「まーすーみーさーーーん!」 3月中旬、朝の大阪拘置所前。

今にも雨が降りそうな悪天候。静けさが漂っていた空間に突如、明るく大きな声が響きわたった。

声の主は「眞須美さんコール」のメンバー。毎月1回、拘置所の中にいる和歌山カレー事件・林眞須美さんに向かって声援を送っている。

思いを声に出し届ける女性

※確定死刑囚として大阪拘置所に収監中だが、一貫して無罪を主張していること、動機が未解明であること、自白がないこと、直接証拠がないことなどからあえて林眞須美さんと表記する。ご理解いただきたい。

2月20日に和歌山カレー事件の再審請求が受理されたとのニュースがマスコミ各社で報じられてから初の眞須美さんコール。自然とメンバーに気合いが入った。

眞須美さんコールに合わせ、再審開始や面会の許可を訴えるグッズを多数用意。濃紺とピンク、2枚の横断幕に加え、段ボールで手作りしたものもあり、メンバーで手分けして道路へ向けて持った。

眞須美さんに聞こえますように──。 そんな思いで、近隣住民に断りを入れた上で、拡声器を持ってそれぞれ気持ちを伝える。あるメンバーは、サックス演奏を眞須美さんに届けようと、精いっぱい心をこめて演奏する。

「林眞須美さんは一貫して無実を訴えておられます。どうか再審請求の道が開かれ、再審無罪が勝ち取れるよう、心から願います」(男性)

「眞須美さん。お変わりありませんか。(中略)眞須美さんの長男さんのTwitter(現X)を見ています。多くの人が見て、眞須美さんが冤罪であると考え直してくれることを願っています。また来ます」(女性)

「眞須美さん聞こえますか? 再審請求受理のニュースを見ました。1日も早く眞須美さんの再審が開始されることを心から願っています。ずっと応援しています。風邪引かないでください」(女性)

拘置所前に集まった支援者

再審請求受理のニュースが大きかった影響か、拘置所前だけ徐行して様子を眺める乗用車の中の人々、立ち止まって聞き入る親子連れ、近隣住民の姿がいつも以上に多いのが印象的だった。

声や演奏は、眞須美さんにしっかりと届いている。

眞須美さんコールから2日後、眞須美さんが長男に送った手紙の中に、このようなメッセージが綴られていた。

「くもり空の窓外より、マイク音や心知よい音楽が流れてきて、ラジオを切り、耳をすましてききいって過ごしました。毎月スゴイネ!! リズムのいい流れのいい音楽に(ニッコリ) 雨が今にもふりだしそうで……外はさむいのかしら……」? (原文ママ)

眞須美さんから長男へ届いた手紙(長男提供)

眞須美さんコールのメンバーと眞須美さんは、その日、その時間、同じ空を見上げていた。同じ空間を確かに共有していた。

大きな空の下で通じ合っていたのだ。

会えなくても、塀にさえぎられていても、双方にとって大きな励みとなった1日だった。 拘置所で過ごす眞須美さんへ思いが伝わっていることが、彼ら彼女らにとって手応えになっているに違いない。

眞須美さんコールのメンバーは、コールの最後をこう締めくくった。

「ますみさーーーん!」「ますみさーーーん!」

「また来まーーーす」「元気でいてくださーーーい」

▼紀多 黎(きた・れい)[写真・文]
幼少期から時事問題について議論する家庭で育つ。死刑制度や冤罪事件への関心が高い。好きな言葉は「見えるものではなく、見えないものに目を注ぐ」。

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

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◎鹿砦社HP https://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000733