袴田事件では、被告人側にとって非常に厳しい再審請求が認められたにも関わらず、検察がまだ有罪立証に固執し、世論の批判を浴びています。

※[参考]再審-冤罪袴田事件-検察は有罪立証せずに速やかな無罪判決のために審理に協力してください

そうした中、その検察が広島を揺るがしたあの河井事件でも暴走していることが明らかになりました。

参院選広島2019で、あの河井案里さん(2021年に当選無効が確定)陣営が多数の地方議員や首長などにお金をばらまいた河井事件。案里さんと夫の克行被告は逮捕・起訴されそれぞれ有罪が確定。他方でお金をもらった方々はいったん不起訴となりました。

しかし、これに疑問を持った市民が検察審査会に審査を申し立て、その結果、2022年1月28日、35人が起訴相当になりました。これを受けて東京地検特捜部は再捜査を開始し、県議や市議ら多数が起訴されました。体調不良の一人を除く25人の方は検察の言い分を認めて略式起訴を受け入れました。

一方で渡辺典子県議(安佐北区)、佐藤一直前県議(中区、県議選2023を前に引退)、石橋竜史市議(安佐南区)、木戸経康前市議(安佐北区、引退)ら9人が正式裁判で徹底抗戦を選ばれた政治家もおられます。

こうした中、木戸前市議の弁護人が供述を誘導するような尋問があったと暴露し、音声データもある、としました。そこで、木戸前議員は、自分が話した内容と供述調書が違うことに不信感を抱き、任意の事情聴取の録音をするようになったそうです。2020年4月、まだ河井案里・克行両被疑者が逮捕されていない段階で、検察は木戸前議員からも任意で事情聴取。検事は「先生には議員を続けてほしい」「認めれば不起訴」など、事実上の司法取引をもちかけるような内容の尋問を行いました。そして、木戸前議員がお金をもらった時に(買収資金かどうか)「考える暇もなかった」と回答した際に、これを調書には載せませんでした。その上で、事情聴取の一部だけをカメラで撮影。検事「調書にある通りですね」木戸前議員「はい」など、検事に都合がいい場面だけが撮影されました。

そして、皆様もご存じの通り、この事件では当初は河井案里・克行両被疑者と両人の一部秘書(車上運動員への買収事件などに関して)だけが当時は逮捕・起訴されていました。

ところが、当然、「買収を認めた方が捕まらないのはおかしいじゃないか?!」という県民の声が巻き起こり、再捜査、そして、木戸前議員ら起訴、ということになりました。

◆有罪判決が相次ぐ中で問われる検察側の主張の正当性

検察側の誘導疑惑については、7月21日、まず読売新聞がスクープ。その後、地元の中国新聞や他紙やNHKも追随報道という形になりました。前日20日には、河井克行被告からお金をもらった買収の罪で渡辺県議に有罪判決、さらにスクープが出た21日には石橋市議に有罪判決が出るという状況の中で、検察側の主張の正当性が問われます。

そもそも、まず、公選法違反事件では司法取引は認められていません。ですから司法取引を持ち掛けること自体が違法な操作です。そして、日本国憲法38条にある通り、自白は唯一の証拠足りえません。その上で、「認めれば不起訴」というのは裏を返せば「認めなければ起訴」という脅迫とも言えます。従って、検事が行った誘導尋問への木戸前議員らの供述は証拠とはなりえません。

日本国憲法第三十八条

何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。

なお、現在、係争中の方々の中で、石橋市議に対しては誘導尋問がなかったと石橋市議本人が認めています。石橋市議は、克行受刑者が持参したお金は買収資金ではなかったと、一貫して主張しています。そして、広島地裁による有罪判決に対して石橋市議は全く納得していません。

そして、石橋市議以外の他の議員・前議員は、誘導尋問があったとしています。

◆政治資金収支報告書にお金を記載させなかったのは検察だった!

この事件では多くの議員が河井陣営からのお金の流れを政治資金収支報告書に記載しませんでした。このことを、検察は、「買収」と認識していたから、としています。しかし、政治献金を政治資金収支報告書に記載しなかったのはあくまで政治資金規正法違反です。また、贈与を雑所得として申告しなかったのであれば、所得税法違反であり、どちらにせよ、公職選挙法とは直接は関係ありません。

正式裁判で争っている一人の佐藤一直前県議(以下、時々地元の有権者がされている同姓の筆者との混同を避けるため、一直さんとします。)。2007年に初当選。ずっと政党の推薦なしの無所属を貫いてこられました。4期つとめました。県議選2023を前に引退しています。一直さん本人によると、別に河井事件があったから引退したわけではありません。湯崎知事や平川教育長など執行部に対して厳しい姿勢で臨まれる、広島県議会では貴重な存在でした。選挙の手法は、後援会組織などには頼らず、政党からお金ももらわず、政策・政治姿勢本位のもので、この点は、見上げたものだと感じていました。また、伝統的にアンチ知事でもあった案里さんとの関係は良好で、別に克行受刑者がお金を渡さなくても、案里さんを支援した、と筆者は感じています。

そして、一直さんは7月12日に意見陳述書を提出しています。

検察側は、一直さんの公判でも政治資金収支報告書に克行受刑者からもらったお金を記載しなかったことを「買収資金だったと認識していた」根拠としています。ところが、そもそも、収支報告書に記載するな、と言ったのはなんと検察だったそうです。

「先程から検察が主張する「収支報告書を提出していない」ことですが、取り調べの時から、収支報告書をその後に提出することを我々議員は、検察に頑なに止められていましたが、それを理由に買収だと主張するからだと、今わかりました。」と一直さんは陳述書で語っています。

政治資金収支報告書に受け取ったお金を記載して提出するのを押さえておいて、あとで「お前、提出していないから被買収の認識があったのだろう」と追及する検察。こんなことを許せば恐ろしいことになります。

◆国会議員が地方議員に金を渡すことを禁じる立法を

議員たちが克行受刑者らからお金をもらったこと自体は決して褒められた話ではありません。政治倫理上、「李下に冠を正さず」だからです。また、地方議会は住民の立場に立ってガツンと国にも物申すべき場合があるからです。例えば、日本政府は核兵器禁止条約そのものに反対ですが、広島市議会では全会一致で核兵器禁止条約に入るよう、政府に求めています。地方議員が国会議員にお金をもらってしまえば、その舌鋒が緩む恐れがあります。

一方で、現行法では国会議員が地方議員に政治献金をすること自体は禁止されていません。多くの方が勘違いされていますし、マスコミ報道でもお金をもらった=即犯罪=という風潮があります。これは事実誤認です。筆者は、国会議員が選挙区内の地方議員に金を渡すこと自体を禁じる法律をつくるべき、と考えています。

今回の河井事件のような公選法上、疑惑を招くようなケースを予防するとともに、国会議員による地方議員への支配を防ぐためでもあります。それに先駆けて、広島県議会がそういう条例をつくるべき、と考えています。

ちなみに、前出の佐藤一直さんも、国会議員が地方議員にお金を配ることを禁止する法律をつくるべき、というスタンスです。

「やはり多くの方々が勘違いされている原因としては、お金のやり取りが許されていいはずがないと思っているから、マスコミもそう思っているからだと思います。だからこそ、私は個人的に誰からも受け取らないスタンスでやっていましたし、一般の人に渡したらいけないのと同様に、政治家同士でも禁止にする法律を作るべきだと思っています。」

◆改めて日本の検察・司法改革へ本腰を

袴田事件をはじめ、日本の検察による冤罪事件は後を絶ちません。多くの人は、そのたびに「検察は怪しからん」とは言う。だけれども、この問題を自分事としてとらえる人は存外少ないのではないでしょうか。

前出の佐藤一直さんも「そんな検察の、「監禁のような取り調べ」や、「司法取引のような自白強要」など、日本の検察の問題点も、この立場になって初めて気付くことができました。」と陳述書で述べておられます。それも致し方ないことです。

取り調べの際、諸外国のような弁護士同席を認めるなど、制度の改善を筆者も改めて強く要求するものです。

また、検察が起訴してしまえば、ほとんどが有罪となってしまう日本の司法の在り方。さらに、起訴されたらいかにも罪人のように報道してしまうマスコミ。そうしたことが繰り返されぬよう、司法へのチェックという目線をマスコミにも改めて強くお願いするものです。

筆者は、現在正式裁判で争っておられる皆様とは、政策や政治姿勢が異なる場合も多い。しかし、検察の強引な捜査は認められません。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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