夕焼けが空襲に見えた父

父は亡くなって、やっと苦しい人生から脱したのだな、と思う。
昭和5年生まれの父は、中学生の時、空襲を体験している。
昭和20(1945)年3月10日の、東京大空襲だ。
家族は全員、すでに埼玉に疎開していて、父は一人、浅草の家にいた。父は学徒動員されていたため、疎開することはできなかったのだ。

午前零時をわずかに過ぎた、深夜。警戒警報に続いて空襲警報が鳴り、父は物干し台に上った。投下された焼夷弾で街が燃え上がる。その光で、夜だというのに、低空で飛行するB29の編隊が見えた、という。焼夷弾が空中で分解して広がり、街に降り注いでいく。きれいだなと思ったが、すぐ近くにも焼夷弾が落ち燃え上がるのを見て、家から飛び出した。

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