◆新規制基準と耐震性能の問題

東京から最も近く、今年9月に再稼働が迫る東海第2の基準地震動は建設時点ではわずか275ガル、今では1009ガルである。しかし基礎から造り直したわけではない。もともとあった安全余裕を食い潰し、配管や支持構造物が壊れなければ良いなどとして、本来はあるべき裕度はまったくなくなっても「耐えられる」と、書類上で「評価」しているに過ぎない。

付け足したのは耐震補強のサポート類や梁の強化などだが、圧力容器を支える構造物や格納容器などは取り替えることもできない。

そのため、いびつな補強にならざるを得ず、かえって統1的な耐震安全性の観点からは後退したところもある。

比較的細い管や管台部分などは、大きな配管が揺れを抑える補強をしたため振動による応力が集中しやすくなった可能性もある。実際に発生する力に耐えられるかは、地震動の固有周期にも依存するため起きてみなければ分からない。机上の空論で1部を耐震補強をしてもダメなのだ。設計とはそういうものである。

1981年改定の新耐震基準法で建てたビルと、旧耐震を補強したビルでは、明らかに耐震強度は新耐震で建てたほうが優れている。

原発は全部、旧法で建てて新法になって補強した建物と同じだ。耐震性を要求する新規制基準は2012年の原子炉等規制法の改定で施行されているからである。それ以後に建てた原発や原子力施設などどこにも存在しない。原発の安全規制を強化してバックチェックではなくバックフィット(新基準に適合しなければ許可しない)をするならば、いったん全原発の許可を取り消し、新法で設計、建設しなければ認めないとすべきだ。耐震補強でよしとするならば震災前と何も変わらない。

◆「原子力防災」は崩壊している

原発が過酷事故を起こった際、原子力防災計画に基づき、住民は避難しなければならない。避難範囲は、国の防災対策指針に基づけば稼働中の原発で全交流電源喪失や冷却システムの全停止で原子力災害対策特別措置法第15条に基づき、原子力緊急事態解除宣言が出されたら5キロ圏内に設定されているPAZ*(予防的防護措置を準備する区域)の住民は、30キロ圏外に避難を開始するか、避難準備を開始することになっている。

同時にUPZ*については、屋内退避が発令される。その後、放射性物質の拡散が続き空間線量が一定水準以上になった場合、UPZにも避難指示が出される。

今回の地震でもし志賀原発で施設内緊急事態や全面緊急事態が宣言されるような災害になっていたら、PAZから避難を開始しなければならなかったが、周辺の道路の状況は深刻なものだった。

特に原発から北側と東側では、主要道路のほとんどが地震の影響で遮断されていた。志賀原発防災計画において最も重要な道路である「のと里山海道」は大きな被害を受けていた。金沢市から能登半島へ延びる道路は、至るところで道路が陥没して車が通れない状況になり、羽咋(はくい)市の柳田インターチェンジから、のと里山空港インターチェンジまでの上下線で通行止めになっている。

原子力防災に関しては、規制委は原子力防災対策指針を策定している。しかしこれは原子力事業者への規制基準にはなっていない。原子力防災も地域防災計画の1つとして、自治体が防災計画を作ることになっている。

しかし能登半島地震の実態は、指針の内容さえも機能しない現実を示している。

この事態について、山中伸介原子力規制委員長は次のように述べている。

「基本的に我々は基準を満たしていれば許可をいたしますけれども、稼働について何か我々が、その許可をするということはございませんし、防災基本計画を立てられるというのは、自治体と内閣府の連携によって立てていただくというのが基本的なところかというふうに思います」

「我々原子力規制委員会は、原子力災害の複合災害を受けたときにどうすべきかというのを科学的、技術的に助言をする、そういう組織であるというふうに理解をしておりますし、決して稼働を我々が何か許可をしたというわけではございませんし、自治体のサポートを、科学的、技術的に原子力について行うのが我々の務めだというふうに考えています」(1月2十4日記者会見議事録より)

原子力防災計画については、自治体と内閣府の原子力防災会議の責任であり規制委はサポートの立場でしかない。

新規制基準適合性審査が終わった後は防災計画が崩壊状態でも規制委は助言しかしない。法的不備を理由に差し止める権限さえない。しかし防災指針は規制委の責務である。その規制が実行不可能な状況に現在能登半島が置かれていることぐらいは理解できるだろう。

そのことをどのように感じているのか。特に、再稼働した原発の立地自治体は深刻に考えるべきだ。

*PAZ(Precautionary Action Zone:予防的防護措置を準備する区域)。実用発電用原子炉の施設において異常事象が発生した際、EAL(緊急時活動レベル)に基づいて、放射性物質放出の有無にかかわらず屋内退避、避難などの予防的防護措置が迅速に行えるように準備する区域をいう。

*UPZ(Urgent Protectionaction planning Zone:緊急時防護措置を準備する区域)。実用発電用原子炉の施設において異常事象が発生した際、OIL(運用上の介入レベル)及びEAL(緊急時活動レベル)に基づいて、住民等の緊急防護措置(避難、屋内退避、安定ヨウ素剤の予防服用等)が迅速に行えるように準備する区域をいう。

◆大地動乱の時代に突入している

石橋克彦神戸大学名誉教授の提唱した「大地動乱の時代」は、1993年北海道南西沖地震(M7.8)に始まったと筆者は考える(1983年の日本海中部地震(M7.7)も含めば、1983年からということになる)。

2011年の東日本大震災を挟み、1993年2月7日能登半島沖の地震(M6.6)1995年兵庫県南部地震(M7.3)、2000年鳥取県西部地震(M7.3)、2004年新潟県中越地震(M6.8)、2007年能登半島地震(M6.9)、2007年新潟県中越沖地震(M6.8)、2008年岩手.宮城内陸地震(M7.2)、2016年熊本地震(M7.3)そして2024年1月1日の能登半島地震(M7.6)。

たった20年ほどの間に10回もの大地震が発生している。

これらは大平洋プレート、フィリピン海プレートからの巨大な力によりストレスが解放されて断層が動いた地震だが、能登や新潟では何度も繰り返し起きてきた。それだけ地震を起こすエネルギーが溜まっているところだ。

しかし動いていない断層も地下ではストレスが溜まっている。南海トラフ地震の切迫度は、これまで以上に高まっているとの指摘もある。歴史地震を見るとプレート境界巨大地震の前後に内陸地震が多発してきたのは事実だ。

2004年、2007年の中越、2008年の岩手.宮城内陸地震の4年ほど後に東日本太平洋沖地震が発生している。

2024年能登半島地震で、南海トラフ地震との相関を感じずにいられない。その前後には必ず、北陸地方から中国、四国、九州地方の内陸の地殻内地震が多発すると考えられる。特に、中央構造線は巨大な活断層で、これが動けば瀬戸内海を中心に甚大な被害を出す。その真ん中に伊方原発が建っている。

若狭湾の原発群も、甲楽城.浦底断層系、上林川断層、熊川断層等が活動したら、原発に深刻なダメージを与える。他にも、警固断層と玄海原発、日奈久断層と川内原発、宍道断層と島根原発など、原発の周囲には大きな断層がたくさんある。

今すぐにしなければならないことは、来るべき地震に備えて、今から「止める」「冷やす」「閉じ込める」対策を取ることである。地震や津波は止められない
が、原発は止めることができるのだから。(終わり)

本稿は『季節』2024年春号掲載(2024年3月11日発売号)掲載の「「大地動乱」と原発の危険な関係」を本通信用に再編集した全3回の連載記事です。

山崎久隆「大地動乱」と原発の危険な関係(全3回)
〈1〉2024年元日の能登半島地震と志賀原発
〈2〉あまりに楽観的に過ぎる原発の地震対策
〈3〉「原子力防災」は崩壊している

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像 ―― 原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』(共著/木村朗、高橋博子編/明石書店 2015年)等多数。

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