《12月のことば》良心の充満したる丈夫(ますらお)となれ(鹿砦社カレンダー2023より。龍一郎揮毫)

本年のカレンダーもあと1枚となりました。

1年経つのは本当に速いものです。

新型コロナ襲撃でのた打ち回り、読者やライター、取引先の方々の力をお借りし、無我夢中で頑張ってきました。

コロナ以前には左団扇状態で蓄えも少なからずありましたが、一気に変わりました。

潰れもせずにやって来れたのは、ひとえに皆様方のご支援のお蔭、あらためて感謝申し上げます。

今月の言葉は、龍一郎や私の母校の校祖の言葉から採っています。

果たして私たちは「良心」に恥じない生き方をしてきたであろうか? 今の世の中に「良心」というものがあるだろうか? 良心があれば、ウクライナやパレスチナ問題は起きないでしょう。あらためて想う。

来年のカレンダーが出来上がってきました。

毎年楽しみに待っておられる方々が多くおられます。

まずは『紙の爆弾』『季節』定期購読者の皆様には新たな号と一緒に送りますので今しばらくお待ちください。

本年一年、どうもありがとうございました。

(松岡利康)

尾崎美代子『日本の冤罪』

鹿砦社編集部編『ジャニーズ帝国 60年の興亡』

山下教介著『[復刻新版]ドキュメント タカラヅカいじめ裁判 ── 乙女の花園の今』

 

本稿は『季節』2023年夏秋号(2023年9月11日発売号)掲載の「老朽化原発の安全確保の理屈が成り立たない理由」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

◆東海第二の現状

先の論文では運転期間は60年(定格出力運転相当年数・定格出力で連続運転したと仮定して計算した年数で48年)までしか解析されていない。東海第二は今のままでは72年近く運転する可能性がある。運転期間としても50年を大きく超えるだろう。また、材料の具体的な評価については記述がないため、どんな不純物が含まれているかわからない。

一般に、中性子照射脆化は材料に含まれる元素の種類や量で大きく変化する。そのため同じ材料(母材、溶接材)で試験片を作らないと意味がないが、たった5㎜では同じ材質の試験片になっているとは考えにくい。

東海第二と同型のBWRである敦賀1号(すでに廃炉)では加速試験(炉心内で炉壁よりも燃料体に近い場所に試験片を置くことで中性子照射量を多くして、寿命末期の状態を模擬して行う評価)を行ってきたところ、実際の炉壁の状態を模擬できなかった(少ない影響しかないように評価された)例もある。

東海第二も加速照射なので、これまで取り出した試験片が実際の炉壁の状態を正しく評価できるデータが取れているか疑問だ。

そういう状態であるにもかかわらず、中性子照射脆化と加圧熱衝撃の評価をしないなどというのは、都合が悪いから逃げているに過ぎない。しかし事故からは逃げられないということは知るべきだ。

試験片が枯渇し中性子照射脆化を評価できなくなった原発は直ちに廃炉にするべきである。

◆規制委は危険な原発を止められるのか

西村康稔経産大臣は国会で、原発の安全規制に懸念を持つ議員から、危険な老朽原発を事故前に的確に停止することが可能なのかを問われた。大臣は規制委が厳格な審査を行い、不合格になれば原発の運転ができなくなるのだから問題ないと繰り返し答弁した。

改訂前の炉規法では40(+20)年で廃炉となった。今後は事実上、制限がなくなる。老朽原発は規制委が危険性を未然に見つけて許可しないとの判断をしない限り、廃炉にすることができなくなる。

もともと炉規法に年数制限を入れたのは、古い設計で安全上不安のある原発の自主退場を促すことも目的だった。

改正前の炉規法では、よほどのことがない限り運転中の原発に運転停止を命ずることができなかった。しかし新規制基準ができたことで地震や津波、過酷事故対策に加え、特定重大事故対処等施設の建設と、大規模な設備投資が必須となった。

このような工事は100万キロワット級原発と50万キロワット級原発で、費用が倍も違わない。安全対策工事にかかる金額は、柏崎刈羽全部で1兆2000億円、東海第二で3000億円など、原発が1基建ってしまうほどの費用がかかる。同じ投資をするのならば、運転可能年数も長く、設計も建設も新しい原発に集中した方が経済性も良いことは常識である。

そのこともあって、今まで伊方1、2号機、美浜1、2号機など比較的小型で老朽化が進んだ原発が廃炉になった。震災後、東電福島第一と第二を除けば、11基が廃炉になっている。

しかし、ここにきて廃炉の波は止まっている。柏崎刈羽1~5や志賀1などは、新規制基準適合性審査を受けていないが、廃炉にもしていない原発がある。

「新・新規制基準」では、これら原発は動かないのに運転可能年数だけは無意味に伸びていく。老朽化が進んだ原発の退場を促すどころか、いつまでも「動くかもしれない」と、廃炉にもせず、再稼働準備と称して対策工事を延々と続け、経営を圧迫し地域を不安に追い込む。そんな原発が8基もある(柏崎刈羽1~5、志賀1、女川3、浜岡5)。(つづく)

◎老朽化原発の安全確保の理屈が成り立たない理由[全4回]
〈1〉脆性遷移温度が危険域に達した関電高浜1号
〈2〉運転実績や想定を超えている原発の「60年超運転」
〈3〉試験片が枯渇し、中性子照射脆化を評価できなくなった原発は直ちに廃炉にすべきである

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像 ―― 原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』(共著/木村朗、高橋博子編/明石書店 2015年)等多数。

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龍一郎揮毫

本稿は『季節』2023年夏秋号(2023年9月11日発売号)掲載の「老朽化原発の安全確保の理屈が成り立たない理由」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

◆加圧熱衝撃の恐ろしい実態

例えば、運転中の原発で冷却材喪失事故が発生する。原因はいろいろ考えられよう。給水系統に直接繋がる配管の破断、主蒸気管の破断、蒸気発生器伝熱管の破断、給水ポンプ軸封部の破損などがある。その結果、冷却材喪失事故になり非常用炉心冷却装置が作動する。

実際に91年に美浜2号で蒸気発生器伝熱管の破損から冷却材喪失事故が発生し、ECCSが作動した例がある。この時に入る水は摂氏30度以下の冷たい水だ。炉心は運転中であれば300度を超える高温だ。圧力容器が急冷され、加圧熱衝撃が発生する。

圧力容器が劣化していて容器の内面に傷があると、これが急速に拡大し、容器が破損する。これを加圧熱衝撃による脆性破壊という。

損傷したところから320度以上、157気圧以上の一次冷却材が噴出し、炉心の冷却ができなくなる。圧力容器が大規模に破損していたのでは、ECCSが作動していても水が貯まらないため、炉心が損傷し過酷事故に至る。

◆試験片が枯渇した老朽原発

川内原発1号では、運転開始時に6つ入れた監視試験カプセルのうち、すでに5つが取り出されている。東海第二では運転開始時に4つ入れた監視試験カプセルすべてがすでに取り出されたことが確認されている。

東海第二については使用済の試験片を戻しているが、これを使って再試験をすることはできない。サイズが小さすぎて(5㎜)シャルピー衝撃試験は不可能だ。

東海第二で試験片が枯渇したのは、原発は最長でも60年までしか運転期間を想定していなかったことが理由だ。

高浜1号も「実用発電用原子炉の運転期間延長認可申請に係る運用ガイド」で「運転開始後30年を経過する日から10年以内のできるだけ遅い時期」に取り出して試験することとされているが、この間に試験をしている形跡がない。最初に入れた8個のカプセルのうち4つが母材、4つが溶接金属だが、母材はあと一つ、溶接金属は2つ残っているだけである。

60年超運転とは原発の運転実績や想定を超えていることなのだ。このことが、圧力容器の正常な試験そのものを阻害し事実上不可能にしてしまった。極めて危険な実態を生み出した責任は今のGX法にある。

ところがここでウルトラCが登場する。日本原電が2018年に作成した「原子炉圧力容器の中性子照射脆化に関する評価の詳細について」という文書にはこういう記述がある。

「沸騰水型原子炉圧力容器では、炉圧は蒸気温度の低下に伴い低下すること、冷水注入するノズルにはサーマルスリーブが設けられており、冷水が直接炉壁に接することはないから、PTS事象は発生しない[*1]。また相当運転期間での中性子照射量が低く、BWR-5を対象とした評価(図5-1)において、破壊靭性の裕度が十分あることが確認されている*2」

あえて注釈の数値を残しているが、ここから文献を探してみると、ここには恐ろしいことが書かれている。

「*2」とされている「沸騰水型原子炉圧力容器の過渡事象における加圧熱衝撃の評価」では、「国内BWR全運転プラントを対象として、構造および設計熱サイクルを考慮してグループ化し、供用状態DにおけるPTS評価を行った。すべてのプラントについて、60年運転を想定した48EFPY時点で、応力拡大係数KI曲線と破壊靭性KIC曲線とは交わらずに破壊靱性の裕度が十分にあることが確認された。BWRの場合は、供用状態CおよびDにおいて、PTS事象のような非延性破壊に対して厳しい運転事象はなく、非延性破壊評価は供用状態AおよびBに対する評価で代表できることが確認された」とある。

これを根拠として、規制委は現在、BWRつまり東海第二について、中性子照射脆化と加圧熱衝撃について評価対象から外すというのだ。

「東2の評価に対して、裕度がある。そのため、供用状態C及び供用状態Dにおいては脆性破壊に対して厳しくなる事象はなく、耐圧・漏えい試験時の評価で代表される」との記述が、すでに2018年の原電文書に記載があり、これが事業者の提案であることが明らかである。

すでに20年延長運転申請の際、試験片が枯渇することから、こうした主張をしており、加えて今回の「長期管理施設計画」では、他のBWRも含めて全部外してしまえと主張しているのである。(つづく)

◎老朽化原発の安全確保の理屈が成り立たない理由[全4回]
〈1〉脆性遷移温度が危険域に達した関電高浜1号
〈2〉運転実績や想定を超えている原発の「60年超運転」

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像 ―― 原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』(共著/木村朗、高橋博子編/明石書店 2015年)等多数。

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龍一郎揮毫

本稿は『季節』2023年秋号(2023年9月11日発売号)掲載の「老朽化原発の安全確保の理屈が成り立たない理由」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則等の改正案等に対する意見公募について」との長い名のパブコメが8月4日まで実施された。

◆長期施設管理計画審査基準の問題点

なかでも「実用発電用原子炉の長期施設管理計画の審査基準の制定について」には、以下が定められている。

「30年を経過した原発は、10年毎に事業者が長期管理計画を決めて規制委に提出しなければならない」

長期管理計画には、通常点検及び劣化点検の実施の考え方及び方法が適切に定められていること、技術評価に用いる点検等の結果が明らかにされていること、劣化の状況を把握する点検または検査がない場合には、劣化点検を実施しなくとも技術評価が可能であることが示されていること、将来の劣化の予測・評価をどのように行うかの予測と評価の結果が示されていること、劣化を管理するための具体的な措置が示されていること、が記載されなければならない。

これで原発事故を未然に防ごうというのは、言うは易く行うのは困難だ。

例えば、長期管理計画において劣化を確認し基準への適合性を立証する責任は事業者に課せられている。それをクリアできなければ運転はできなくなる。しかし適合性を審査し、判断する規制委が事業者の見落としや不適合などを審査等で未然に見つけ出す能力がなければ、この規制は機能しない。規制委に、そのような技術的能力が存在するとは、これまで実証されていない。

実際の審査会合においても、規制側にそのようなことができるのか、疑問の声が委員から上がっていたのである。

原発は極めて複雑な構造物であり、全部の専門家などはいない。金属材料やポンプなどの専門知識があっても炉物理の専門ではないとか、地震について知見があっても津波はまた別とか、5人の委員で審査をこなすなどとても難しいと誰もが思うのではないか。

◆中性子照射脆化(ぜいか)とは何か

「中性子照射脆化」とは、鋼鉄製の圧力容器に中性子が当たり材料中の元素を叩いて格子結晶構造を変質させることから起きる。中性子照射を受けると金属材料がもろくなる現象で、規則的に並んでいた原子がはじき飛ばされたり、核変換により新しい原子が生成して原子配列が不規則になり、格子欠陥、ヘリウム気泡、析出物などが生じ、材質が硬化する。

照射が進むと、材料はさらに硬くなっていき降伏応力が上昇し、材料の伸びが少なくなる。

金属材料が照射を受けて脆化すると低温での衝撃荷重に対して著しく弱くなるが、高温になると、脆化は回復して再び粘りけが生じる。このような延性・脆性遷移現象は原子炉圧力容器にとって重要であり、照射が進むにつれてこの延性・脆性遷移温度は高温側にシフトするので、監視試験片を原子炉の中に入れて定期的に調べ、材料の安全性を確認している(ATOMICA他)。

この脆性遷移温度が高くなっているのが老朽化した原発である高浜1、2、美浜3号であり、これらはすでに危険領域を超えていると多くの専門家は考えている。

◆脆性遷移温度が危険域に達した高浜1号

高経年化対策上抽出すべき主要6事象として挙げられている中性子照射脆化で最も厳しい状態にあるのは運転開始49年に達する高浜1号だ。

運転中に原子炉の圧力容器が急激に破断する「脆性破壊」の危険性が高いのが高浜原発だ。

圧力容器の健全性を調べる方法は「原子炉構造材の監視試験方法」に規定されている。原子炉内に装着する監視試験片のシャルピー衝撃試験や、脆化予測式から脆性遷移温度を求める。

「原子力発電所用機器に対する破壊靭性(じんせい)の確認試験方法」では破壊靭性試験(CT試験)をもとに破壊靭性遷移曲線を求め、熱衝撃PTS遷移曲線と比較して、圧力容器の健全性を評価する。

この方法には問題がある。2011年の保安院・高経年化意見聴取会において脆化予測式、反応速度式の誤り、次元の不1致が指摘され、改訂が求められたにもかかわらず、日本電気協会は10年以上経っても改訂案を作れていない。

規制委は間違った規程のまま圧力容器の安全性審査を行っていることになる。

評価上は、高浜1号でも破壊靱性遷移曲線とPTS状態遷移曲線は交わっていないので、破壊が起きないとされる。しかしこの評価自体、正しいとはいえないのだ。

高浜1号では、監視試験で99℃という高い温度(その温度以下では鋼が変形せずに割れてしまう目安の温度)が観測されている。(つづく)

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像 ―― 原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』(共著/木村朗、高橋博子編/明石書店 2015年)等多数。

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龍一郎揮毫

本稿は『季節』2023年夏号(2023年6月11日発売号)掲載の「原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

◆原発の運転延長は重大事故を準備する行為

「脱炭素電源法案」による原発の運転期間再延長を含めた「利活用推進の趣旨」は「安定電源の確保」が理由だという。そうすると、これから起きることは、原発をなるべく止めずに使う方式を導入することになる。

最初に行われるのは、定期検査期間の短縮と定期検査間の延長だ。まず、定期検査項目を絞り込み、現在90日程度で行っている検査を30日未満で終わらせる。さらに定期検査の間隔も、現在13カ月程度のところ、最長24カ月まで延ばす計画がある。これらは経産省が進める原発の稼働率向上対策としてすでに検討されていることだ。[*1]

[*1]定期検査の間隔については法令上、3つの区分(13カ月以内、18カ月以内、24カ月以内)が規定されている。現在は全部13ヵ月以内と区分されているが、これを変更して24カ月運転を目指そうとしている。

その次には、出力調整も視野に入る。現在運転している原発は、フル出力運転をすることが最も経済的とされている。しかしこれは、運転期間が最長60年に限られているからで、これが事実上無制限(上限が定められていない以上、無制限というしかない)となれば、電気出力を電力需要に合わせて変動させても経済性を確保できることになる。

加圧水型軽水炉は、最大50%までの出力調整運転が可能とされており、沸騰水型軽水炉でも75%まで下げられるとされる。

これに加えて所内単独運転[*2]が可能な原発ならば、事実上ゼロ出力から100%まで可変可能だ。

[*2]所内単独運転とは、原発が送電線のトラブルなどで送電線と切り離されたときに、原子炉を停止せずに原発の冷却ポンプなどの構内負荷にだけ電気を供給する状態を指す。発電に使わない蒸気はタービンバイパスを通じて復水器に送られる。所内単独運転は非常時の運転であり、タービン建屋温度上昇など問題が多い。運転制限時間は15分程度とされている。また、原発の所内単独運転では、負荷は通常の定格出力の5~10%である。

そうまでして原発を活用する場合、想定されるのは過酷事故の発生確率の上昇だ。

福島第一原発事故の教訓など、法律の条文の飾り程度にしか考えていない原発漬けの議員と官僚によって、再び過酷事故がどこかで起きる。

西日本の原発で起きれば、日本列島全域が「風下地帯」になるだろう。福島第一原発事故では75%の放射能は海に出て陸域の汚染は25%の放射能によるものだったが、西日本の原発は、偏西風が日本列島を縦断している時に過酷事故が発生したら、100%近くの放射能が日本中に降り注ぐことにもなりかねない。そうなってから悔やんでも遅いことだけは誰もが理解できることだ。

◆原発推進で日本は滅びる

多くの裁判では原発事故に対する国および東電の責任は、明確にされていない。

国が行ってきた原発推進に対しては、最高裁判所も責任を認めようとしなかった。地裁ではいくつもの優れた判決が出されているときに、国の方針に従うだけの最高裁の姿勢と呼応して、裁判で差し止められた原発の再稼働を促進しようとするのが、この国の行政だ。

電気事業法改訂の一つに司法が差し止めなどの決定を行った際に、上級審で取り消された場合は、その決定や判決がなかったものとして、停止していた期間を原発の運転期間の延長に組み込めるとする規定が盛り込まれている。これは司法権に対する介入であり許されない。

電力の安定供給を実現するのに必要なのは、いまある火力設備を更新し、無駄な廃熱を出さないシステムに変換することでエネルギーを有効活用することだ。地域温水供給で熱源としての利用を可能にすれば、火力の出力を3分の2に減らしても、いまより電力などのエネルギー回収効率は高まる。特に大都市はこうしたシステムと蓄電システムとの組み合わせで自然エネルギーの不安定な分を補うこともできる。

また、主に廃熱として捨てられる「未利用エネルギー」(下水道廃熱や工場廃
熱や冷暖房廃熱)を回収すれば、都市廃熱による環境悪化(ヒートアイランドやそれに起因する都市型豪雨災害)を低減できるし、しなければならない。(完)

◎原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点[全4回]
〈1〉福島の反省も教訓も存在しない
〈2〉原発は電力の安定供給に役立たない
〈3〉原子力産業振興法と化した原子力基本法
〈4〉原発推進で日本は滅びる

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像 ―― 原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』(共著/木村朗、高橋博子編/明石書店 2015年)等多数。

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〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2023年秋号

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龍一郎揮毫

四国電力伊方原発3号機の運転差し止めを求めて、筆者自身も含む広島県民を中心とした住民が2016年3月11日に広島地裁に提訴した伊方原発広島裁判は大詰めを迎えています。

いま、地元を選挙区とする岸田総理がグリーントランスフォーメーション、脱炭素と自称して、原発推進に舵を切っています。3.11のフクシマ以降、民主党政権後半から安倍政権にかけて曲がりなりにも継承されていた脱原発ないし(自民党のマニフェストにも小さくですが記載されていた)脱原発依存も反故にされました。

また、総理の政策転換も背景に関西電力が高浜原発などの運転を再開。そこで発生した核のゴミを上関に押し付けようともくろみ、上関原発建設のめどが立たずに苦しんでいる中国電力と利害が一致。上関への中間貯蔵施設を計画し、この夏の短期間で町長にのませてしまいました。そうした中で、本裁判は終盤を迎え、2024年6月頃、結審になろうとしています。

本裁判のここまでの大まかな経過をおさらいしますと、以下のようになります。

◆同時進行の運転差し止め仮処分を高裁はいったん認めるも覆る

 

2016年3月11日の提訴と同時進行で原告=住民側が仮処分を申し立てました。これは、本裁判の判決を待っていたら、その間に伊方原発が事故を起こしてしまう危険があるからです。

紆余曲折を経て、2017年12月13日、広島高裁がいったんは仮処分を認めました。しかしながら、四国電力から異議が申し立てられ、2018年9月25日に四国電力の異議を認める形で運転差止が却下されました。そして、我々原告=住民側が新たに申し立てた仮処分申請も2021年11月4日、吉岡裁判長により却下されてしまいました。その後、我々は広島高裁に抗告しましたが、2023年3月24日、脇由紀裁判長により仮処分の申し立てはが却下されてしまいました。

◆これまで41回の口頭弁論

2023年11月1日現在、41回の口頭弁論が行われました。

2023年9月11日の第38回口頭弁論では、元広島大学准教授で地質学者の早坂康隆さんが原告側の証人として証言。四国電力が伊方原発は岩盤の上にあるから大丈夫という趣旨の主張をこれまでしている中で、早坂さんは伊方原発のすぐ北側600mの海底にある中央構造線は危険な活断層であることや伊方原発がある佐田岬半島は、ダメージゾーンにありひび割れだらけであることを暴露しました。

 

東日本の広い地域が、放射性廃棄物と同等の放射能汚染に覆われている(写真の黄色以上に濃い色の点が該当)

2023年10月4日の第39回口頭弁論では原告側証人尋問として、福島第一原発事故による避難者である鴨下美和さんと久保山康代さんが証言しました。鴨下さんは2022年12月14日に意見陳述をする予定でしたが、直前に被告の四国電力からの要求で裁判所が陳述を認めなかったという「事件」がありました。夫婦で放射性物質も扱う仕事をしていた鴨下さん。東日本の広い地域が、放射性廃棄物と同等の放射能汚染に覆われているという趣旨の指摘を行いました。

また、国の避難指示区域外からの自主避難のために賠償金は出ず、大変過酷な避難生活になったこと。先に避難した鴨下さんに対して、夫はいわきに残りましたが国の避難指示が無かったこともあり、『いわきは汚染などしていない、全く問題がない』と信じている周囲の人たちの中で、罵声を浴び、孤立したこと、若い人の突然死に二度も立ち会ったことから憔悴し、二年後に避難したことなどを回想。『願わくは、私たちのような思いをする人が、二度と出ないように。これ以上、原発によって国土が汚染され、人々の暮らしが歪められないように。祈りを込めて、私は、伊方原発の再稼働に反対します。』と結びました。

同10月11日の第40回証人尋問は原告側の野津厚さん(国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所、 港湾空港技術研究所領域長)の証人尋問の続きで、被告四国電力側による反対尋問が行われました。伊方原発が南海トラフ巨大地震の想定震源域のほぼ北西端に位置していることはよく知られていますが、四国電力は、「M9南海トラフ巨大地震が伊方原発敷地直下約41kmの地点を震源または強震動生成域として発生しても最大地震動は181ガルである。」と主張しています。

野津さんは、強震動地震学の専門家として、2011年のM9東北地方太平洋沖地震によって発生した地震波の研究から、南海トラフ巨大地震のようなプレート間地震では、致命的な地震波(キラーパルス)は一辺が数十kmのような大きな断層面(SMGA)から平均的に襲来すると考えるよりも、一辺が数kmのような小さい断層面(SPGA)から襲来すると考えた方が、実際の観測記録とよく一致するとして、キラーパルスの発生源はSPGAと想定しています。そして、野津さんはもっとも強力なSPGAを伊方原発に近いところに配置し、強震動計算を行ったところ、最大地震動は約1900ガル、地震波の最大速度が秒速約138cmという結果を得ました。なお、この計算では、伊方原発敷地は非常に強固な岩盤の上に立地しており、地震波の増幅特性はほとんどないものとして想定していますが、それでも、伊方原発の基準地震動650ガルの約3倍に相当します。

同11月1日(水)、第41回口頭弁論では、原告側の高島武雄さん(熱工学の専門家。元小山高専教授)への水蒸気爆発をテーマとしての証人尋問が行われました。福島原発事故の時、溶融炉心が原子炉建屋内のコンクリート構造に反応して水素が発生し(「MCCI」)、水素爆発が発生しました。

四国電力は水素爆発の防止策として、こともあろうに原子炉容器の底部(キャビティ)に水を張ることにしました。これだと溶けた炉心は水の中に落ち、なるほどコンクリート構造に接触しませんからMCCIは起こらず、水素爆発のリスクは大幅に軽減されます。しかし1000度以上に溶けた炉心が水に触れたとたん大規模な水蒸気爆発は起こらないのかという重大な疑問が起こります。常識的には水蒸気爆発の危険があると考えるのが普通です。しかし四電は「起こらない」と断言します。原子力規制委員会でこの問題の審査が行われた際、委員長の更田豊志さん(=当時)が「水蒸気爆発は起こらないと決意しなければ、なかなか水は張れませんね」と意味不明のコメントをしておられます。

「水張り」で大規模水蒸気爆発は起こらない、とする四電の主張の根拠は、過去に行われた国際的な研究や解析(経済開発協力機構=OECD のトロイ装置やクロトス装置を使った研究、欧州委員会のファロ研究、韓国原子力公社のコテルス研究など)から導いた結論です。ところが、肝心要のOECD の「セレナ研究」の結果を全く無視しているのが大きな特徴です。そのセレナ研究では「実際の原子炉内で大規模な水蒸気爆発が起こらないという確実な証拠がない以上、水蒸気爆発は起こると考えておくべき」という趣旨の結論を導いているのです。

◆今後の予定

今後は、以下のような予定です。

11月29日(水)10時半~、被告・四国電力側証人の金折裕司さん(山口大学 理工学研究科 教授)に対する『活断層』をテーマとした証人尋問が行われます。

12月18日(月)13時半~原告側証人の原告 伊藤正雄さん(原告団副団長)/証人 渡辺美和さんに対する証人尋問が行われます。

2024年1月22日(金) 13時半~ 原告側証人の原告 森本道人さん/原告 福島敦子さんに対する証人尋問が行われます。福島さんは2022年1月19日の第26回口頭弁論でも意見陳述をされています。南相馬市から京都へ避難した福島さん。この意見陳述では『福島市の避難所では「死ぬときは死ぬのだ」があいさつだった避難所の生活は忘れられなかった』『娘は「フクシマゲンパツ」とあだ名をされたこともあった。その日その日を精一杯「生きる」ことで過ぎていった』などと振り返っておられたことが筆者も昨日のことのように思い出されます。

なお、予定は変更の可能性もあります。
直近に原告団のホームページをチェックしていただければ幸いです。
https://saiban.hiroshima-net.org/

広島選出の岸田総理が全国の皆様にいろいろご迷惑をおかけしていることを深くお詫び申し上げますともに、伊方原発ストップ、また上関中間貯蔵阻止という結果をお届けできるよう、筆者も奮闘して参ります。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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本稿は『季節』2023年夏号(2023年6月11日発売号)掲載の「原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

◆原子力産業振興法と化した原子力基本法

改訂原子力基本法は、その趣旨が大きく変わった。原子力基本法は原子力開発利用の基本方針を定めており、原子力関連法の根拠法になっていることから、「原子力の憲法」とされてきた。特に「自主」「民主」「公開」の原子力平和利用三原則は学術会議により提唱されたものを取り入れた。原子力基本法に基づき原子力利用の目的や基本方針、原子力委員会及び原子力規制委員会の設置と役割を規定している。

原子力基本法の改定趣旨(法律の改訂についての法律案要綱)では「電気の安定供給の確保、我が国における脱炭素社会の実現に向けた発電事業における非化石エネルギー源の利用の促進及びエネルギーの供給に係る自律性の向上に資する」ことが推進の理由だとしている。

そのうえで原発を60年を超えて運転できる期間を定め、それに基づいた運転延長を申請する根拠法として電気事業法の改訂を行うのだが「原子炉を運転することが、我が国において、脱炭素社会の実現に向けた発電事業における非化石エネルギー源の利用の促進を図りつつ、電気の安定供給を確保することに資する」ためと趣旨を記述した。

原発を再び推進する理由を「エネルギー安定供給、自律性の向上に資する」としているが、嘘である。大規模集中型の電源である原発の事故やトラブルは電力供給に大規模で長期的影響を与えることは福島第一原発事故や、その後の地震でも繰り返し示されたことだ。

また、ウラン燃料は100%輸入に依存しており国産エネルギー源ではない。地域紛争の影響を強く受けるのは石油と変わらない。

加えて国の責務としてさまざまな施策を実施するとし、国が直接税金を投入することにも道を開く規定を設けている。それを原子力基本法で行うのは、法律の趣旨を1切無視する暴挙としかいいようがない。

◆審査で劣化は発見できない

改訂法では、炉規法で30年を超える原発の劣化評価を規定することで、むしろ安全規制は強化されるとしている。しかしすでにこれまでも30年を超える原発に対して10年ごとの劣化評価が「高経年化技術評価」として行われてきた。これを法律に格上げするのだが、実際には検査体制などは変わらない。従来の制度の延長線上であり新しい制度というわけではない。

運転期間を延長する電気事業法で認められてしまうと、規制委の権限で廃炉とすることはできない。運転許可を出さない場合は、何年でも何回でも、規制委に対して審査を受審することができてしまう。これは現在の40年ないし20年の延長に対しては、日時を切って期限を過ぎれば廃炉になることに対する大幅な規制緩和である。

劣化に対する審査はいまでも欠陥が見えている。圧力容器の劣化は予測に基づく評価が現実に合わなくなっているし、今年1月に発生した高浜4号機の制御棒落下事故は、関電は数カ月前に特別点検を行ったところが破損しており、これを誰も見つけていない。

そもそも検査の範囲はごく限られたところだけで、そこから外れた劣化に対しては無力である。もちろん未知なる劣化を審査により見つけることなど不可能であり、事故が起きてから発見される。このような事態を避けるために、一定の年限で退場させる現在の規定は理に適ったものであり、それを廃してしまう合理性はない。

◆「運転停止期間の除外」にも合理性がない

電気事業法に運転期間の延長に関する認可が移管されたことで延長申請は、行政処分、行政指導、裁判所による仮処分命令、その他事業者が予見しがたい事由によって運転停止を行っていた期間を運転期間から除外し後付けできるとしている。

これは電力会社の利益を確保するための制度。震災後の法令改訂により原発が稼働できなくなったことによる損失を補填するためだ。

原発が老朽化すれば、事故を起こす危険性が高まることは自明だ。即ち、住民の安全と電力の利益を天秤に掛けて電力会社を優先することを法制化する。東電福島第一原発事故は原発の運転を優先して地震津波対策を先送りしたことが原因の一つである。それがまた再現されようとしている。(つづく)

◎原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点[全4回]
〈1〉福島の反省も教訓も存在しない
〈2〉原発は電力の安定供給に役立たない
〈3〉原子力産業振興法と化した原子力基本法

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像 ―― 原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』(共著/木村朗、高橋博子編/明石書店 2015年)等多数。

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龍一郎揮毫

本稿は『季節』2023年夏号(2023年6月11日発売号)掲載の「原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

◆原発は電力の安定供給に役立たない

経産省は原子力基本法の改訂理由で、60年を超える運転に道を開く「原発利活用」について「安定供給」を理由に挙げている。

ウクライナ戦争と円安の影響で急激に値上がりした天然ガスなどの輸入エネルギー。電力改革に背を向けて自社の利益を最優先に違法カルテルを大規模に行い、競合他社の保有情報を盗み出すなどした大手電力会社の行為に加え、国の無策が招いた電力価格の高騰を奇貨として、国民のあいだに蔓延する「値上げへの嫌悪感」を利用しての原発利活用政策の導入は、盗人に追い銭の典型である。

電力安定供給についても、原発には重大な欠陥があることを無視している。地震や台風災害時に発生する大規模な停電は、原発の再稼働などではなく電力システムの改革によってしか解決できない。

現在の日本は大規模な発電所が中心のシステムで成り立っている。この電力供給体制こそ改革しなければならないのに、原発の稼働を増やせば安定供給になるとの発想そのものが、災害時の電力不足を深刻なものにする。

昨年6月や今年3月に起きた東電管内での「ひっ迫」は、電力需給がアンバランスになって起きる通常時の「ひっ迫」だが、これは電力系統の問題であって発電所の出力の問題ではない。原発を増やしたところで解決などしない。

電力会社は原発の再稼働を進めて原発依存度が高まると、火力を廃止する。以前は待機電力として稼働可能な状態で休止する場合が多かったが、「脱炭素」のかけ声のもとで次々に廃止している。

大手電力の経営状態も悪化しているので、なおさら原発を代替できる火力設備を持ちたがらない。その結果、100万キロワット級原発が止まれば即座に電力がひっ迫する危険性が高まる。それを回避するために送電網を整備して他電力からの送電を円滑に行おうと考えている。再生可能エネルギーの広域運用を送電網整備の理由に挙げているが、実態は原発の電力を大都市(特に東京)に持っていくのが目的だ。

◆事故を起こせば国を滅ぼす原発

原発が事故を起こせば広大な地域を汚染し、人々の生活や生業を破壊してしまう。チェルノブイリ事故37年、東電福島第一原発事故12年、いずれも収束にほど遠い現状だ。

東京地裁朝倉裁判長は東電株主代表訴訟において原発の事故は国を滅ぼすことにつながると指摘し、福井地裁樋口裁判長は高浜原発の差し止め判決で原発事故で失われた国土は「国富の喪失」と指摘した。

震災以前には日本では原子力防災が事実上存在すらしていなかった。1999年のJCO臨界被曝事故は、東海村の燃料加工工場JCOで「むき出しの原子炉」が出現し、65センチの遮蔽もない容器内でウランが臨界状態になって従業員2名が死亡する世界中でも例がない異常なものだった。

事故直後から中性子線や各種放射性物質が拡散していったが、収束作業の手段さえ見つからず、周囲350メートルに避難指示、周囲10キロ圏に屋内退避が発令された。立ち入り禁止措置も取られ、国道6号や常磐自動車道が閉鎖された。常磐線も止まった。あらかじめ計画されたものではなく、その場での判断の積み重ねだった。住民避難を指示した東海村の村上村長は孤独な決断を強いられた。日本の原子力災害史上初の避難指示も独自の判断だった。

当時の原子力安全委員会は「今回の事故においては国の初動対応が必ずしも十分でなかったため、結果的には非常に適切な措置であった避難要請は国や県の指導助言なしに東海村長の判断で行われた」(ウラン加工工場臨界事故調査委員会報告の概要1999年、原子力安全委員会)と、村上氏の判断の適切さと国の初動対応の不適切さを認めている。

しかしこの教訓は震災時も生かされなかったし、今に至るも本質は何も変わっていない。大規模な放射性物質拡散事故が起きた場合、収束に当たる人々、避難を誘導し先導する人々、刻々と変わる放射性物質の拡散経路を見極めて住民避難を計画する機関などは依然として地元自治体の業務であり、国は助言し支援する立場である。しかし自治体には余りに重すぎる任務だ。

過酷事故は国を滅ぼすほどの災害になるとの認識はない。むしろ、規制基準適合性審査を通っているから安全性は確保できるとする、昔ながらの安全神話をそのまま引きずっている。これに加えて老朽原発を60年以上動かすことができるとする改訂は、さらに悪化した安全神話の姿だ。(つづく)

◎原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点[全4回]
〈1〉福島の反省も教訓も存在しない
〈2〉原発は電力の安定供給に役立たない

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
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本稿は『季節』2023年夏号(2023年6月11日発売号)掲載の「原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

原発の60年超運転を可能にする束ね法案「GX(グリーン・トランスフォーメーション)脱炭素電源法案」が4月27日に衆議院本会議で可決された。

世界でも例のない60年を大きく超える運転を可能にし、新型炉の開発と原発へ国が投資を行うことを法律で裏付ける「原発推進法」。原発依存からの脱却どころか推進する政策へと大転換を強行するものだ。

改訂される主な法律は原子力基本法、電気事業法、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(炉規法)、原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施に関する法律(再処理法)、再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(再エネ特措法)だ。

さらに所得税法、地方税法、法人税法、消費税法などの法律も一部改訂される。

特に原子力基本法の目的は、「原発依存からの脱却」を永遠にできなくするための法的縛りを、事業者だけでなく国や地方を含む行政全体にも及ぼそうとするものだ。

なお「再処理法」の改訂理由は、原発を廃炉にするために必要な費用を積立金方式で拠出金する改訂(電気事業法)と、その拠出金の管理を使用済燃料再処理機構で行うことを規定するためのもの。この目的のため機構の名称を「使用済燃料再処理・廃炉推進機構」に変更する。

「再エネ特措法」の改訂は、送電線の整備計画を経済産業大臣が認定し、認定を受けた整備計画のうち工事に着手した段階から系統交付金を交付するもの。電力システム改革が一向に進まないことから、電力事業者任せにできないということで国が推進するとの仕組みだが、多くの電力を東京圏などの大消費地に集中するためのものだ。名目は再エネの利活用といいながら、実態は東電の原発の出力が再稼働をしても柏崎刈羽原発6、7号機だけで震災前より大幅に減ることから、他電力からの原発の電力を送るためのものだ。

特にリニア新幹線などのような大電力を使うシステムを動かすには、東西の連系が重要になる。北海道の原発が定格出力運転をしていると電力が余剰になるため東京など大都市に送電することも想定している。

これらを「束ね法案」の形式として一つの改訂法にまとめて国会に提出し成立を図った。

しかし原発の利活用、原発の安全規制、運転期間のさらなる延長、廃炉費用積み立て、送電網の整備の支援の多岐にわたる変更点をひとくくりにした束ね法として国会で議論をすることから、分かりにくく論点も深まらない。

政府の思惑通り、議論も深まらないうちに衆議院の委員会審議は25時間程度で終わり衆議院本会議でも可決された。

◆福島の反省も教訓も存在しない

東電福島第一原発事故は現在収束どころか、原子炉圧力容器の真下の土台部分でコンクリート材が消失していることが分かるなど、次々に新しい問題が見つかっている。人類が経験したことのない3基の原発の同時メルトダウンと、溶け落ちた核燃料、大量の放射性物質からの放射線が作業を困難なものにし、デブリから生ずる汚染水発生を12年経っても止めることさえできないでいる。

敷地内のタンクに溜まっている汚染水は、今年夏にも海洋放出される計画で、放出設備は7月末までに完成する予定だが、地元漁協はもちろん、全国漁業協同組合連合会も反対の姿勢を変えていない。(※東電は8月24日から海洋放出を開始)

住民の多くも反対の意思を表明し、運動も続いている。国と東電は「関係者の理解なしに、いかなる処分も行わない」と口ではいいながら夏にも放出開始を強行するつもりだ。

「帰還困難区域」と呼ばれる広大な土地は今も立ち入り制限されており、居住も生産の場にも使えない。チェルノブイリ原発事故から学ばなかった日本は、犠牲を被災者に押しつけたまま、新たな原発推進への道を突き進もうとしている。(つづく)

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
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龍一郎揮毫

本稿は2022年12月18日大阪市で行われた「チェルノブイリ・ヒバクシャ救援関西発足31周年の集い」の記念講演「福島第一原発事故から11年 今 伝えたいこと」の講演データです。一部再構成した上で、前編、後編の2回に分けて掲載します。

◆提訴の思い ── 国と東電に被曝と生活権破壊に対する責任を認める姿勢を質したい

 

以上(講演前編)のような状況から、私は国と東電が避難者に今後の被曝に対する不安を残し、安住生活を破壊してしまった責任をきちんと認める姿勢を質したい。

飯舘村民が、長期間の高放射線被爆により健康不安を引き起こした初期被曝に対する代償、そして飯舘村民を引裂き、暮らしに欠かすことのできない美しかった自然環境の破壊と安定した社会生活を形成してきたコミュニティの崩壊を引き起こし、飯舘村で安心・安全な、そして充実して暮らしてきた生活権の破壊に対する代償を求めて、2021年3月5日に訴訟を提起しました。

避難から11年を費やしてしまい、事故前のような飯舘村での暮らしはままならない状況を作り出した福島第一原発事故は、如何に住民にとって過酷な事故であったかを理解して欲しいと願うばかりです。

◆変わり果てた美しかった故郷 ── いかに日本国民は将来への負担を抱えたか

 

何十年、何百年という何代にもわたって培ってきた自分の生まれ育った飯舘村は変り果て、美しかった自然環境は崩れ、黄金色に輝いていた田面は、いたる所で真っ黒いソ-ラ-パネルに埋め尽くされています。

それでも、一方では村民の努力で水稲栽培が復活したところも有り、野菜や花卉の栽培も進められ、徐々にではあるが農業の再生が進められています。

事故を起こした福島第一原発は、事故収束と廃炉に向けた事故処理が行われていますが、そのためにはどれだけの無駄な歳費が支払われているかを考えるに、このことによっていかに日本国民は将来への負担を抱えたかである。

◆原発再稼働・新設を語る政治・経済界は、福島県の被災者の心を全然理解していない

このような危険極まりない原発を再稼働とか新設とかを語る政治・経済界は、福島県の被災者の心を全然理解していないことにつながり、底知れぬ恐ろしささえ覚える。

日本国憲法の下で、国民が安全安心して暮らせる国づくりを基本とすべきものを国民不在の知らされないところでの政治がなされてきていると感じている。

ましても、最近の政治家の不祥事にもあきれ果てる場面が多々見受けられるが、「ウソ・偽り」のないクリーンな社会を創造する義務を忘れ、自己本位で独裁的な方向に導こうとしているように思えてならない。

その現状を垣間見るようなメディアの報道は、いかがなものか。姿勢を正して真実をきちんと導き出し、国民に明らかにしていく真の精神が欠けていると感じている。

◆国は国民の利益増進し安定して暮らせる社会を築くべき ── 国民一人ひとりの行動が大切

国家は、国民の利益を増進させ、安定して暮らせる社会を築くべきで、その転機にある時期ととれる。

コロナ禍ではあるが、国民はもっともっと政治に関心を持ち、国民一人一人の意思が格差なく反映され、平和で民主的な日本国とするために行動することが何よりも大切なことと最近では特に思えてならない。

◆飯舘村の新たな施策に期待したい

飯舘村の再生は、一言では言い表すことができないほどに、場所も人の心も崩壊してしまっているのが現状です。

インフラの整備と外からの移住政策の推進に邁進する国家政策では村の再生はかなわないと思っているが、村長の交代による新たなる施策に期待したいと考えている。避難している以前の飯舘村民の生活再建施策が乏しい中でも、新村長の公約は「ふるさと再生」ととれる考えに期待をかけたいと思う。

生業の再生なくして帰村しての生活は成り立たないのですから、経済基盤の立てなおしに行政の力を発揮してほしいと祈願している。

 

◆私たちは、飯舘村の大地に根を張った飯舘村民

私たちは、飯舘村の大地に根を張った飯舘村民なのです。長年暮らしてきた飯舘村の光景は、毎日のように脳裏に映ります。そんなに簡単に消えることはないのです。それを長期的に放射能汚染されてしまった悔しさと怒りは計り知れません。

自然の魅力と恵みがあり、安心して暮らせる環境が整った飯舘村での生活再開を心待ちしているのが、避難している多くの飯舘村民の願いですから、国・県はその願望に寄り添った的確な対応をすべきと思う毎日です。

本日ご参加戴きました皆さん。

この地球に暮らすほとんどの人々は、とくどなく平和を望んでいます。

敗戦国である日本の平和のために、そして世界の平和を造るために、国民の責任だと偽ってまで、増税による軍備は本当に必要なのでしょうか?

世界でただ一つの被爆国である日本は、世界大戦の悲劇を全世界に発信する外交がなされ、世界に働きかけるべきなのに不思議でなりません。

どうか、このことを国政に反映する日を待ち望みたいと思います。本日は、ご静聴頂きまして誠にありがとうございました。(完)

◎菅野 哲《講演》福島第一原発事故 ── 今 伝えたいこと
〈前編〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=47836
〈後編〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=47855

▼菅野 哲(かんの ひろし)
1948年、戦後開拓入植者の長男として飯舘村で生まれる。福島県立相馬高校卒。家業の農業に従事後、飯舘村森林組合に就職。1969年、飯舘村役場に奉職。2009年、定年退職後、農業に復帰。2011年3月、原発事故により福島市に85歳の母と妻の家族3人で避難生活。2014年7月、長谷川健一団長と共に「原発被害糾弾 飯舘村民救済申立団」を立ち上げ、副団長として「申立の趣旨」文案にかかわり、組織化につとめる。2019年7月、「飯舘村民救済申立団」解散。現在は公益社団法人相馬広域シルバー人材センター理事長。報徳会相馬理事。主著に『〈全村避難〉を生きる:生存・生活権を破壊した福島第一原発「過酷」事故』(言叢社2020年)。

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2023年秋号

◎鹿砦社HP http://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000729

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