◆はじめに

3月31日掲載の「戦後日本の革命 in ピョンヤン②」の結語にこう書いた。

「もしトラ」の逆利用で米国依存の生存方式から目覚め、自己を取り戻すチャンスに変える時、戦後日本の革命成就も夢ではない時に来ている。ピョンヤンにあってこれが夢でないことを祈りながら「戦後日本の革命inピョンヤン」発信を続けたいと思う。

ところが4月10日からの岸田国賓訪米・日米首脳会談は、これと真逆の道を日本に強要するもので、愚かにも岸田首相は破滅に向かう米国覇権と運命を共にすることを誓約した。

日刊ゲンダイは「米国に差し出す自衛隊」の大見出しの批判記事、朝日の「天声人語」は「日本の安全保障が米国と一体化していくことがいかに危険なものか」と危惧を示すなどリベラル系のマスコミは一様に「懸念」を示した。

ここにもいまや「米国についていけば何とかなる」時代ではないことが大方の共通認識になりつつあることが現れているように思う。でも単に「危惧」や「懸念」だけでは米国の強要に抗うのは難しいし非力なことはこれまでの教訓だ。ならば日本の安保防衛はどうあるべきかなど対米一辺倒ではない日本の進路に関する対案、対策がなければならない。

それは別途、考えるとして、今回は「米国についていけば……」という戦後日本の生存方式の究極、その極地とも言える“「無理心中」誓約の岸田・国賓訪米”、そこから見えてくる多極化世界での米覇権の新たな形について考えてみたい。

それは戦後日本の革命のために「もしトラ」の逆利用を考える上でも重要なことだと思う。

◆「日本の魂を伝える演説じゃない」と言った安倍ファミリー岩田明子

今回の日米首脳会談に関するマスコミ報道にはかなりの差があったことが特徴かも知れない。4月12日付け読売朝刊はバイデン政権の広報紙みたいなものだから1面トップは当然ながら、全紙面にわたって日米首脳会談を取り上げた。しかし朝日の1面トップ記事は「政治改革委を設置」、その記事に次ぐ左半面に掲載という扱いで日米首脳会談を取り上げ、読売に比べれば他の面での扱いも地味なものだった。

面白いのはフジ産経グループだ。読売系の日本TV「深層ニュース」や毎日系のTBS「1930」が連日、岸田訪米関連を取り上げたが、フジTV「プライムニュース」で取り上げたのは4月12日たった一日だけ、それも番組の前半だけで後半は韓国総選挙「与党完敗」の報道という扱い、しかも首脳会談での合意内容には触れずに「岸田首相“演説”にこめた決意」を評価、論じるといったもので、それはそれでとても興味深いものだった。

ゲスト評者のデーブ・スペクター氏は米議会「岸田首相“演説”にこめた決意」に触れながら「こんなに親米的な人がいるんだと(米議員達も)驚いただろう」と岸田演説の「親米ぶり」を揶揄した。

 

米議会での岸田首相“無理心中”誓約演説

さらに興味深いのは安倍ファミリーと言われる元NHK解説主幹、いまはフリー・ジャーナリストの岩田明子氏の「岸田演説」評価だ。

岸田首相の演説原稿が大統領演説も手がけるという米国人スピーチライターの手によるものということを取り上げながら、それとの比較で2015年の安倍首相は日本人ライターと相談しながら米議会演説を仕上げたこと、また当時のキャロライン・ケネディ駐日米大使が演説原稿を事前に「ちょっと見せてほしい」と言ってきたのを断ったというエピソードまで紹介しながら岸田演説をもっと痛烈に揶揄した。その一つは「アメリカのやってほしいことの羅列」であること、そして決定打は「(米国人の書いたものだから)日本の魂を伝えるものにはならないですよね」とまで言い切った。

これはフジTVが彼らの口を通じて自分の立場を表明したものと思われる。米国に追随しながら日本の軍事大国化実現を企図するという安倍元首相と同様、「軍国主義的自主派」の立場を代弁するような番組の作り方だったように思われる。同盟強化を迫るにしてもバイデンよりトランプ式の「もっと日本主体で、もっと積極的にやれ」が性に合うのだろう。

◆アーミテージ・ナイ報告「日米同盟、より深い統合へ」の筋書き通り

 

アーミテージ・ナイ報告

日米首脳会談に先立つ4月4日、いわゆる「アーミテージ・ナイ報告書」が公表された。これは米政策研究機関「戦略国際問題研究所(CSIS)」が超党派の有識者による日米同盟への提言として発表したものだが、共和党系のリチャ-ド・アーミテージ元国務副長官、民主党系のジョセフ・ナイ元国防次官補が中心となってまとめたもので通称「アーミテージ・ナイ報告書」と呼ばれるものだ。これで6度目の提言だが前回までの外交、安保政策提言はほぼ日本政府によって実現されてきた、いわゆる「ジャパン・ハンドラー」による強い影響力を持つ報告書だ。

今回の報告書は、台頭する中国の抑止を念頭に「より統合された同盟関係への移行」を提唱したものだと読売新聞(4月5日付け)は伝えた。

今回の日米首脳会談での合意事項、岸田首相の演説などは、このアーミテージ・ナイ報告「日米同盟、より深い統合へ」の筋書き通りだと言える。

米議会演説で岸田首相は、「今の私たちは平和には“理解”以上のものが必要だ」としながら「“覚悟”が必要なのです」とまず「平和への日本の覚悟」を強調した。

その「覚悟」の内容は報告書にある「日米同盟、より深い統合へ」実現の覚悟だ。

まず「この世界は米国が引き続き国際問題において中心的な役割を果たし続けることを必要としています」との前提に立ったうえで、「ほぼ独力で国際秩序を維持してきた米国に、そのような希望をひとり双肩に担うことがいかなる重荷であるのか私は理解しています」との苦境にある米国の現状に理解を示した。

そのうえで「米国は助けもなくたったひとりで国際秩序を守ることを強いられる理由はありません」として「日本が最も近い米国の同盟国としての役割をどれほど真剣に受けとめているかを知っていただきたい」との「最も近い同盟国・日本の決意」のほどを述べた。

そして最後に「信念という絆で結ばれ、私は日本の堅固な同盟と不朽の友好をここに誓います」と決意遂行の「覚悟」を米議会で誓約した。

このアーミテージ・ナイ報告書が超党派の手になるものとあったように、バイデンの国賓として行った岸田首相の米議会での誓約は「もしトラ」でトランプ政権になってもそのまま実行される「日米同盟、より深い統合へ」だと思われる。

事実、米議会での岸田演説実現の根回しをしたとされるトランプ政権時代に駐日大使だったウィリアム・ハガティ上院議員(共和党)は、最近トランプとも話し合ったとしながら、日米同盟をトランプも重要だと考えていると読売のインタビューに答えている。

◆自衛隊の統合作戦司令部新設+在日米軍にインド太平洋軍の指揮統制機能付与

 

統合作戦司令部

「日米同盟、より深い統合へ」の基本は対中対決のための日米軍事同盟の強化だ。その基本中の基本が、自衛隊に統合作戦司令部を設置し、これを有事には在日米軍司令部が関与できる作戦指揮体系を整えたことだ。

一言でいえば、自衛隊に戦争作戦を立案、指揮する「総参謀部」ができるということ、自衛隊が戦争を行う軍隊になる体制が整うこと、日本が戦争を行える国になること、更にはそれが米軍の指揮下で行われることになるということだ。

ことの始まりは、2022年末に閣議決定された安保3文書、すなわち国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画の3文書改訂だ。国家安全保障戦略改訂で「敵基地攻撃能力保有」が決定され、これに伴って防衛力整備計画に「統合司令部」設置が決められた。

従来の専守防衛の自衛隊ではシビリアン・コントロール(文民統制)下で最高司令官は内閣総理大臣、首相であり、これを補佐する機構として自衛隊統合幕僚監部(陸海空幕僚長を統合幕僚長がまとめる)があったが陸海空3軍を指揮統制する機能がなかった。これは専守防衛の自衛隊では領空侵犯は空自が、領海侵犯の対潜水艦監視などは海自がそれぞれやればことは済んだからだろう。ところが「敵基地攻撃能力保有」が認められ、有事、戦争事態に備えるためには三軍の総合作戦指揮、統制が必要になることから設けられたのが「統合司令部」だ。もちろんそんなことは公然と語られることはない。

‘22年末改訂の「安保3文書」、防衛力整備計画では、この統合司令部に米インド太平洋軍の将官が常駐することが決められた。これは敵基地攻撃のためには「軍事偵察衛星など圧倒的な米軍の情報網に頼らざるを得ない」からなどとされているからだ。

この統合司令部が今回の日米首脳会談を前にして「統合作戦司令部」という「作戦」、すなわち戦争作戦のための司令部であることを明確にした。

また安保3文書に明記された「統合司令部に米インド太平洋軍の将官が常駐」体制は在日米軍司令部に一定の指揮統制権を付与し、自衛隊の統合作戦司令部との直接的連携を可能にする形にした。一言でいって有事には在日米軍が自衛隊を指揮できる体制を整えた。従来は、ハワイにあるインド太平洋軍司令部にしかなかった指揮統制権限の一部を在日米軍司令部に付与する形でそれを可能にした。(3月25日の読売新聞報道による)

こうした有事の自衛隊に対する米軍の指揮体制が日米首脳会談を前に用意周到に整えられたのだと言える。

米国笹川平和財団のジェームス・ショフ氏は「米側が(作戦実行の)大部分の資産を持っている。特定の任務で決定を下す際、米の意向が強まるとの日本側の懸念があることは明らか」と有事においては自衛隊の統合作戦司令部が在日米軍司令部の指揮統制に服することにならざるをえないことを認めている。韓国では朝鮮半島有事の作戦指揮権は在韓米軍司令官の指揮に韓国軍が従う体制になっている。日本では自衛隊と米軍は指揮権が形式上は別々だが実質的には有事には自衛隊が米軍の指揮に従うことにならざるを得ないだろう。

自衛隊の統合作戦司令部は今年度末までに自衛隊法が改正されて正式に発足する。

「日米同盟、より深い統合へ」、それは対中軍事対決という米覇権秩序維持のための戦争ができる国へと日本が変わるということを意味する。言葉を換えれば、日本が米国の対中・代理戦争国家になるということだ。

◆「ハブ&スポーク」式同盟から「格子状」同盟に ── 多極世界での米覇権の形

 

「ハブ&スポーク」同盟から「格子状」同盟へ

日米首脳会談に先立つ4月4日、エマニュエル駐日米大使が今回の首脳会談が「一つの時代が終わり、新たな時代が始まる日米関係の重大な変容を示すものとなる」と「ウォールストリート・ジャーナル」寄稿文で述べた。

その重大な変容とは「時代にそぐわない“ハブ&スポーク”式同盟を“格子状”の同盟構造に変換する取組だ」と定式化された。

“ハブ&スポーク”式同盟とは、自転車の車輪の中心部のハブ、そのハブにつながる無数のスポークが車輪を支える構造に譬えた同盟構造を指す。ハブ、中心に米国があってその中心から伸びるスポークで各国がつながるという、いわば米一極覇権下での同盟関係を指す。

“格子状”同盟とは図式(掲載)を見ればわかるように「日米同盟」を中心にAUKUS(米英豪)、クアッド(米日豪印)、日米韓、日米比といった同盟国、同志国関係が格子状に重なるような同盟構造に変わるということだ。

なぜ米国の同盟構造、いわば米国の覇権支配の構造が変わるのか?

一言でいってバイデン式の対中新冷戦戦略が失敗、破綻したからだ。

バイデンは世界を米国を中心とする民主主義陣営と専制主義陣営の二つに分断し、専制主義陣営とする中国を民主主義陣営の包囲網で孤立圧殺する方法で崩れゆく自己の覇権回復戦略とした。

ところがウクライナへのロシアの先制的軍事行動で対中に加え対ロという二正面作戦を強いられ、さらにはこれにガザでのイスラエル対ハマスを軸とする中東戦争という三正面作戦までが加わって右往左往するばかりで為す術を知らずの醜態を世界に見せることになった。

ウクライナ戦争ではロシア制裁に引き入れようとしたグローバルサウス諸国が反旗を翻し、イスラエルのガザ虐殺を見た世界はイスラエル支持をやめない米国の「自由と民主主義」「人権・人道主義」の欺瞞性をハッキリ見た。この連載で何度も述べた「パックス・アメリカーナ(アメリカによる平和)の終わり」を世界の誰もが眼にするようになった。

それは米一極支配の終わり、米中心の「G7先進国」がリードする国際秩序の崩壊をもたらした。一極世界から多極世界へ、これが時代の趨勢となった。

これに対処するという“格子状”同盟構造は先に挙げた岸田演説に即して見ればわかりやすい。

まず「この世界は米国が引き続き国際問題において中心的な役割を果たし続けることを必要とする」との前提に立ち、しかしながら「ほぼ独力で国際秩序を維持してきた米国に、そのような希望をひとり双肩に担うことがいかなる重荷であるのか」、つまり米国が中心になって独力で国際秩序を維持できなくなったという時代環境の変化を認める。つまり米一極中心の“ハブ&スポーク”式同盟では国際秩序を維持できなくなったとの時代認識に立つ。

このような時代認識に立てば「米国は助けもなくたったひとりで国際秩序を守ることを強いられる理由はありません」、だから「日本が最も近い米国の同盟国としての役割を」果たすこと、つまり「日米同盟」を中心に“格子状”の多角的な同盟関係、同志国関係を再編成、形成しながら米国中心の覇権秩序を建て直していく。

いまエマニュエルの言う“格子状”同盟への再編渦中にある。

今回の日米首脳会談では、日本と「AUKUS」との連携が新たに強調されるようになった。元来、日本はインド太平洋地域では「クアッド」、米日豪印4ヶ国同盟基軸に行く予定だったが、インドがロシア制裁もやらず中国との軍事対決も避けグローバルサウスの盟主まで自称するようになって、あまり対中対決で当てにならなくなった。そこで元来、対中対決の米英豪・アングロサクソン白人連合である「AUKUS」に無理矢理日本を引き込むことにしたのだろう。

また今回、日米比首脳会談も持たれたが、「ASEAN」の中では親米色の強いフィリピン・マルコス政権をアジアでインドに代わる対中対決「同志国」に取り込もうというのが米国の心算だろう。岸田訪米を前に米太平洋軍陸軍司令官が「インド太平洋地域に中距離ミサイルを配備する」計画があることを語ったが、米国が対中対決線とする日本列島から沖縄、台湾、フィリッピンを結ぶ「第一列島線」への配備を念頭に置いたものだ。すでに日本列島には自衛隊のスタンドオフミサイル部隊という名の「中距離ミサイル部隊」が新設されたので、フィリッピンへの地上配備型中距離ミサイルを念頭に置いたものだろう。米比合同軍事訓練に自衛隊を参加させることもこの3ヶ国首脳会談で決められ、日米比同盟構造もいま形成途上にある。

日米韓同盟はすでに昨年のキャンプデービッド3ヶ国首脳会談で基本形はつくられた。

いま着々と日米中心の“格子状”同盟構造が再構築されつつあるが、これは世界の米一極支配破綻を受け、多極化した世界で米覇権を回復するための必死のあがきだと言えるだろう。

◆“格子状”同盟の未来は暗い、「無理心中」はバカげてる

米国によるこの“格子状”同盟は対中対決のためのものではあるが、「決して中国封じ込め」のためのものではなく「中国を正しく(世界に)関与させる」ためのものだとトーンは落ち、かつての「専制主義・中国を民主主義陣営が封じ込め孤立させる」などという威勢のいい声をあげる力はもう米国にはない。

“格子状”同盟の雲行きも怪しい。韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権与党が総選挙で大敗、レームダック状態の尹大統領が主導した日韓関係改善-日米韓同盟強化にも暗雲が立ちこめている。

AUKUSへの日本の参加と日米比「同盟」もどこまでうまくいくかわかったものじゃない。

なのに岸田首相のように米国人ライターの書いた演説に踊って「日米同盟、より深い統合へ」と進み、統合作戦司令部と在日米軍司令部との合体で対中・代理戦争国への道をひたすら進むなら、それこそ日本には米国と無理心中、破滅の道しかない。

なぜなら一極世界から多極世界への移行は、日本のマスコミが言うような「覇権の一極から多極への移行」ではなく、「あらゆる覇権主義、大国主義から脱する世界への転換」を意味しており、米国覇権の復活の道はもはやないだろう。大国である中国やロシアもそれをじゅうぶん理解しており、だからこそかつて植民地支配に苦しんだグローバルサウス諸国もいまだ植民地支配の反省の言葉のない米国や「G7先進国」よりも中ロに接近しているのだ。

今後、おそらく多くの日本国民、日本の政財界、言論界、防衛関係者らも多大の懸念を持って“「無理心中」誓約の岸田・国賓訪米”後の日本の政治がどこに行くのか、注視していくものと思う。

だから私も「戦後日本の革命 in ピョンヤン」で警鐘を発信し続けていくが、重要なことは「米国についていけば何とかなる」に代わる生存方式を見つけ明らかにすることだ。そんな「戦後日本の革命」についても考えていきたいと思う。

若林盛亮さん

◎ロックと革命 in 京都 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=109

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』