島根県立大学1年生の平岡都さん(当時19)が2009年10月26日、アルバイト先から帰宅途中に行方不明になり、バラバラ遺体で見つかった事件から7年が過ぎた。社会を震撼させた事件は今も未解決だが、犯人は一体どんな人物なのか。現場を訪ね、事件の真相に思いを馳せた。

◆「犯人は土地勘あり」と示す遺体遺棄現場

平岡さんの遺体が見つかったのは広島県北広島町の臥龍山の山中だった。平岡さんが行方不明になって10日後の11月6日、キノコ狩りに来ていた男性が崖下で人間の頭部を発見し、警察に通報。警察の捜査で周辺から胴体、左足の一部などバラバラになった遺体が見つかり、DNA型鑑定で平岡さんの遺体と特定された。このように遺体の発見状況が凄惨だったため、この事件は猟奇的な性癖を持つ人物による犯行ではないかと報道され、社会を震撼させたのだ。

私が現地を訪ね、まず最初に感じたのは、犯人は遺体遺棄現場に土地勘があった可能性が高いのではないかということだ。というのも、平岡さんが生前最後に目撃されたアルバイト先のショッピングセンター「ゆめタウン浜田」から臥龍山の遺体遺棄現場までは最短ルートを通っても40キロ以上ある。しかも国道191号から臥龍山の登山道に入る地点には道案内の標識が出ているが、遺体遺棄現場までたどり着くにはクネクネした登山道をけっこう登らねばならない。平岡さんが殺害された時間や場所は不明だが、土地勘のない人物が訪ねそうな場所には到底思えなかったのだ。

臥龍山の車が走れる道の最も高い場所にある転回場。この周辺の崖下で遺体が見つかった

◆遺体がバラバラゆえに猟奇的事件と報道されたが・・・

私がもう1つ疑問に感じたのは、この事件が本当に猟奇的な事件なのか、ということだ。というのも、バラバラになった遺体が見つかった臥龍山の現場は草木が生い茂り、いかにも多くの野生動物が生息していそうな雰囲気だった。要するに、遺体をバラバラにしたのは犯人ではなく、野生動物の可能性もあるのではないかと思えたのである。

私は過去、この事件と同じように山中に若い女性の遺体が遺棄された殺人事件を取材したことがあるが、その事件で女性の遺体はそのままの状態で遺棄されたにも関わらず、短期間で頭部と胴体が分断され、バラバラの状態で発見されていた。マスコミは殺人事件をセンセーショナルに報道したがるが、遺体の悲惨な状況だけを根拠にこの事件を猟奇的な人物による犯行だと決めつけると、社会をミスリードする危険もあるように思えた。

この事件は警察庁の捜査特別報奨金制度の対象事件となっており、警察に提供した情報が事件解決につながれば、最大で300万円の支払いを受けられる。気になる情報を持ちながら、「猟奇的な殺人事件」と関係ない情報に思えて警察に通報できないでいる人がいれば、臆せずに警察に情報提供してみるべきだろう。

遺体遺棄現場近くの転回場には、警察が情報を求める看板

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。