筆者は当欄で以前、山口地裁であった裁判員裁判の公判中に被告人の在日韓国人男性が、山口地検の保木本正樹三席検事(当時)から取り調べ中に民族差別発言を浴びせられたと訴えた一件をレポートした。(http://www.rokusaisha.com/blog.php?p=1742)。その男性・湖山(本名・許)忠志氏(29)が今年6月、最高検の監察指導部に対し、同検事に差別発言を浴びせられた詳細を情報提供し、調査するように求めていたことがわかった。

湖山氏は、2010年11月に下関市で元交際相手の女性の次女(当時6歳)を殺害するなどしたとして昨年7月、上記の裁判員裁判で長倉哲夫裁判長から懲役30年の判決を宣告されたが、一貫して無実を訴えており、現在は広島高裁に控訴中。犯行現場の女児宅の室内では、身元不明の第三者の指紋が4つ、毛髪が9本採取されながら、湖山氏の指紋や毛髪が一切見つかっていないことなど冤罪を窺わせる事実は多く、控訴審の行方が注目されている(http://www.rokusaisha.com/blog.php?p=1702)。そんな中、筆者が広島拘置所に勾留中の湖山氏からもらった手紙によると、湖山氏が最高検監察指導部に情報提供した保木本検事の民族差別発言の内容は以下の通りだ(※句読点以外は原文ママ)。

* * * * 以下、引用 * * * *

あなた、人を殺しといて、よく子供と普通に接する事が出来るね。在日の人間は人を殺しても平気で暮らせるんだね。本土にいる韓国人、朝鮮人も同じ人殺し集団だね。
あなた、こんなことをして平気でいられるの?

私は人を殺した事がないからわからないんだけど、人を殺す時ってどんな感じなの? あなたが答えなくても他の在日の人や本土の韓国人、朝鮮人に聞いたら教えてくれるかな? 韓国と朝鮮はわかれているけど、同じ様なもんだからね。

あなたは人を殺したんだよ。わかってる?
だから在日の韓国、朝鮮人、本土の韓国人、朝鮮人もみんな人殺し集団なんだよ!!
あなた達、韓国人・朝鮮人は下等な人種なんだから、昔のように日本人の足元にいたらいいんだよ!! あなたが認めなくても、こっちはどうにでも出来るんだよ。今回の事件、認めないと後悔することになるからね。

* * * * 以上、引用 * * * *

湖山氏は2011年5月27日に逮捕されたあと、下関署で勾留されていた6月1日の18時31分から20時27分の間に同署第一取調室で保木本検事の取り調べを受けた際、同検事からこのような民族差別発言を浴びせられたことをノートに記録していたという。本当に保木本検事はこんな民族差別発言をしたのか否か、筆者は本人に事実確認してみた。

保木本検事は昨年4月、山口地検から横浜地検川崎支部に異動し、さらに今年4月、東京法務局に異動して訟務検事となっている。筆者は当初、保木本検事の今年4月の異動先が東京法務局だとわからなかったため、横浜地検川崎支部に対し、保木本検事宛ての取材依頼の手紙を送り、本人に転送してもらった。手紙(7月25日付け)では、湖山氏に教えてもらった上記のような差別発言を一言一句たがわずに記し、このような民族差別発言を湖山氏に浴びせたのが事実か否かなどについて、話を聞かせて欲しいと依頼。テレホンカードを同封の上、「(保木本検事の)現在の勤務先や自宅がわからないので、取材を受けてもらえる意思があるか否か、電話で回答して欲しい」「8月9日までに何の連絡もない場合は取材を受ける意思がないものと判断させてもらう」などとしたためた。

すると、8月7日、筆者の自宅に「(差出人)保木本正樹」とワープロ打ちされた紙片が裏面下部に貼られた封筒が簡易書留で届いた。中を確認すると、「片岡健様 郵送いただいたテレホンカードをお返しいたします。 保木本正樹」とワープロ打ちされたA4版の紙と、筆者が保木本検事に送ったテレホンカードが入っていた。一体どういう意図なのか、わかりにくい返事だった。

そのため、改めて保木本検事の現在の所属を調べ直してみたところ、今年4月からは東京法務局で訟務検事になっているらしいことがわかった。そこで8月29日、東京法務局に電話すると、保木本検事は不在だったが、しばらくして本人から電話がかかってきた。

この電話で初めて声を聞いた保木本検事は「片岡さんの携帯電話でしょうか?」「保木本と申します」と最低限の礼儀はわきまえたような話しぶりだった。筆者が手紙を読んだか否かを確認すると、「見ておりますが」とのことだった。しかし、「事実確認をさせて頂きたいのですが」と改めて口頭で取材を依頼したところ、保木本検事は筆者の質問には何も答えず、他人事のように言った。
「えっとですね、そちらから頂いたお手紙に、『8月9日までに何のご連絡もない場合、取材をお受け頂く意思がないものだと判断させて頂きます』と書いてありますので、その通りということでよろしいんじゃないでしょうか?」

そこで筆者が「とくに何もおっしゃることはないのでしょうか?」と確認すると、保木本検事は「ええ、あのお、それとですね、二度とこちらのほうに電話をして頂かないように、よろしくお願い致します」と自分の勝手な希望を一方的に告げてきた。念のため、もう一度、「事実関係について、何も否定されることはないのでしょうか?」と確認すると、「あのぉ、いま申し上げた通りですので、あの、私のほうからいま申し上げた通りですので、これで切らせて頂きます」と不機嫌そうにまくしたてられ、一方的に電話を切られた。この一連の対応から、湖山氏に対する保木本検事の民族差別発言疑惑はやはり「クロ」なのだろうと思わざるをえなかった。

最高検監察指導部に対し、湖山氏による情報提供が現在どうなっているかを問い合わせたところ、「受理したか否かも含めて、外部には一切教えられない」とのことだった。もちろん、同部が検察庁職員の違法行為や不適切行為に関する情報提供を受けた時点でもれなくすべて公表する必要や義務はないだろう。しかし、調査した結果、保木本検事が湖山氏に対し、上記のような民族差別発言を浴びせていたのは事実だと認められるという結論になれば、その時は懲戒免職にして公表すべきであることは言うまでもない。この件については、今後も追及を続け、当欄で続報をお伝えするつもりだ。

(片岡健)

★写真は、筆者が湖山氏からもらった手紙。保木本検事から受けたという民族差別発言が詳細に綴られている。

【最高検監察指導部】
検察改革の一環として昨年4月に新設された。検察庁職員の違法行為や不適正行為に関する情報を内外から集め、必要に応じて事実調査や指導を行っているとされている。