電通のイメージ悪化が止まらない。9月末の不正請求事件から新入社員自殺の労災認定、そして労働局による全社一斉強制調査がほぼ一週間おきに発生し、日頃電通に関する報道を極力控えるメディアも、さすがに手の施しようもなく報じている。

NHK2016年10月20日

◆「電通タブー」の呪縛が解けて本格追及の兆し?

テレビメディアは基本的には第一報しか報じていないが、ここに来て雑誌メディアは週刊文春、AERA、フライデー、週刊朝日が記事を掲載した。また、ネットでは特に新入社員自殺事件が猛烈な勢いで拡散している。10月18日には、昨年8月に三田労基署が電通に対し是正勧告を出していたこと、さらに20日には、3年前にも男性社員が死亡して労災認定されていたとNHKが報じ、いよいよメディアも長年の呪縛が解けて本格追及に乗り出して来た感がある。

東京新聞2016年10月21日

東京新聞2016年10月21日

◆電通社長の公式謝罪なき社内緊急メール

そんな中、10月17日に電通は残業時間の上限を70時間から65時間へと引き下げ、24日からは社員の退社を促すため、22時に全館消灯すると発表した。また、石井社長が全社員に対しメールで緊急メッセージを発していたことも明らかになった。「社の経営の一翼を担う責務を負っている者として慚愧(ざんき)に堪えない」とし、「今私たちには具体的な行動を起こすことが求められている」などと記していたという。

これらの動きの中で私が非常に不自然に感じるのが、亡くなった高橋まつりさんの遺族に対し、いまだに電通が正式な謝罪を発表していないことだ。各メディアの取材に対し、「ご遺族との間で協議を継続中ですので、個別のご質問についてはお答えいたしかねます」と広報部は判を押したような返答しているが、死亡から既に1年近くも経っているのに、一体何をいまだに「協議」しているというのか。そもそも多くの場合、労災認定されても遺族は記者会見など開かない。電通に対する不信感、または対立点があるからこそ、遺族は批判や嘲笑覚悟で記者会見したのだ。

産経新聞2016年10月22日

産経新聞2016年10月22日

◆12月25日夜、社内で飲み会の予定あり?

では一体、何を揉めているのか。どのメディアも報じていないが、実は今回の件で、電通に初動対応のまずさがあったという。高橋さんに近しい方の情報では、当初電通は高橋さんの自殺は過労ではなく、恋愛問題のこじれが原因だとの社内調査結果をまとめ、今もその見方を崩していないというのだ。そのため、通常は亡くなった社員遺族に支払っている見舞金も出さなかったのだという。つまり電通はあくまで過労死を認めなかったため遺族と強く対立し、納得できない遺族側は弁護士を立て、独自調査結果も踏まえて労災認定を申請したのだ。

高橋さんの労災が異例の早さで認められた背景には、彼女が遺したツイートが大きな役割を果たしたと思われる。そこには過酷な残業によって消耗し、精神的に追い込まれていく様子がはっきりと見て取れる。そのような中に、確かに恋愛相手について書かれていると思われるものもいくつかある。電通側としては、それらのツイートや社内情報を根拠にして過労死を否定しているのだろう。さらに、自殺がクリスマスの日であったことも、恋愛のもつれの理由にしていたらしい。

しかし、恋愛を伺わせるツイートは、残業の多さ、仕事の過酷さを嘆くツイートに対し、実に僅かしかない。また、12月25日夜には社内での飲み会が予定されていたという情報もある。今の時代に、クリスマスの夜に新入社員を強制参加させて宴会を行う企業があるというのも実に驚愕するが、そうした会の司会進行や宴会芸を立案するのも新入社員の役目であり、高橋さんはそういう社内宴会を嫌っていたという。積もりつもった精神的・肉体的疲労と苦悩が、強制的な出席を求められる場から逃れるために爆発してしまった、と考える方が自然ではないだろうか。

結果的に、当初電通は高橋さんの自死を過労によるものとは認めず、遺族と揉めたことによって労災申請され認定されてしまい、しかもその過酷な労働実態が主にネットを介して非常な勢いで拡散、遂に労働局の強制調査まで招いたのだから、初動が完全に誤っていたとしかいいようがない事態に陥っている。

◆「コンプライアンスの徹底」を説く資格があるか?

電通は多くの企業広報に対し、「企業コンプライアンス徹底の仕方」や「事故や事件などの危機に際しての広報戦略」をパッケージにして売り込んでいる。その中では、危機に瀕した企業広報で最も大切なのはきちんと情報を開示すること、そして責任が明確な場合は責任者(社長)が一刻も早く謙虚な態度で謝罪することが何より重要、と教えているはずだ。それなのに、自社社員の自殺と労働局の強制調査に対し電通はいまだに謝罪会見も開かず、HPなどにも公式発表もしていない。これだけ社会で問題になっているのに、説明責任すら果たしていないのだ。得意先には「情報開示の徹底、すみやかな謝罪」が何より大切だといっておきながら、自社は全くその逆の姿勢を示している。これだけ社会問題化して電通のブランドイメージがズタズタになっても、なおも自分たちだけは特別だと思っているのなら、もはやコミュニケーションを語る資格など全くないと言うべきだろう。


◎[参考動画]「電通」過労死・・・過去にも 本社勤務の30歳男性(ANNnewsCH16/10/21)

▼本間龍(ほんま りゅう)
1962年生まれ。著述家。博報堂で約18年間営業を担当し2006年に退職。著書に『原発プロパガンダ』(岩波新書2016年)『原発広告』(亜紀書房2013年)『電通と原発報道』(亜紀書房2012年)など。2015年2月より鹿砦社の脱原発雑誌『NO NUKES voice』にて「原発プロパガンダとは何か?」を連載中。