航空技術者として、七試艦上戦闘機、九試単座戦闘機、零式艦上戦闘機の設計などを手掛けた、堀越二郎の生涯を描いた宮崎駿の引退作『風立ちぬ』。
「空を飛ぶ」夢に生涯をかけた堀越二郎の執念の設計が、零戦の開発に結びついていく。「空を飛ぶ」夢が戦争の武器となっていく航空機についての堀越の苦悩が、悪夢となって描かれている。工学的にも緻密に飛行機が描かれており、航空学の授業を受けているような気分にもなる。飛行シーンは痛快のひと言で、やはり「空を飛ぶ」表現をさせたら、宮崎監督に叶うアニメーターは世界にはいないだろう。

だが、堀越役として起用された映画監督、庵野秀明の声がまったく素人丸出しであった。西島秀俊や瀧本美織、西村雅彦、大竹しのぶら創意工夫あふれる声優陣の中で、まったく感情の抑揚がなく、主役の声優に力量がないせいで、なぜ航空技術者をめざし、なぜ奈穂子にプロポーズしたのかというバックボーンへの説得力がまったく感じられない。庵野は「棒読み」の声優であった。言うまでもなく、庵野は役者ではなく、映画監督だ。宮崎監督や鈴木プロデューサーは、本気で主役にド素人を配する博打が成功すると思ったのだろうか。

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