社会主義体制が敷かれていた約30年前のミャンマー(ビルマ)では、アメリカやヨーロッパの映画を観る機会があまりなかった。ミャンマー人の夫が育ったミャンマー第四の都市、ラカイン州シットウエーでは、町に1つしかない海外映画が観られる映画館で、「インディ・ジョーンズ」や「007」などの上映が決まると、そこに住民が大勢やってきた。映画館入口で、われ先に入場すべしと、押し合いへし合いの大喧嘩をする。
あまりに住民がもめるので、映画館に警察官が出てくる。チケット売り場で整列しない住民を、警察官が自分のズボンのベルトを腰から抜いて、鞭代わりにして叩く。映画を観たい人々は、叩かれても、必死で映画館に入ろうとする。
テレビが普及しておらず、また世界中の情報から隔絶した社会主義国のなかで、国民はわずかな娯楽を得ようとしていたのだ。

続きを読む