たり前の裁判だった。業者のJABもあまりにもひどいことをしてきたからだ。そして県も、JABのいい加減な調査をうのみにしていた。(その上で)皆様が、専門家を訪ねて、水質検査などお金がかかることもしてこられた。やるべきことをやってこられたことが勝訴につながった。」と振り返りました。

原告団の藤井弁護士からは、判決文について詳しい報告がありました。

「普通は、裁判所は行政が適正だというなら適正だというのが普通だ。吉岡裁判長は行政に甘く判断する方だがその吉岡裁判長がこうなので、広島県はよほどひどいということ。」などと指摘しました。

◆産廃担当課長に汚染水の匂いを嗅いでいただき、対策を迫る

 

原告側は判決後、広島県(湯崎英彦知事)に対して判決を受け入れて産廃処分場設置許可を取り消すよう要請しました。県の担当課長らが対応しました。

県の担当課長は「弁護士と相談して決定したい」。「なるべく早い時期に方針を決める」と繰り返しました。

原告側は、「判決では看過し難い過誤、欠落があると、言われている。許可処分を取り消す判断をしただけではすまない。谷に産廃も埋められている。一般論として取り消した場合は後始末をきちんとさせないといけないのでは。」と迫りました。

また、「産廃処分場に対して立入検査したか?」と問うと、「東部厚生環境事務所が行っている」と回答しましたが、原告側が「東部厚生環境事務所に聞いたら『行っていない』」と追及すると県側はシドロモドロになってしまいました。

「県民誰一人取り残さないというのが湯崎知事の第一声だったはず。だが、我々は取り残されていた。」と参加者から声があがりました。

そして、課長らに汚染水の匂いを嗅いでいただきました。

また、処分場に隣接する地権者が産廃処分場の様子を映したビデオをお見せしました。

 

そのビデオにはトラックで運び込まれた産廃が、ザルと言われている目視の展開検査(廃掃法で義務付け)すらせずに一挙に谷に放り込まれている様子が映し出されていました。

課長らは黙っておられるばかりでした。

そんななか、川下で農業を営む男性は、「近所では農業をやめるという話になっている。なんとかしてくださいよ。あなたが県の環境責任者でしょう。あなたがしゃんとしないでどうするの? 」と迫りました。

「一刻の猶予もならない。もし許可されていなければあの里山は素晴らしかったのですよ? 命が奪われるかの瀬戸際。猶予も許せない。」と別の住民女性も迫りました。

「県もJABに騙されたのでしょう? 井戸水で生活する人はいないとか水質は大丈夫とか言われたのでしょう?」。

「県もJABを訴えるべきでしょう? 「産廃処分場は県会議長(経験者)の土地。JAB協同組合は元衆院議員が理事長でしょう? 大きな力に勝てないのでしょう? 」
などと、別の男性もたたみかけました。

こうした声を受けて課長は、「声をきかせていただきありがとうございます。みなさまの不安がおこらないようみなさまの不安が解消されるよう対応します。」と答えるのが精一杯でした。

原告側は「操業を今すぐ止めるよう県知事に伝えてください。」と念を押し、要請行動は終わりました。

◆失神KO負けの知事よ これ以上の悪あがきはおやめなさい

上記でご紹介した通り、広島県に対して三原市の本郷産廃処分場の許可取り消しを命じた裁判長は失礼ながら、これまでは「権力忖度」で悪名高い吉岡茂之裁判長でした。しかし、今回ばかりは、さすがの吉岡裁判長も「業者による調査は生活や環境への影響について正確な把握が欠けていて、知事の審査や判断の過程には欠落がある」と断じざるを得なかったのです。

それだけ、広島県知事・湯崎英彦さん率いる産廃行政はお粗末であり、今回の湯崎県政の問題が噴出したと言わざるを得ません。当初は、「誰一人置きざりにしない」などと気勢を上げていたのも今は昔。筆者もあのときはそんな湯崎さんに期待して一票を入れてしまいましたが、ガッカリです。湯崎英彦、一票を返せ、と言いたい。

とはいえ、吉岡裁判長にも、今回、許可取り消しをするくらいの判断力があるなら、なぜ、去年の6月の段階で、事業者に対して処分場の操業を差し止める仮処分を認めてくれなかったのでしょうか?文句の一つは申し上げたい。あれから1年余りの間に、汚染水が噴出してしまったのですから。

筆者の元上司でもある広島県の湯崎知事に申し上げます。

あの吉岡裁判長でさえ、広島県を勝たせることはできなかったのだ。ボクシングでいえば、失神KO負けと言って良いでしょう。ボクシングでいえば、「失神KO負け」と言って良いだろう。ボクシングで判定に相当する状態に持ち込めれば、日本の権力者がお得意(?)の八百長判定で県勝訴に持ち込むこともできたろうが、失神KOされたのではそうはいきますまい。

あなたがすべきは、そのことを深刻に受け止め、今すぐ産廃処分場の許可を取り消すこと、そして、後始末をきちんとするように事業者に命じることです。そして、事件の背景となった、日本でも最も緩すぎる広島の産廃規制を強化することです。それができないなら即刻退陣されることです。

確かに日本の裁判は三審制です。しかし、三審制の本来の意義は人権保護です。これ以上、操業をさせてこれ以上人権侵害を拡大させれば、湯崎知事、あなたはそれこそ切腹ものですぞ。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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