「追悼番組で、『仁義なき戦い』シリーズや『北陸代理戦争』『県警対組織暴力』『修羅の群れ』など松方弘樹さんの迫力ある極道を演じたヤクザ映画を地上波で見られなくて悔しい…というファンの声は多く局に寄せられていると聞きます。ですがこれも暴力団排除という時代の流れで致し方ないでしょう」と業界歴25年目のベテラン脚本家A氏が語る。


◎[参考動画]仁義なき戦い(1973年)

『北陸代理戦争』(1977年)

21日に亡くなった名俳優、松方弘樹の追悼で地上波を使っての映画が放映されないことに対して年輩のファンを中心にSNSでも『なんで代表的なヤクザ映画をキー局な無視するのか」「なんで映画で追悼しないのか意味不明」など確かに「残念」の声が多数あがっているのだ。

「松方弘樹さんの追悼で映画を何かテレビで放映しますか」と聞いてみたが、「追悼番組で松方さんの映画を放映する予定はありません」と1月26日時点ではNHK、日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京とも回答している。ただ松方の闘病の様子を緻密に収録したドキュメンタリー「ファミリーヒストリー 松方弘樹・目黒祐樹~芸能一家の歳月~」が2月2日に放映される。これはファミリーのルーツを探る番組で、1月29日に「松方弘樹さん追悼企画 僕らはみんな生きてきた 松方・梅宮最後の旅」がBSフジで放映予定も映画はまったくゼロ。

ただし「スカパー!」が追悼番組を専門チャンネルで流す。1月25日深夜1時40分から「BS日本映画専門チャンネル」で「強盗放火殺人囚」(1975年)を放送するのを皮切りに、「大江戸捜査網」シリーズ8本(ホームドラマチャンネル)や「巨大マグロ伝説2009 洋上の激闘」(チャンネルNECO)など計15作品を2月28日まで放送予定。だが地上波はいまだ追悼映画のプログラムはなし。なぜか。

『最後の博徒』(1985年)

「ヤクザ映画がなぜダメかと言われてもなあ。うーむ」と日本テレビ関係者は押し黙る。

かってA氏が解説してくれる。

「14年11月に菅原文太さんが亡くなられたときも、『仁義なき戦い』や『極道ヤクザ』など確かヤクザ映画は放映できずに、テレビ東京でようやく『トラック野郎 天下御免』が放映された。信号無視やトラックでの暴走、暴力シーンが数多く出てきて『コンプライアンス上大丈夫か』と話題しきりになったほどです。ましてやヤクザ映画はこの時代では難しいでしょう」(A氏)

テレビがダメなら映画界はといえば、代表作に多数出演、松方のお膝元ともいえる東映は追悼上映を検討中で『仁義なき戦い』シリーズや『北陸代理戦争』などが候補に挙がっているという。テレビからは「ヤクザ」は完全に消えたのだろうか。

「ヤクザは今、シナリオ的には敵役で出すのも難しい。だからミステリーでもヤクザじゃなくてギャング的なものに直さざるを得ない。そうしないとF2層(35~50歳の主婦)から反発を食らうのです」(前出・A氏)

『修羅の群れ』(オリジナル1984年 リメイク2002年)

どうしてもヤクザを出したい場合は、暴力団からの離脱(足抜け)を支援する部署の活躍を描き、大島優子が主演した『ヤメゴク? ヤクザやめて頂きます? 』(TBS)や、ヤクザが“社会貢献に目覚める”として草なぎ剛が主演、暴力団組員が介護に奮闘しつつ、更正していくプロセスを描いた09年の『任侠ヘルパー』(フジ)など、やや無理めの勧善懲悪劇の方向性にするしかないという。

「有名な小説家が書いた作品が原作で、ヤクザがストーリー上必要な場面でも、無理矢理にキャラクターをヤクザでなくするしかないところまで時代は暴力団排除に厳しくなってきている。たとえば黒川博行さんの小説でヤクザが主人公の『疫病神シリーズ』があるが、圧倒的に人気があるのに、地上波ではドラマが作れず結局、WOWOWが製作したのです」(同)

ヤクザ雑誌ライターは語る。
「松方が主役を張った 『修羅の群れ』は稲川会初代会長・稲川聖城を演じたものだが、あまりの松方の迫力と凄みに憧れてヤクザ稼業に入った連中も少なくない。そうした意味で反社会勢力の臭いがある作品を地上波で見せてF2層の反発を買うよりも、北野武と一緒に泣いたり笑っている『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(日本テレビ)』や悪人を懲らしめている『名奉行 遠山の金さん』(テレビ朝日)の映像を視聴者に送ったほうが、松方の遺族にとっても、視聴者にとっても、またファンにとっても癒やされるという判断でしょう。まあ本業のヤクザの人たちは『仁義なきシリーズをなんで放映せんのや? おかしいやろ?』と嘆いています(笑)」

『列島分裂 -東西10年戦争-』(2016年)

もっと単純に言えば「ヤクザを出すと視聴率がとれないことに尽きる」(前出・A氏)とのこと。

「業界的には『最後の連続ドラマ』として認知されるのは2011年に児童福祉司の松田翔太と組長の高橋克実が“入れ替わる”ドタバタ劇の 『ドン★キホーテ』(日本テレビ)がヤクザが主人公として描かれた最後として記憶される。これもコンプライアンス的に大丈夫かという声が局内であがるも、平均視聴率は惨敗の10.9%。これをもってヤクザを主人公にして企画書を書くチャレンジを『ドンキホーテしてみる』と隠語で呼ぶほど。そうした意味で、松方のヤクザ映画は、少なくとも地上波では『黙殺』されて当然でしょうね」(同)

かくして、視聴者の声も黙殺される。暴力団事情に詳しい作家の影野臣直氏は語る。
「あの凄みのある松方の男っぽいヤクザ役が見れないのは残念。松方の場合は、低い声で相手のやる気をそぐという、ヤクザ業界でいう“ケンノミ”の迫力がある希有な役者だった。鶴田浩二とやった『最後の博徒』くらいは放映してものですね」
ヤクザ映画で「元気が出る…」という連中もいるというわけだが…残念な現実だ。 (伊東北斗)


◎[参考動画]天才たけしの元気が出るテレビ 最終回スペシャル 松方弘樹ベストセレクション(1996年)


◎[参考動画]松方弘樹さん 大親友 梅宮辰夫に語った理想の人生の終わらせ方

 

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