先日、あの和歌山カレー事件の林眞須美さん(51)から久しぶりに手紙が届いた。この話に「おっ」と反応された方は、何らかの事情で林眞須美さんの現状をよくご存知か、あるいは死刑囚の処遇の実情に詳しい人だろう。
1998年に夏祭りのカレーにヒ素を混入させ、67人を死傷させるなどしたとして殺人罪などに問われ、2009年に死刑判決が確定した林さん。非常に筆まめな人で、彼女が冤罪ではないかと疑い、取材をしてきた筆者も以前はよく大阪拘置所の獄中から手紙をもらっていた。

が、死刑判決が確定して以降、彼女からの手紙は途絶え、筆者から彼女に手紙を出すこともなくなった。死刑囚は、親族や弁護人などごく一部の人間としか面会や手紙のやりとりができないためである。
こうした処遇は一応、法の定めに基づくものだ。が、実際のところ、刑事施設の収容者の処遇というのは、所長をはじめとする職員の裁量に委ねられている部分が多い。色々話を聞いたり、文献で調べていると、同じ死刑囚でも林さんより面会や手紙のやりとりが広く認められている人もちらほらいる。林さんの場合は死刑確定以来、一部の知人と手紙のやりとりが認められた以外では、友人や知人とは面会も手紙のやりとりも一切できない過酷な状態が続いており、そんな中で約3年半ぶりに林さんから手紙が届いたのだった。

その手紙とは、次のような内容だ。

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片岡健様

平成24年11月5日、片岡健様から差入れのありました現金1、000円は、確かに、受領しました。
ありがとうございました。

〒534―8585
大阪市都島区友渕町1―2―5
林眞須美

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これはつまり、差入れに対する礼状である。友人や知人とは手紙のやりとりを一切認められていない死刑囚でも、現金と切手の差し入れは誰からでも届くようになっている。筆者も林さんに毎月1千円ずつという些少な額の差入れをしているのだが、林さんがこのほど、現金や切手の差入れへの礼状ならば友人や知人に発信できるようになったらしいのだ。

表現が堅苦しく、必要最小限の用件以外は一切書かれていない文面を見る限り、礼状には形式通りのことしか書けない決まりなのだろう。それでも死刑確定以来、絶望的に孤独な境遇に置かれ続けている林さんにとっては、この程度の手紙をかけるだけでも貴重なことであるはずだ。手紙をもらったほうとしても、その力強い筆致は「無事の知らせ」のようで、安心させられるものがある。

林さんは判決確定前、全国各地の様々な人と手紙のやりとりをしていたが、死刑確定後は疎遠になった人も多いだろう。彼女自身は事件発生から15年を迎える今も無実を訴えて再審請求中だが、その安否が気になる方は些少のカンパ金や切手を郵送で差入れてみるといいかもしれない。こうした礼状が返ってくるだけでも、林さんと心の交流ができたような気にさせられるはずである。

(片岡健)

★写真は、林さんから約3年半ぶりに届いた手紙