NJKF 2017.1st インター王座目指す悠矢、前哨戦でジョーダンに惜敗!

アグレッシブさは悠矢を上回ったジョーダン(左)のミドルキック
パンチの距離をもっとキープしたかった悠矢(右)
ジョーダン(左)の蹴り終わりを狙い続けた悠矢のローキック
狙い撃ちは上手だった宮越宗一郎(右)のカウンター

前日計量で、悠矢は体調の良さは強調しつつも、「いつもより2kg多いウェイトですが、リミットいっぱいいっぱいでスーパーフェザー級(58.9kg)だったら無理でした」と言うほど身体が大きくなった感じの様子。

また「僕はアグレッシブな戦いしますけど、ジョーダン選手がムエタイスタイルなら、僕とは初めて戦うタイプと思うので、日本のこと嫌いになっちゃうかもしれませんけど、全力で戦って明日は僕が勝ちます。」という激闘を匂わすコメントを送っていました。

◎NJKF 2017.1st / 2月19日(日)後楽園ホール 17:00~20:55
主催:NJKF / 動画配信: YouTube LIVE

◆61.0kg契約3回戦

WBCムエタイ世界スーパーフェザー級14位.悠矢(日本C/大和/ 61.0kg)
vs
同級11位.ジョーダン“デーカレック”コー(アイルランド/ 60.7kg)
勝者:ジョーダン”デーカレック”コー / 0-3
(主審 山根正美 / 副審 少白竜48-49. 松田48-50. 竹村48-49)

アグレッシブなのはコーの方でした。前蹴り、左ミドルキック主体に出てくるコー。ローキックで崩しに掛かりたい悠矢。後手になりがちで突破口を見出せないがローキックは次第に効いてきているはずも、コーはたじろがず表情にも表れない。コーの勢い衰えないまま悠矢はパンチ勝負に繋げず小差判定で敗れ去りました。コーはリングから降りる際もセコンドの肩を借り、右足太腿が痛々しくかなり効いていた様子。悠矢はWBCムエタイ・インターナショナル・スーパーフェザー級王座への前哨戦だった試合に敗れ、挑戦が一旦後退した現状で次戦はどうなるかは未定です。

負けられない立場の鈴木翔也(左)だったが、ほんの少し踏ん張り足りず

◆70.0kg契約3回戦

WBCムエタイ・インターナショナル・スーパーウェルター級チャンピオン.宮越宗一郎(拳粋会/ 70.0kg)
vs
森本一陽(レグルス池袋/ 69.9kg)
引分け / 1-0
(主審 多賀谷敏朗 / 副審 山根29-29. 松田30-29. 竹村29-29)

2月12日で30歳になった宮越宗一郎が年内で引退をほのめかす中、森本一陽と引分け。森本の踏み込んで自分の距離を保ってのパンチ連打と蹴りを宮越は応戦し強い蹴りで上回るも森本の勢いを止めるには時間が足りなかったか。ラストラウンドは互いが流血になる中、激しい攻防の中での終了。

◆NJKFスーパーフェザー級タイトルマッチ 5回戦

チャンピオン.鈴木翔也(OGUNI/ 58.97kg)
vs
2位.琢磨(東京町田金子/ 58.90kg)
勝者:琢磨 / 0-2
(主審 少白竜 / 副審 山根48-49. 多賀谷49-49. 竹村48-49)

琢磨が一度敗れている鈴木翔也に際どい接戦を制し第6代NJKFスーパーフェザー級チャンピオンとなる。

鈴木翔也(左)vs琢磨(右)。パンチを貰い過ぎたか印象点に響く
執念で王座奪回へ意欲的に攻めたYETI達朗(左)

◆NJKFスーパーウェルター級王座決定戦 5回戦

1位.YETI達朗(キング/ 69.7kg)
vs
4位.西岡和久(誠至会/ 69.7kg)
勝者:YETI達朗 / 3-0
(主審 松田利彦 / 副審 山根50-47. 多賀谷50-47. 少白竜50-47)

YETI達朗は昨年2月、白神武央(拳之会)に王座を奪われるも白神がひとつ上のWBCムエタイ日本王座を獲った為、返上されたNJKF王座に第6代王座決定戦で再挑戦し奪回に成功。

ヒジとパンチで優位に攻めたYETI達朗(左)
アグレッシブな矢島直弥を上回る能登達也(右)の先制攻撃がKOに結びついた

◆52.0kg契約3回戦

NJKFフライ級チャンピオン.能登達也(VALLELY/ 52.0kg)
   vs
WPMF日本フライ級チャンピオン.矢島直弥(はまっこムエタイ/ 52.10→52.0kg)
勝者:能登達也 / TKO 1R 0:57 / カウント中のレフェリーストップ
主審:竹村光一

◆55.5kg契約3回戦

前田浩喜(CORE/ 55.45kg)vs コンバンノー・エスジム(タイ/ 55.5kg)
勝者:前田浩喜 / TKO 1R 2:57 / カウント中のレフェリーストップ
主審:山根正美

他、4試合は割愛します。

◆取材戦記

能登達也が矢島直弥を豪快に1ラウンドでノックアウトし、4月1日開催の「KNOCK OUT vol.2イベント」に出場が予定される石井一成の相手として名乗りを上げました。インパクトあるノックアウト後に自らマイクアピールするのは効果的ですね。KNOCK OUT関係者が来場されていたかはわかりませんが、まず居なくても伝わることでしょう。

“格闘技界初”と発表された「観客へのサービスとして、後楽園ホールのリング上にて専任スタッフによる記念撮影サービスを実施」という催しも、リング上での撮影会はリング下に変更されていました。「ファンはリングに上がらないで」とは毎度の興行で後楽園ホール側からお願いされていましたから、「本当にやれるのか」と思いましたが、やはり当然の警告となったようでした。しかしNJKF は、2017年のスローガンをForTheFans とし、ファンが楽しむためのキックボクシングを提供することを目指しており、今回の企画に優る今後のForTheFansに期待しましょうか。

表彰選手と役員が揃う年に一度のイベント

セレモニーでは2016年度のNJKF年間表彰式が行なわれ、各賞が授与されました。

最優秀選手賞  宮越慶二郎(拳粋会)
殊勲賞     健太(E.S.G)
敢闘賞     テヨン(キング)
技能賞     MOMOTARO(OGUNI)
新人賞     二条司(誠至会)
年間最高試合賞 宮越慶二郎(拳粋会)vs 羅紗陀(キング)

ひとつの団体のみの10分あまりで終了した年間表彰式でしたが、2月10日には東京ドームホテルで恒例のプロボクシングの年間表彰式が行なわれており、2時間ほど掛けたそのスケールの差を感じますが、キックボクシングも業界で統一された年間表彰式があったなら昨年、タイの殿堂ラジャダムナンスタジアム・スーパーウェルター級王座を奪取し、現地で初防衛を果したT-98(今村卓也/クロスポイント吉祥寺)と同スタジアム・ライト級王座を藤原敏男氏以来の38年ぶりの奪取を果した梅野源治(PHOENIX)がトップを争うところでしょうか。更に那須川天心らが顔を揃える表彰ステージ上を想像してしまいます。来年はそんな形が少しでも実現に向かうような進展が見られたらと既存の団体や「KNOCK OUT興行運営」に期待したいものです。

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

タブーなきスキャンダルマガジン『紙の爆弾』

話題のKNOCK OUT!那須川天心が2連続KO!梅野源治は2連続判定勝利!

決戦を前にしたメインイベント出場の梅野源治とワンマリオ、計量を終えた直後
年齢は那須川がアムナットの半分。どちらも余裕の表情
全員揃っての撮影は毎度の光景

2月12日(日)大田区総合体育館にて開催されました「KNOCK OUT vol.1」は全7試合中、5試合がノックアウトで、引分けが1試合、判定は梅野源治が前回に続いて、技術で相手の心を折る勝利でした。

森井洋介が村田裕俊と引分けるちょっと予想外な結果。村田裕俊はこの1年あまりで急速に力を付けてきた選手。昨年4月に、かつて2度KOで敗れている高橋一眞とのNKBフェザー級王座決定戦で雪辱し王座奪取。そして9月に高橋一眞を倒している森井洋介との引分けは、村田がただ者ではない存在であることが証明された結果となりました。

那須川天心の相手は元・IBF世界フライ級チャンピオンで、井岡一翔に初黒星を付けたとされるアムナット・ルエンロンにKO勝利。小野寺力プロデューサーがカード発表前に「度肝を抜くカード」とされた世間の評価は賛否両論の意見が幅広いところでした。アムナットがどれだけ全盛期のパンチと全盛期のムエタイ技、更にこの試合に懸けるモチベーションを持っていたか疑問は残りますが、前回、階級が那須川より下の現役ムエタイチャンピオンでしたが、ワンチャローンを後ろ蹴り一発で倒し、これだけの名選手らをわずか18歳で迎え討つというのは、やはり驚きの天性の才能を持った選手でしょう。

他、4試合もKO決着、皆このイベントに出る以上は下手な試合はできないと覚悟する特攻精神を持っている印象を受けます。“ノックアウト”をコンセプトとしたイベントですが、“絶対ノックアウト”しなければならない訳ではなく、ノックアウトを意識した勝ちに行く姿勢が求められるもので、梅野源治は2試合連続判定勝利となりましたが、アグレッシブな相手に大差で、その姿勢を示した内容だったでしょう。

◎KNOCK OUT vol.1 / 2月12日(日)
大田区総合体育館 17:00~
主催:(株)キックスロード

森井洋介vs村田裕俊(写真提供 KNOCK OUT)
村田裕俊vs森井洋介(写真提供 KNOCK OUT)
那須川天心vsアムナット(写真提供 KNOCK OUT)

◆第1試合 64.0kg契約 5回戦

WPMF日本スーパーライト級チャンピオン.不可思(クロスポイント大泉/64.0kg)
VS
WBCムエタイ日本スーパーライト級チャンピオン.山口裕人(山口/63.7kg)

勝者:不可思 / KO 3R 1:50

◆第2試合 55.5kg契約 5回戦

小笠原瑛作(クロスポイント吉祥寺/55.5kg)
VS
WBCムエタイ日本スーパーバンタム級チャンピオン.波賀宙也(立川KBA/55.5kg)

勝者:小笠原瑛作 / KO 2R 1:13

◆第3試合  67.0kg契約 5回戦

WBCムエタイ日本ウェルター級チャンピオン.健太(ESG/66.9kg)
VS
WPMF日本ウェルター級チャンピオン.引藤伸哉(ONE’SGOAL/66.8kg)

勝者:健太 / TKO 5R 1:50

◆第4試合  59.5kg契約 5回戦

全日本スーパーフェザー級チャンピオン.森井洋介(ゴールデングローブ/59.5kg)
VS
NKBフェザー級チャンピオン.村田裕俊(八王子FSG /59.3kg)

引分け / 三者三様 (49-48. 48-48. 48-49)

◆第5試合  63.0kg契約 5回戦

WPMF世界スーパーフェザー級チャンピオン.町田光(橋本/63.0kg)
VS
山口侑馬(山口/62.6kg)

勝者:山口侑馬 / TKO 3R 1:00

◆第6試合 56.5kg契約 5回戦

ISKAオリエンタル世界バンタム級(-55kg)チャンピオン.那須川天心(TARGET /56.5kg)
VS
アムナット・ルエンロン(元・IBF世界フライ級C/タイ/56.5kg)

勝者:那須川天心 / KO 4R 2:39

那須川天心vsアムナット(写真提供 KNOCK OUT)
ワンマリオvs梅野源治(写真提供 KNOCK OUT)

◆第7試合  61.5kg契約 5回戦

タイ国ラジャダムナン系ライト級チャンピオン.梅野源治(PHOENIX/61.5kg)
             VS
ワンマリオ・ゲオサムリット(元・WPMF世界ライト級C/スペイン/61.1kg)

勝者:梅野源治 / 3-0 (50-47. 50-45. 49-47)

《取材戦記》

今回のKNOCK OUT興行では一定の取材規制があり、諸々の事情で撮影に行くことをやめました。その為、試合結果は主催者から送られて来たものを利用していますが、レフェリー、ジャッジ名は不明です。

森井洋介vs村田裕俊戦の引分けは「1-1」と記載されていましたが、「三者三様」に替えさせて頂きました。KOとTKOの区別は、直接試合の止められ方を見ていないので、主催者発表どおりにしてあります。

次回興行の4月1日(土)、大田区総合体育館で開催の「KNOCK OUT vol.2」の1試合が決定で、64.5kg契約5回戦、不可思(クロスポイント大泉)vs水落洋祐(はまっこムエタイ)戦と、ジュニアキックから期待の成長を遂げ、主にタイを主戦場として名が売れている18歳、石井一成(エクシンディコンJAPAN)の出場が決定しています。那須川天心と誕生日が1ヶ月ほどしか違わない石井一成、タイで6連続KO勝利を続けており、日本でも高評価が期待されます。さらに梅野源治も参加する「KNOCK OUTライト級王座決定トーナメント」の開催も決定していますが、何人参加か現在は不明です。ワンデートーナメントではなく、決勝戦はおそらく秋以降になるでしょう。優勝を決めるだけの一過性のものならそれで結構ですが、新たにチャンピオンシップ制度を用いる国内王座が出来ることなら懸念を感じますが、王座の在り方が間違った方向に行かないよう心から願いたいものです。

そんなKNOCK OUT興行予定が続く中、梅野源治のラジャダムナン王座防衛戦は5月にタイ現地スタジアムで初防衛戦が予定されているようです。現地でやることに評価が上がることと思います。「KNOCK OUT」出場の合間を縫ってラジャダムナンでの戦いは調整が難しいかもしれませんが、ファンは新たな快挙を期待しているでしょう。

梅野源治vsワンマリオ(写真提供 KNOCK OUT)

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

タブーなきスキャンダルマガジン『紙の爆弾』

神風が吹く今年のNKB!──高橋三兄弟の飛躍に期待

田村聖vs西村清吾。ヒザで切られた西村(右)の流血後も互いの最後のラッシュをかける
田村聖(右)vs西村清吾。梅野源治も西村の応援に現れアドバイスを送る
西村から逆転のダウンを奪った田村
田村聖(右)vs 西村清吾。西村の応援団が100人を超える大声援の中、王座は田村が制す

主要3試合がすべて熱い展開を見せました。今活発な活動を始めた「KNOCK OUT」イベントの影響を受けている活気と、フリージムとの交流戦が増えたことから、NKBには少ないムエタイテクニシャンタイプの選手との対戦は新たな成長を促す影響を受けています。

高橋三兄弟の飛躍が期待されるNKBは、日本人主要クラス対決を避けず進む展開には好感が持てる団体として、今後も試練に立ち向かいながらNKBを背負って行かねばなりませんが、その過程を見守るファンは多いでしょう。

◎神風シリーズ vol.1 / 2月5日(日)後楽園ホール17:30~21:30
主催:日本キックボクシング連盟 / 認定:NKB実行委員会

◆第6代NKBミドル級王座決定戦 5回戦

1位. 田村聖(拳心館/71.9kg)vs 2位.西村清吾(TEAM-KOK/72.4kg)
勝者:田村聖 / 判定2-0
主審:前田仁 / 川上49-47. 馳49-47. 亀川47-47

高橋兄弟に負けない盛り上がりを見せた、昨年10月の凡戦を払拭する西村の先手を打つパンチと蹴りと田村の踏ん張り。「一発で倒す練習をしてきました」という田村はラストラウンド終盤にロープ際での連打から組んでのヒザ蹴りを西村の顔面に当て形勢逆転のダウンを奪う。立ち上がったところを更にヒザで攻め2度目のダウンを奪ったところで試合終了。

4ラウンドまで西村優勢で進んだ採点としては難しい接戦の終了だったが、2者が田村を支持して新チャンピオン誕生。西村は初黒星。

◆56.0kg契約5回戦

NKBバンタム級チャンピオン.高橋亮(真門/55.6kg)
vs
知花デビッド(元・WBCムエタイ日本バンタム級C/エイワ/55.8kg)
勝者:知花デビッド / 判定0-3
主審:鈴木義和 / 亀川47-49. 馳48-49. 前田48-49

高橋亮vs知花デビッド。ムエタイ技の距離は知花のヒジがヒット、瞬間技
高橋亮vs知花デビッド。打ち合えば高橋亮もチャンスあり
アウェイのリングで勝利を収めた知花デビッドとエイワスポーツジム陣営

三兄弟で一番先に王座に就いている次男・亮は交流戦でも一歩先行く存在で勝敗は3勝3敗ながら、昨年10月にWPMF日本スーパーフライ級チャンピオン.佐々木雄汰(尚武会)に判定勝利する存在感を見せました。

キックボクサーとしての高橋亮はパンチとローキック主体に鋭く攻めるが、ムエタイトレーニング豊富な知花は接近戦でのあらゆる攻撃パターンを持っており、ヒジを含むその当て勘が高橋亮を上回りました。

エイワスポーツジム所属選手相手に2敗(渡辺優太戦、竹内将生戦)していた高橋亮はリベンジすべき同ジム相手が3人となりましたが、負けて課題は残るも今後に期待が掛かる存在です。

◆ライト級5回戦

NKBフェザー級1位.高橋一眞(真門/61.23kg) vs NKBライト級7位.洋介(渡辺/61.23kg)
勝者:高橋一眞 / TKO 5R 2:51 / カウント中のレフェリーストップ
主審:川上伸

昨年の王座決定戦から交流戦にかけての主要試合で、3連敗の壁に当たった感の高橋三兄弟・長男、高橋一眞が「チャンピオンに成れないなら辞めようかと思った」というが、ライト級に上げて再起を決意。ハイキックが速く鋭く洋介を攻める。

元々強い蹴りの攻撃力を持っているが、久々に強い蹴りが活かされた展開となる。5ラウンドをフルに活用し戦い方を磨きながらの再起戦は、最後にKOを意識した中で右ハイキックで仕留める劇的KO勝利を収めました。

KOを狙った高橋一眞のハイキックが洋介にヒット
高橋一眞vs洋介。倒せた、勝った、その瞬間
長いスランプから脱出した高橋一眞。喜びが表情に表れる

◆バンタム級3回戦

NKBバンタム級3位.前島マルコス(テツ/53.52kg)
vs
海老原竜二(神武館/52.35kg)
勝者:海老原竜二 / 判定0-3
主審:馳大輔 / 前田25-30. 川上25-30. 鈴木25-30

他、7試合は割愛。

◆取材戦記

NKBとは何ぞや!? という解説から入ってはクドイ話になるので簡潔に言いますと、日本キックボクシング連盟とK-U(キックユニオン)が共同で認定するタイトルで、2000年頃、ニュージャパンキックボクシング連盟(NJKF)とアジア太平洋キック連盟(APKF)を含む4団体で合体。トーナメントを経て2002年からタイトル化しました。

その後、NJKFとAPKFが離脱しています。その為、弱体化が進みましたが、2014年からの小野瀬邦英体制と高橋三兄弟の出現で活気が出てきたことで再浮上、今後の進化が期待できるところです。

更に古い時代(昭和40年代)の全日本キックからの腐れ縁も含む歴史的話題多き団体でもあるので、この成り行きを、弱体化しようが観客が少なかろうが消滅しようが発展しようが成り行きを見続ける必要性はあるのではと思う観戦記に繋がっています。当然、ここから這い上がる高橋三兄弟がNKBに神風吹かせる団体飛躍に導いて欲しいと思うところであります。

控室で高橋亮にインタビューしていたのが竹村哲氏。話の進め方の上手いこと。明るく話しかけ、痛みが分かる選手経験者でもある為、的確な突っ込みもあり、インタビューされる選手も話し易いことでしょう。ちょっと盗み聴きながら参考になる素人の私でした。

2月12日の「KNOCK OUT vol.1」に、NKBから高橋一眞に次ぐ二人目の出場となる村田裕俊(八王子FSG)は、昨年9月のKNOCK OUT記者会見初戦で高橋一眞を1ラウンドKOした森井洋介(ゴールデングローブ)と対戦します。村田裕俊は昨年4月にその高橋一眞に雪辱してNKBフェザー級王座に就いた選手で、高橋一眞を下した者同士の対戦が話題作りの因縁めいたカードのひとつとなっています。

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

タブーなきスキャンダルマガジン『紙の爆弾』

選手自身になにより“有終の美”を! それぞれの引退式物語

いちばん若い歳での引退式かもしれない22歳でリングを去る翔栄(2017.1.8)
エキシビジョンマッチながら迫力ある蹴り合いを見せた長江国政と藤原敏男(1983.6.17)

「引退テンカウントゴングで送ってやりたい」と願う所属ジム会長や後援会などの信頼関係で実現する最後の勇姿を披露する選手たちの引退式──。名チャンピオンなど功績や存在感を残した選手が現役を去ることを決意した時、そこで引退を宣言し、引退式に臨む選手の在り方を過去の例から振り返ると、いろいろな思惑の引退式に繋がりました。

◆外傷性くも膜下血腫のため22歳で惜しまれながら引退した翔栄

過去行なわれた引退式には予期せぬものもありました。特に最近では、今年1月8日、治政館ジム興行WINNERSに於いて引退式を行なった元・日本ライト級チャンピオン.翔栄(治政館)がそうでした。外傷性くも膜下血腫のため現役を続けられなくなり、そんな原因で引退する運命は実に残酷。22歳での惜しまれながら早過ぎる引退でした。

引退式は役員からの記念品贈呈と他のゲストは王座決定戦で戦った勝次(藤本)が駆けつけたのみで簡潔に終了しましたが、治政館ジムの長江国政会長の計らいがあって実現したささやかながら引退式でした。

テンカウントを聞いた後、戦い慣れた後楽園ホール場内を見つめる富山勝治(1983.11.12)
リングにそっとグローブを置いて戦いに別れを告げた飛鳥信也(1995.12.9)

◆名チャンピオンたちの盛大な引退式

過去には存在感大きかった名チャンピオンの引退式は、引退そのものがメインイベントとなり、藤原敏男引退記念興行や富山勝治引退試合興行は盛大に行なわれました。

1978年、外国人(日本人)初のタイ国ラジャダムナン王座を奪取した藤原敏男氏は1983年2月の1000万円争奪オープントーナメント62kg級準決勝で、足立秀夫(西川)を3ラウンドKOに下し、決勝進出を決めたその場のリング上で突然の引退宣言、これは驚きの波紋を呼ぶ中、同年6月の引退興行に繋がりました。

過去に名勝負を展開した元・全日本フェザー級チャンピオン.長江国政(ミツオカ)との異例の3ラウンドのエキシビジョンマッチは思いっきり攻めた展開で終え迎えた引退式で、数々の名チャンピオンやプロモーション関係者が贈呈品を持って花を添えに訪れた盛大な引退式でした。

同年11月の東洋ウェルター級チャンピオン.富山勝治引退試合は永遠のライバル、元・日本ライト級チャンピオン.ロッキー藤丸(西尾)との公式5回戦をKO勝利で締め括り迎えた引退式も過去の業界を支えた興行関係者が熱く語らい、富山自身も全国のファンへメッセージを残す式となりました。

◆業界低迷時代にも選手の引退式は個性的だった

この二人を前後する業界低迷時代にも過去の隆盛期を支えた池野興信(目黒)、木村保彦(目黒)、猪狩元秀(弘栄)、内藤武(士道館)など幾人もの引退式があり、寂しい時代の中でもそれぞれの個性が発揮されていました。

特に多いのが昔からあるエキシビジョンマッチを行なう引退式は、最後のファイト姿のお披露目として最も多いやり方でしょう。しかし2分制の1ラウンドのみという場合もあり、動けるギリギリの体調かもしれませんが、あくまでも試合をするコンディションで正式2ラウンドで臨む姿勢が欲しいところではありました。

昔からあったパターンかもしれませんが、スーツ姿で登場する引退式のみのパターンも増えました。これは翔栄の場合と似た形で、アンダーカードの合間で行なうセミファイナル的な手法。怪我や病気でリングを去る場合は仕方ないにしても、力ある選手はスーツ姿よりもう少しファイト姿のお披露目が欲しい選手もいました。

大月晴明との激闘は引退式を考えぬ捨て身のファイトとなった蘇我英樹(2016.4.10)
小泉武会長に見守られて挨拶する蘇我英樹(2016.4.10)

◆過酷だった蘇我英樹の引退式

さらに最も過酷なパターンが、昨年4月に市原臨海体育館でWKBA世界スーパーフェザー級チャンピオン.蘇我英樹(市原)が前年激戦の末敗れている大月晴明と公式3回戦をKO負けして迎えた引退式でした。

これは怪我すれば引退式は中止になる可能性があり、試合後、立ち上がった直後では呂律がうまく回らない状況でダメージが心配されましたが、次第に回復し、挨拶とテンカウントゴングまでしっかりした足取りで踏ん張りました。

挨拶で笑わせ、セレモニー全体の調子を狂わせた竹村哲。応援に駆けつけたベイビーレイズJAPANに囲まれて(2015.12.12)

◆ラストファイトに最強の相手を選んで引退式に臨む目黒ジムの選手たち

過去には飛鳥信也(目黒)の公式戦引退試合5回戦も最強の相手、ギルバート・バレンティーニ(オランダ)を迎え、2ラウンドKO負けの後、他の試合を挟んでの休憩後の引退式でしたが、これも控室に帰ってから「あっ試合だ、行かなきゃ」とKO負けしたことが記憶に無く周囲に止められた状況で、ようやく現実にハッと気が付く目覚めでしたが、引退式は無事に、熱く語るメッセージを残しテンカウントゴングに送られました。

この試合から目黒ジムの選手はラストファイトに最強の相手を選んで引退式に臨むことを目指し、後輩の新妻聡は2000年7月にタイの現役チャンピオン、ノッパデーソン・チューワタナと対戦し、ボロボロに蹴られ5回戦判定負け(引退式は2003年12月)。更に小野寺力も2005年10月、大田区体育館でタイの現役チャンピオン、アヌワット・ゲオサムリットに2ラウンドKO負け後の引退式に臨みました。

2015年12月にはNKBウェルター級チャンピオン.竹村哲(ケーアクティブ)が同級5位.マサ・オオヤ(八王子FSG)を4ラウンドにKO勝利後、ロックバンド仲間が応援に大勢集う中、40分に渡る長い引退式。

涙ある語り口がある中、会場係員のトランシーバーが鳴り響くアクシデント、それを突っ込む竹村哲や、労いの言葉を途中で忘れ「……とにかくお前はよく頑張ったなあ、長い間ご苦労さん!」と苦笑いで締め括った渡辺信久連盟代表の意外なスピーチに、こんな笑える引退式も珍しいと思える展開となりました。

テンカウントゴングを聴く大和大地(2014.9.21)

◆家業を継ぐため引退した大和大地

若くして引退した場合は、復帰の可能性も大きいため、安易に引退式は行なわないようですが、23歳で引退したNJKFスーパーフェザー級チャンピオン.大和大地(大和)は家業を継ぐための引退で、周囲も温かく見送りました。

逆にかなりの期間を置いて引退式を行なう場合もあり、3年以上ブランクを空けるのは“復帰は完全に出来ない”と自覚して臨むことに時間を掛ける必要があるのかもしれません。

また、復帰は思うほど簡単ではないことを自覚し、復帰の気持ちが絶対沸かないように“ワザとブクブクに太る”という手段を使う選手もいたようですが、これでは引退式でその姿を見せるのは嫌で行なわないパターンもあったかもしれません。

◆多くの選手たちは静かにリングを去っていった

その反面、仲間内以外には告げることなく静かにリングを去っていった大多数の選手がいました。「いつの間にか見なくなったなあ」とファンが思える選手はそんな存在かもしれません。大会場で自主興行を打てないジムが団体(連盟主催)の興行に要望してもチャンピオンになっていないなど実績の無い選手の引退式は却下された例もありました。

加藤竜二も事故で脳挫傷になり引退を決意し若くしてリングを去った(2015.9.27)

そんなジム側が苦肉の策の自主興行で、キックボクシング興行は滅多にない小さな会場などで引退式を行なうこともあり、想い出の聖地、後楽園ホールでの試合が最も想い出深い選手が多いところで、叶うならここでやってあげたい想いはジム会長側にもあったことでしょう。

◆選手自身にとっての“有終の美”を第一優先に

また自ら引退式を望まない名チャンピオンも多く存在しました。愛弟子にはやってあげても自らの引退式は行なわなかったジム会長も幾らか存在します。

今活躍する名選手もいずれリングを去る日がやってきます。実績を残した選手の中では、引退式より、最終試合が完全KO負けであっても強い相手や戦い果せなかった相手と戦い悔いなく燃え尽きる、選手自身にとっての“有終の美”を第一優先に飾らせてあげたいものです。

大和ジム盟友が揃ってのエキシビジョンマッチを終えた大和3人衆、大和大地、大和哲也、大和侑也(2014.9.21)

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

タブーなきスキャンダルマガジン『紙の爆弾』

キックボクシングの採点はなぜ、10点法の減点式なのか?

プロボクシングとキックボクシングの共通の疑問。
「 1度のダウンで10-8、2度のダウンで10-7となりますが、何で10-6じゃないの?」
こんな質問が時折聞かれます。

採点基準の簡易的な説明はテレビでのボクシング中継でもされていますが、細部に至る補足説明は全くされていないのが現状です。

◆“ダウンは2点ではない”

試合後、ジャッジペーパーを渡す瞬間

現在のJBCルールは今年、フリーノックダウン制に改訂されてからは通常10-10から10-6の範囲内で採点される中でも(反則減点を除く)、なかなか複雑な構造を持っていると言えるかもしれません。その内訳もサッカーやバスケットボールのようにゴールされて得点が入るような、クリーンヒットが当たって「ハイ、1点!」という単純な得点競技ではない採点競技の奥深さ、理屈で説明しても伝わらない難しさがあります。

「ボクシングルールは突き詰めて考えると、どんどん矛盾点が出てきますよ」というボクシング関係者もいて、あくまで解釈方法のひとつとして、独断と偏見で書き述べますと、まず一例目として、“ダウンは2点ではない”という見方を持ってみましょう。ダウンが2点であれば2度のダウンで10-6となるはずですが、ではまず1度のダウンで10-8となるのはなぜでしょうか。

いつどこで手に入れたか覚えていませんが、ムエタイではこんな感じのジャッーパーとなります。タイトルマッチではラウンド毎の記入用紙になります

その内訳を“ダウンは1点”と解釈してみます。そしてその“ダウンを奪った有効打”が、そのラウンドを占める“明確な優勢点”としての採点が1点。この計2点が引かれ10-8となると考えます。

2度のダウンがあればその2点と、その2度のダウンを奪った2度の有効打も、“そのラウンドを占める明確な優勢点”での採点1点として、計3点で10-7になると考えます。通常のダウンの無いラウンドで優劣を見極め10-9が付けられますが、この1点は、攻防の中、ダウンは取れなかったが優勢であったという、このラウンドを占める“見極めの”優勢採点1点です(微差でも)。このダウンを導く有効打1点とダウンしない中での優勢1点とは重みが違い、ダウンを奪われ、「マイナス2点は大きい」と挽回しようとラッシュしても、ダウンを奪われたそのラウンドの他の時間(おおよそ2分以上)の大半を圧倒しなければ10-9には縮まらないと言われます。それほどダウンを奪った有効打に重点を置かれるのでしょう。

日本のキックボクシングで、古い時代に使われていたラウンド毎のジャッジペーパー。現在はもっと進化しています

ダウンを奪い返せばお互いの1度ずつのダウンは相殺されるので、実質10-10に戻り、どちらかが更に一度ダウンを奪えば改めて10-8になります。

1999年2月のWBA世界スーパーフェザー級タイトルマッチでチャンピオン.畑山隆則(横浜光)が第2ラウンドにソウル・デュラン(メキシコ)にダウンを奪われました。ダメージは軽かったようでしたが、御本人も「このラウンドは巻き返しに行っても劣勢の10-8から10-9には縮まらないだろうと思い、無理に行かなかった」と後に言われています。

仮に巻き返そうとラッシュしても、かなり優勢に相手を圧倒しなければ、スタミナを失うだけで、その低い挽回の可能性を捨て、次のラウンドに備えたのは賢明だったでしょう。ダウンを奪われたその有効打そのものによる1点は、ラウンドの大半を優勢に行かなければ取り返せない、10-9には縮まらない例です。

二例目として、ある研究熱心なキックボクシングレフェリーの回答ですが、ダメージの無い相手からダウンを奪うのは結構難しいことであり、そんな難度の技なので“ダウンは2点”として10-8。そして一度ダウンしたダメージある相手から更にダウンを奪うのは比較的簡単で、この難易度が低下することで1点となり、計3点が引かれ10-7となるというものです。私と解釈は異なりますが、一般の方には、この方がはるかに分かり易いところでしょう。

異なる例の三例目として、未承認ですが、「1度のダウンで10-7、2度のダウンで10-6」となる某ボクシング解説者の提案ではどうなるでしょう。当然ここでも“ダウンは3点ではない”内訳が見えてきます。
現在、10-8の枠で無理に収めている優劣の解釈をもう少し枠を広げ、僅差、軽度のフラッシュダウン、圧倒的攻勢、巻き返しの差まで緩やかに付けようというものですが、見極め判断がよりややこしくなり、浸透しないであろう要因もあって実現には至りませんが、これも構造的には理に適った採点と考えられます。

20年ぐらい前のタイで行われた世界戦の採点表が新聞に載ったもの。何の試合かはわかりませんが、中央は浅尾和信氏、右側に手崎弘行氏の名前があるので、日本人出場の試合では無さそうです

◆なぜ0からのポイント加算式でなく、10点法の減点式なのか?

なぜ0からのポイント加点式でなく、10点法の減点式なのか、そんな疑問も考えた人は多いかもしれません。その答えは誰にもわからないかもしれません。単にアメリカでは単純計算が苦手で、95セントのパンを買うのに1ドル紙幣を出すと、そのおつりを1セントずつ声に出して99・98・97・96・95とコインを数えながら渡すといったことを極端な例として聞いたことありますが、そんな減算法の慣習から来ていることも要因かもしれず、ジャッジペーパーの集計すら時間が掛かっている場合がありますね。単に一桁の単純計算が苦手なのはお国柄かもしれません。

創生期のキックボクシングでは日本系は10点法、全日本系は5点法の0.5ポイント制(当時のルンピニースタジアムと同様)でしたが、ポイントの付け方は現在より大幅に認識違いはありました。日本系はフリーノックダウン制で、5回ぐらいダウンしても立ってくれば続行させ、10-4なんて採点もあったようでした。次第に現在のプロボクシングに準ずる採点方となっていきましたが、真似しているだけでルールの意味を深く理解していない判断が多かったのも事実でした。

明確な優勢と見極めの優勢、微差も振り分ける、そこに現れる10-9の幅の広さ。ボクシングルールには分かりにくい部分が幾つもあるかと思います。これらを感性で理解するには理屈でなく、試合を何年も観ていく経験値で自然と理解出来ていくものかもしれません。

この採点基準の解説は、明確にできる人が少なく、調査不足もあって完全な結論は出せませんが、ここに書かれた解説は、ひとつの参考資料として御理解ください。

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

7日発売!『紙の爆弾』2017年1月号
  色とりどりの女優たちがエロスで彩る昭和映画史!大高宏雄『昭和の女優 官能・エロ映画の時代』

キックボクシング界全体で年間最優秀選手を決める時代を目指す!

キックボクシング界から一人だけ選ばれる昨年の最優秀選手を予想するなら、ファンやマスコミ等ではすぐ頭に浮かぶことでしょう。それを形となって現わすことの出来ない現状であります。また多くの若者がデビューする裏側には団体の壁で区切られる層の薄さがあって新人王トーナメント戦には発展しない現状があります。

◆1986年の年間最高試合表彰式──衝撃的展開の2試合

1986年MA日本キック連盟新人王。小沢一郎氏がコミッショナーとなった時期、なかなか大々的でありました。左からフライ級宮野博美(光)、バンタム級清水隆弘(AKI)、フェザー級黒山猛(AKI)、ライト級杉田健一(AKI)、ウェルター級竹山晴友(大沢)

キックボクシングの昭和の全盛期では新人王トーナメント戦が各階級で盛んに行われていましたが、テレビが離れた後の業界の衰退期は、興行が激減し選手も育たない中、新人王戦も年間表彰式も行なえるわけもなく、ここから奇跡的復興した後のMA日本キックボクシング連盟の初期、1986年から年間表彰式が行なわれていました。

この年の最高試合賞は同年5月の日本ウェルター級タイトルマッチ、チャンピオン.向山鉄也(ニシカワ)vs 同級2位.須田康徳(市原)戦のダウン奪い奪われまた逆転の壮絶な試合でした。

1986年11月24日、年間表彰選出で落ちた方の、準最優秀試合になった試合。日本ウェルター級チャンピオン向山鉄也(ニシカワ)vsタイ国ラジャダムナン系ウェルター級チャンピオン.パーヤップ・プレムチャイ(タイ)戦。大木のような左ミドルキックで向山の腕は上がらなくなり、脇腹はケロイド状に腫れ上がった。スリップ気味ながらダウンを奪い2-0の判定負け

同年11月の向山鉄也 vs パーヤップ・プレムチャイ(タイ)も壮絶な試合で、選出に意見が互角に分かれるほどでしたが、過去の歴史の中でも現在まで、トップを争うほどの衝撃的展開の2試合でした。この年から新人王トーナメント戦も復活開催されています。

しかし、その後もキックボクシングにおいての年間表彰式は団体ごとの催しで、平成の時代に入ってからはMA日本キックボクシング連盟と全日本キックボクシング連盟での2団体が主に興行の中でのリング上で年間表彰式が行なわれるようになりました。現在のところは団体分裂が複雑過ぎ、またフリーのジムも多くなる分散化が進み、一部団体でしか行なっていないようですが、ひとつの団体だけの枠内で行なう表彰式では、そのレベルもキックボクシング業界全体としては価値の計りにくい曖昧なものとなってしまいがちです。

1993年1月に行なわれた全日本キックでの年間表彰式。清水隆弘も立嶋篤史も前田健作も杉田健一も熊谷直子もいた若き時代
2013年のプロアマボクシング年間表彰。年間最優秀選手賞の山中慎介(帝拳)選手。キックとは別世界の人のよう

◆ボクシング界が羨ましい

ボクシングではJBC、日本プロボクシング協会、日本ボクシング連盟(アマチュア)、東京運動記者クラブボクシング分科会が合同主催となって毎年1月に年間優秀選手表彰式が行われています。表彰対象はプロ・アマ別ですが、この辺は羨ましい限りの業界の結束力です。表彰は最優秀選手賞の他、殊勲賞、敢闘賞、技能賞、KO賞、努力賞、新鋭賞、最高試合賞などと女子部門があります。

また、新人王トーナメント戦もプロボクシングでは毎年各階級で行われますが、キックボクシングでの大々的な新人王各階級トーナメント戦は、昭和の時代と、上記のMA日本キックボクシング連盟の初期まで、その後は限られた階級だけでの少人数での争奪戦や一人だけ選ばれる新人賞など、団体にもよりますが近年まで存在しています。

世間の注目度が圧倒的アップするプロアマボクシング表彰選手の2014年集合写真

◆1973年、巨人の王貞治氏を抑えてキックの沢村忠氏がプロスポーツ大賞を獲った時代

そんな中、昨年末12月20日に行なわれた、プロスポーツ大賞授賞式で、キックボクシングから功労賞に日本ライト級チャンピオン.勝次(藤本)、新人賞に日本ミドル級チャンピオン.斗吾(伊原)が選ばれました。新人賞は加盟各競技から15名が選ばれ、そこから最高新人賞が選ばれます。

さすがにメジャースポーツに囲まれると、なかなかキックボクシングが上位に食い込むことは難しいですが、プロスポーツ大賞が発足した1968年(昭和43年)当時からキックボクシング選手も堂々絡んでおり、キックボクシング創始者・野口修氏の努力で、1973年には沢村忠(目黒)氏が王貞治(読売巨人軍)氏を抑えて大賞を獲った時代もありました。

20年続くニュージャパンキック連盟(NJKF)の昨年の年間表彰式。過去には後楽園飯店でのパーティー形式もありました

◆一人しか選ばれない最優秀選手の希少価値

そんな時代を振り返り、12月11日の興行で伊原信一氏が「いつかはキックボクシングから大賞を獲ることを目指していきたい」と述べていましたが、今、盛り上がりつつあるキックボクシングなら将来的には決して夢ではない時代に入って来ているのも事実で、野口修氏が残した加盟権は新日本キックボクシング協会が受け継いでおり、業界の結束力があればやがて実現可能に向かうかもしれません。

そういう格式高いイベントにキックボクシングが上位に躍り出るには、幾らでも増える国内タイトルより、プロボクシングと同様の年間優秀選手表彰と、プロの底辺となる新人王トーナメント戦の存在かもしれません。アマチュアムエタイが団体の枠を越えて交流している現状があるので、しがらみの少ないプロの新人王戦も大々的にトーナメントを戦わせてみたいものです。

全階級から一人しか選ばれない最優秀選手の希少価値は、ひとつの階級の日本王座より重みがあるでしょう。タイでもマスコミと協会が選出する年間最優秀選手賞があるので、日本もその方向の、形となって現すことの出来る環境へ、陰からその可能性を応援していきたいところです。

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

タブーなきスキャンダルマガジン『紙の爆弾』
『NO NUKES voice』第10号[特集]基地・原発・震災・闘いの現場

志朗がKO勝利! ファイトマネー総取りマッチを制す!

蹴りが速かった麗也、グッサコーンノーイの圧力に負けず
パンチ、ヒジ、蹴りの連打で心折った麗也の勝利
柴田春樹vsジェイ・ボイカ。ウェイト差、パンチ力、連打力が優ったジェイ・ボイカ、再戦に期待したい
間の取り方が上手かったブンピタック、石川直樹は学ぶこと多かった

かつては治政館ジムの若く将来有望だった志朗は、今やムエタイランカークラスにインパクトあるKO勝利を収めるメインイベンターに成長、今後、日本キック界のエース格を争わせるイベントに出場しても、人気と好ファイトを確信できる存在となりました。

ファイトマネー総取り額は150万円。決して高い額ではありませんがタイ側にとっては魅力的だったでしょう。

◎WINNERS 2017.1st
1月8日(日)後楽園ホール17:00~20:55
主催:治政館ジム / 認定:新日本キックボクシング協会
放送:テレビ埼玉. 1月28日(土)20:00~20:55

《主要4試合》

◆54.0kg契約 5回戦

麗也(元・日本フライ級C/治政館/54.0kg)
           VS
グッサコンノーイ・ラーチャノン(元ルンピニー系SF級2位/タイ/53.0kg)

勝者:麗也 / TKO 3R 1:35 / カウント中のレフェリーストップ
主審:椎名利一

実質大トリメインイベントを初めて務めた麗也はアグレッシブに攻めてくるグッサコンノーイに速いローキックと地道に当てるパンチで徐々にダメージを与え、打ち負けることなく倒して勝つ、そのメインの役目をしっかり果たしました。

◆ヘビー級3回戦

日本ヘビー級チャンピオン.柴田春樹(ビクトリー/93.0kg)
           VS
ジェイ・ボイカ(元・J-NETWORKヘビー級C/ブラジル)

勝者:ジェイ・ボイカ(=楠木ジャイロ)/ TKO 2R 1:40 / カウント中のレフェリーストップ主審:和田良覚

日系ブラジル人のジェイ・ボイカは分厚い上半身で一気にラッシュするパンチの圧力が凄い。柴田はローキックで勝機を掴むも、踏ん張るジェイ・ボイカのパンチで崩れ去りました。ジェイ・ボイカは弱点はありつつも日本の人材不足のヘビー級には必要な存在でしょう。

◆52.5kg契約3回戦

日本フライ級チャンピオン.石川直樹(治政館/52.5kg)
VS
ブンピタック・クラトムブアカーウ(タイ/52.0kg)

勝者:ブンピタック・クラトムブアカーウ
判定0-3 (27-29. 27-30. 27-30)

チャンピオンになって初戦の石川にムエタイ技が圧し掛かる。圧力に負けない積極性が増した石川でしたが、3ラウンドに左フックでダウンを奪われ、ヒジで額をカットされる大差判定負け。一瞬の隙を突いたムエタイ技に過去にない経験をした石川はこれからも続くムエタイ対策に磨きをかけなければいけません。

志朗のローキックでジワジワとパカイペットの戦力を弱めていった
パカイペットの強い蹴りに決して下がらなかった志朗の返しの蹴りに、パカイペットも焦りの表情に変わる
意識朦朧のままコーナーへ引っ張られリングを降りたパカイペット、蹴られた太股も志朗以上に傷が残る

◆ファイトマネー勝者総取りマッチ 56.0kg契約 5回戦

ISKAムエタイ世界バンタム級(-55kg)チャンピオン.志朗(治政館/55.7kg)
VS
ルンピニー系スーパーバンタム級6位.パカイペット・ニッティサムイ(タイ/55.7 kg)

勝者:志朗 / KO 5R 3:10 / テンカウント / 主審:少白竜

ファイトマネー総取りマッチはタイではよくある賭け試合です。パカイペットは総額30万バーツ(約95万円)を賭けた試合を行ない勝利したこともあるという意欲ある選手。1年前に日本バンタム級チャンピオン.瀧澤博人(ビクトリー)を左ミドルキックでTKOに追い込んだタイのランカーで、志朗にとって過去最強の相手とされていました。

骨の硬くて重くて速いパカイペットの左ミドルキックとローキックで志朗を攻める。志朗はブロックしてパンチやローキックを返す蹴りも負けていない志朗だが、骨同士が当たると素人目にはいかにも痛そうな蹴りは、貰い続けては動けなくなりそうな予感。

賞金が懸かると本気になるタイ選手らしく、中盤から組み合ってのヒザ蹴りも勢いが落ちないが、志朗もローキックを強く返し、パンチが何度もパカイペットの顔面を捉える。

キックボクシングとして、3ラウンドまでの公開採点によるポイントはパンチで優る志朗が僅差で上回るも、後半に勢いが増すパカイペットに微妙な判定か、または延長戦か、または暴動寸前の猛抗議か、そんな予想も見事に不要となったラストラウンド終了間際1、2秒前の志朗の隙を突いたパンチがアゴにヒットしグラつくと更に連打しパカイペットが崩れ落ちる。完全に効いた重いダメージでほぼテンカウントを聞いてもしばらく立ち上がれないパカイペットに完勝した志朗でした。

志朗はWINNERS,2nd.5月興行でISKAムエタイ世界バンタム級王座の防衛戦が予定され、志朗の後輩の麗也も後に続く成長を遂げ、今春、ベルギー遠征が予定されており、ISKAオリエンタルルールの世界ランキング査定試合が行なわれます。いずれもISKA路線ですが、タイで名の売れた二人はタイ二大殿堂スタジアムでの試合も増えるでしょう。

運命を分けたラストのほんの数秒の出来事、劇的勝利の瞬間

◆翔栄(元・日本ライト級C/治政館)引退セレモニー

翔栄は外傷性くも膜下血腫の為、引退することになりました。2011年に16歳でデビュー。元・日本フェザー級チャンピオン.雄大の弟としても、兄と比べられる現役生活でした。2014年5月に王座決定戦で、現チャンピオンの勝次(藤本)と対戦、判定勝利で王座に就いていますが、ここで身体の異変に気付きドクターストップが掛かると、これがラストファイトとなり、22歳での惜しまれる引退となりました。

以下、9試合は割愛します。

麗也と志朗。二人ともKO賞を獲り、志朗はベストファイト賞も獲ってのツーショット

《取材戦記》

私がタイにいた1988年頃のジムで、賞金総取りマッチがありました。ファイトマネーというより、陣営が出す金額そのまんま掛け金となったと思います。なので、「ハルキも賭けるか?」と言われましたが、その試合に出場するダウヨット・チャイバダンという選手の技量からいって勝つ気はしましたが、相手のことがわかりません。

我が陣営が言うには「ノム(ダウヨット)は負けないよ、大丈夫」と言われつつも弱気な私は賭けませんでした。ジム仲間の選手達は皆少ないながら持ち金を賭けていました。試合には勝って我が陣営は総取りに成功。1万バーツほど賭けていたジム仲間は、その後しばらく姿をくらました奴もいて、彼女と遊び歩いたのかもしれませんが、たかが2倍になるだけ。負ければ賭け金すべて失うのでリスクが高い遊びです。スタジアムに足を運ぶ群衆もこんなことが道楽で、山に囲まれた田舎でも夕暮れ時に村人が集まって、鶏の喧嘩に賭ける遊びがあったりしますから、人生ゲームを地でいく欠かすことのできないタイ人ならではの文化なのでしょう。

そもそも我々の人生の節目節目が賭けの連続で現在があり、例え負けても“生きているだけで丸儲け”なのかもしれません。

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

タブーなきスキャンダルマガジン『紙の爆弾』
『NO NUKES voice』第10号[特集]基地・原発・震災・闘いの現場

2017年キックボクシングの展望と数々の年始め興行!

タイでの試合とボランティア活動が多い志朗。2017年も両面で期待される
志朗に続く治政館ジムの期待の麗也もタイでの試合を意欲的にこなす

2016年から続く過酷な試練がムエタイ殿堂チャンピオン達には待ち受けています。T-98(今村卓也)と梅野源治はムエタイチャンピオンのまま1年を過ごせるか。

T-98は昨年6月に王座奪取し、10月に現地ラジャダムナンスタジアムで初防衛を果たす、日本人では初の快挙でした。これはT-98自身が目指したことでしたが、観衆は少ない中での防衛戦で、層の薄い重量級で今後、高評価を残すには、今考えられる大物と現地で防衛戦を積み重ねることで克服していくことでしょう。

梅野源治は今年、「KNOCK OUT」の常連メインイベンターで毎度の出場が予定されています。年間6度の興行予定がある中、更にこの合間を縫って半年とされる4月23日に防衛戦期限を迎えるラジャダムナン王座防衛戦を行なわなければなりません。
どちらも強豪が待ち構えるイベントで、強い梅野がどこまで短い試合間隔で激戦を続けられるか注目されます。タイ同級ランカーにも梅野という難敵は研究されるほどなので、群集が押し寄せる現地スタジアムで防衛を果たすことも陣営の計画にはあるでしょう。

◆ムエタイ二大殿堂王座に何人の日本人選手が挑戦するか?

更にこれらの最高峰とされるムエタイ二大殿堂王座に、今年の暮れまでに日本人選手が何人挑戦し、何人チャンピオンが誕生しているかも話題のひとつですが、「藤原敏男氏が獲った時代から比べれば、ずいぶんムエタイ王座挑戦への道が楽になったものだ」と語った当時を知るベテラン記者がいました。獲るだけでなく伝説を作る名チャンピオン誕生を、その兆しを作って欲しい数々のビッグイベントに期待が掛かる2017年であります。

◆1月6日(金)23時からTOKYO MXTVで「KNOCK OUT」がレギュラー放送に!

12月5日に初回興行をKO続出の大成功で終らせたイベント「KNOCK OUT」は今後も好カードでTOKYO MXTVで1月6日(金)23:00より、平成期以降は初となる毎週の地上波レギュラー放送が始まります。

1月8日に開催される新日本キック治政館ジム興行「WINNERS 2017.1st」のポスター

◆新年は1月8日(日)新日本キック「WINNERS2017.1st」で幕開け

年初めの国内興行では1月8日(日)後楽園ホールでの新日本キックボクシング協会・治政館ジム興行「WINNERS2017.1st」で、ISKAムエタイ世界バンタム級チャンピオン(55kg級).志朗(松本志朗/治政館)が出場。2016年1月に滝澤博人(ビクトリー)を圧倒し5R・TKOで倒したバカイペット・ニッティサムイ(タイ)と、56.0kg契約5回戦で、勝者がファイトマネーを総取りするというタイではよく行なわれる両陣営納得の条件で賞金マッチを戦います。観衆は観ているだけですが、お金が懸かるとより試合が熱く、注目と緊張が高まります。

麗也選手は昨年、日本フライ級王座を返上し、世界タイトルを目指し歩みはじめており、2017年は世界タイトルに繋がる闘いを続け、目先の目標はISKA世界王座になるでしょうが、更なるその先のムエタイ二大殿堂王座を見据えての通過点となるでしょう。その今年の初戦は元・ルンピニー系スーパーフライ級2位.グッサコンノーイ・ラチャノン(タイ)と対戦します(当初対戦予定の鈴木真彦は負傷欠場です)。

◆1月22日(日)はREBELSとJKI合同でチャンピオンカーニバル

1月22日にはディファ有明にてREBELSと日本キックボクシングイノベーション(JKI)との合同興行でチャンピオンカーニバルとして豪華開催。ノンタイトル戦を含め、両団体王座やWPMF、WBCムエタイなどの日本タイトルなどの複雑な国内王座が絡むロングタイム興行となります。

NKB傘下の日本キックボクシング連盟興行ポスター、進化が感じられる団体

◆2月5日(日)は日本キックボクシング連盟・神風シリーズvol.1

2月5日(日)にはNKB傘下の日本キックボクシング連盟・神風シリーズvol.1が開催。NKBミドル級王座決定戦、1位.田村聖(拳心館)vs 2位.西村清吾(TEAM-KOK)の10月2日に引分けた決着戦として行なわれます。高橋三兄弟は長男と次男出場、長男・一眞はNKBライト級ランカーの洋介(渡辺)と対戦。3連敗からの巻き返しに力を注ぎます。

次男の現NKBバンタム級チャンピオン.亮は元・WBCムエタイ日本バンタム級チャンピオンの知花デビット(エイワスポーツ)とチャンピオン経験あるもの同士の対決に挑みます。KNOCK OUTを意識したアピールが多いNKBだけに昨年からより活気ある興行が増えています。

そして2月12日(日) 大田区総合体育館で開催される注目の「KNOCK OUTvol.1」に繋がります。このイベントに相応しいと人選された3試合が決定しています(12月28日現在)。

梅野源治と対戦するのは、タイで10年近い選手生活で、国際的イベントに成長した「MAX MUAYTHAI」で昨年9戦6勝3分の戦績を残し、巧みな首相撲とヒジ打ちが得意で、前進するのみのファイタータイプ、ワンマリオ・ゲーオサムリット(スペイン)が選ばれました。

互いのぶつかり合いで一瞬の打ち合いで終る衝撃的結末を予感させますが、梅野は12月28日のカード発表記者会見で「心を折る、この時点でKO以上の価値があり、KOでなくても技術戦で相手の心を折れる試合がしたい」と語り、12月5日の初戦判定勝利もシリモンコンが心折れていた終盤が思い起こされます。

「守りに入った相手をどうすればKOできるかもトレーナーと研究中」と言い、「欧米系はパワーがあるとか体幹が凄いとか言われますが、それを感じたことは一回も無く、弱くてテクニックも無く単純にやり易く、タイ人とやる方がいちばん難しい」と言う、なかなか的を得た、欧米系のレベルも感じ取れる梅野源治の発言でした。

「KNOCK OUT vol.1」メインイベント、“king”梅野源治 vs “アバンサール”ワンマリオ・ゲーオサムリット

◆61.5kg契約 5回戦

ラジャダムナン・ライト級チャンピオン.梅野源治(PHOENIX)
vs
ワンマリオ・ゲーオサムリット(元・WPMF世界ライト級C/スペイン)

“WONDER BIRD”不可思 vs“クレイジーピエロ”山口裕人

◆64.0kg契約 5回戦

WPMF日本スーパーライト級チャンピオン.不可思(クロスポイント吉祥寺)
         vs
WBCムエタイ日本スーパーライト級チャンピオン.山口裕人(山口)

“RIZING BOM”引藤伸哉 vs “褐色のナルシスト”健太

◆67.0kg契約 5回戦

WPMF日本ウェルター級チャンピオン.引藤伸哉(ONE’S GOAL)
         vs
WBCムエタイ日本ウェルター級チャンピオン.健太(E・S・G)

一般の方には何か不可解と思われる同級チャンピオン対決ですが、上記予定文面にも出ているように、これが階級によっては10人も国内同級チャンピオンが居る不可解なキック系業界の王座乱立になっています。

これらの選手は複数王座を持っている選手も居て、まだしばらく改善はされないでしょうが、今年の「KNOCK OUT」の影響で、多くの国内王座より、名のある選手同士のビッグマッチが注目される時代に突入となり、多くの団体や興行が「KNOCK OUT」の出場を意識し、またはここに勝るイベントを目指す団体も出てくるほどキック業界が上昇志向となるでしょう。

「KNOCK OUT」が活動1年を迎える年末に、世間に与える影響はどれほどか、楽しみな1年となるでしょう。

「KNOCK OUT」を表と裏で牽引する小野寺力プロデューサーと梅野源治チャンピオン

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

7日発売!タブーなきスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2017年2月号!
『NO NUKES voice』第10号[特集]基地・原発・震災・闘いの現場

2016年のキックボクシング界──10大ニュースで振り返る

止まることなく突き進む那須川天心18歳

  
今年のキックボクシング界も一年を振り返ると大きなことから小さなことまで、いろいろありました。
大きな出来事では、
《1》T-98(タクヤ/今村卓也)と梅野源治がムエタイ殿堂ラジャダムナンスタジアム王座を奪取
《2》ムエタイチャンピオンを倒すまで止まることなく突き進む18歳・那須川天心の躍進
《3》「NO KICK NO LIFE」から「KNOCK OUT」へ、小野寺力のイベント発進
これら3つのニュースは他の出来事が霞んでしまうほど業界に大きなインパクトを与えました。さらに、
《4》もう一人のムエタイチャンピオン、初防衛成功の福田海斗
《5》最軽量級ながら15歳で世界に挑んだ高校一年生、吉成名高
《6》激闘を繰り返した蘇我英樹とルンピニー王座に2度挑戦した一戸総太の引退
《7》ムエタイ日本王座認定組織がさらに二つ発進
《8》NKB傘下ではデビューから7連敗して初勝利を挙げた岩田行央の小さな物語
《9》高橋三兄弟は試練を受入れ、前向きに踏ん張る現在
《10》キックボクシング創始者・野口修さん永眠
といった7つの出来事を加えた10大ニュースで2016年のキックボクシング界を振り返ってみましょう。

◆《1》T-98と梅野源治がムエタイ殿堂ラジャダムナンスタジアム王座を奪取!

前年、ムエタイ王座に挑戦したのは7人で全敗、今年はT-98と梅野源治の二人のみでしたが、二人とも奪取成功。T-98は初防衛戦を現地ラジャダムナンスタジアムでKO勝利し、日本人初の現地防衛を果たしました。

第三のムエタイ殿堂王座となるタイ政府公認下にあるタイ国ムエスポーツ協会フライ級王座を2015年12月に奪取した福田海斗(18歳/キングムエ)は、7月にディファ有明で不利な展開を見せつつポイント有利に進め初防衛に成功。実力は充分あることを見せてくれた試合でした。減量苦もあってその後王座返上していますが、タイ現地で活躍を続けています。

獲っただけでは伝説に成り難い重量級の宿命。今後の冒険が期待されるT-98[写真左]。ついに獲ったラジャダムナン王座、同ライト級、藤原敏男を超える快挙に期待したい梅野源治[写真右]
KNOCK OUTプロデューサー小野寺力氏にも注目が集まる2017年

◆《2》那須川天心の躍進──ムエタイチャンピオンを倒すまで止まることなく突き進む18歳

幼少期からジュニアキックで経験を積んだ若年層では、大きく差を付けている感のある存在が那須川天心で、数々の王座を獲っている宮元啓介(橋本)とルンピニー系スーパーフライ級チャンピオンのワンチャローン・PKセンチャイジム(タイ)を大技でKOした試合は驚かされる結果でした。やがて壁にブチ当たると言われつつ、未知数の才能に注目されています。

◆《3》「NO KICK NO LIFE」から「KNOCK OUT」へ、小野寺力のイベント発進

キックボクシング創設“満50周年”を迎えた今年、「NO KICK NO LIFE」から新たな展開に船出したイベント「KNOCK OUT」が12月5日に開催されました。タイトルどおりの好カードを目指したマッチメイクからKO決着が続出する展開。

「KNOCK OUT」の代表、小野寺力氏は老舗・目黒ジム所属で日本フェザー級王座に就いた名チャンピオン。老舗で学んだキックボクシングから本来のノックアウトの醍醐味を魅せる興行を目指していました。ここへの出場を意識し「キックボクシング界は面白くなっていきます」とマイクで発言する選手が多い中、「そうは上手くいかないよ」という声があるのも事実。これがキック50周年を区切りに新しい時代を築けるか、(株)ブシロードという大きな後ろ盾が力強い存在ですが、キックボクシング業界全体がどう動いていくか、2017年の大きな注目でしょう。

◆《4》17歳のムエタイチャンピオン福田海斗と《5》WMC世界王座に15歳で挑んだ吉成名高

タイが主戦場となり、賭けの対象となる実力もある福田海斗(17歳)や石井一成(18歳)もまだ高校生の十代。

15歳でWMCの世界王座に挑んで敗れた吉成名高もまだ背の伸びる身体の成長期。タイが主戦場では選手層が厚く、接戦で勝ったり負けたりでも今後、サバイバルに勝ち上がる期待が持てる現在です。

タイが主戦場で激しいランキング戦を戦う福田海斗。三大から二大殿堂へ、真の最高峰を目指す[写真左]。プロとして若過ぎるほど、あどけない吉成名高は15歳。才能を発揮するのはこれから[写真右]

◆《6》激闘を繰り返した蘇我英樹とルンピニー王座に2度挑戦した一戸総太の引退

激闘を繰り返してきた蘇我英樹が地元の市原臨海体育館で、爆腕・大月晴明を相手に引退試合。前年5月にも激闘の末、判定で敗れている蘇我でしたが、最終試合を華やかに飾る意図は全く無く、激闘のKO負けで締め括る後、引退式を行ないました。

WPMF世界王座で2階級制覇、タイ国ルンピニー王座挑戦は奪取成らずも2度挑戦経験を持つ一戸総太も最終試合を判定勝利後、引退式を行ないリングを去りました。

激闘を繰り返した蘇我英樹も第二の人生を歩み始めた[写真左]。ルンピニー王座には届かなかったが、悔いの無いキック人生だった一戸総太[写真右]
ラジャダムナン王座初挑戦から3年、後が無い中、来年に懸ける江幡ツインズ

◆《7》ムエタイ日本王座認定組織がさらに二つ発進

乱立する国内王座のキックボクシング界に於いて、2009年以降、ムエタイという分野の王座はWBCムエタイと、WPMF傘下の日本王座が誕生し、今年更に二つ誕生したのがWMC日本王座と、前年8月に発表のあったルンピニー・ボクシング・スタジアム・オブ・ジャパン(LBSJ)の日本王座でした。いずれも大きなムエタイ組織の傘下にありますが、さすがにここも増え過ぎではあります。活性化していくことが大事ですが、いずれその差は出てくるでしょう。

今年、ムエタイ王座再挑戦があるかと思われた江幡ツインズは更に経験を積みながら、現地、ラジャダムナンスタジアムでの試合も経験、5月に敗れた江幡塁と重森陽太は日本で雪辱に成功。7月に出場した江幡睦は現地でKO勝利を飾り、昨年3月のラジャダムナン王座挑戦失敗から今年12月までで6連勝中。また逃すことは許されない中、来年こその再挑戦を待つ日々。

たまたま拾われた話題から注目を浴びる岩田行央、続編に期待してます

◆《8》36歳二児の父・岩田行央の挑戦──“7連敗からの初勝利”

ひとつ指摘されなければ気がつかない話題で、元・NKBウェルター級チャンピオン.竹村哲氏が試合パンフレットの「PICKUP NKB」で披露した記事からですが、NKB傘下の日本キック連盟で2009年7月のデビューから7連敗し、今年4月にデビュー戦の藤田洋道(35歳/ケーアクティブ)に1R・KOで初勝利を挙げた岩田行央(36歳/大塚)がいます。

岩田は二人の子供が居る上にデビュー戦後に離婚。シングルファーザーとなってブランクを作りつつも、子供の後押しもあって再起するも更に連敗し、周囲の引退の勧めにも笑って受け流し、とにかく1勝すること心に誓い、ようやく初勝利した瞬間は格別な想いだったでしょう。12月の再戦では1ラウンドに2度ダウンを奪いながら2ラウンド目に逆転されるダウンを奪われるも激しい攻防の末引き分け。初勝利より場内を沸かす熱い試合を展開しました。こんな新鋭3回戦クラスで将来性も無くても、選手ひとりずつ拾えばそれぞれの物語が存在するものですが、“7連敗からの初勝利”が導いた物語となりました。

日本キック連盟内で期待のエース、高橋三兄弟。それぞれ課題もあるが話題もある。倒すことに焦らず、前進あるのみ
32歳でキックボクシングを立ち上げ、第一線級を退いても82歳までキック界を見守った野口修氏

◆《9》高橋三兄弟は試練を受入れ、前向きに踏ん張る現在

同じ日本キック連盟内で期待のエース、高橋三兄弟も長男・一眞は他団体進出では苦戦が続きますが、KO狙いとスター性から「KNOCK OUT発表記者会見」での初戦ビッグマッチに起用された経緯がありました。次男・亮は話題の佐々木雄汰(尚武会)に判定勝利も、他団体興行で敗戦を味わい、三男・聖人はまだ3回戦。行く先の試練はあっても経験値を増やし、焦らず乗り越えて欲しい次期エース格の三兄弟です。

◆《10》キックボクシング創始者・野口修氏永眠

昭和41年に日本でキックボクシングを作り、ブームを興した野口修氏が今年3月に永眠されました。ここ数年は会場に足を運ぶのもやっとの状態で、7~8年ほど前から体調を崩し、手術で入退院を繰り返す事情もありました。2014年8月の新日本キックボクシング協会代表・伊原信一氏主催の「キックボクシング創設50周年パーティー」にはしっかりした足取りで来場していたものの、その後、会場に姿を現すことは極端に少なくなっていました。このように成長した現在のキックボクシング界、または御自身の理想から外れたキック界を見てどう想うか、その聞き難い本音を聞きたいところではありました。

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

『NO NUKES voice』第10号[特集]原発・基地・震災・闘いの現場
タブーなきスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2017年1月号!

昭和のキック、絶対王者への道! 武士シリーズ vol.5 とSOUL IN THE RING 14

チャンピオンたちがそれぞれ先を目指した中での意地の勝利。村田裕俊(八王子FSG)はタイ修行成果でライバル・高橋一眞(真門)を破って王座戴冠した自信と次なるメジャーリングへの野望。勝次(藤本)は歴代先輩チャンピオン記録に迫り、追い抜く目標と共にラジャダムナン王座を目指す。

村田裕俊vs優介。村田の得意の組んでのヒザ蹴りが主導権を奪った(2016年12月10日)
村田裕俊vs優介。ヒジで切られた優介だが、反撃及ばず村田に屈す(2016年12月10日)

◎武士シリーズ vol.5
12月10日(土)後楽園ホール17:30~
主催:日本キックボクシング連盟 / 認定:NKB実行委員会

◆NKBフェザー級タイトルマッチ 5回戦(過去3戦して1勝1敗1分)

チャンピオン.村田裕俊(八王子FSG/56.9kg)vs 同級2位.優介(真門/56.9kg)

勝者:村田裕俊 / KO 5R 2:36 / カウント中のタオル投入
主審:前田仁

村田は長身を利したヒザ蹴りで優位に立ち、優介が懸命に攻めてもその踏ん張りを許さず、村田は以前より自分の距離に持っていくのが上手く、ヒジで切ってパンチでダウンを奪い、優介陣営の棄権を誘い込むTKO勝利。

安田一平vsSEIITSU。SEIITSUも8年前に王座挑戦の経験を持つベテラン。安田も気を抜けなかった中、パンチで何とか勝る(2016年12月10日)

◆67.0kg契約5回戦

NKBウェルター級チャンピオン.安田一平(SQUARE-UP/67.0kg)vs 同級6位.SEIITSU(八王子FSG/66.55 kg)

勝者:安田一平 / 判定3-0 / 主審 川上伸
(副審 佐藤友章48-47. 亀川48-46. 前田48-46)

強いパンチを持つ安田が積極的に攻め、3ラウンドには左フックとパンチ連打での2度のダウンを奪い、試合ストップかと思わせるほどだったが、4ラウンドにはSEIITSUの左ハイキックを貰ってしまい、5ラウンドへ引きずって更にハイキックを貰ってダウンする安田。勿体無い逆転を許すも前半の稼ぎで何とか判定勝利。

◆ウェルター級 3回戦

NKBウェルター級2位.岡田拳(大塚/66.2kg) vs 3位.塚野真一(拳心館/69.35kg)
勝者:岡田拳 / KO 3R 2:10 / 3ノックダウン
主審:鈴木義和

次期挑戦権を持つ約7年前のチャンピオンの岡田が序盤はやや苦戦も3ラウンドにパンチとローキックで3度のダウンを奪う圧勝で前哨戦を飾る。

◆ウェルター級 3回戦

NKBウェルター級8位.野口大輔(テツ/66.0kg) vs 9位.上温湯航(渡辺/66.2 kg)
勝者:上温湯航 / 判定1-2 / 主審:佐藤友章
(副審:川上29-29. 佐藤彰彦29-30. 前田29-30)

◆ライト級3回戦

NKBウェルター級5位.マサ・オオヤ(八王子FSG/62.5kg) vs NKBライト級8位.洋介(渡辺/62.3kg)
勝者:洋介 / TKO 1R 2:02 / カウント中のレフェリーストップ
主審:鈴木義和

他、7試合を割愛しています。

岡田拳vs塚野真一。岡田、7年前のチャンピオンのパンチ復活!(2016年12月10日)
江幡睦vsクルンシン。すべてがキレる技、ハイキックも打倒ムエタイへ自信あり(2016年12月11日)

◎SOUL IN THE RING14
12月11日(日)後楽園ホール17:00~
主催:藤本ジム / 認定:新日本キックボクシング協会

◆54.0kg契約 5回戦

WKBA世界バンタム級チャンピオン.江幡睦(伊原/53.75kg) vs クルンシン・ペップームムエタイ(タイ/52.3kg)
勝者:江幡睦 / KO 2R 2:43 / カウント中のタオル投入
主審:仲俊光

いよいよ煮詰まってきた最高峰へ再構想を描く江幡ツインズ。この日の睦も圧勝で昨年3月のラジャダムナン王座挑戦失敗から6連勝。以前からアピールするとおり、来年の最高峰再挑戦の計画が進んでいるところでしょう。パンチとローキックの冴えは抜群の技。少々の被弾もまともには喰わない。隙を見つけ、ボディブローによる2度のダウンで勝利を掴む。

江幡睦vsクルンシン。先手必勝、パンチも当て勘抜群(2016年12月11日)
勝次vsジョニー・オリベイラ。沢村忠のような形相でハイキックを繰り出す勝次、似ている!(2016年12月11日)

◆日本ライト級タイトルマッチ 5回戦

チャンピオン.勝次(藤本/61.23kg) vs 日本ライト級4位.ジョニー・オリベイラ(トーエル/60.8kg)
勝者:勝次 / KO 2R 1:54 / テンカウント
主審:椎名利一

メインイベントは江幡睦でも、注目となったのは勝次の防衛戦。勝次は半年に一度のペースで防衛を重ねるキック本来の道を進む老舗の拘り。過去4戦3勝1分の相手だが、諦めない積極ファイトを展開するジョニー・オリベイラに、勝次が更に積極性で上回った。

第1ラウンドにパンチからヒザ蹴り、更に飛びヒザ蹴りでダウンを奪い、2ラウンド目には威嚇して顔面ガード空いたところに右ヒジ打ちでテンカウントを聞かせる圧倒勝利。防衛ごとに踏み込む勢いが増してきた勝次。目黒ジムを継承する藤本ジムでは過去、ライト級で石井宏樹が8度、ミドル級で松本哉朗が6度防衛した記録が新日本キックには残ります。

このまま防衛記録を伸ばすにしてもラジャダムナン王座に挑むにしても、注目を集める存在の勝次。ラジャダムナン・ライト級チャンピオンは梅野源治(PHOENIX)が居て、日本人的には好カード。しかし、タイ現地でやるべきタイトルであり、挑戦権争いでも狭き門の殿堂王座であります。

勝次vsジョニー・オリベイラ。初回早々から飛ばした勝次の前蹴り命中(2016年12月11日)
緑川創vsイッキュウサン。蹴られても攻める意欲は緑川の力(2016年12月11日)
緑川創vsイッキュウサン。我慢比べで優った緑川の攻勢(2016年12月11日)

◆70.0kg契約 5回戦

緑川創(元・日本W級C/藤本/70.0kg) vs イッキュウサン・ペップームムエタイ(タイ/69.15kg)
勝者:緑川創 / TKO 5R 2:10 / カウント中のレフェリーストップ
主審:少白竜

初回から様子見のパンチとローキックで攻める緑川だが、重たくしぶといタイ選手の手数も減らず、3ラウンドにはヒジ打ちを貰って額を切られる瞬間もあるも、緑川はやや攻勢が増し、4ラウンドに更に勢いづいた緑川が第5ラウンドに左ボディブローから左ヒザ蹴りでようやく沈める。

◆68.0kg契約3回戦

日本ウェルター級チャンピオン.渡辺健司(伊原稲城68.0kg) vs レック・エイワジム(エイワスポーツ/68.0kg)
引分け / 0-1 (29-29. 29-30. 29-29)

◆73.0kg契約3回戦

日本ミドル級チャンピオン.斗吾(伊原/73.0kg) vs コーンリーチ・エスジム(カンボジア/72.7kg)
引分け / 0-1 (29-29. 29-29. 29-30)

他、6試合を割愛しています。

◆取材戦記

12月5日のKNOCK OUT興行が終ってのふたつの興行でした。特に日本キック連盟興行では「KNOCK OUT」を意識した、マイクによる発言で目指す先が見えてきて、「そこに出るんだ」といった意識を感じます。新日本キック協会ではその類いの発言は無いものの、最高峰への意欲は以前より増しています。

緑川創と対戦した“イッキュウサン”は同名のタイ選手が存在するそうで、最近、ややこしいタイ選手名が増えています。第2試合に出場し、皆川裕哉(藤本)に判定で敗れたラジャサクレック(タイ)も同名のラジャサクレック・ソー・ワラピン(タイ)が居て、うっかりすると扱いに困ります。外国人選手名は通常使われるリングネームが当然としても、すべてパスポートから分かる本名も付随して欲しいものです。

私(堀田)は最近でも在日タイ人元選手で、レフェリーを務めるソンマーイ・ケーウセーン氏をチャンデー・ソー・パランタレー氏と顔が似ていて間違えていたことがありましたが、最近のタイ選手名には戦歴経歴にも気をつけなければならないマスコミ陣であり、直接選手に聞く事が確実で、キック取材に於いては英語とタイ語は学んでおいた方が良さそうなこの頃であります。

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)

フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

『NO NUKES voice』第10号[特集]原発・基地・震災・闘いの現場
タブーなきスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2017年1月号!
『反差別と暴力の正体――暴力カルト化したカウンター-しばき隊の実態』