湖東記念病院事件の国賠控訴棄却 西山国賠を通じ、「供述弱者」について考えていこう!

尾﨑美代子

6月25日、大阪高裁・長谷部幸弥裁判長は、湖東記念病院事件の国賠訴訟の控訴審で、原告の控訴を棄却する判決を言い渡した。

この裁判、一審の大津地裁は県(滋賀県警)の違法は認めたが、国(検察官)の違法は認めなかったため、西山美香さん弁護団側が大阪高裁に控訴していた。

殺人罪で逮捕された西山美香さんは、取調べを担当した滋賀県警山本誠刑事に「恋心」を抱き、というより、接見禁止でひとりぽっちになった美香さんは、山本しか信用できる人がいなくなった。山本は美香さんに「弁護人など信用できない」というようなことまで言っていた。美香さんは初めての逮捕、山本のいうことを認めたら急に優しくなり、優秀な兄たちと比較されていた美香さんは「君だってがんばってるよ」などと優しく言われ、ぐんぐん山本の言いなりになっていった。

山本の取り調べで、美香さんがどうやって患者を殺害できたかの話になった。患者の人工呼吸器の管を抜けば危険を知らせるアラームがなる。でも病院内でその音を聞いた者はいなかった。では、アラーム音を鳴らさず、どうやって呼吸器を外したままにできるか?警察は捜査中に、呼吸器の専門家に、アラームを鳴らさずに管を外し、酸素を送らない方法を聞き、消音維持機能ボタンがあることをレクチャーされた。呼吸器にあるそのボタンを押すと、管が外れても60秒間アラーム音は消せる。60秒後に再び鳴るので、その前にボタンを押せば音はきえる。美香さんはボタンを押したのち、胸の中で「1,2,3……」と数え、60秒後前に再びボタンを押し、その動作を3,4回、つまり3,4分酸素を送ることをやめたら、患者さんの目がきょろきょろ、口がばくばくして息絶えたと供述した。なお、そのボタンの操作方法は先輩の看護師たちがやるのを見て知ったと供述していた。

しかし、その後の捜査で、当時病院内の看護師の中で、その操作方法を知っていた看護師がひとりもいないことが判明した。警察の取調べのあとには検察官の取調べがある。美香さんを取り調べた検察官・早川検事は、その事実を知り、警察が作成した員面調書には虚偽があり、これでは裁判は勝てないと思ったのだろう。

そのため早川検事が作成した検面調書は、美香さんが何故消音維持機能ボタンのやり方を知っていたか、知ったかに新たな内容に書き換えた。先輩看護師から教えてもらったのではなく、犯行時ぐうぜんそのボタンを押したら、アラームが止まったので、「あらま、このボタンなに?」と思いながら、なぜか60秒くらいする前にもう一度押したらまた音がとまった。そのとき美香さんが「ああ、これを押せばだいたい60秒位、音はとまるんだな」と知り、その行為を3,4回やって、患者を死なせた……と。

この書き換えを早川検事は、自分が誘導したのではなく、美香さん自身がそう供述したと裁判で証言した。井戸弁護士がいうには、警察の取調べから検察の取り調べに移る頃、美香さんはまだ山本誠刑事のコントロール下にあった。山本は検察へ行く美香さんに「警察で言ったことと同じことをいえよ」と念を押したはずだ。だから美香さんは早川検事の前で警察で言ったことと同じことを述べたにちがいない。でも検察では、警察で取られた供述とは違う内容の供述がでてきている。これは早川がむりやり「こうではないのか?」と
美香さんを誘導した可能性がある。いや、それしか考えられない。それは検察(国)の責任となるのではないか? 違うか?

判決要旨には、いくら美香さんが山本刑事に恋心をもったといっても、まさか自分が殺害事件をおこしたなんてことを認めるようなことを言うわけがないと、何度も強調している。美香さんは、山本刑事にいわれるがままに「管を抜いた」を認めたが、まさかそれが「殺害した」になるとは思っていなかったのだ。

 自分が殺害をやってないから、管を抜くことが殺害に結び付くとは考えてもいないのだ。それこそが、やっていない証拠なのに。桜井昌司さんが裁判長に(事件があった日時について)「なぜ、あなたはそんなに特別な日を覚えてないのですか?」と聞かれ、「いや、僕にとって特別な日ではないです。普通の日です」と答えている。実際殺害をやっていたら、「その日」の日時は鮮明に覚えているだろう。でもやっていないから、桜井さんにとっては普通の日なのだ。美香さんも同じ。管を抜いて殺害していたら、管を抜いたイコール殺害に結び付くが、やっていないから、むりやり言わせられた管を抜いたが殺害となるとは思っていないのだ。

井戸弁護士が、まだ続くこの裁判では、ぜひ「供述弱者」について知って欲しいと訴えられた。「供述弱者」は美香さんの裁判で新たに作られた言葉だ。しかし、これまでも大勢の供述弱者が犠牲になってきたことだろう。千葉県東金市でおきた「女児殺害事件」では、知的障害を持つ男性が、担当検事に「金子さん、金子さん」と非常に懐き、言われるがままに罪を認めた。「やってないならやってないと言えよ」と厳しく忠告する弁護士より、毎日顔を合わす優しい検事にコロリと騙された。先日検察が有罪立証を断念し、再審無罪が確実となった「日野町事件」の阪原弘さん(故人)も、のちに「境界線級の知的発達遅滞」があったと鑑定された。伊賀弁護士によれば「『わからない』と言えない。そのため(刑事に何か言われたら)『わかる、そうや』と言ってしまう」という。今市事件の勝又拓哉さん、花田郵便局事件のジュリアスも、台湾人、ナイジェリア人ということで、警察、検察のいうことがどこまで理解できていたかは不明だ。彼らも供述弱者といえよう。先日神戸で逮捕され、長期的に不当な取り調べを受け、不起訴後摂食障害を起こし餓死した16歳の少女もそうだろう。美香さんの裁判を通じて、供述弱者にどう対応していけばいいか、考えていこう。

尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

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