◆「気候危機」対策の現況と評価

① COP26合意の背景

2021年11月、英国グラスゴーで開催されたCOP26会議で、産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑えることで合意、2050年までに世界のCO2排出量を実質ゼロにすることが世界目標となった。この決定プロセスについて、朝日新聞編集委員原真人氏は、以下のように書いている。

 ここ数年、世界を脱炭素の急進路線に一気にかじを切らせた立役者はおそらくグレタ・トゥンベリさんや環境NGOではなく、世界の金融ネットワークである。
 いま欧米金融界を中心に機関投資家、資産運用会社、投資コンサルティング会社などがこぞって脱炭素をめぐる国際的な指針づくりを進めている。企業が脱炭素にどれだけ熱心か情報を詳しく開示させ、市場で適正に評価するためだ。脱炭素市場に巨額の投資を呼び込もうという思惑である。仕掛け人は米投資銀行出身でカナダと英国の中央銀行総裁を歴任し、いまは国連の気候変動問題担当特使を務めるマーク・カーニー氏だ。同氏が提唱して発足した金融・投資家連合は「脱炭素に30年間で100兆ドルを投資しうる」と宣言している。狙うは化石燃料を利用する発電所やガソリン車を排し、代わって再生可能エネルギーや電気自動車への転換を1気に進めること。総とっかえの投資ブームを金融からの強力な締め付けで実現しようというのだ。(中略)
 かつて地球温暖化外交で日本政府の交渉官を務めた有馬純・東大特任教授は「いまや温暖化そのものが巨大ビジネスになった。金融や再エネ業者、環境NGO、学者、そしてメディアも含めて1種の気候産業複合体、『温暖化ムラ』とも言えるような1大勢力ができている」と指摘する。
 世界経済は1970年代はインフレで、80年代以降は政府や民間の借金積み上げで成長を遂げてきた。それも行き詰まり、昨今は中央銀行のお金のばらまきが頼りだ。それでも低成長から脱せないことに危機感を抱く金融・投資家連合が、次なる成長エンジンとして見込んだのが脱炭素マネーということか。(『朝日新聞』2021年12月22日付)

この記事は現代世界における脱炭素の位置付けを的確に描写している。1997年の京都議定書で設けられた排出権取引制度を通じてCO2の金融商品化が進んだことも、欧米金融界が脱炭素を後押しする大きな動機になっていると思われる。

欧州では月間10億~15億トンの排出権が売買され、月間500億~750億ユーロ(約6・5兆~9・8兆円)の巨大市場を形成している(『週刊東洋経済』2021年7月31日号 高井裕之「脱炭素で活況呈するEU排出権市場」)。「気候危機」論が普及し脱炭素対策が進めばこの排出権市場が拡大し、金融資本家にとっての利潤獲得機会が増大する。

脱炭素は、欧米金融資本の利潤獲得に貢献するものである。

② グレタ・トゥーンベリ氏の原発への態度

2021年7月18日にBS朝日から「グレタ・トゥーンベリ気候変動の最前線をゆく」という番組が放映された。この番組は英国BBCが18歳を迎えた彼女が大学を休学して世界中を旅した1年間に密着取材したドキュメンタリーを再構成したものである。

この番組の中でトゥーンベリ氏はポーランドの火力発電所を視察し、それに続いて廃坑になった炭坑を訪れ元炭鉱労働者たちと交流する。その後、その体験を踏まえてダボス会議(2020年1月21日)で演説し以下のように言う。

「先週私は職を失ったポーランドの炭坑労働者の方々と会いました。彼らでさえ諦めていませんでした。むしろ変わらなければならないという事実をあなた達以上に理解していました。」

この発言にはトゥーンベリ氏の原発容認姿勢が表れている。彼女が訪れたポーランドでは、再生エネルギーに加えて代替主力電源として原発の建設が進められており、将来的には代替電源の約5割を原発でまかなう予定になっている。その事実と考え合わせると、彼女の発言は「CO2削減のためには原発を使ってもよい」という主張に他ならない。

彼女は2022年10月、ドイツ公共放送ARDのインタビューで、気候保護のために原発は現時点でよい選択かと問われ、「それは場合による。すでに(原発が)稼働しているのであれば、それを停止して石炭に変えるのは間違いだと思う」と答え(『毎日新聞』電子版2022年10月14日付)、原発容認の姿勢をより明確に打ち出している。 

③ IPCCの原発への肯定的評価

IPCCが2022年4月に発表した第6次評価報告書第3作業部会報告書には「原子力は、低炭素エネルギーを大規模に供給することができる(高い確信度)」と書かれている。

しかしこの認識自体、事実に照らせば誤りである。原発がCO2を出さないのは発電場面のみであり、ウラン燃料の採掘・精錬・運搬、施設の建設、運転終了後の廃炉作業、使用済み核燃料の保管・処理まで含めれば、膨大な量のCO2を排出する。

IPCCが提唱するCO2の排出削減という目的に照らしても、原発は極めて不合理な選択である。IPPCがそのような不合理な主張をしているという事実を見過ごしてはならない。

◆むすび 脱炭素から脱却し本来の環境保護を

メディアはグレタ・トゥーンベリ氏を環境活動家と呼んでいる。しかし、先に見たようにトゥーンベリ氏は「気候危機」対策としての原発を容認している。言うまでもなく原発こそが最悪の環境破壊の元凶であり、それを容認するような運動を環境運動と呼ぶことは適切ではない。「気候危機」論と環境保護を同1視すべきではないのである。

石燃料の無制限な使用が環境に悪いことは誰も否定しえない。化石燃料の資源は有限であり、その使用は大気汚染をはじめ各種の環境汚染の発生を伴う。従って、「化石燃料の使用を抑制しよう」という「気候危機」論のテーゼは、環境保護と共通点がある。

しかし、CO2の排出が気候に悪影響を与えるため脱炭素を進めよう、という点において、「気候危機」論は環境保護とは別物である。CO2自体は汚染物質ではなく植物の生長に必須の物質である。しかし「気候危機」論においてはCO2を出すもの=悪、CO2を出さないもの=善という2項対立が作り出され、実際には環境に最も悪い原発が推進される。

欧米金融資本は脱炭素に利潤の源泉を見出し、強力に脱炭素を後押しし、各種国際機関、各国政府も脱炭素を推進する政策を打ち出している。しかし脱炭素は原発推進を促すため結果として深刻な環境破壊をもたらす。

原発以外の手段で脱炭素を進めればよいという議論もある。しかし化石燃料を一挙に再生可能エネルギーに置き換えることは困難なため、脱炭素を是認すれば「足りない分は原発で」という論理によって原発推進に道が開かれてしまう。そもそも「気候危機」論自体が科学的に不確かな議論である以上、脱炭素に同調すべきではないのである。

脱炭素は端的に言えば資本の論理である。われわれは資本主義社会に生活している以上、それに順応した生活形態を余儀なくされる。例えば生活の糧を得るために営利企業に労働力を提供し賃金を得る必要がある。しかし、だからと言ってわれわれ市民に資本主義体制を強化する義務はない。同様に、市民には脱炭素に加担する義務はないのである。 

市民は、IPCCの見解やそれに追随し無闇に危機感を煽るメディアの報道を額面通り受け取ることをやめ、脱炭素から距離を置くべきであろう。市民は真に環境によいことは何かを自分の頭で考え、大気、水、土地の汚染を防止し自然の植生を守り育てるという、環境保護本来の理念に立ち返るべきである。そうした環境保護の着実な活動こそ、今日の社会で求められている運動だと言える。その意味で、原発の廃絶=脱原発が最優先の課題であることは言うまでもない。(完)
           
◎「気候危機」論とは何か
〈前編〉二酸化炭素の人為排出は本当に気候に甚大な悪影響を与えているのか?
〈後編〉最優先の課題は、原発の廃絶=脱原発である

本稿は『季節』2023年夏号(2023年6月11日発売号)掲載の「『気候危機』論についての一考察」を本通信用に再編集した全2回の連載記事です。

▼原田弘三(はらだ・こうぞう)
翻訳者。学生時代から環境問題に関心を持ち、環境・人権についての市民運動に参加し活動している。

『季節』2023年冬号

〈原発なき社会〉を求めて集う
不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2023年冬号

通巻『NO NUKES voice』Vol.38
紙の爆弾2024年1月増刊
2023年12月11日発行 770円(本体700円)

2024年の大転換〈脱原発〉が実る社会へ

《グラビア》
「東海第二原発の再稼働を許さない」11・18首都圏大集会(編集部)
福島浪江「請戸川河口テントひろば」への道(石上健二)

《インタビュー》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
必要なことは資本主義的生産様式の廃止
エネルギー過剰消費社会を総点検する

《インタビュー》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
「子ども脱被ばく裁判」と「311子ども甲状腺がん裁判」
法廷で明らかにされた「被ばく強制」 山下俊一証言のウソ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
【検証】日本の原子力政策 何が間違っているのか〈1〉
無責任な「原発回帰」が孕む過酷事故の危険性

《報告》木原省治(「原発ごめんだ ヒロシマ市民の会」代表)
瀬戸内の海に「核のゴミ」はいらない
関電、中電が山口・上関町に長年仕掛けてきたまやかし

《報告》山崎隆敏(元越前市議)
関電「使用済燃料対策ロードマップ」の嘘八百 ── 自縄自縛の負の連鎖 

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
反原発を闘う水戸喜世子は、徹底した反権力、反差別の人であった
[手記]原発と人権侵害が息絶える日まで
       
《インタビュー》堀江みゆき(京都訴訟原告)
なぜ国と東電に賠償を求めるのか
原発事故避難者として、私が本人尋問に立つ理由

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
原発賠償関西訴訟 提訴から10年
本人調書を一部公開 ── 法廷で私は何を訴えたか?

《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈前編〉

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「核のゴミ」をめぐる根本問題 日本で「地層処分」は不可能だ

《報告》原田弘三(翻訳者)
「気候危機」論の起源を検証する

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
汚染水海洋放出に対する闘いとその展望

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
フクシマ放射能汚染水の海洋廃棄をめぐる2つの話題
映画になった仏アレバ社のテロリズムと『トリチウムの危険性探究』報告書

《報告》板坂 剛(作家・舞踊家)
再び ジャニーズよ永遠なれと叫ぶ!

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈22〉
甲山事件50年目を迎えるにあたり
誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈上〉

再稼働阻止全国ネットワーク
岸田原発推進に全国各地で反撃中!
沸騰水型の再稼働NO! 島根2号、女川2号、東海第二
《東海第二》小張佐恵子(福島応援プロジェクト茨城事務局長/とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《福島》黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち/「ひろば」共同代表)
《東京》柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(命のネットワーク)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《中国電力》高島美登里(上関の自然を守る会共同代表)
《川内原発》向原祥隆(川内原発二〇年延長を問う県民投票の会事務局長)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)

反原発川柳(乱鬼龍 選)

書=龍一郎

龍一郎揮毫

私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0CPDMZSST/

人間の歴史は、海岸に打ち寄せる波のように、行きつ戻りつするしかないのでしょうか。科学技術は進歩一途如き様相を呈していますが、技術の進歩を産み出す人間の思想や行動が、進歩を遂げているようには到底思えません。むしろ私たちが目にしてきた二十世紀後半から二十一世紀前半の世界は、 総体ではないにせよ人間の「退行」を示してはいないでしょうか。

自然科学により、完全に解明された 「絶対的な毒性」が明らかな放射性物質に、人間は可能な限りそれらに近づかず、環境へ漏れ出たならば可能な限り局所に封じ込め、それでも制御できないのであれば避難をする。1986年ソ連ではチェルノブイリ原発事故が起きたあと、その原則は(完全ではないにせよ)履行されました。

他方2011年に日本で起きてしまった福島第一原発爆発事故の後、日本政府は被ばくから国民を守ることを放棄し、被ばくを強要する政策に終始した感があります。今日では「福島第一原発事故などなかったことにしよう」との隠蔽政策に全力を注いでいます。

「東京五輪」は、東北の復興を謳い文句に使い誘致されました。「五輪と復興に何の関係があるのか」本来招致活動が起こった時点で国民は疑問を強く持つべきでしたが、政府・マスコミ・経済界一丸となっての東京五輪はCovid-19の爆発的感染拡大により一年延期されたものの、ご記憶の通り強行開催されました。

そして 「汚染水」 はいつのまにか 「処理水」と呼び変えられています。異常以外のなにものでもありません。

福島第一原発事故後の「被ばく」強要は、明確な意図に起因しているのではないか、との疑問。その明確な証拠がついに明かされました。事故後「福島県放射線健康リスク管理アドバイザー」に着任し、福島県民を欺く役割を果たした山下俊一を井戸謙一弁護士が法廷で証人として尋問したのです。その結果極めて重要かつ驚くべき数々の事実が明らかになりました。今号の井戸弁護士へのインタビューは必見です。日本の商業新聞・雑誌の中でこの事実を採り上げるのは本誌だけでしょう。

昨年のロシアによるウクライナ侵攻に続き今年はイスラエルによるパレスチナ侵略・大虐殺が進行しています。いずれも歴史の文脈を直視することなしには理解しえず、また分析のできない戦争です。そして戦争には常に偽りの扇動や報道が旗頭の役割を担います。

原発を基軸に時代や世界を凝視すると根源に巣食う文明の病があぶり出されます。2023年は益々文明の病が顕在化した年であったようです。世界も日本国内も相変わらず「脱炭素」との虚言に踊り、日本ではGX法(原発推進法)まで成立してしまいました。闇の深い時代に、本誌はあえて闇の深淵に足を踏み入れ、光明を発掘します。

2023年12月 季節編集委員会

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このところ月刊『紙の爆弾』『季節』と発行がほぼ重なり、また来年のカレンダーの頒布とも重なり、それらの膨大な量に本社・東京編集室ともに一時は占拠され、発送が幾分遅れ気味になっていましたが、昨日でほぼ終了いたしました。

いましばらくお待ちください。週明け11日にはほぼ到着すると思います。

例年のように定期購読・会員の皆様方には書家・龍一郎揮毫の2024年鹿砦社カレンダーを一緒に送らせていただきました。

下は『季節』冬号の巻頭を飾っている龍一郎揮毫の書です。(松岡利康)

龍一郎揮毫

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2023年冬号

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◆はじめに

岸田政権は今年2月に「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を閣議決定したが、その中で二酸化炭素(CO2)を出さないエネルギー源として原発の活用が提唱されている。この背景にはCO2の人為排出が気候に危機をもたらしている、とするいわゆる気候危機論がある。そこで「気候危機」論とは何か、それはどのような意味を持つのか、発生以来の経過をたどりつつ検証してみたい。

◆「気候危機」論の概要

本稿において「気候危機」論という用語は、20世紀半ば以降の温暖化が人為起源のCO2などが主な原因で起き、それにより地球環境が危機に瀕しているとする考え方を指す。国際連合の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次報告書は、20世紀半ば以降の「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と述べている。そして、世界の平均気温が上昇していくにつれて、北極海の海氷面積の縮小、海面水位の上昇、洪水の多発、食料生産力の低下、サンゴ礁の消失などが起こるとされる。

「気候危機」論の高まりを受けて、「脱炭素」に向けた取り組みが世界的に推進されている。脱炭素とは、代表的な温室効果ガスであるCO2の排出量をゼロにしようという取り組みである。日本では2020年10月に、当時の菅義偉首相が「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と所信表明演説の中で述べた。これを受けて、環境省では「2050年までに年間で12億トンを超える温室効果ガスの排出を実質ゼロにすること」を目標として、産業構造や経済社会の変革に取り組むこととした。

◆「気候危機」論の歴史

1896年、スウェーデンの物理学・化学者スヴァンテ・アレニウスが石炭などの大量消費によって今後大気中のCO2濃度が増加すること、CO2濃度が2倍になれば気温が5~6℃上昇する可能性があることを述べた。この説は、社会の一部には浸透していた。しかし1970年代頃までは、「地球寒冷化」の方が学会の主流を占めていた。

1979年、スリーマイル島原子力発電所事故の発生後、アメリカ合衆国大統領行政府科学技術政策局から「気候に対する人為起源CO2の影響」について諮問を受けた全米科学アカデミーがこれらの学術報告をまとめ、「21世紀半ばにCO2濃度は2倍になり、気温は3±1.5℃(1.5~4.5℃)上昇する」とするチャーニー報告を発表した。

1988年6月23日、アメリカ上院エネルギー委員会の公聴会において、NASA所属のジェームズ・ハンセンが「最近の異常気象、とりわけ暑い気象が地球温暖化と関係していることは99%の確率で正しい」と発言した。この後雑誌やTV放送等のメディアを通して、地球温暖化説が一般に広まり始めた。そして同年8月には、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が設立された。

1992年6月にはリオ・デ・ジャネイロで環境と開発に関する国際連合会議(地球サミット)が開かれ、気候変動枠組条約(UNFCCC)を採択した。UNFCCCでは定期的な会合(気候変動枠組条約締約国会議、COP)の開催を規定した。

1997年のCOP3では、初めて具体的にCO2排出量の削減を義務づける内容を盛り込んだ京都議定書が議決された。

2006年5月、元米国副大統領アル・ゴア氏が出演するドキュメンタリー映画『不都合な真実』が公開された。翌2007年10月、人為的な気候変動問題の啓発に対してアル・ゴア氏がノーベル平和賞を受賞することが発表され、同年12月にIPCCと共に受賞した。

2015年12月12日、COP21においてパリ協定が採択された。この中で2020年以降の地球温暖化対策を定めている。産業革命前からの世界の平均気温上昇を「2度未満」に抑え、加えて平均気温上昇「1.5度未満」を目指すことが合意された。

2018年8月、15歳のスウェーデン人グレタ・トゥーンベリ氏が「気候のための学校ストライキ」という看板を掲げて、より強い気候変動対策をスウェーデン議会の前で呼びかけを始めた。他の学生も自分のコミュニティで同様の抗議活動に参加し、「未来のための金曜日(FridaysforFuture)」の名前で気候変動学校ストライキ運動が組織され、世界の若者の間に気候危機運動が大きな広がりを見せた。

◆「気候危機」論への疑問

「気候危機」論について筆者はいくつかの理由から疑問を持っている。以下にその要点をのべる。

① 『不都合な真実』における誇張

アル・ゴア氏は2006年の映画『不都合な真実』への出演を通じた「気候危機」問題の啓発によってノーベル平和賞を受賞した。しかしこの映画は2007年、イギリスで学校での上映に反対するグループによって上映差し止めを求める提訴を英国高等法院に起こされている。その結果裁判所は、上映差し止めの請求を退けたうえで、誇張がみられる9つの問題点を指摘し「注釈をつけて」上映するようにとの判決を下した。

例えば、映画ではグリーンランドの氷床が融解し海面上昇が「近い将来」20フィートに及ぶとしているが、科学者の合意では数千年かかり「近未来に海水面が上昇するというのは極端な主張で、人騒がせである」としている。

② ツバル水没の原因

京都議定書の採択と同時期、気候変動の影響による海面上昇でツバルという国が沈む、という報道が相次ぎ、ツバルは「温暖化で沈む国」として世界の注目を集めた。しかし、2021年に環境ジャーナリストの石弘之氏は、現地取材を踏まえてツバルは沈んでおらず陸地面積はむしろ拡大している、と伝えている。(『東洋経済ONLINE』2021年7月27日付 石弘之「『温暖化で沈む国』は本当か? ツバルの意外な内情」)

石氏のレポートによれば、1971年から2014年まで、少なくとも8つの環礁と、約4分の3の岩礁で面積が広くなっており、同国の総面積は73.5ヘクタールも拡大(国土面積約26平方キロメートルに対し2.9%の増加)していたという。これは波によって運ばれた砂が堆積して、浜が広がったことによる。ではなぜツバルで水没が起きていたのか。ツバルの首都の人口は、独立前の1973年には871人だったが、独立した5年後の1979年には2,620人に急増している。これが湿地や低地に多数の住居や行政施設の建設、井戸からの地下水汲み上げの増加と下水の垂れ流しを引き起こした。

同じ太平洋上の島でもハワイは水没していないことと考え合わせると、ツバル水没の原因は地球温暖化による海面上昇ではなく、人口増加と地下水利用に伴う地盤沈下と考えるのが妥当であろう。

③ 温室効果ガス以外の気候変動要因の捨象

地質学上「縄文海進」と呼ばれている事象がある。海岸沿いにあるはずの貝塚が、関東平野のかなり内奥部で多数発見されている事実から、縄文時代に属する6000年前には現在の関東平野の相当部分が海面下にあったことがわかった。気温も1~2度高かったことが判明している。

また、「マウンダー極小期」という事象もある。1645年~1715年の70年間は、それ以前にくらべて地球の平均気温が0.2度下がったことが判明しており、当時のロンドンではテムズ川が凍りつき、氷の上を人が歩いて渡っていた。またヨーロッパ全土で食糧生産が減少し、大規模な飢饉が発生した。この寒冷化の原因は太陽黒点の活動減少と考えられている。(『エコノミスト』2021年6月22日号、鎌田浩毅「太陽黒点の変化も気温に影響」)

「縄文海進」も「マウンダー極小期」も、人間活動の結果起きた事象ではない。したがって、気温上下や海面位の上下は過去数百年、数千年の時間軸では人間活動とは全く無関係に起きていたのであり、同様のことは今後も起こりうる。しかしIPCCは温室効果ガスの人為排出以外の気候変動要因を1切捨象して、温室効果ガスのみを問題視しそれへの対策を論じている。

CO2の人為排出が気候に影響を与えている可能性はないとは言い切れない。しかし、上記の諸事実から、CO2の人為排出が気候に甚大な悪影響を与えているという説には大きな疑問がある。したがって、CO2の排出を早急に削減すべきだという主張は合理的根拠を欠くと言わざるを得ない。(つづく)

本稿は『季節』2023年夏号(2023年6月11日発売号)掲載の「『気候危機』論についての一考察」を本通信用に再編集した全2回の連載記事です。

▼原田弘三(はらだ・こうぞう)
翻訳者。学生時代から環境問題に関心を持ち、環境・人権についての市民運動に参加し活動している。

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2024年の大転換〈脱原発〉が実る社会へ

《グラビア》
「東海第二原発の再稼働を許さない」11・18首都圏大集会(編集部)
福島浪江「請戸川河口テントひろば」への道(石上健二)

《インタビュー》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
必要なことは資本主義的生産様式の廃止
エネルギー過剰消費社会を総点検する

《インタビュー》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
「子ども脱被ばく裁判」と「311子ども甲状腺がん裁判」
法廷で明らかにされた「被ばく強制」 山下俊一証言のウソ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
【検証】日本の原子力政策 何が間違っているのか〈1〉
無責任な「原発回帰」が孕む過酷事故の危険性

《報告》木原省治(「原発ごめんだ ヒロシマ市民の会」代表)
瀬戸内の海に「核のゴミ」はいらない
関電、中電が山口・上関町に長年仕掛けてきたまやかし

《報告》山崎隆敏(元越前市議)
関電「使用済燃料対策ロードマップ」の嘘八百 ── 自縄自縛の負の連鎖 

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
反原発を闘う水戸喜世子は、徹底した反権力、反差別の人であった
[手記]原発と人権侵害が息絶える日まで
       
《インタビュー》堀江みゆき(京都訴訟原告)
なぜ国と東電に賠償を求めるのか
原発事故避難者として、私が本人尋問に立つ理由

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
原発賠償関西訴訟 提訴から10年
本人調書を一部公開 ── 法廷で私は何を訴えたか?

《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈前編〉

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「核のゴミ」をめぐる根本問題 日本で「地層処分」は不可能だ

《報告》原田弘三(翻訳者)
「気候危機」論の起源を検証する

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
汚染水海洋放出に対する闘いとその展望

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
フクシマ放射能汚染水の海洋廃棄をめぐる2つの話題
映画になった仏アレバ社のテロリズムと『トリチウムの危険性探究』報告書

《報告》板坂 剛(作家・舞踊家)
再び ジャニーズよ永遠なれと叫ぶ!

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈22〉
甲山事件50年目を迎えるにあたり
誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈上〉

再稼働阻止全国ネットワーク
岸田原発推進に全国各地で反撃中!
沸騰水型の再稼働NO! 島根2号、女川2号、東海第二
《東海第二》小張佐恵子(福島応援プロジェクト茨城事務局長/とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《福島》黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち/「ひろば」共同代表)
《東京》柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(命のネットワーク)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《中国電力》高島美登里(上関の自然を守る会共同代表)
《川内原発》向原祥隆(川内原発二〇年延長を問う県民投票の会事務局長)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)

反原発川柳(乱鬼龍 選)

書=龍一郎

龍一郎揮毫

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本稿は『季節』2023年夏秋号(2023年9月11日発売号)掲載の「老朽化原発の安全確保の理屈が成り立たない理由」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

◆設計の古さを問題としているが具体性はない

老朽原発を廃炉に導くはずだった新規制基準の運転年数制限が事実上撤廃されてしまい、これにともない古い原発の70年を超える運転がこれから可能になろうとしている。

設計が古いと建設時の知見も乏しく、地震や津波想定は甘く、さらに材料も悪い。良いことなど一つもない。複雑な構造物である原発では、いくら部品を交換し、耐震補強や防潮堤で繕ってみても土台の悪さを解決することはできない。例えば基礎杭を打ち直すことなどできないし、塩害で損傷している建屋を建て直すわけにもいかない。

規制委の長期管理施設計画では、交換可能な設備、装置を交換するためにサプライチェーンの維持を確保するとしている。それ以外に設計の古さを具体的に対策する方法は書かれていない。規制委は、現在でも「バックフィット」(遡って規制基準を適用すること)により安全性を維持する取り組みをしていることで、新知見に照らして安全上重要な対策を施していない原発は40年超運転を許可していないことから、設計の古さに起因する問題については現在でも規制しているとし、新たな規制基準を設ける必要はないと考えている。

結局、本当は重要だった運転期間の制限が撤廃された結果、老朽化した原発を一定の期限で確実に廃炉にする仕組みがなくなってしまった。

改訂法では、長期管理施設計画が認可されなければ次の10年は動かせなくなる。規制は厳しくなっていると規制委はいう。しかし運転は止まるかもしれないが廃炉にはならず、審査は延々と続けられてしまう。現在の敦賀2のように、見通しがなくても、書類を偽装しても、審査を受けたいと書類を出し続ければ廃炉にできないのだ。こんなところに巨額の電気料金(敦賀2の場合は原電の原発なので、関西、中部、北陸、中国電力の消費者がそれぞれの電気料金から負担している)が湯水のごとく使われているのである。

◆規制する側とされる側で検討する規制案とは何か

新・新規制基準の具体的な審査方法(規則等)を検討する「高経年化した発電用原子炉の安全規制に関する検討チーム」という会議体のメンバーに「ATENA」(原子力エネルギー協議会)が入っている。この団体は、電力会社とメーカーの協議体で、いわば原子力ムラそのものである。

規制側と机を並べて検討しているのは原発の安全審査の根幹に関わる「規則」だ。つまり法規制される側とする側が、どんな規制が良いですかと話し合っている。これで厳格な審査体制が作れると本気で思っている人がいるのならば愚かすぎよう。

ATENAは、BWRやABWRは冷却水投入(ECCSの作動など)でも加圧熱衝撃は発生しないので「評価不要」であると主張している。この主張に基づき、すでに試験片を使い果たして本来は圧力容器の健全性を評価できなくなった東海第二の運転継続ができるようになってしまうのである。

震災後に設置された国会事故調の報告書で黒川清委員長が指摘した「規制の虜」。これを打破しない限り、原発再開はあり得ないと指摘した黒川氏。ところが今起きているのは、規制される側が規制する側を取り込み、都合の悪い基準を作らせない目論見だ。

「規制の虜」とは、規制当局が国民の利益を守るために行う規制が、逆に企業など規制される側のものに転換されてしまう現象をいう(黒川清「原発事故から学ばない日本……『規制の虜』を許す社会構造とマインドセット」2021年3月8日付け読売新聞)。

GX法で定められた「新・新規制基準」は、法律が制定されても、それだけでは何もできない。規制の方法や基準を決めなければ実務ができない。新規制基準から、どう繋げていくのかが課題だが、その一つが現在議論されている「長期管理施設計画」だ。これを検討する会議で規制する側が規制される側と詰めの議論をしている。この場に第三者の専門家や、高い知見を持ち批判的な立場の科学者がいるというのならばまだしも(過去の耐震基準を決める会議ではあったし利活用を巡る原子力小委員会にもそういうメンバーは存在した)、この会議体は規制庁と、電力会社やメーカーなどのATENAしかいないのだ。

しかも、知見はほとんどATENA側にあり、規制庁が独自に検証し、実験するなど不可能。せいぜい文献調査くらいしか能力のない規制側が、大勢の技術者と実機を持ち、圧倒的な資金力を有するメーカー側に太刀打ちできるわけがない。対等な議論さえ望めないのである。

このような悲劇的な規制側の現実を国民の多くは知るよしもなく、一方的に決められた規則で事実上無期限に老朽原発が動き出す。それを止める力があるのは、市民だけである。(完)

◎老朽化原発の安全確保の理屈が成り立たない理由[全4回]
〈1〉脆性遷移温度が危険域に達した関電高浜1号
〈2〉運転実績や想定を超えている原発の「60年超運転」
〈3〉試験片が枯渇し、中性子照射脆化を評価できなくなった原発は直ちに廃炉にすべきである
〈4〉一方的に決められた規則で無期限に動き出す老朽原発を止める力があるのは、市民だけである

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像 ―― 原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』(共著/木村朗、高橋博子編/明石書店 2015年)等多数。

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龍一郎揮毫

本稿は『季節』2023年夏秋号(2023年9月11日発売号)掲載の「老朽化原発の安全確保の理屈が成り立たない理由」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

◆東海第二の現状

先の論文では運転期間は60年(定格出力運転相当年数・定格出力で連続運転したと仮定して計算した年数で48年)までしか解析されていない。東海第二は今のままでは72年近く運転する可能性がある。運転期間としても50年を大きく超えるだろう。また、材料の具体的な評価については記述がないため、どんな不純物が含まれているかわからない。

一般に、中性子照射脆化は材料に含まれる元素の種類や量で大きく変化する。そのため同じ材料(母材、溶接材)で試験片を作らないと意味がないが、たった5㎜では同じ材質の試験片になっているとは考えにくい。

東海第二と同型のBWRである敦賀1号(すでに廃炉)では加速試験(炉心内で炉壁よりも燃料体に近い場所に試験片を置くことで中性子照射量を多くして、寿命末期の状態を模擬して行う評価)を行ってきたところ、実際の炉壁の状態を模擬できなかった(少ない影響しかないように評価された)例もある。

東海第二も加速照射なので、これまで取り出した試験片が実際の炉壁の状態を正しく評価できるデータが取れているか疑問だ。

そういう状態であるにもかかわらず、中性子照射脆化と加圧熱衝撃の評価をしないなどというのは、都合が悪いから逃げているに過ぎない。しかし事故からは逃げられないということは知るべきだ。

試験片が枯渇し中性子照射脆化を評価できなくなった原発は直ちに廃炉にするべきである。

◆規制委は危険な原発を止められるのか

西村康稔経産大臣は国会で、原発の安全規制に懸念を持つ議員から、危険な老朽原発を事故前に的確に停止することが可能なのかを問われた。大臣は規制委が厳格な審査を行い、不合格になれば原発の運転ができなくなるのだから問題ないと繰り返し答弁した。

改訂前の炉規法では40(+20)年で廃炉となった。今後は事実上、制限がなくなる。老朽原発は規制委が危険性を未然に見つけて許可しないとの判断をしない限り、廃炉にすることができなくなる。

もともと炉規法に年数制限を入れたのは、古い設計で安全上不安のある原発の自主退場を促すことも目的だった。

改正前の炉規法では、よほどのことがない限り運転中の原発に運転停止を命ずることができなかった。しかし新規制基準ができたことで地震や津波、過酷事故対策に加え、特定重大事故対処等施設の建設と、大規模な設備投資が必須となった。

このような工事は100万キロワット級原発と50万キロワット級原発で、費用が倍も違わない。安全対策工事にかかる金額は、柏崎刈羽全部で1兆2000億円、東海第二で3000億円など、原発が1基建ってしまうほどの費用がかかる。同じ投資をするのならば、運転可能年数も長く、設計も建設も新しい原発に集中した方が経済性も良いことは常識である。

そのこともあって、今まで伊方1、2号機、美浜1、2号機など比較的小型で老朽化が進んだ原発が廃炉になった。震災後、東電福島第一と第二を除けば、11基が廃炉になっている。

しかし、ここにきて廃炉の波は止まっている。柏崎刈羽1~5や志賀1などは、新規制基準適合性審査を受けていないが、廃炉にもしていない原発がある。

「新・新規制基準」では、これら原発は動かないのに運転可能年数だけは無意味に伸びていく。老朽化が進んだ原発の退場を促すどころか、いつまでも「動くかもしれない」と、廃炉にもせず、再稼働準備と称して対策工事を延々と続け、経営を圧迫し地域を不安に追い込む。そんな原発が8基もある(柏崎刈羽1~5、志賀1、女川3、浜岡5)。(つづく)

◎老朽化原発の安全確保の理屈が成り立たない理由[全4回]
〈1〉脆性遷移温度が危険域に達した関電高浜1号
〈2〉運転実績や想定を超えている原発の「60年超運転」
〈3〉試験片が枯渇し、中性子照射脆化を評価できなくなった原発は直ちに廃炉にすべきである

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たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像 ―― 原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』(共著/木村朗、高橋博子編/明石書店 2015年)等多数。

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本稿は『季節』2023年夏秋号(2023年9月11日発売号)掲載の「老朽化原発の安全確保の理屈が成り立たない理由」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

◆加圧熱衝撃の恐ろしい実態

例えば、運転中の原発で冷却材喪失事故が発生する。原因はいろいろ考えられよう。給水系統に直接繋がる配管の破断、主蒸気管の破断、蒸気発生器伝熱管の破断、給水ポンプ軸封部の破損などがある。その結果、冷却材喪失事故になり非常用炉心冷却装置が作動する。

実際に91年に美浜2号で蒸気発生器伝熱管の破損から冷却材喪失事故が発生し、ECCSが作動した例がある。この時に入る水は摂氏30度以下の冷たい水だ。炉心は運転中であれば300度を超える高温だ。圧力容器が急冷され、加圧熱衝撃が発生する。

圧力容器が劣化していて容器の内面に傷があると、これが急速に拡大し、容器が破損する。これを加圧熱衝撃による脆性破壊という。

損傷したところから320度以上、157気圧以上の一次冷却材が噴出し、炉心の冷却ができなくなる。圧力容器が大規模に破損していたのでは、ECCSが作動していても水が貯まらないため、炉心が損傷し過酷事故に至る。

◆試験片が枯渇した老朽原発

川内原発1号では、運転開始時に6つ入れた監視試験カプセルのうち、すでに5つが取り出されている。東海第二では運転開始時に4つ入れた監視試験カプセルすべてがすでに取り出されたことが確認されている。

東海第二については使用済の試験片を戻しているが、これを使って再試験をすることはできない。サイズが小さすぎて(5㎜)シャルピー衝撃試験は不可能だ。

東海第二で試験片が枯渇したのは、原発は最長でも60年までしか運転期間を想定していなかったことが理由だ。

高浜1号も「実用発電用原子炉の運転期間延長認可申請に係る運用ガイド」で「運転開始後30年を経過する日から10年以内のできるだけ遅い時期」に取り出して試験することとされているが、この間に試験をしている形跡がない。最初に入れた8個のカプセルのうち4つが母材、4つが溶接金属だが、母材はあと一つ、溶接金属は2つ残っているだけである。

60年超運転とは原発の運転実績や想定を超えていることなのだ。このことが、圧力容器の正常な試験そのものを阻害し事実上不可能にしてしまった。極めて危険な実態を生み出した責任は今のGX法にある。

ところがここでウルトラCが登場する。日本原電が2018年に作成した「原子炉圧力容器の中性子照射脆化に関する評価の詳細について」という文書にはこういう記述がある。

「沸騰水型原子炉圧力容器では、炉圧は蒸気温度の低下に伴い低下すること、冷水注入するノズルにはサーマルスリーブが設けられており、冷水が直接炉壁に接することはないから、PTS事象は発生しない[*1]。また相当運転期間での中性子照射量が低く、BWR-5を対象とした評価(図5-1)において、破壊靭性の裕度が十分あることが確認されている*2」

あえて注釈の数値を残しているが、ここから文献を探してみると、ここには恐ろしいことが書かれている。

「*2」とされている「沸騰水型原子炉圧力容器の過渡事象における加圧熱衝撃の評価」では、「国内BWR全運転プラントを対象として、構造および設計熱サイクルを考慮してグループ化し、供用状態DにおけるPTS評価を行った。すべてのプラントについて、60年運転を想定した48EFPY時点で、応力拡大係数KI曲線と破壊靭性KIC曲線とは交わらずに破壊靱性の裕度が十分にあることが確認された。BWRの場合は、供用状態CおよびDにおいて、PTS事象のような非延性破壊に対して厳しい運転事象はなく、非延性破壊評価は供用状態AおよびBに対する評価で代表できることが確認された」とある。

これを根拠として、規制委は現在、BWRつまり東海第二について、中性子照射脆化と加圧熱衝撃について評価対象から外すというのだ。

「東2の評価に対して、裕度がある。そのため、供用状態C及び供用状態Dにおいては脆性破壊に対して厳しくなる事象はなく、耐圧・漏えい試験時の評価で代表される」との記述が、すでに2018年の原電文書に記載があり、これが事業者の提案であることが明らかである。

すでに20年延長運転申請の際、試験片が枯渇することから、こうした主張をしており、加えて今回の「長期管理施設計画」では、他のBWRも含めて全部外してしまえと主張しているのである。(つづく)

◎老朽化原発の安全確保の理屈が成り立たない理由[全4回]
〈1〉脆性遷移温度が危険域に達した関電高浜1号
〈2〉運転実績や想定を超えている原発の「60年超運転」

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
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本稿は『季節』2023年秋号(2023年9月11日発売号)掲載の「老朽化原発の安全確保の理屈が成り立たない理由」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則等の改正案等に対する意見公募について」との長い名のパブコメが8月4日まで実施された。

◆長期施設管理計画審査基準の問題点

なかでも「実用発電用原子炉の長期施設管理計画の審査基準の制定について」には、以下が定められている。

「30年を経過した原発は、10年毎に事業者が長期管理計画を決めて規制委に提出しなければならない」

長期管理計画には、通常点検及び劣化点検の実施の考え方及び方法が適切に定められていること、技術評価に用いる点検等の結果が明らかにされていること、劣化の状況を把握する点検または検査がない場合には、劣化点検を実施しなくとも技術評価が可能であることが示されていること、将来の劣化の予測・評価をどのように行うかの予測と評価の結果が示されていること、劣化を管理するための具体的な措置が示されていること、が記載されなければならない。

これで原発事故を未然に防ごうというのは、言うは易く行うのは困難だ。

例えば、長期管理計画において劣化を確認し基準への適合性を立証する責任は事業者に課せられている。それをクリアできなければ運転はできなくなる。しかし適合性を審査し、判断する規制委が事業者の見落としや不適合などを審査等で未然に見つけ出す能力がなければ、この規制は機能しない。規制委に、そのような技術的能力が存在するとは、これまで実証されていない。

実際の審査会合においても、規制側にそのようなことができるのか、疑問の声が委員から上がっていたのである。

原発は極めて複雑な構造物であり、全部の専門家などはいない。金属材料やポンプなどの専門知識があっても炉物理の専門ではないとか、地震について知見があっても津波はまた別とか、5人の委員で審査をこなすなどとても難しいと誰もが思うのではないか。

◆中性子照射脆化(ぜいか)とは何か

「中性子照射脆化」とは、鋼鉄製の圧力容器に中性子が当たり材料中の元素を叩いて格子結晶構造を変質させることから起きる。中性子照射を受けると金属材料がもろくなる現象で、規則的に並んでいた原子がはじき飛ばされたり、核変換により新しい原子が生成して原子配列が不規則になり、格子欠陥、ヘリウム気泡、析出物などが生じ、材質が硬化する。

照射が進むと、材料はさらに硬くなっていき降伏応力が上昇し、材料の伸びが少なくなる。

金属材料が照射を受けて脆化すると低温での衝撃荷重に対して著しく弱くなるが、高温になると、脆化は回復して再び粘りけが生じる。このような延性・脆性遷移現象は原子炉圧力容器にとって重要であり、照射が進むにつれてこの延性・脆性遷移温度は高温側にシフトするので、監視試験片を原子炉の中に入れて定期的に調べ、材料の安全性を確認している(ATOMICA他)。

この脆性遷移温度が高くなっているのが老朽化した原発である高浜1、2、美浜3号であり、これらはすでに危険領域を超えていると多くの専門家は考えている。

◆脆性遷移温度が危険域に達した高浜1号

高経年化対策上抽出すべき主要6事象として挙げられている中性子照射脆化で最も厳しい状態にあるのは運転開始49年に達する高浜1号だ。

運転中に原子炉の圧力容器が急激に破断する「脆性破壊」の危険性が高いのが高浜原発だ。

圧力容器の健全性を調べる方法は「原子炉構造材の監視試験方法」に規定されている。原子炉内に装着する監視試験片のシャルピー衝撃試験や、脆化予測式から脆性遷移温度を求める。

「原子力発電所用機器に対する破壊靭性(じんせい)の確認試験方法」では破壊靭性試験(CT試験)をもとに破壊靭性遷移曲線を求め、熱衝撃PTS遷移曲線と比較して、圧力容器の健全性を評価する。

この方法には問題がある。2011年の保安院・高経年化意見聴取会において脆化予測式、反応速度式の誤り、次元の不1致が指摘され、改訂が求められたにもかかわらず、日本電気協会は10年以上経っても改訂案を作れていない。

規制委は間違った規程のまま圧力容器の安全性審査を行っていることになる。

評価上は、高浜1号でも破壊靱性遷移曲線とPTS状態遷移曲線は交わっていないので、破壊が起きないとされる。しかしこの評価自体、正しいとはいえないのだ。

高浜1号では、監視試験で99℃という高い温度(その温度以下では鋼が変形せずに割れてしまう目安の温度)が観測されている。(つづく)

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像 ―― 原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』(共著/木村朗、高橋博子編/明石書店 2015年)等多数。

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龍一郎揮毫

本稿は『季節』2023年夏号(2023年6月11日発売号)掲載の「原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

◆原発の運転延長は重大事故を準備する行為

「脱炭素電源法案」による原発の運転期間再延長を含めた「利活用推進の趣旨」は「安定電源の確保」が理由だという。そうすると、これから起きることは、原発をなるべく止めずに使う方式を導入することになる。

最初に行われるのは、定期検査期間の短縮と定期検査間の延長だ。まず、定期検査項目を絞り込み、現在90日程度で行っている検査を30日未満で終わらせる。さらに定期検査の間隔も、現在13カ月程度のところ、最長24カ月まで延ばす計画がある。これらは経産省が進める原発の稼働率向上対策としてすでに検討されていることだ。[*1]

[*1]定期検査の間隔については法令上、3つの区分(13カ月以内、18カ月以内、24カ月以内)が規定されている。現在は全部13ヵ月以内と区分されているが、これを変更して24カ月運転を目指そうとしている。

その次には、出力調整も視野に入る。現在運転している原発は、フル出力運転をすることが最も経済的とされている。しかしこれは、運転期間が最長60年に限られているからで、これが事実上無制限(上限が定められていない以上、無制限というしかない)となれば、電気出力を電力需要に合わせて変動させても経済性を確保できることになる。

加圧水型軽水炉は、最大50%までの出力調整運転が可能とされており、沸騰水型軽水炉でも75%まで下げられるとされる。

これに加えて所内単独運転[*2]が可能な原発ならば、事実上ゼロ出力から100%まで可変可能だ。

[*2]所内単独運転とは、原発が送電線のトラブルなどで送電線と切り離されたときに、原子炉を停止せずに原発の冷却ポンプなどの構内負荷にだけ電気を供給する状態を指す。発電に使わない蒸気はタービンバイパスを通じて復水器に送られる。所内単独運転は非常時の運転であり、タービン建屋温度上昇など問題が多い。運転制限時間は15分程度とされている。また、原発の所内単独運転では、負荷は通常の定格出力の5~10%である。

そうまでして原発を活用する場合、想定されるのは過酷事故の発生確率の上昇だ。

福島第一原発事故の教訓など、法律の条文の飾り程度にしか考えていない原発漬けの議員と官僚によって、再び過酷事故がどこかで起きる。

西日本の原発で起きれば、日本列島全域が「風下地帯」になるだろう。福島第一原発事故では75%の放射能は海に出て陸域の汚染は25%の放射能によるものだったが、西日本の原発は、偏西風が日本列島を縦断している時に過酷事故が発生したら、100%近くの放射能が日本中に降り注ぐことにもなりかねない。そうなってから悔やんでも遅いことだけは誰もが理解できることだ。

◆原発推進で日本は滅びる

多くの裁判では原発事故に対する国および東電の責任は、明確にされていない。

国が行ってきた原発推進に対しては、最高裁判所も責任を認めようとしなかった。地裁ではいくつもの優れた判決が出されているときに、国の方針に従うだけの最高裁の姿勢と呼応して、裁判で差し止められた原発の再稼働を促進しようとするのが、この国の行政だ。

電気事業法改訂の一つに司法が差し止めなどの決定を行った際に、上級審で取り消された場合は、その決定や判決がなかったものとして、停止していた期間を原発の運転期間の延長に組み込めるとする規定が盛り込まれている。これは司法権に対する介入であり許されない。

電力の安定供給を実現するのに必要なのは、いまある火力設備を更新し、無駄な廃熱を出さないシステムに変換することでエネルギーを有効活用することだ。地域温水供給で熱源としての利用を可能にすれば、火力の出力を3分の2に減らしても、いまより電力などのエネルギー回収効率は高まる。特に大都市はこうしたシステムと蓄電システムとの組み合わせで自然エネルギーの不安定な分を補うこともできる。

また、主に廃熱として捨てられる「未利用エネルギー」(下水道廃熱や工場廃
熱や冷暖房廃熱)を回収すれば、都市廃熱による環境悪化(ヒートアイランドやそれに起因する都市型豪雨災害)を低減できるし、しなければならない。(完)

◎原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点[全4回]
〈1〉福島の反省も教訓も存在しない
〈2〉原発は電力の安定供給に役立たない
〈3〉原子力産業振興法と化した原子力基本法
〈4〉原発推進で日本は滅びる

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像 ―― 原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』(共著/木村朗、高橋博子編/明石書店 2015年)等多数。

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龍一郎揮毫

四国電力伊方原発3号機の運転差し止めを求めて、筆者自身も含む広島県民を中心とした住民が2016年3月11日に広島地裁に提訴した伊方原発広島裁判は大詰めを迎えています。

いま、地元を選挙区とする岸田総理がグリーントランスフォーメーション、脱炭素と自称して、原発推進に舵を切っています。3.11のフクシマ以降、民主党政権後半から安倍政権にかけて曲がりなりにも継承されていた脱原発ないし(自民党のマニフェストにも小さくですが記載されていた)脱原発依存も反故にされました。

また、総理の政策転換も背景に関西電力が高浜原発などの運転を再開。そこで発生した核のゴミを上関に押し付けようともくろみ、上関原発建設のめどが立たずに苦しんでいる中国電力と利害が一致。上関への中間貯蔵施設を計画し、この夏の短期間で町長にのませてしまいました。そうした中で、本裁判は終盤を迎え、2024年6月頃、結審になろうとしています。

本裁判のここまでの大まかな経過をおさらいしますと、以下のようになります。

◆同時進行の運転差し止め仮処分を高裁はいったん認めるも覆る

 

2016年3月11日の提訴と同時進行で原告=住民側が仮処分を申し立てました。これは、本裁判の判決を待っていたら、その間に伊方原発が事故を起こしてしまう危険があるからです。

紆余曲折を経て、2017年12月13日、広島高裁がいったんは仮処分を認めました。しかしながら、四国電力から異議が申し立てられ、2018年9月25日に四国電力の異議を認める形で運転差止が却下されました。そして、我々原告=住民側が新たに申し立てた仮処分申請も2021年11月4日、吉岡裁判長により却下されてしまいました。その後、我々は広島高裁に抗告しましたが、2023年3月24日、脇由紀裁判長により仮処分の申し立てはが却下されてしまいました。

◆これまで41回の口頭弁論

2023年11月1日現在、41回の口頭弁論が行われました。

2023年9月11日の第38回口頭弁論では、元広島大学准教授で地質学者の早坂康隆さんが原告側の証人として証言。四国電力が伊方原発は岩盤の上にあるから大丈夫という趣旨の主張をこれまでしている中で、早坂さんは伊方原発のすぐ北側600mの海底にある中央構造線は危険な活断層であることや伊方原発がある佐田岬半島は、ダメージゾーンにありひび割れだらけであることを暴露しました。

 

東日本の広い地域が、放射性廃棄物と同等の放射能汚染に覆われている(写真の黄色以上に濃い色の点が該当)

2023年10月4日の第39回口頭弁論では原告側証人尋問として、福島第一原発事故による避難者である鴨下美和さんと久保山康代さんが証言しました。鴨下さんは2022年12月14日に意見陳述をする予定でしたが、直前に被告の四国電力からの要求で裁判所が陳述を認めなかったという「事件」がありました。夫婦で放射性物質も扱う仕事をしていた鴨下さん。東日本の広い地域が、放射性廃棄物と同等の放射能汚染に覆われているという趣旨の指摘を行いました。

また、国の避難指示区域外からの自主避難のために賠償金は出ず、大変過酷な避難生活になったこと。先に避難した鴨下さんに対して、夫はいわきに残りましたが国の避難指示が無かったこともあり、『いわきは汚染などしていない、全く問題がない』と信じている周囲の人たちの中で、罵声を浴び、孤立したこと、若い人の突然死に二度も立ち会ったことから憔悴し、二年後に避難したことなどを回想。『願わくは、私たちのような思いをする人が、二度と出ないように。これ以上、原発によって国土が汚染され、人々の暮らしが歪められないように。祈りを込めて、私は、伊方原発の再稼働に反対します。』と結びました。

同10月11日の第40回証人尋問は原告側の野津厚さん(国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所、 港湾空港技術研究所領域長)の証人尋問の続きで、被告四国電力側による反対尋問が行われました。伊方原発が南海トラフ巨大地震の想定震源域のほぼ北西端に位置していることはよく知られていますが、四国電力は、「M9南海トラフ巨大地震が伊方原発敷地直下約41kmの地点を震源または強震動生成域として発生しても最大地震動は181ガルである。」と主張しています。

野津さんは、強震動地震学の専門家として、2011年のM9東北地方太平洋沖地震によって発生した地震波の研究から、南海トラフ巨大地震のようなプレート間地震では、致命的な地震波(キラーパルス)は一辺が数十kmのような大きな断層面(SMGA)から平均的に襲来すると考えるよりも、一辺が数kmのような小さい断層面(SPGA)から襲来すると考えた方が、実際の観測記録とよく一致するとして、キラーパルスの発生源はSPGAと想定しています。そして、野津さんはもっとも強力なSPGAを伊方原発に近いところに配置し、強震動計算を行ったところ、最大地震動は約1900ガル、地震波の最大速度が秒速約138cmという結果を得ました。なお、この計算では、伊方原発敷地は非常に強固な岩盤の上に立地しており、地震波の増幅特性はほとんどないものとして想定していますが、それでも、伊方原発の基準地震動650ガルの約3倍に相当します。

同11月1日(水)、第41回口頭弁論では、原告側の高島武雄さん(熱工学の専門家。元小山高専教授)への水蒸気爆発をテーマとしての証人尋問が行われました。福島原発事故の時、溶融炉心が原子炉建屋内のコンクリート構造に反応して水素が発生し(「MCCI」)、水素爆発が発生しました。

四国電力は水素爆発の防止策として、こともあろうに原子炉容器の底部(キャビティ)に水を張ることにしました。これだと溶けた炉心は水の中に落ち、なるほどコンクリート構造に接触しませんからMCCIは起こらず、水素爆発のリスクは大幅に軽減されます。しかし1000度以上に溶けた炉心が水に触れたとたん大規模な水蒸気爆発は起こらないのかという重大な疑問が起こります。常識的には水蒸気爆発の危険があると考えるのが普通です。しかし四電は「起こらない」と断言します。原子力規制委員会でこの問題の審査が行われた際、委員長の更田豊志さん(=当時)が「水蒸気爆発は起こらないと決意しなければ、なかなか水は張れませんね」と意味不明のコメントをしておられます。

「水張り」で大規模水蒸気爆発は起こらない、とする四電の主張の根拠は、過去に行われた国際的な研究や解析(経済開発協力機構=OECD のトロイ装置やクロトス装置を使った研究、欧州委員会のファロ研究、韓国原子力公社のコテルス研究など)から導いた結論です。ところが、肝心要のOECD の「セレナ研究」の結果を全く無視しているのが大きな特徴です。そのセレナ研究では「実際の原子炉内で大規模な水蒸気爆発が起こらないという確実な証拠がない以上、水蒸気爆発は起こると考えておくべき」という趣旨の結論を導いているのです。

◆今後の予定

今後は、以下のような予定です。

11月29日(水)10時半~、被告・四国電力側証人の金折裕司さん(山口大学 理工学研究科 教授)に対する『活断層』をテーマとした証人尋問が行われます。

12月18日(月)13時半~原告側証人の原告 伊藤正雄さん(原告団副団長)/証人 渡辺美和さんに対する証人尋問が行われます。

2024年1月22日(金) 13時半~ 原告側証人の原告 森本道人さん/原告 福島敦子さんに対する証人尋問が行われます。福島さんは2022年1月19日の第26回口頭弁論でも意見陳述をされています。南相馬市から京都へ避難した福島さん。この意見陳述では『福島市の避難所では「死ぬときは死ぬのだ」があいさつだった避難所の生活は忘れられなかった』『娘は「フクシマゲンパツ」とあだ名をされたこともあった。その日その日を精一杯「生きる」ことで過ぎていった』などと振り返っておられたことが筆者も昨日のことのように思い出されます。

なお、予定は変更の可能性もあります。
直近に原告団のホームページをチェックしていただければ幸いです。
https://saiban.hiroshima-net.org/

広島選出の岸田総理が全国の皆様にいろいろご迷惑をおかけしていることを深くお詫び申し上げますともに、伊方原発ストップ、また上関中間貯蔵阻止という結果をお届けできるよう、筆者も奮闘して参ります。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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