昨年施行された改定暴対法について、ジャーナリストの田原総一朗氏、元刑事の飛松五男氏、弁護士の岡田基志氏、そして「特定危険指定暴力団」に指定された当事者である工藤會幹部が、それぞれの立場から語る。
その画期的な試みが、田口宏睦著『「改定」暴対法 変貌するヤクザと警察』(鹿砦社)である。
暴力団を取り締まるのだから、いいだろう。ということで、暴対法に対しての世間の関心は薄い。

だが、実際には、暴対法は市民をも取り締まる。
その最大にして象徴的な被害者が、島田紳助であると、田原総一朗氏は喝破している。
詳しくは同書を参照してほしいが、暴力団とつきあってはならない、という理屈で、島田紳助は芸能界引退に追い込まれた。

五代目工藤會幹事長の木村博氏によれば、福岡の中州では、暴力団員を入らせないという標章を、飲食店に貼らせるように警察が勧めているという。
店側が迷惑をこうむっている、というならともかく、料金もきちんと支払う、店としたら普通の客と変わらない。
「何十年も前から皆来てくれてるから、今更来るなとか言えない」と断ると、警察は些細な法的不備を見つけ出して、店を突いてくるという。

そもそも、「暴力団」という言葉が一人歩きしている。
改定暴対法によって、テキ屋とのつきあいができなくなり、地元の祭に屋台が出せなくなった、という嘆きは各地から聞かれる。
山口組三代目・田岡一雄組長が「神戸芸能社」を設立、美空ひばりや小林旭をプロデュースし、港湾事業での功績がたたえられて、兵庫県警で一日警察署長を勤めたほどであることも、同書では語られている。

「“組”は前科とか国籍とか出身とかの経歴を一切問わないただ一つの集団だ。だから、社会の底辺で差別に苦しんできた人間にとって、“組”は憩いの揺籃となり、逃避の場となり、連帯の場となる」
同書で紹介されている、柳川組二代目・谷川康太郎氏の言葉だ。

辛酸を舐めてきた人間たちを集めて、組は様々な事業を行っている。
その中から、犯罪に手を染める者も出るかもしれない。その場合は、犯罪そのものを取り締まればいい。組そのものを潰せ、というのは、どう考えてもおかしい。警察官にだって、犯罪に手を染める者はいるのだから。

暴力団のことだから、関係ない。そう思っているうちに、私たちの自由は削がれていっている。
そんな現実を見つめるためにも、ぜひとも、読んでおくべき一冊だ。

(FY)