「NO NUKES 2012」に参加しに、幕張メッセに行った。
坂本龍一教授が脱原発フェスを開催すると聞いて、素直にミーハーに「キターーー!」と叫んだ。
東電マネーにたぶらかされて「原発は安全」と言わされていたアーチストたちの格を遙かに超える、坂本教授が脱原発に乗り出したのである。
坂本教授はこの前日の官邸前抗議行動にも姿を現し、官邸に向かって脱原発を訴えた。

坂本龍一の「教授」というのはニックネームだが、東京芸術大学大学院修士課程出身、クラシックから、ブルース、ジャズ、ロック、ポップス、民族音楽まで、音楽の造詣は広く、その上で様々なヒットを飛ばしている。音楽系の実際の教授と話していても、坂本龍一のほうが格上と感じさせる。
だいたい、東電マネーにたぶらかされて「原発は安全」と言ってきた、御用学者の誰か1人でも、工学系ヒット商品のひとつでも出したことがあるのだろうか。そんな話は聞いたことがない。

そこで、ふと「原発は安全」と言わされていたアーチストたちで、誰が一番格上だったかと考えたら、世界に通用するという意味でも、ビートたけしかな、と思った。
大島渚監督の映画『戦場のメリークリスマス』で、坂本教授とビートたけしは共演していたことを思い出す。なんだか、感慨深いものがある。

会場に入り、「さようなら原発1000万人 アクション」に署名すると、TBSのクルーが「話を聞かせてください」と寄ってきたので、気軽に応じる。
「妻がクラフトワークのファンなものですから、今日はやって来ました」と、素人を装い脱原発の思いを訥々と語った。
「夏の電力不足については、どう思われます?」と聞かれる。
「それは簡単です」
「簡単? どうするんです?」
「ピーク時だけでも、テレビが放送を止めればいいんです」
アナウンサーが一瞬顔をしかめ、「ありがとうございました」と、インタビューは終わった。しまった。ちょっと、舌が滑った。

関西電力は、確かに頑張った。原子力ムラの要請を受けて、電力不足をギリギリの所で演じきるという、企業努力を精一杯やりきった。いくつかの火力発電は止めたまま、毎年電力を買っていた神戸製鉄所には、今年は「売ってください」という要請をしていなかった。その他、揚水発電の能力を少なく見積もるなど、ありとあらゆることをやった。
知的な人間には、電力不足は原発を動かすための演出だと言うことは、もう見え見えの状態だが、いまだにテレビの情報を信じている層には、電力不足は現実のものと感じさせているのだ。

会場に入って、ライブを楽しむ。出演アーチストは以下の通り。
「ASIAN KUNG-FU GENERATION」「アナログフィッシュ」「ソウル・フラワー・ユニオン」「元ちとせ」「HIFANA」「難波章浩-AKIHIRO NAMBA-」「the HIATUS」「YMO+小山田圭吾+高田漣+権藤知彦」「KRAFTWERK」「BRAHMAN」「Ken Yokoyama」「9mm Parabellum Bullet」「ACIDMAN」「七尾旅人+大友良英+坂本龍一+ユザーン」「NO NUKES 2012 忌野清志郎スペシャルセッション 仲井戸麗市BAND+トータス松本+坂本龍一」「山崎まさよし」「斉藤和義」

斉藤和義と言えば、昨年の4月、自身のヒット曲『ずっと好きだった』の歌詞を変え、『ずっとウソだった』という曲にして、「ほんとウソだったんだぜ 原子力は安全です」「俺たちをだまして 言い訳は想定外」「何人が被ばくすれば気が付いてくれるの この国の政府」と歌った姿が、動画投稿サイトにアップされたことで話題になった。
この時、斉藤が所属する「ビクターエンタテインメント」は不快感を示したが、今や堂々と、脱原発を掲げたフェスに参加したのだ。

どのアーチストも素晴らしかったが、圧巻は「クラフトワーク」だ。
クラフトワークは1975年、アルバム「Radio-activity」を発表している。日本語版のタイトルは、「放射能」だ。彼らは脱原発の姿勢を明らかにし、イギリスのセラフィールド原発に反対する野外フェスにも参加している。

ステージに、それぞれの電子楽器の前に立つ4人が、青い光で浮かび上がる。
演奏が始まった。1曲目が「Radio-activity」。
「YOU LIE WE DIE」と歌が始まり、スクリーンには、東京電力のマークが揺らめく。
そして彼らは、日本語で歌った。
「日本でも 放射能 今日も いつまでも フクシマ 放射能 空気 水 全て 日本でも 放射能 今すぐ 止めろ」
ダイレクトなメッセージが、聴衆の心を打った。

その後、『東電・原発おっかけマップ』(鹿砦社)にも寄稿してくれた、小出裕章・京都大学原子炉実験所助教のビデオメッセージが流れる。
「私は原子力の場でずっと生きてきてしまったがために、原子力のことしか知りません。歌をうたうこともできないし、曲を作ることもできないし、楽器の一つを奏でることもできません。絵を描くこともできない、詩を書くこともできない。でも、みなさんは自分の個性によってできることがあるはずです。歌をうたうことでも、絵を描くことでもいい。自分から発信をしてくれるようになれば、きっと原子力は止められるし、いつか社会は変わるだろうと思います」

このメッセージが、1人でも多くの人に伝わることを願う。
私は私にできることを、全力でやりきろう。

(FY)