◆原発推進派と反対派が共有する「ふるさとをどうするか」問題

先日取材した石川県珠洲市の元県議、元市議の北野進さんの著書『珠洲原発・阻止への歩み 選挙を闘いぬいて』を読み始めた。

取材中、北野さんは何度か「えっとあれは何だったかな」と書類を探そうとしていたが、私は時間がもったいないので「いいですよ、あとで本を読んで確認しますから」と言っていた。本には、住民運動と並行して、市長選、知事選、県議などの選挙を闘い続け、ついに原発建設を凍結に追い込んだ29年間の歴史がたっぷりと書かれていた。

北野進さんと著書『珠洲原発阻止へのあゆみ―選挙を闘いぬいて』(七つ森書館 2005年)

珠洲市は原発建設を凍結に追い込んだ2013年の翌年、市政60年をむかえ、記念事業として作成された「珠洲市勢要覧2004」の中の「珠洲市の歩み」には珠洲原発建設問題の記述は一切ないのだという。いくら敗北したとはいえ、それはないだろうよ、と考え、北野さんは闘いの歴史を、推進派の動きもなるべく忠実にして、この本を書かれたという。

北野さんのお話で感動したのは、原発建設を凍結に追い込んだのち、反対運動を闘った仲間らと「勝った!勝った!」と言わないようにしようと話し合ったということだ。

原発賛成あるいは推進してきた人たちにもいろんな思いがある。原発建設を心から望んで推進していたのは、それで稼げる一部の人たちだ。多くの人たちは年々過疎化が進む「おらがふるさと」をどうにかしたいとの思いから「原発ばなし」に乗っていった。

原発以外で過疎化を防ぐ手立てがあれば、そっちを必死で進めるだろう。川口勉監督のドキュメンタリー映画「彼らの原発」(2017年製作)で美浜町の方が最後につぶやいた、原発がだめというのなら「ほかのものをもってきてくれ」という言葉が忘れられないが、それと同じ。

これからは一緒に故郷を良くしていこうと手を組まなければならないからだ。北野さんはこう言った。

「当時推進派と反対派のわだかまりは、孫の代まで残るかと心配されてましたが、その後信じられないくらい早い段階でなくなっていきました。」

これには感動した。

珠洲原発の建設予定地だった地区。今年元日の能登半島大地震で地盤が北野さんが指差すあたりまで隆起した

◆「玄関あけたらすぐ建屋」の志賀原発を止める裁判に注目を!

あと、志賀原発建設までの闘いのお話も伺った。「珠洲原発は止めれたが志賀原発はなぜ建設されたの?」という人もいるが、志賀原発反対運動も非常に熾烈に闘われてきた。その結果、超危険な志賀原発ができた。

志賀原発の危険性は活断層などもあるが、志賀原発が、海→道路→志賀原発の玄関、そして「玄関あけたらすぐ建屋」の極狭物件になっていることも超危険ではないか。

イラストで説明すると、北陸電力はまずA、B地区の用地を買収しようとしたが、B地区の土地所有者の強い抵抗で買収出来なかった。そのため、予定地をA、C地区に変更したが、C地区の土地所有者の強い抵抗で買収出来なかった。そこで北陸電力は「狭くてもA地区に原発建ててやる」と「ゆっくり不動産」もビックリの極狭物件を建てた。

 

全国でも異例の県道のそばに建設された志賀原発。かつては1、2号機の姿を県道からしっかり確認することができた。今は防潮堤の上に頭を出すだけとなった(北野さんのブログより)https://blog.goo.ne.jp/11kitano22/e/621fdd4f882be0bc4367acb9ec3986de

「テロリストの皆さん、いらっしゃい」みたいな門構え。「志賀原発は県道からすぐ原発がみえるんです。テロ対策なんかできませんよね。そういうところは全国にないですよ」(北野さん)。

ふつうは「Cゲートから不審者侵入」「ピーピーピー」と屈強な警備員がさすまた持ってすっとんでくるが、その時すでにテロリストは建屋の玄関をタッチしましたけど……みたいな。確かに建設当時はテロ問題に喧しくなかったんだろうが。

そう、この志賀原発を廃炉への裁判、原告団長は北野さんだ! 裁判の行方に注目していこう!

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

『季節』2024年春号 表紙は関西電力が珠洲原発の立地可能性調査を予定していた区域にある高屋漁港の状況。1月1日の地震後、2メートルほどの隆起を指し示す北野進さん

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2024年春号(NO NUKES voice 改題)

能登大震災と13年後の福島 地震列島に原発は不適切

《グラビア》能登半島地震・被災と原発(写真=北野 進

《報告》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
 能登半島地震から学ぶべきこと

《報告》樋口英明(元福井地裁裁判長)
 地雷原の上で踊る日本

《報告》井戸謙一(弁護士・元裁判官)
 能登半島地震が原発問題に与えた衝撃

《報告》小木曽茂子(さようなら柏崎刈羽原発プロジェクト)
 珠洲・志賀の原発反対運動の足跡を辿る

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
 「大地動乱」と原発の危険な関係

《講演》後藤秀典(ジャーナリスト)
 最高裁と原子力ムラの人脈癒着

《報告》山田 真(小児科医)
 国による健康調査を求めて

《報告》竹沢尚一郎(国立民族学博物館名誉教授)
 原発事故避難者の精神的苦痛の大きさ

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表
 命を守る方法は国任せにしない

《報告》大泉実成(作家)
 理不尽で残酷な東海村JCO臨界事故を語り継ぐ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
《検証》日本の原子力政策 何が間違っているのか《2》廃炉はどのような道を模索すべきか

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
すべての被災者の人権と尊厳が守られますように

《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈後編〉

《報告》漆原牧久(脱被ばく実現ネット ボランティア)
「愛も結婚も出産も、自分には縁のないもの」311子ども甲状腺がん裁判第八回口頭弁論期日報告

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
本当に原発は大丈夫なのか

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
日本轟沈!! 砂上の“老核”が液状化で沈むとき……

《報告》板坂 剛(作家/舞踊家)
松本人志はやっぱり宇宙人だったのか?

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈23〉
甲山事件五〇年目を迎えるにあたり誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈中〉

《報告》再稼働阻止全国ネットワーク
能登半島地震と日本の原発事故リスク 稼働中の原発は即時廃止を!
《老朽原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(志賀原発に反対する「命のネットワーク」)
《六ヶ所村》中道雅史(「原発なくそう!核燃いらない!あおもり金曜日行動」実行委員会代表)
《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
《東海第二》久保清隆(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
《地方自治》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)

《反原発川柳》乱 鬼龍

龍一郎揮毫

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