泥船化する湯崎知事の医療行政 ──「高精度放射線治療センター」赤字で「巨大病院」に垂れ込める暗雲 さとうしゅういち

広島県の湯崎英彦知事は、既報の通り、2030年度開院予定で、広島県立広島病院(県病院)、JR広島病院、中電病院、広島高精度放射線治療センターなどを統合し、広島駅北口に1000床規模の巨大病院をつくる計画です。人材育成や高度医療を行い、若手医師を引き寄せる、という触れ込みです。

 
新病院予定地になるJR広島病院

新病院開設に先行して、新病院予定地になるJR広島病院は2025年度から県がつくる独立行政法人に組み込まれ「県立二葉の里病院」と改称し、5年間だけ存続、その後は新病院の駐車場になる計画です。

これだけでもわかりにくい。なぜ、新しいJR広島病院を壊さなければならないのか? しかも、1300~1400億円という消費税を財源とした公費を投入するのです。

その上、周辺の交通渋滞が懸念されます。周辺では2025年度には巨大な広島駅ビルも開業し、現在よりも交通が激しくなることは明らかです。その上で巨大病院です。救急車や通院患者を乗せた車の病院到着が遅れる可能性は高まります。

◆がん高精度放射線治療センターが赤字累積

そして、さらなる暗雲が湯崎知事の行く手に立ち込めています。がん対策日本一を掲げる湯崎知事が肝いりでつくった「がん高精度放射線治療センター」。新巨大病院予定地の隣にあります。「リニアック」と呼ばれる放射線治療装置を使用した放射線治療を行います。そのセンターが2015年に開業して以来、累積赤字が9億円になるというのです。この赤字の扱いを巡って、広島県当局も頭を痛めています。大まかに言えば、初期の設備投資にお金がかかり、それがそのまま赤字になって今も改善していないということです。

そして、リニアックという当時は最新式だった設備もいまや、県病院が2022年10月に新型のものを導入するなど、がん高精度放射線治療センターの優位性は崩れています。

◆「現時点」では否定的でも将来は「県費」で救済?

こうした中、現時点では、県費投入での救済には当局も議会も否定的ですし、新巨大病院を担う「独立行政法人」も負担することはない、とされています。しかし、それはあくまで「現時点」でのことです。ほとぼりが冷めたころに、県費をこのセンターの赤字の穴埋めに使ってしまおう。そういうことは十分起きえるのではないでしょうか? 正直、湯崎英彦知事は、今回の病院問題でも、産廃問題など他の問題でも説明責任を果たそうとしません。「こんな」知事のもとでは、なし崩し的な公費による赤字穴埋めの可能性は高いと言わざるを得ません。

◆見通しが甘すぎる湯崎知事が巨大病院を進める「泥船医療行政」

むろん、「儲からないことだからこそ行政がやるべき」という意見もまた正しい。県は事業なら赤字だからやらないというのではなく、県民に必要とされているかどうかで実施の可否を判断すべきです。しかし、それにしても、湯崎知事の見通しは甘すぎたと言わざるを得ません。

問題は、そんな見通しの甘い湯崎知事のもと、広島県が進める医療行政が、新巨大病院というさらに大型の事業に乗り出そうとしていることです。広島県民にとってこのことは恐怖であり脅威ではないでしょうか?

予算1300~1400億円という全国でも例のない巨大病院開設事業。それも、高度医療を進めるという。しかし、高度医療をやるというなら、高度な機械が必要で、べらぼうな初期投資が必要になります。そして、一度病院を造れば、その機械の更新にも将来お金がかかります。

とてもではないが、保険診療の枠内では採算が取れないのではないか?そうなったとき、湯崎知事はどうするのか? あるいは、湯崎さんはそのときは知事ではないかもしれない。後始末をさせられるのは県民です。

◆大赤字の挙句に地域医療崩壊

そして、高度医療と称する新巨大病院に資源を集中させた挙句、広島市南区の現県病院周辺、中区の現中電病院周辺の住民から医療の選択肢を奪うのが、湯崎知事の構想です。そして、付け加えれば、現県病院は島しょ部にお住いの皆様からすれば県病院は船で行きやすい唯一といっていいほどの大型病院です。

下手をすれば、大赤字を出した挙句、いままで便利だった地域の利便性も低下する。踏んだり蹴ったりの結果になりかねません。

母親を介護する主婦で元看護師の広島瀬戸内新聞・熊田栄子記者はこの新巨大病院問題など広島県の医療行政について精力的な取材を行っています。熊田記者は「がん高精度放射線センターの件でも、あそこの高額な機器に県費を入れて、地域の医療は後回しになっている。安芸津病院の耐震化がほっとかれたのはそういうことだ。大金をはたいて設備や機器を入れて、儲かる時はいいけど、そうでない時は、県費を注ぐ。」と指摘します。

また、過疎地の医療で活躍するドクターを養成する、と湯崎知事は意気込みますが、最新式の機械に引き寄せられるようなドクターと、地域医療の本当に厳しい現場で仕事をしたがるドクターの人物像は重なりません。

◆病院赤字は医療ツーリズムで穴埋め?!

熊田記者は新巨大病院が赤字になった場合、海外の富裕層を呼び込む「医療ツーリズム」を湯崎知事が考えているのではないか?とも懸念しています。筆者も、最近の湯崎知事の「一部の人の金儲けを優先させる」行動から推測してその可能性は高いとみています。

その場合、採算は取れるのかもしれませんが、そんな話は、そもそも県が公の医療へ回すべき資源を割いてでやるべきではありません。湯崎知事は、やりたいなら、県知事を退陣し、ご自分で民間企業を立ち上げてやるべきです。

◆やはり高度医療は国主導で

熊田記者は「高度医療は国で担うべき」と主張しています。筆者も同感です。高度医療には巨額の投資がかかります。採算ラインにのせようと思えば、ある程度患者数が必要です。しかし、広島県内だけでは確保は難しいでしょう。さりとて、県外からも患者を集めるとなれば、県民以外のために公費を使うことになります。高度医療の便益は結局県外にも及びます。「国が高度医療は責任をもって担う」のが筋ではないでしょうか?

ともかく、湯崎英彦知事が進める医療行政はまさに泥船で、広島県を破滅させかねません。こんな事業に消費税をつぎ込むなら消費税を下げてほしい。広島県議会も多数派は結局、湯崎知事支持。2025年11月の広島県知事選挙で県民の手に広島を取り戻す。「泥船医療行政」から県民を避難させるには、これしかありません。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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