森友学園・瑞穂の國記念小學院開校準備室との一問一答

何度電話をかけても誰も出ない。が、懲りずに何時間も電話をかけ続けた。『森友学園』、瑞穂の國記念小學院開校準備室(以下、開校準備室)は、お見事というほかない、無茶苦茶な対応であった。

朝日新聞2017年2月23日付け記事
NHK2017年2月23日付け記事
朝日新聞2017年2月24日付け記事
読売新聞2017年2月24日付け記事

◆開校準備室「事務の者」との一問一答

開校準備室 お電話ありがとうございます。、瑞穂の國記念小學院開校準備室です。

―― おじゃま致します。
開校準備室 はい。

―― わたくし田所と申します。
開校準備室 はい、こんにちは。

―― いつもお世話になっております。
(突然保留音が聞こえてくる)

―― もしもし、もしもし!
開校準備室 いつもお世話になっております。

―― 恐れ入ります、2、3教えていただきたいのですが。
開校準備室 はい、わたしは事務の者でお答えしかねるのですけれども。

―― いえいえ、お分かりいただける範囲で結構なんです。
開校準備室 はい。

―― 今開校を目指していらっしゃる、瑞穂の國記念小學院開校準備室がですね。
開校準備室 はい、あのう どなた様でしょうか?

―― ですから私は田所と申し上げております。
開校準備室 はい、あのー、わたくしお電話口に出る者なので、事務にお電話のあったことだけをお伝えさせていただきます。

―― いえいえ、わたしが今から質問しようとしているんですよ。それにあなたはさきほど「私は事務の者」と仰ったじゃないですか。
開校準備室 わたしは答える立場ではないですので。

―― いやいや、そうじゃないでしょ。
開校準備室 申し訳ございません。

―― ではどなたにお伺いしたらよろしいのですか?
開校準備室 担当者は席を外しております。

―― ではいつお戻りですか?
開校準備室 わかりかねます。すみません。

―― いまお電話にお出になってる方はお名前何とおっしゃいますか?
開校準備室 事務の者です。

―― 事務のなんという方ですか?
開校準備室 それは控えさせていただきます。

―― 名前もおっしゃらない。
開校準備室 はい。質問されてもわたしもわからないですので。

―― あなたご自身のお名前はおわかりでしょう。それに私はまだ質問してませんよ。
開校準備室 あ、そうなんですね。わかりました。すみません。(電話を切ろうとする)

―― 待ってください、待ってください!
開校準備室 とんでもないです。

―― とんでもないのはあなたの対応ですよ。
開校準備室 すみません。失礼いたします。

まったく会話にならないばかりか、途中で保留音に切り替えられるは、「事務の者」であったはずの人が「電話口に出る者」に変身し、再び「事務の者」に戻る。焦っているのは分かるけれども、何も答えない以上にこんなドタバタの対応ではさらに、不信感を増されても仕方ないだろう。2月24日にもコメントを得るべく電話を鳴らし続けたが、この日はついに誰も出なかった。

東京新聞2017年2月24日付け記事

◆「やましいことはない」はずの安倍夫人はなぜ、名誉校長を辞任したのか?

しかし、『森友学園』のHP上では前日と顕著な違いがみられた。2月23日まで「名誉校長」として顔写真とコメントが掲載されていた安倍首相夫人、安倍昭恵氏が抹消されている。いったいどうしたことなのか、と思っていたら24日午前の衆議院予算委員会で安倍首相は、「弁護士と相談して、妻は、名誉校長を引き受けていることで、子どもたちやご両親にご迷惑をかけ続けることになるので辞任させていただくと、(学校側に)申し入れた」と語った。

「迷惑がかかるといけない」? 安倍本人は「何もやましいことはない」と繰り返し述べていたし、近畿財務局も答えにならない答えながら、前日私の取材に応じていた。さらにこの小学校建設を巡っては「安倍晋三記念小学校」の名前で寄付集めが行われていた事実も判明している。安倍は「何度も止めてくれと申し入れた」と被害者であることを強調しようとしているが、そんな過去があったにもかかわらず、夫人が名誉校長に就任、さらには急に辞任するのはどうにも不思議ではないか。

朝日新聞2017年2月24日付け記事

◆「当方の事務所は関係ありません」と語る安倍晋三事務所秘書

疑わしいのは現役総理夫人が名誉校長に就任(2015年)してから、どう考えても不正払い下げとしか思えない国有地の取得を森友学園が受けていることだろう。安倍晋三記念小学校名での寄付集めについて、籠池理事長は「無断ではない。申し入れをしたがタイムラグがあった」との見解を以前明らかにしている。安倍晋三記念小学校名での寄付集めが行われていたのは「自民党が野党であった時代だけだ」とも述べている。

このあたりは籠池氏本人が捕まらないので、つぶさに検証することが出来ないのだが、23日安倍事務所の秘書は私の取材に対して「一切関知していません。どういう意図でやられたのかも説明がないのでわかりません。当方の事務所は関係ありません」と述べている。真実はどこにあるのだろうか?

◆籠池理事長の息子、照明氏は本当に「維新の党」所属議員の秘書だったのか?

問題の核心部分ではないが、籠池理事長の息子に籠池照明という人がいる。籠池照明氏は「籠池照明のブログ」に経歴を綴っており、その経歴の中に、「足立康史衆議院議員私設秘書」と書かれている。足立康史議員は「維新の党」所属議員だ。

籠池理事長の息子、照明氏による「籠池照明のブログ」

籠池照明氏の経歴の真偽のほどを確認すべく、足立事務所に電話取材を行った。足立議員の秘書は「面接に来たことはありますが、断りましたので、1日たりとも秘書であったことはありません」という。「彼本人は自分のプロフィールに足立議員の私設秘書と書いていますが」と聞くと「らしいですね。でもうちは全く関知しないところで。何回も『削除してくれ』という要請を地元の方がしたんですけど、書き続けているということです」、「では秘書採用の面接には来たけれども、採用した事実はないと?」「はい、そういうことです。こんなことになるとは思わなかったので何度も抗議はしたのですが……」ということであった。

「森友学園事件」は安倍政権にふさわしい「虚偽」にまみれた事件だ。やましさがなければ安倍夫人が名誉校長を辞めることはあるまい。やましさではなく「危険さ」を感じ取っているのではないのか、首相周辺は。そしてこの問題のキーになるのは安倍首相同様、大阪の「維新の党」だろう。その内紛やゴタゴタから生みだされた形跡が至る所でみられる。引き続き森友学園事件を追ってゆく。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

残部僅少『反差別と暴力の正体――暴力カルト化したカウンター-しばき隊の実態』(紙の爆弾12月号増刊)
タブーなきスキャンダルマガジン『紙の爆弾』

森友学園への国有地譲渡をめぐる近畿財務局との一問一答

日本で一番素晴らしい小学校、瑞穂の國記念少學院への不正土地譲渡の疑いが晴れない。そこで当の学校法人森友学園と近畿財務局へこれから徹底して取材を行う。きょうは土地を売却した近畿財務局へ電話取材を行った。

朝日新聞2017年2月22日付け記事

◆「個別内容はオープンには出来ないんで……」

―― 森友学園の土地売買につてお伺いしたいのですが……
近畿財務局 はい、担当者にかわります

―― 土地にゴミのようなものが埋まっていたので安く払い下げたという事ですが、それはその理解で間違いないでしょうか?
近畿財務局 報道の内容と似たりよったりはなるんですけども。もともとここの土地を小学校用地としてですね、『森友学園』さんにお貸ししてたんですね。

―― それはいつからですか?
近畿財務局 2015年からですね。借地というのですが『貸し付けの契約』ですね。

―― 借地居ている間には財務局さんは借地代のようなものを取られたということですね。それはおいくらぐらいですか?
近畿財務局 そこの個別内容はオープンには出来ないんで……。

朝日新聞2017年2月22日付け記事

―― だってここは国有地ですよね。2015年の5月から貸されていて、2016年の1年間貸していたんですね。なぜ賃貸料を公表出来ないのですか?
近畿財務局 借地契約の中で、小学校契約の中で、借地する前から、土地に瑕疵がないかは調査するようになっているんですね。最初、国が調査した時に埋設物が出きて、それを向こうに伝えた中で借地が始まったんですけれども、校舎建設しているときにうちが建設している時にうちが調べた時よりも、まだ地下の方から凄いゴミが出てきたんですね。

―― うちというのは近畿財務局さんですか?
近畿財務局 国が調べたのは地表から3メートルだったんですけど。校舎建設をするうえで、当然それが支障になったので、ことしの4月に開校予定という事情もありまして、早急にそこは買い取ってですね。

朝日新聞2017年2月23日付け記事

―― ちなみになにが埋まっていたのですか?
近畿財務局 廃材であるとか、生活ごみであるとか色んなものがうまっていたのですが……。

―― 毒物ではなかったのですね?
近畿財務局 土壌汚染の関係ではないと思います。

―― いろいろ埋まっていたので取り除かなければいけないと……。
近畿財務局 費用を国の方で持ったのですが、それを差し引いて、売買した形となっています。

―― ゴミがなかった時の価格はいくらでしたか?
近畿財務局 9億5,000万円ですね。ゴミを撤去するのに8億円ぐらいかかると見積もって、撤去費用を差し引いて売買したということになります。

―― 結局おいくらで売却されたのですか?
近畿財務局 1億3,300万円ですね。

毎日新聞2017年2月23日付け記事

―― ゴミを除去するのに8億円もかかるものなのですか?
近畿財務局 そこは、あのー学校建設に、ごみを撤去するうえで、土砂の搬出であるとか……。

―― このように国有地の安い売却は豊中あたりでもほかにありますか?
近畿財務局 国が土地や建物を売買する時は、不動産鑑定評価に対してく国が調べている土壌汚染とかを考慮に入れて売買するということになってきます。

―― では、豊中あたりでは珍しくないということですね?
近畿財務局 そうですね。地域によりますが……。

―― たとえば評価額から埋設物があったから価格が軽減されたという例は?
近畿財務局 案件によりますね。

森友学園HPより

◆「わたくしの知っている限りでは初めてです」

―― 今回のように顕著に値引きをして売却をなさった例というのは、具体的にはご存知ですか?
近畿財務局 手元に資料がないので詳しくは申し上げられませんね。

―― あなた『こういうことはよくある』とおっしゃっていたじゃないですか?
近畿財務局 よくあるというか、これだけに限ったことではないということですね。

―― 端的にお伺いしますが、評価額の10分の1で払い下げるという事はそこそこあることですか?
近畿財務局 10分の1ということですかね。10分の1という数字に限ればそんなあることじゃないですよ。

―― そんなにはない? 今電話でご担当いただいている方は過去にご覧になったことはありますか?
近畿財務局 わたくしの知っている限りでは初めてです。


◎[参考動画]自由法曹団による「瑞穂の國記念小學院」現地視察(2017年2月15日)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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安倍首相の政治生命を揺るがす「森友学園」国有地払下げ事件

財務省近畿財務局が学校法人に払い下げた大阪府豊中市内の国有地をめぐり、財務局が売却額などを非公表にしていることが分かった。朝日新聞が調査したところ、売却額は同じ規模の近隣国有地の10分の1だった。国有地の売却は透明性の観点から「原則公表」とされており、地元市議は2月8日、非公表とした財務局の決定の取り消しを求めて大阪地裁に提訴した。

 
朝日新聞2017年2月9日付け
 
朝日新聞2017年2月9日付け

◆神道の崇高な理念とはかけ離れた疑惑

朝日新聞、久々のビッグスクープだ。公示価格が14億2300万円の国有地が、1億3400万円で「森友学園」に売却されていたことが判明した。「森友学園」のHPからは改憲右翼の巣窟「日本会議」の大阪役員である籠池泰典総裁と、安倍首相の夫人であり三宅洋平氏のお友達(?)である安倍昭恵氏の名前が確認できる。

安倍夫人は現在、塚本幼稚園を運営しているだけの「森友学園」が4月からの開校を予定している「瑞穂の國記念小學院」の名誉校長として「森友学園」のHPに登場している。14億円余りの国有地が10分の1以下、1億円余りで払い下げられ、そこに校舎が建設された「瑞穂の國記念小學院」。同小学校は日本で初めて(同校HPによる)の神道小学校として開校する寸前だ。しかし朝日新聞のスクープにより、同小学校が掲げる神道の崇高(?)な理念からかけはなれた疑惑が明らかになった。

 
「森友学園」ホームページより
 
「森友学園」ホームページより

◆籠池先生を絶賛する安倍昭恵氏

「フフフ、御代官様もワルですなぁ」
「なにを申すか『森友屋』、おぬしの業突く張りにはかなわんわい」
「ハハハ」

と、勧善懲悪の時代劇、前半の悪代官と商人の密議の場面を見せられているような気分だが、関係者の発言がまたふるっている。安倍昭恵氏は「森友学園」ホームページの中で、

「籠池先生の教育に対する熱き想いに感銘を受け、このたび名誉校長に就任させていただきました。 瑞穂の國記念小學院は、優れた道徳教育を基として、日本人としての誇りを持つ、芯の通った子どもを育てます。そこで備わった『やる気』や『達成感』、『プライド』や『勇気』が、子ども達の未来で大きく花開き、其々が日本のリーダーとして国際社会で活躍してくれることを期待しております」

同校総裁・校長の籠池泰典先生を絶賛している

「日本人としての誇りを持つ、芯の通った子供を育て」るそうだ。この小学校の理念、私には気持ち悪い。しかしながらあくまで「私立」学校だ。文科省に認可されれば教育の内容は「学習指導要綱」の範囲内であれば自由だ。ただし、仮に彼らの主張(神道)に立脚すれば「日本の素晴らしさ」を小学生に教育する場所が「瑞穂の國記念小學院」であるはずだ。その「神聖なる場所」が不正払い下げによって薄汚く入手されたことは、「森友学園」の欺瞞性を物語るのみならず、犯罪を構成する疑いが高い。必ず検察が動くだろう。そんな場所で「崇高な教育」ができるのか。

◆籠池先生の明白な「差別表現」

そして、彼らが「崇高」と奉る「神道」とは、神話に立脚した「日本人優越意識」に凝縮される偏狭な人種優越主義にほかならない。籠池先生は、正直だからHPで「韓国・中国人等の元不良保護者」と記載して袋叩きにあったり、塚本幼稚園の保護者には「よこしまな考えを持った在日韓国人や支那人」との表現を用いた文章を配布していた。

これには「よこしま」であることにかけては人後に落ちない松井大阪府知事も「表現の自由があるにしても、下品な表現は使わない方がいい」とコメントしている。違うな。「下品」じゃなくて「差別表現」じゃないのか。松井知事自身、大阪府警の機動隊員が沖縄で「この土人が!」と発言したことを「差別とは思わない」人間だから「よこしま」に「よこしま」を諭させようとしても無理なのである。

◆嘘だらけの安倍「自己陶酔」政権

しかし、一番驚いたのは安倍晋三の発言だ。2月17日の衆院予算委員会で、国有地を格安で買い取った学校法人「森友学園」が設立する私立小学校の認可や国有地払い下げに関し、「私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」と述べたのだ。この軽口叩き、与野党国会議員の中に正常な反応があれば、本国会終了時には首相も国会議員も辞めて「ただの人になる」と明言したのだ。

選挙違反で議員に疑義が及びそうになると「秘書がやった」、官庁で不正が起きれば大臣は「事務方の不正で報告がなかった」、甘利元経産大臣のように言い訳ができなくなれば、大臣辞任から入院へ。それでここしばらく「巨悪」は罪に見合った法的裁きや制裁を受けることなく、「どおってことないよ」と押し通してきた。

安倍は「南スーダンで自衛隊の死者や負傷者が出たら辞任する」とも述べている。その一方で派遣された自衛隊の「日報」が破棄されるか行方不明になる、という不可思議極まりない「不正」が行われている。

嘘だらけなのだ。どの口から「私たちは日本の歴史、それを裏打ちする自然・風土・慣習の素晴らしさを世界の人々に発信してゆく必要があります」だの「世界で歴史・伝統・文化の一番長い國である日本」、はては「その中で積み上げてきた日本人のDNAの中に『人のために役立つ』という精神が刻み込まれていますし、世界で一番混じりっけのない純粋な民族であります」などと平然と吐けるのだ「森友学園」総裁の籠池泰典よ!

日本会議をはじめとする「神道」信奉者(あるいは便宜的にそう装っている者ども)の本音は、戦前と何ら変わらぬ「日本は世界一」、「大和民族は世界一」の倒錯した差別と表裏一体となった低レベルの自己陶酔主義にすぎない。

だから、不正であろうが、嘘であろうがお構いなし。払下げに応じた役所の責任者は「ゴミが埋まっていたからその除去費用も考慮して価格を算定した」などと馬鹿以下の答弁しかできないのだ。

◆この国がもしも「普通の国」ならば「序・破・急」展開は必至

安倍明恵が「関与」しているかいないか。議論の余地などない。籠池先生にほれ込んで「名誉校長」を引き受けているのだから道義的に責任があるのは「普通の国」であれば当たり前だ。いいか、晋三の好きな「普通の国」ならばだ。一々議論するまでもない。世界各国で嘘八百を年から年中言いまくっている安倍晋三、今回の発言はそれにしても軽すぎたぞ。これで野党が安倍の首を取れなければ、全員「瑞穂の國記念小學院」入学からやり直せ!

時代劇ならこのあたりでお裁きが下る。背中の桜吹雪か、深夜の隠密道中か。21世紀進歩しているはずの人間に、時代劇でもお決まりの「序・破・急」を展開できないはずはなかろう。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

タブーなきスキャンダルマガジン『紙の爆弾』
残部僅少『反差別と暴力の正体――暴力カルト化したカウンター-しばき隊の実態』(紙の爆弾12月号増刊)

京都精華大生殺害事件から10年──花と共に供えられた1冊の本に込められた想い

2007年1月15日、京都市左京区岩倉幡枝町の歩道上で京都精華大1年生の千葉大作さん(当時20)が通りすがりの男に殺害された事件は容疑者が検挙されないまま、この15日で発生から10年を迎える。このほど事件現場を訪ねたところ、改めてミステリアスな事件だと思えたが、何より印象的だったのは現場に花と共に供えられた1冊の本だった――。

犯人に関する情報は多いのに未解決

事件が起きたのは2007年1月15日の午後7時45分頃だった。千葉さんは自転車で帰宅中、通りすがりの男とトラブルになり、胸部や腹部を刃物で10カ所以上刺された。そして通行人に「救急車を呼んでください」と助けを求めたが、搬送先の病院で亡くなったのだった。

千葉さんは当時、全国で京都精華大にしかないマンガ学部の1年生。マンガ家になる夢を叶えるため、故郷の仙台を離れて進学していたのだが、その夢は生命と共に凶刃に奪われてしまった。

目撃情報によると、事件直前、千葉さんは現場で犯人の男とトラブルになり、「あほ」「ぼけ」と怒鳴られていたとされる。男は20~30歳で、身長は170~180センチ。髪はボサボサだがセンター分けで、上下黒っぽい服装をしており、黒っぽいママチャリ風の自転車に乗っていた。目の焦点があっていなかったという。これだけ多くの犯人に関する情報がありながら、事件は10年経った今も未解決というのは不思議である。

現場を訪ねたところ、本当にのどかな田舎町で、よそ者がふらりとママチャリで訪れる場所とは思い難かった。犯人はどうやって逃げおおせたのか。そもそも、一体どこからやってきたのか。実際に現場を訪ねてみて、わかったのは事件が謎めいているということだけだった。

現場には今も献花が絶えない

◆事件は風化していない

そんな現場には、命日でもないのに複数の花や飲み物が供えられており、生前の千葉さんが友人にめぐまれた青年だったことが窺えた。そんな中、目を引かれたのが花と共に供えられた1冊の本だった。透明なプラスチックケースに入れられているのは、雨などをしのぐためだろう。この本のタイトルは――。

「君にさよならを言わない」

私は恥ずかしながら知らなかったが、ライトノベルの人気作品だった。おそらくは千葉さんの友人が、この本はタイトルが千葉さんに贈る言葉としてふさわしいと思い、供え物にしたのだろう。さらに調べてみると、この本の著者である七月隆文さんは京都精華大のOBらしく、学校全体で千葉さんの死を悼んでいるような雰囲気が伝わってきた。

年月が経つうちに証拠は散逸していくものだと言われるが、事件はまだ風化していない。それはつまり、犯人は決して逃げ切れたわけではないということだ。

花と共に供えられた本は「君にさよならを言わない」

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)
タブーなきスキャンダルマガジン『紙の爆弾』

京大バリストと「無期限停学」処分を考える《4》

 

Kさんの緻密な分析に、私はほぼ全面的に賛同する。唯一大学入学者の経済的背景は、かつての「日本育英会」が「日本学生支援機構」という名の学生ローン(サラ金並のえげつなさ)会社になったことから、第二種であれば誰でも「貸与」という名の借金を受けることが可能となり、国立大学だけでなく、学費がさらに高い私立大学へも保護者の年収が200万円代の学生も通うことが珍しくなくなった。

非正規雇用の爆発的増大や、家族構成の変化といった社会的要因と、大学側の変化(学費高騰)が歪な形で結びついてしまい、結果として卒業後間もなく「借金の返済」に追いまくられる若者は急増している。気が付いたら400万~500万の借金を背負って大学を卒業していた、という悲劇は、30歳を待たずに自己破産をするという結末を既に産んでいる。

このように学生が大学で「普通に」学べない、「学ばさない」状態に陥れた理由の根源はKさんがご指摘の通り、「教育社会秩序の帝国主義的再編」が進んだことに他ならない。その咎人は枚挙にいとまがないが、とりわけ「小人閑居して不善をなす」を職務規定としているかの如き「文科省」の罪は重い。この連中が大学に押し付けて来る法律、通達、指導は根源に国家による高等教育機関の完全掌握という目的があることは明白ながら、他省庁と比較して「旨み」の少ない「文科省」(旧文部省)官僚の歴史的悪癖と言える。

従前、一応健全な私立大学経営者や国立大学の教員は、文科省のその様な性質を熟知しており、それなりの葛藤や、場合によっては一触即発という事件すら時には起きていた。しかし「一般教育の大綱化」に端を発する、一見大学に「カリキュラム編成上の自由を与える」ように見せかけて、他方では「自己評価自己点検」という全くの愚策を強要し始めた頃から、文科省の「不善」振りは際限が無くなった。国立大学を「法人化」=半民営化し、独自の資金調達を強いたことが、今日の年額54万円という学費の高騰に繋がっている。大学は、とうに「自主」や「自治」の精神など忘却の彼方といった有様であるから、文科省への抵抗など今日は皆無と言って過言ではないだろう。

それだけではない。昨年は東大が事実上の「軍事研究解禁」を宣言し、日本学術会議も「軍事研究」取り扱いの見直し(おそらく詭弁を弄して、「結果解禁」の結論を出すだろう)に着手。既に防衛省は各大学に研究資金をばら撒き始めた。

「科学技術の進歩は不可逆だが、人類の歴史は可逆である」と述べた先人が居た。
現在私たちは、まさに「逆行する歴史」を目の当たりにし、そのただ中に置かれている。その事を顕著に示すのが大学の現状だ。京大の持つ「自由」な学風を一瞬で吹き飛ばす猛烈な台風、中心気圧800ヘクトパスカル、最大風速90m級の化け物台風が接近している。気象庁の発表する天気図には表れないが、文科省が連発する「不善」の集合体がファシストたちの立ち上げる気炎と相まって勢いを増す悪質のエルニーニョとなり、文科省外部秘の「教育行政天気図」は、はっきりと巨大台風接近を示している。

 

巨大台風の接近は京大においては、熊野寮、吉田寮と西部講堂を吹き飛ばし、サークルボックスも跡形もなく消滅する。囲碁や歌舞伎、吹奏楽といった非政治的なサークル以外は台風通過後も再生することはない。勿論IPS研究所は巨大台風にびくともしなかっただけでなく、熊野寮跡地に「遺伝子・万能細胞研究所」を新たに増設することになる。この施設の資金提供には世界中の名のある企業が手を上げたが、結局内閣調査室と防衛省の直系という極めて例外的な研究所が誕生する。

その図は私の錯視だろうか。「バリスト」の肉感と響きが反響に次ぐ反響をもたらす日は可能だろうか。(了)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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 「世に倦む日日」田中宏和『SEALDsの真実――SEALDsとしばき隊の分析と解剖』

京大バリストと「無期限停学」処分を考える《3》 Kさんの書簡より

 

(前回に引き続きKさんの書簡より)

ここで問題となった。バリストの実態をみてみよう。
まずこのバリストだが、同学会のほぼ実態である京大の中核派が全国の拠点から活動家を集めて京大吉田南、かつての第三高等学校の跡地に或る教育用の一棟を入り口を立て看板やテーブル椅子などでバリケードをつくり入場できないようにしたものです。時間的にはせいぜい2コマ程度なのでしょうか。別段器物損傷、暴力行為、暴言などがあったわけではありません。大学の告発内容も授業妨害、業務妨害となっています。

経験的にはこの程度のことで刑事責任を問うのか京大よ!と言う感じです。70年当時の状況をこの基準でいけば毎年何百人という退学処分を出すことになりますね。バリストの理由は反戦ですが、其の本当の原因は、当局がこの数年間、同学会を含めて学生との対話を一方的に形骸化させてついには廃止し始めた事にあります。勿論このことは学生自治を最終的に葬り去ろうとする文部科学省の指示による事は間違いないでしょう。

2012年に中核派とノンセクトが休眠状態だった同学会を手続に則り再建したにもかかわらず当局は、既に実態が消滅した同学会が存在すると強弁して同学会を学生の団体と認めず同学会との話し合いを拒否してきました。またその数年後に社会思想系のサークルの非公認化を画策してきた。この策動は学生たちの力で阻止されました。

詳細:https://sites.google.com/site/protectclubact/home/zong-ren-jia-cheng-ren-qu-xiao-wen-tino-ji-lu

そもそも学生運動は戦後に占領軍により復活されて、憲法23条でその意義自体は認められが、その後の展開で学生自治は個別の法的根拠を得られなかった。このため学生は何事も実力と交渉で勝取るスタイルが歴史的にとられてきた。勢力が盛んなうちは良いが、一度衰退に向かえば時間的に余裕の或る当局が学生を追い詰めていくことになる。1980年代以降同学会の形骸化、背景にある社会主義勢力の国内外での凋落がこの動きの拍車をかけました。今回はまずは社会的に評判の悪いセクト,次は赤いサークル,最後は自主管理寮と手をつけてくるのが政府の作戦なのだろう。

◇教育学園闘争の社会的意味

少し変な表現だが、学生時代に言っていた「教育社会秩序の帝国主義的再編阻止!」がいかに重大な主張であったかを、最近実感するようになりました。大学をいくつか散策してもまるで砂漠の中を歩いているようです。タテ看もビラもなく、ガードマンが黙々と交通整理をしているだけです。学生さんたちも授業に縛られて生気に乏しいようにみえます。69年から70年のキャンパスが祭りだったと言う人もいます。全共闘運動が崩壊して支配層がまず手をつけたのは、学園からの批判的勢力の一掃でした。72年の学費値上げから大管法で、少しは残っていた学生運動は全国的に 窒息させられた。京大の学生運動も77年の学内派の懐柔と竹本処分断行により衰え始めた。

これらの文部省支配の攻勢はやがて教授会自治そのものにおよび、学園内でのリベラル派は次第に追い詰められて今日に至っています(2004年には国立大学法が施行され、2014年8月には学校教育法および大学法人法の改定に関する通知が出ました。通知は完全に教授会が無力化されて、学長に権限が一極集中していて、実質は官僚が全権を掌握する内容だった)。

さらに重大なことはこの変化自体が社会に重大な変化を起こしてきて今日に至ったということだ。当時私は基本的には社会改革への手段としてこのスローガンを理念的にしかとらえていなかった。繰り返しになるが学費は我々の頃、国立大学は月に千円だったのだからその後最終的には物価と比較して10倍になるとんでもない値上げが行われた。結果として大学では国立も私立も 豊かな家庭の子弟が多くなり、学園の多様性は減少していくことになった。学生も大きく変わっただけでなく、社会全体での流動性も失われていくことになった。このことの意味は大きくほとんどすべての社会的政治的事項に関係すると言っても誇張ではないでしょう。権力に批判的などの勢力も次第に抑えられてしまった。大学はボデーブローで追い詰められた。この動きは今も継続している。いずれにせよこの後どのようなものであれ社会改革には若く、創造的な人材が十分に必要だ。学園の自治と自由が復活することが必須の課題だ。学生の多様性が失われてきていることは 長い目で見れば、国民の力が大きく損なわれていくことになる。このままではその傾向がますます著しくなる。大事業をなすには多彩な人材が必要だ。「京大」をつぶしてはならない。

 

本件(バリストによる「無期停学処分」)は別段京大または学校関係者だけの問題ではありません。
とりあえず ともし火を守りましょう。どこででも良いですから 創意工夫を凝らし 処分反対の声をあげよう。
定形、不定形を問わず 決議や討論を全学、全国民に公開しましょう。
また教育的配慮として非公式に運動からの離脱と、学費の処分中の継続的支払いを条件に、処分の解除を検討する可能性を示唆した。これに対して同学会は反対声明をだし、反撃を宣言した。(以上Kさんからの書簡より)

(つづく)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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京大バリストと「無期限停学」処分を考える《2》 熊野寮という特別空間

400名を超える学生が暮らす自治寮「熊野寮」には「自由」の空気が流れている。これだけの大所帯なので運営も一筋縄ではいかないだろう。社会や政治に強い興味のある学生も、そうでない学生も暮らす空間は、学生「自治」の最後の砦かも知れない。議論の中で私は「法政大学が監獄大学になるのに10年も要さなかった。京大は確実に権力からタ―ゲットにされていると思う。このまま行けば5年後この場所はないかも知れません」と懸念を述べた。この意見にはKさんも同意され、戦後経験したことの無い、弾圧と反動が今起こっていることについての認識で一致した。

 

議論は終息をみそうになかったが、頃合いを見て気を利かせた卒業生が缶ビールを差し入れしてくれた。熊野寮食堂に冷房はない。当日も扇風機が回っていたが滲み出る汗を抑えるまでの効果はなかったのでビールには助かった。懇談会はあらたまった「閉会」を宣言することなく「もう帰らんと家に着かれへんから」、「明日試験なので勉強して来ます」といって一人抜け二人抜け、また知り合いの顔を見つけた学生が、他の席に移動して行ったりで流れ解散となった。

この日驚いたのはKさんが実に多くの学生を良く知っており、またKさんも学生から認知されていることだった。ビールを数本開けた頃Kさんは「どうですか、この雰囲気は」と私に尋ねた。「いいですね。昔を思い出して懐かしいです」と私が答えると、Kさんは「ここにいた時代は、私の人生にとって何物にも代えがたいんですよ。ここで出会った友人たちが結局人生の中で最も重要な友人となりました」と隠し立てせず思いを語って下さった。

私はよくその気持ちが理解できるような気がした。ここで誤解を招かないように、Kさんの人となりについて若干触れておく必要があるだろう。Kさんは大学卒業後いくつかの企業で先端技術の関連業務に従事していた(現役時代は世界中を飛び回り先端技術者として世界にその名を知られていた)。定年後も独自でコンサルタント業をいとなんでいる。クライアントには海外の企業も多いそうだ。つまり彼は一般的な意味で「社会的に成功した」人物であり、仕事も趣味もない単なる「懐古主義者」とは全く異なる人物であることを強調しておく必要があろう(現役時代の収入は相当なものだったと想像される)。

そのKさんから思いを綴った下記の文章を頂いた。

京大正門には同学会やサークルの立て看板に混じって、ノンセクトの学生が出したと思われる立て看板が有った。「封鎖はオカシイ、でも停学処分はもっとオカシイ、学生に窓口がないなら実力行動は1つの手段だ」とありました。

1970年全共闘運動の終焉の年に京大に入った私にとっては、とうとう来るべきものが来たかであった。文部官僚がじわじわと大学を追い詰め、とうとう本丸に手を出してきました。広範な市民的活動が求められていると思います。

この事件に関しては既に京大当局は同学会を告訴して 関与した中核派が6名逮捕されたが、検察は3月に不起訴にしています。

詩人であり事業家でもあった故堤清二さんは戦後すぐの学生時代に共産党員になり分裂を経験したり、ご尊父との確執があったりして非常に懐の深い人でした。彼が社会思想関連の対談中で「やはり関西では 京大の存在が大きい」なる旨の発言をしています。

戦前京大は河上肇をなどのファシズムに抵抗した多くの知識人、社会主義者を輩出した。大学の自治を守ろうとした滝川事件は有名です。戦後では天皇事件をはじめ、以降綿々と継続しているリベラルの伝統は周知のことです。反原発の原子力研究者が無傷でいられたのも京大らしいといえます。その京大でおおきな反動が起こってきている、全容に迫ろう。

40年以上も前だが京大教養部で学生運動の片隅にいた。当時は三派全学連や全共闘の「実力闘争」は衰えてはいたが、京大では学生運動はそれなりに存在感を示していて、構内はそれぞれの革命を主張する人達でが入り乱れていた。日本共産党と新左翼系は鋭く対立していたが、まもなくその中で中核─革マル─青解の三つ巴の内ゲバが始まった。彼らとは少しはなれて、京大ではブント系が教養部と各学部でゆるくまとまり反帝国主義の旗の元、同学会を日共から奪還したりしてきた。全共闘の崩壊、連合赤軍の破綻、米中友好、などを経て、運動方針をめぐる本質的な亀裂が進行して深刻な事態になってきた。

そんな中で理不尽な暴力を受けたことはあったが、幸運なことに自身が相手の物理的な打撃を目的としたテロに手を染めることはなかった。自分史を語るのが本稿の目的ではないのだが、近年の学生運動を述べるための今の学生と環境を少し比較しよう。

◇経済生活
学費 1970年=12,000円/年 → 2005年=535,800円/年  35年で44.7倍。
この間に、給与5.0倍、白米12.6倍 学費に関してとんでもない値上げが継続してきたことは間違いない。給与との実感では学費は約10倍になっているはずだ。

当時家から定期的な送金がなかった私は自主管理寮にはいり生活費を抑えながらアルバイトを繰り返して何とか食べていた。さすがに学生運動家には無理だろうが、アルバイトだけで郷里へ送金していた人も寮には居たそうだ。文系であれば可能だっただろう。70年代初頭くらいまではこのように社会的な流動性が担保されていたと言えるのではないか。家の経済状況が相当悪い人でも国立大学にそれなりに入っていたことが解る。

現在の学費、入学金、下宿代などを考えると国立大でも入学時に約百万円かかることになる。京大以外ではほとんどの自主管理寮がなくなっているのだから、今大学進学志望者と、その家族は経済的に追い詰められていると思う。まるで新しい封建制が確立しているようだ。

 

◇学生生活
半世紀前との決定的な違いは その余裕のなさだ。当時は文系の学生などは、学生運動やサークル運動に参加しなければそれこそ 「デッカンショ」の世界で、一日中好きな勉強や読書にいそしむことができた。いまやどの講義も出席が単位習得と連動して厳しく管理されている。また英語教育を強化するとして、自習型のコンピューターシステムが導入されて課外での負担も増えているようだ。総じて今京大生はむやみに拘束されて疲れはてて不活発になっている。 (つづく)

▼田所敏夫(たどころ としお)
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京大バリストと「無期限停学」処分を考える《1》

 

昨年10月27日、京都大学でバリスト(バリケードストライキ)が京都大学同学会(大学自治会に相当するが、京大当局は現同学会を公認していない)によって行われた。バリストは1つの学舎を午前中だけ封鎖し、その後当局職員や、バリストに反対する学生たちにより解除された。京大当局は威力業務妨害で京大生を含む6名に対しての被害届を警察に出し、6名は逮捕拘留された(6名とも不起訴)。京都大学が警察権力を利用するのは1958年以来だという。

「自由」の学風が全国に知れ渡っている京大だが、「ついに21世紀型安倍ファシズムとの並走を隠すことなく露骨に表出し始めた」と関係者は深い懸念を示している。そんな中、京大当局は、4学生の無期停学処分を発表した。

過日京大の熊野寮でOBを含めてこの問題についての私的な議論の場が持たれ、私も参加を認められたので取材に赴いた。

熊野寮で行われた懇談会には熊野寮出身で既に還暦を超えた卒業生Kさんをはじめ、1952年生まれの京大OBで俸給生活をへて自由人となり、再び京大に入学した外見上は「学生」のイメージとはやや異なる現役学生のLさん他、今回「無期停学」の処分を受けた学生や数名の現役学生が集まった。また卒業後間もない若者たちも参加した。

Kさんが司会役となり進んだ議論の中で京大に再入学したLさんは「京大当局1958年以来の半世紀ぶりの学生運動に対する処分を決行した。私は大学の自治と学問の自由への重大な侵害である今回の処分に反対します。7月14日京都大学は総長名で昨秋同学会が行った反戦バリストの処分を発表した。参加した同学会役員4名の無期停学処分であり、学内への立ち入りを禁止する厳しい内容だ」と京大当局の姿勢を厳しく批判した。70年代の京大を知っているLさんにすれば目前の弾圧には、言い知れぬ隔世の感を超える危機感を抱いていることが伝わった。

Kさんは司会に徹するだけでなく、「無期限停学」の被処分者となった同学会の学生とも活発に討論していた。Kさんはバリストに反対の立場ではなかったようだが、その戦術や総括についてはKさんなりの思いも強かったようで、被処分学生との間では闊達な議論が行われた。

 

一方バリストに対する学生の評価は、必ずしも高い物ではない、という側面も明らかになった。熊野寮で暮らす学生は、「ストをすることは同学会から聞いていたが あのようなものとは思わなかった。正直おかしいと思う」と語った。「あのような」とは外人部隊(他大学からのスト参加者)が多く、中核派が影響力を持っている大学の旗が並んだことと、事前に通知なしで封鎖と授業妨害が行われたことを言う。中核派の活動のように見えたことだろう。(同学会はストライキで安倍―山極体制と戦うとは通知していた)。これに対して「無期停学」被処分者の回答は、事前にストの全容を公開すると弾圧されるので 其の時期、詳細内容は発表できなかったと釈明したが違和感を述べた学生に納得されてはいないようだった。また「反戦のためにバリストをする意味が解らない」との疑問もあった。

この問かけに対してKさんは「同学会は学生の疑問に向き合う必要がある。反戦と現在学生がおかれている状況の関連を丁寧で精緻な論理で説明して、その意味を理解してもらわなければならないのだろう」と同学会の今後を見据えたアドバイスを表明し、それについて「無期停学」被処分者は納得していた様子だった。(つづく)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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関西大学最終講義は「受刑者のアイドル」Paix2ミニライブ&トークのサプライズ!

関西大学「人間の尊厳のために」最終回特別授業は
「受刑者のアイドル」Paix2(ぺぺ)のサプライズミニライブ&トークで締めくくりました!

7月15日、関西大学チャレンジ科目に開設された「人間の尊厳のために」の最終講義が行われました。昨年開講され2年間限定の本講義には浅野健一(ジャーナリスト)さん、小出裕章(元京都大学原子炉実験所)さんの両氏、そして私松岡の3人が講師として登壇し、各々専門の立場から学生に問題を訴えかけてきました。

特別授業が始まった

最終講義は、これまで講義が行われていた教室ではなく、階段状のマルチメディアAV大教室に変更されることだけが履修している学生たちには知らされていました。階段状の教室が用意されたのには理由がありました。私が講義で採り上げたPaix2に頼み込んで、特別にミニライブ&トークを行ってもらう“隠し玉”が用意されていたからです。まさに本講義のテーマの「人間の尊厳のために」を体現してきたPaix2の生の歌声と語りを聴いて欲しかったからに他なりません。サプライズのミニライブ&トーク──私も憎いことを考えるでしょう(笑)。

学生たちは何も知らずに教室に集まると担当のS先生から経緯の説明があり、その後私がPaix2を紹介し、引き続きPaix2のミニライブが始まりました。

講義終了後、手伝ってくれた学生らと

学生たちは驚き、あっけに取られていました。しかし日ごろ刑務所でのライブをこなしているPaix2の2人にとって、学生の心を掴むのはたやすいことだったでしょう。最初おとなしく、むしろ圧倒されていた学生の反応も自然に豊かになっていきました。途中、受刑者の娘さんからの手紙を読むところでは涙ぐむ学生も少なからずいました。そして約1時間のPaix2のミニライブ&トークはいったん終了しました。

しかし、なぜか曲目の中に代表曲『元気だせよ』が入っていなかったので、私が「『元気だせよ』はないの?」と言うと、Paix2はここぞとばかり『元気だせよ』を歌い出し、教室は一気に盛り上がりました。

講義終了後に提出されたアンケートでは、Paix2を絶賛する声が圧倒的でした。“生Paix2”の歌声と話を聴くと、これで感動しないほうがおかしいでしょう。Paix2の15年の活動こそ、まさに「人間の尊厳」を体現するものだといえるでしょう。Paix2が全国の刑務所や少年院などを回る「プリズン・コンサート」は現在393回、あと7回で未踏の400回。本年じゅうに達成の予定ということです。

フィギュアスケート世界チャンピオンの宮原知子(みやはら・さとこ)さんも受講してくれました

報道・原発・出版それぞれの視点から観た今日の社会の問題点を衝く「人間の尊厳のために」は華やかに、一応の幕を閉じることになりました。この2年間、本講義をコーディネートされた関西大学文学部のS先生は、
「この科目は何よりも浅野健一さん、小出裕章さん、松岡利康さんという3人の講師の方々のお力があってはじめて成り立ったものであり、また金山晴香さん、谷水麻凜さん、大田恵佳さん、塩山ちはるさん、重山航哉さんという5人のラーニング・アシスタントの学生さんたちが支えてくれたからこそ運営できました。またグループ討論などを交えたアクティブラーニングの手法は学内の教育推進部の新旧のスタッフ(岩崎千晶さん、須長一幸さん、三浦真琴さんら)が一から手ほどきしてくれました。登壇してくださった弁護士の橋本太地さん、『受刑者のアイドル』Paix2さんとマネージャーの片山始さん、いつも励ましてくださった鹿野健一さん、たくさんの来聴者の皆さん、そしてこの講義に参加してくれた300人近い受講生に心から感謝しています。この科目の設置を認めてくれた関西大学と労を厭わず世話をしてくれた事務スタッフにもお礼を申し上げます。この授業の効果はまだ何とも言えません。ただ、即効性はなくとも、受講生たちが社会の問題に直面した時に自ら考え行動する手がかりにしてもらえるよう願っています」
と謙虚に感想を述べておられます。謙虚な先生です。

しかし私から見れば、私はともかく、小出さんや浅野さんらを動かして本講義を実現させたのは、ひとえにS先生の情熱あってのことと思えて仕方がありません。理想家であるS先生の理想とされる講義になったのかどうか、私には分かりませんが、私も、小出さん、浅野さんも、S先生の理想と想いを汲んで一所懸命に取り組みました。S先生が仰る通り、学生たちに即効性があったかどうかも、まだ未知数でしょうが、必ず将来この講義を思い出し、あるいは悩んだ際解決の糸口となるに違いないと確信しています。

私は講義の中で、「人間の尊厳」とか「人権」とか抽象的で耳触りのいい言葉を語る時、<死んだ教条>を排し、<生きた現実>の中で語るように学生諸君に訴えました。また、この講義はきっと、今後の学生生活、あるいは卒業してからも記憶に残る講義になると信じています。そうであれば、私も逮捕・勾留された屈辱的経験を、まさに生き恥を晒して話した意味もあるというものです。 

▼松岡利康(鹿砦社代表)

Paix2『特別限定記念版 逢えたらいいな―プリズン・コンサート300回達成への道のり(DVD付き)』

関西大学最終講義は「受刑者のアイドル」Paix2ミニライブ&トークのサプライズ!

関西大学「人間の尊厳のために」最終回特別授業は
「受刑者のアイドル」Paix2(ぺぺ)のサプライズミニライブ&トークで締めくくりました!

7月15日、関西大学チャレンジ科目に開設された「人間の尊厳のために」の最終講義が行われました。昨年開講され2年間限定の本講義には浅野健一(ジャーナリスト)さん、小出裕章(元京都大学原子炉実験所)さんの両氏、そして私松岡の3人が講師として登壇し、各々専門の立場から学生に問題を訴えかけてきました。

特別授業が始まった

最終講義は、これまで講義が行われていた教室ではなく、階段状のマルチメディアAV大教室に変更されることだけが履修している学生たちには知らされていました。階段状の教室が用意されたのには理由がありました。私が講義で採り上げたPaix2に頼み込んで、特別にミニライブ&トークを行ってもらう“隠し玉”が用意されていたからです。まさに本講義のテーマの「人間の尊厳のために」を体現してきたPaix2の生の歌声と語りを聴いて欲しかったからに他なりません。サプライズのミニライブ&トーク──私も憎いことを考えるでしょう(笑)。

学生たちは何も知らずに教室に集まると担当のS先生から経緯の説明があり、その後私がPaix2を紹介し、引き続きPaix2のミニライブが始まりました。

講義終了後、手伝ってくれた学生らと

学生たちは驚き、あっけに取られていました。しかし日ごろ刑務所でのライブをこなしているPaix2の2人にとって、学生の心を掴むのはたやすいことだったでしょう。最初おとなしく、むしろ圧倒されていた学生の反応も自然に豊かになっていきました。途中、受刑者の娘さんからの手紙を読むところでは涙ぐむ学生も少なからずいました。そして約1時間のPaix2のミニライブ&トークはいったん終了しました。

しかし、なぜか曲目の中に代表曲『元気だせよ』が入っていなかったので、私が「『元気だせよ』はないの?」と言うと、Paix2はここぞとばかり『元気だせよ』を歌い出し、教室は一気に盛り上がりました。

講義終了後に提出されたアンケートでは、Paix2を絶賛する声が圧倒的でした。“生Paix2”の歌声と話を聴くと、これで感動しないほうがおかしいでしょう。Paix2の15年の活動こそ、まさに「人間の尊厳」を体現するものだといえるでしょう。Paix2が全国の刑務所や少年院などを回る「プリズン・コンサート」は現在393回、あと7回で未踏の400回。本年じゅうに達成の予定ということです。

フィギュアスケート世界チャンピオンの宮原知子(みやはら・さとこ)さんも受講してくれました

報道・原発・出版それぞれの視点から観た今日の社会の問題点を衝く「人間の尊厳のために」は華やかに、一応の幕を閉じることになりました。この2年間、本講義をコーディネートされた関西大学文学部のS先生は、
「この科目は何よりも浅野健一さん、小出裕章さん、松岡利康さんという3人の講師の方々のお力があってはじめて成り立ったものであり、また金山晴香さん、谷水麻凜さん、大田恵佳さん、塩山ちはるさん、重山航哉さんという5人のラーニング・アシスタントの学生さんたちが支えてくれたからこそ運営できました。またグループ討論などを交えたアクティブラーニングの手法は学内の教育推進部の新旧のスタッフ(岩崎千晶さん、須長一幸さん、三浦真琴さんら)が一から手ほどきしてくれました。登壇してくださった弁護士の橋本太地さん、『受刑者のアイドル』Paix2さんとマネージャーの片山始さん、いつも励ましてくださった鹿野健一さん、たくさんの来聴者の皆さん、そしてこの講義に参加してくれた300人近い受講生に心から感謝しています。この科目の設置を認めてくれた関西大学と労を厭わず世話をしてくれた事務スタッフにもお礼を申し上げます。この授業の効果はまだ何とも言えません。ただ、即効性はなくとも、受講生たちが社会の問題に直面した時に自ら考え行動する手がかりにしてもらえるよう願っています」
と謙虚に感想を述べておられます。謙虚な先生です。

しかし私から見れば、私はともかく、小出さんや浅野さんらを動かして本講義を実現させたのは、ひとえにS先生の情熱あってのことと思えて仕方がありません。理想家であるS先生の理想とされる講義になったのかどうか、私には分かりませんが、私も、小出さん、浅野さんも、S先生の理想と想いを汲んで一所懸命に取り組みました。S先生が仰る通り、学生たちに即効性があったかどうかも、まだ未知数でしょうが、必ず将来この講義を思い出し、あるいは悩んだ際解決の糸口となるに違いないと確信しています。

私は講義の中で、「人間の尊厳」とか「人権」とか抽象的で耳触りのいい言葉を語る時、<死んだ教条>を排し、<生きた現実>の中で語るように学生諸君に訴えました。また、この講義はきっと、今後の学生生活、あるいは卒業してからも記憶に残る講義になると信じています。そうであれば、私も逮捕・勾留された屈辱的経験を、まさに生き恥を晒して話した意味もあるというものです。 

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